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IPAのデジタル事例データベース、8月の追加5件はすべて大企業|事例の正しい読み方

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GXO COLUMN

DX推進

「この会社はDXでこう成功した」という記事を読んで、自社でも同じことをやろうとする。この経路で失敗する会社は多い。問題は事例の質ではなく、事例に書かれていないことのほうにある。

IPA(情報処理推進機構)は、企業のDX取組事例を「デジタル事例データベース」として公開しており、随時追加している。同機構のお知らせを見ると、2026年8月に入ってから追加された事例は次のとおりである。

横にスクロールして確認できます

掲載日企業
2026年8月14日株式会社トリドールホールディングス
2026年8月10日株式会社丸井グループ
2026年8月7日株式会社ブリヂストン
2026年8月6日旭化成株式会社
2026年8月5日東急不動産ホールディングス株式会社

5件すべてが、上場している大企業である。

これは事例データベース全体の傾向を示すものではなく、**2026年8月に追加された5件についての観察である。**ただ、この5件を眺めるだけでも、中堅・中小企業の経営者が事例を読むときに注意すべき点が見えてくる。

**なぜそうなるのか。**以下はGXOによる仮説であり、**IPAの選定過程を評価したり、その内部の判断を推測したりするものではない。**掲載企業がどう選ばれているかは公表されておらず、本稿はそれを知り得る立場にない。

この記事を読むべき人

  • 他社のDX事例を見て、自社でも取り組もうと考えている中堅・中小企業の経営者
  • ベンダーから「他社ではこうしています」という提案を受けている会社
  • 過去に他社の真似をして、うまくいかなかった経験がある会社
  • 年商10億〜100億規模で、専任のDX推進部署がない会社
  • 事例を集めているが、自社にどう当てはめるか決まらない会社

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なぜ公開される事例は大企業に偏るのか

事例として世に出るには、いくつもの条件を満たす必要がある。**そして、その条件は規模の大きい会社ほど満たしやすい——というのが、以下で述べるGXOの見立てである。**相関の強さを測ったものではない。

条件1:成果を数値で示せること。 事例には「工数が何%削減された」「処理時間が何分短縮された」といった数字が求められる。**この数字を出すには、導入前の状態を測っていた必要がある。**測定する体制がある会社は、そもそも一定の規模がある。

条件2:公開の承認が取れること。 自社の業務の詳細を公にするには、広報・法務の確認が要る。**専任部署がない会社では、この手続き自体が負担になる。**取材の依頼が来ても断るほうが早い。

条件3:取材に対応する人員がいること。 事例の作成には、担当者の時間が数時間から数日かかる。兼任の担当者しかいない会社では、この時間を捻出しにくい。

条件4:語れるだけの取り組みの厚みがあること。 数年にわたる取り組みや、複数部門にまたがる施策のほうが、事例として構成しやすい。単発のツール導入は、記事にしにくい。

**この4条件を満たしやすいのは、大企業である。**そのため、公的機関のものであれ民間メディアのものであれ、**公開される事例は大企業に寄りやすいと考えられる。**中小企業の取り組みが劣っているからではなく、公開に至る経路が違うから、というのがGXOの見立てである。

この構造を理解しておくことが、事例を読む前提になる。

規模差を無視して真似ると何が起きるか

大企業の事例をそのまま持ち込んだ場合に起きることを、具体的に挙げる。

起きること1:前提となる体制が存在しない。 大企業の事例には、専任のDX推進組織、データ分析の担当者、社内のシステム部門が登場する。**これらが存在しない会社が同じ施策を採ると、実行する人がいない。**結果として、外部への丸投げになる。

起きること2:投資額の桁が違う。 事例に投資額が書かれていないことは多い。書かれていないと、自社でも同程度の費用でできそうに見える。⚠️ 投資額が事業規模に比例するという確たる根拠を本稿は持たないが、対象となる業務量と拠点数が違えば必要な投資も違う、という点は前提として置いてよい。

起きること3:既存システムの前提が違う。 大企業の施策は、基幹システムが整備されていることを前提にしていることが多い。**データが構造化されて蓄積されている状態からの「活用」の話である。**そもそもデータが表計算ファイルに分散している会社では、出発点が違う。

起きること4:効果の出方が違う。 同じ効率化でも、対象となる業務の量が違えば、効果の絶対額が違う。**同じ施策でも、処理する件数が少なければ削減できる時間の総量は小さくなる。**投資額が同程度であれば、回収までの期間は当然に長くなる。どれだけ差が出るかは、自社の処理件数と1件あたりの所要時間を数えなければ分からない。事例の効果をそのまま自社に当てはめるのではなく、「自社の件数に置き換えるといくらになるか」を計算することが、判断の実質である。

起きること5:失敗が書かれていない。 事例は成功したものが公開される。**途中で断念した施策や、投資したが使われなかった仕組みは、事例にならない。**そのため、事例だけを読むと成功率が実際より高く見える。

