公表された事実
デジタル庁は、令和8年熊本地震に関する対応状況を継続して公表しています。2026年8月20日更新分には、次の記載があります。
令和8年(2026年)7月29日から、被災自治体等がAIを活用して災害情報の集約・整理・共有を行えるようにするため、臨時にガバメントAI「源内」を被災自治体、関係自治体、災害対策機関等へ提供開始した。この緊急提供期間について、当初は3週間程度で終了する予定だったが、9月30日まで延長する、というものです。
同じページには、災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)の派遣実績として、延べ121人日、デジタル庁職員17名、民間事業者13名という数字も記載されています。デジタル庁の災害対策本部が設置されたのは2026年7月28日18時20分です。
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「3週間の想定が延長された」ことが示すもの
この記事で注目したいのは、AIの機能そのものではありません。当初3週間程度で終了する予定だった提供期間が、9月30日まで延長されると公表されたという点です。デジタル庁は延長の理由を公表していないため、なぜ延びたのかをここで断定することはしません。事実として確認できるのは、当初の見込みより長く提供が続いているということだけです。
その事実から、民間企業が自社の計画を点検する材料は取れます。災害対応の初動は最初の数日から数週間に集中しますが、情報を集めて整理し、関係先と共有する作業がそこで終わるとは限りません。被害の全容把握、復旧の進捗管理、支援の申請、関係先への説明が続くためです。
事業継続計画(BCP)を作っている会社でも、発災直後の安否確認と初動対応に記述が集中し、その後の数週間から数か月にわたる情報の整理をどう回すかまでは書かれていない場合があります。自社の計画がどちらかを確認してください。
情報が届かないのか、整理できないのか
災害時の情報の扱いでつまずく形には、いくつかの型があります。
- 各拠点から報告は来るが、形式がばらばらで集計できない
- 電話とメールとチャットに情報が分散し、最新がどれか分からない
- 同じ質問が本社から何度も来て、現場が疲弊する
- 取引先への連絡を、担当者ごとに個別に送っている
- 経営会議用の資料を作るのに、毎回数時間かかる
これらは、情報そのものが届いていない場合とは別の問題です。届いているのに統合されていない状態であり、平時の業務でも起きている問題が災害時に増幅された形といえます。自社がどちらの状態になりやすいかを、平時のうちに見ておいてください。
平時に決めておく7項目
災害時に情報を整理できる状態を作るために、平時に決めておくべき項目を整理します。システムの導入より前に、決めることが先です。
1. 報告の様式を1つに決める 拠点からの被害報告を、決まった項目で受け取れるようにします。項目は多くて7つで十分です。拠点名、報告者、人的被害の有無、建物・設備の状況、業務の可否、必要な支援、次回報告時刻。項目が多いと、混乱時に埋まりません。
2. 報告の経路を1本にする 電話でもチャットでもよいので、受け口を1つに決めます。複数の経路を許すと、統合の手間が発生します。経路が使えない場合の代替も併せて決めます。
3. 報告の頻度を決める 初日は何時間おき、翌日以降は1日何回、と決めておきます。決まっていないと、本社が不安になって個別に問い合わせ、現場の作業が止まります。
4. 誰が集計するかを決める 本社が被災する可能性も含めて、代替の担当者まで決めます。担当者しか使えない仕組みは、災害時に機能しません。
5. 取引先への連絡文の型を用意する 状況説明、影響範囲、復旧見込み、次回連絡時期の4点を含む文面の型を作っておきます。個別に書くと、担当者ごとに内容が食い違います。
6. 記録の保存先を決める やり取りをどこに残すかを決めます。後日の保険請求、支援の申請、取引先への説明で必要になります。
7. 支援制度の申請に必要な記録を確認する 被災した場合に利用できる制度では、被害状況や事業への影響を示す資料が求められます。何が必要になるかを平時に確認し、記録の取り方に反映しておきます。
AIを使う場合の現実的な範囲
災害時にAIを使う話をすると、「AIが判断してくれる」という期待が出ます。実際に有効なのは、判断ではなく整理の部分です。具体的には次の用途です。
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| 用途 | AIが担える部分 | 人が担う部分 |
|---|---|---|
| 報告の集約 | 形式のばらついた文章から項目を抽出する | 抽出結果の確認、欠落の追跡 |
| 分類 | 内容ごとに振り分ける | 分類の基準を決める、例外の判断 |
| 要約 | 大量の報告から概況をまとめる | 経営判断に使う前の事実確認 |
| 文書作成 | 連絡文、報告書の下書き | 内容の確定、送信の判断 |
| 検索 | 過去の手順書、規程、連絡先を探す | 情報が最新かの確認 |
いずれも、人が最終確認する前提です。災害時こそ誤りの影響が大きいため、確認を省く設計にはしないでください。
平時に使っていない仕組みを災害時にだけ使うのは、操作に慣れた人がいない状態で始めることを意味します。上記の用途でAIを使うなら、平時の業務で同じ仕組みを回しておくほうが確実です。
多拠点を持つ企業が優先すべきこと
拠点や店舗、工場を複数持つ企業では、次の順で着手すると効果が出やすくなります。
- 拠点一覧と連絡先の最新版が、本社と各拠点の両方にあるか確認する
- 報告様式を決め、平時の月次報告でも同じ様式を使う
- 情報の集約先を決め、そこに集まる状態を平時から作る
- 年1回、様式と経路が機能するかを確認する(訓練でなくてもよい)
3の「平時から集める」が要点です。災害時にだけ使う仕組みは、いざというときに誰も使い方を覚えていません。
災害時に自社の業務システムがどこまで使えるかを洗い出す作業は、システム開発の発注前相談で扱っています。拠点データを日常的に集める仕組みが論点ならデータ活用基盤構築、基幹システムを含む見直しならDX・システム開発の範囲です。
情報が集まらない原因は、平時の業務にある
災害時に情報が統合できない会社は、平時にも同じ状態です。次のいずれかに当てはまる場合、災害時にはその問題が拡大します。
- 拠点ごとに異なる様式で月次報告を出している
- 同じ数字が複数の場所に存在し、どれが正なのか分からない
- 本社が各拠点に個別に問い合わせて情報を集めている
- 報告の締切が決まっておらず、揃うのを待っている
- 情報が担当者個人のメールや端末にある
平時であれば、多少の非効率は吸収できます。担当者が調整し、時間をかければ揃うからです。災害時は、その担当者が対応できない可能性があり、時間もありません。
したがって、BCPのために新しい仕組みを作るより、平時の報告の流れを整えることが、そのまま災害時の備えになるという順序で考えるほうが投資効率が高くなります。
業種別に優先度が変わる項目
すべての企業に同じ優先順位が当てはまるわけではありません。事業の性質によって、先に整えるべき項目が変わります。
横にスクロールして確認できます
| 業種の特徴 | 優先度が高い項目 |
|---|---|
| 多拠点・多店舗 | 拠点からの報告様式と集約経路 |
| 製造・物流 | 在庫と輸送状況の把握、取引先への納期連絡 |
| 対人サービス(医療・介護・教育) | 利用者・従業員の安否、代替の受け入れ先 |
| 受託開発・専門サービス | 顧客への状況連絡、作業データの所在 |
| 卸・小売 | 発注・出荷の代替手段、決済の継続 |
自社がどの列に当たるかを確認し、上位の1〜2項目から着手してください。全項目を同時に整えようとすると、着手されないまま終わります。
データの所在を確認する
災害時に業務を再開できるかどうかを左右する要素のひとつが、データの所在です。次の3点を確認してください。
1. 業務データの保存先 自社の建物内のサーバに保存している場合、その建物が使えなくなると業務が止まります。外部に保管している場合でも、その保管先の所在地と、そこが同時に被災する可能性を確認します。
2. 復旧に必要な情報の保管先 システムの管理者アカウント、契約情報、委託先の連絡先、復旧手順。これらが業務システムの中にしか存在しないと、システムが止まったときに取り出せません。紙または別の場所に控えを置いてください。
3. 誰が復旧できるか 特定の担当者しか手順を知らない状態は、その担当者が対応できない場合に詰みます。手順の文書化と、代替の担当者の指定が必要です。
この3点は、災害時に限らず、大規模なシステム障害やランサムウェアの被害でも同じ論点になります。災害対策としてだけでなく、事業継続の共通の備えとして整理してください。
訓練をせずに確認する方法
年に一度の訓練は望ましいものの、業務を止めて実施するのは負担が大きいという声もあります。訓練をしなくても、次の方法で機能するかを確認できます。
- 拠点の連絡先一覧を、実際に1件だけ電話して確認する(年1回、担当者が変わっていないか)
- 報告様式を、平時の月次報告に使ってみる
- 復旧手順の文書を、担当者以外が読んで理解できるか確認する
- 保管しているデータから、実際に1件だけ復元してみる
4番目は特に有効です。バックアップを取っていても、復元を試したことがなければ、いざというときに復元できるかは分かりません。実施にあたっては、復元先の環境や必要な停止の有無をシステムの構成に応じて確認してください。構成によっては、隔離した環境の用意や一時的な停止が必要になります。
FAQ
Q1. ガバメントAI「源内」は民間企業も使えますか
デジタル庁の記載によれば、提供先は被災自治体、関係自治体、災害対策機関等とされています。民間企業向けの一般提供として案内されているものではありません。
Q2. 緊急提供の延長は、災害対応が長期化しているという意味ですか
デジタル庁は延長の理由を詳細には記載していません。当初3週間程度としていた期間を9月30日まで延長したという事実のみが公表されています。理由についての推測は、この記事では行いません。
Q3. BCPは作ってあります。それでも見直しが必要ですか
作成済みであれば、報告様式と集約先が具体的に書かれているかを確認してください。「速やかに報告する」とだけ書かれている計画は、実務では機能しません。
Q4. 中小企業でもここまで必要ですか
拠点が1か所で従業員数が少ない場合、様式は簡素で構いません。それでも、報告の受け口と代替の担当者は決めておく価値があります。
Q5. システムを入れないと対応できませんか
紙と電話でも成立します。重要なのは、様式、経路、頻度、担当が決まっていることです。システムはそれを効率化する手段であって、前提ではありません。
参考情報
本記事に記載した提供期間、派遣実績、日付は、2026年8月20日更新のデジタル庁の公表内容に基づきます。支援制度の利用条件や申請に必要な書類は、所管する省庁および自治体の案内を直接確認してください。特定の制度が自社に適用されるかどうかの結論は、この記事では示していません。