この5つのうち、経営判断を最も狂わせるのは5つ目である。

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事例から読み取るべきもの

では、事例は読む価値がないのか。そうではない。読み取る対象を変えればよい。

真似るべきでないもの:具体的な施策、導入した製品、組織の作り方。 これらは、その会社の規模と状況に最適化されている。

読み取るべきもの:判断の順序である。

事例を読むとき、次の5つを探す。

問い1:その会社は、何を課題として特定したか。 「DXを推進する」ではなく、具体的に何が問題だったのか。課題の特定の仕方は、規模が違っても参考になる。

問い2:なぜその課題を最初に選んだか。 他にも課題はあったはずである。優先順位を決めた基準が書かれていれば、それは最も価値のある情報である。

問い3:着手する前に、何を測っていたか。 効果が数字で語られているなら、導入前の数字も測っていたことになる。何を測ったのかは、自社でも同じように測れる。

問い4:誰が意思決定したか。 経営が主導したのか、現場から上がったのか。推進の起点は、規模に関係なく重要な要素である。

問い5:どのくらいの期間がかかったか。 書かれていれば、自社の計画の現実性を測る材料になる。多くの場合、想像より長い。

**この5つは、企業規模が違っても自社に置き換えられる。**一方、「どのツールを入れたか」は置き換えられない。

大企業事例が中小企業に効く、唯一の使い方

ここまで大企業事例の限界を挙げてきたが、明確に有効な使い方が1つある。先読みの材料として使うことである。

大企業が今取り組んでいる課題には、**中小企業が規模の拡大に伴って直面し得るものが含まれる。**事業規模が大きいほど、同じ構造の問題がより早く、より大きな形で表面化しやすいためである。ただし、すべての会社が同じ経路をたどるという意味ではない。

たとえば、データが部門ごとに分断されている問題を考える。**以下は測定に基づく主張ではなく、規模による現れ方の違いを説明するための例である。**従業員が多い会社ほど、部門をまたぐ情報の受け渡しが増えるため、非効率が早く目に見える形になりやすい。**同じ構造は従業員50人の会社にも存在するが、人が直接会話することで吸収されるため、問題として認識されにくい。**従業員が100人、150人と増えるにつれて、同じ壁に当たることが起こり得る。

**この視点で読むなら、大企業事例は「自社が成長したときに直面し得ること」を先に眺める材料として使える。**必ず同じ経路をたどるという意味ではない。

具体的な使い方は2つある。

使い方1:これから作るものの設計に、将来の制約を織り込む。 今は50人でも、事業計画上100人になる見込みがあるなら、**50人前提の仕組みを作らない。**大企業事例に出てくる「後から統合するのが大変だった」という記述は、そのまま設計時の注意点になる。

使い方2:投資の順序を決める材料にする。 大企業が「まずこれをやってから、次にこれをやった」と書いている場合、**その順序は規模が違っても参考になることが多い。**特に、基盤の整備を先にやったのか、目に見える施策を先にやったのかは、示唆が大きい。

**逆に、この使い方をするときも「同じことを今やる」のは誤りである。**規模が違う以上、必要な投資の水準は違う。読み取るのは「何を先に考えたか」であって、「何を導入したか」ではない。

中小企業には、事例に出てこない強みがある

もう1点、経営判断として押さえておきたいことがある。

公開される事例が大企業に偏るため、**中小企業は「遅れている」という印象を持ちやすい。**しかし、DXの推進という観点では、規模の小さい会社にしかない有利な条件がある。

有利な条件1:意思決定が速い。 大企業の事例に数年単位の期間が書かれているのは、合意形成に時間がかかるためでもある。経営者が決めれば動く会社は、この工程を丸ごと省略できる。

有利な条件2:業務の全体像を1人が把握している。 大企業では、業務の全体を理解している人が存在しないことがある。**これが、DXの最大の障害になる。**中堅・中小企業では、経営者や少数の幹部が全体を把握していることが多い。業務の見直しにおいて、これは決定的な優位である。

有利な条件3:試して駄目なら戻せる。 影響範囲が限定されるため、小さく試すことが現実的にできる。大企業では、試行にすら承認と調整が必要になる。

**これらの条件は事例には書かれない。**書かれるのは、大企業が困難を乗り越えた過程だからである。その困難の一部は、そもそも中小企業には存在しない。

**事例を読んで「うちには無理だ」と感じたときは、この非対称を思い出す価値がある。**必要なのは同じ規模の取り組みではなく、自社の条件に合った規模の取り組みである。

自社に近い事例をどう探すか

規模の近い事例を探したい場合、探し方にも工夫がある。

方法1:業種ではなく、業務の型で探す。 「製造業の事例」ではなく、「受注処理を紙から移行した事例」で探す。**業種が違っても、業務の型が同じなら参考になる。**逆に、同業でも規模が違えば参考にならない。

方法2:従業員数を条件に加える。 事例に従業員数が書かれている場合、自社と近い規模のものを優先する。**参考にすべきは、売上の規模より「何人でどう回しているか」である。**同じ年商でも、10人の会社と100人の会社では、承認の経路も情報の伝わり方も違う。どちらの軸が効くかは業種によるため、両方を見たうえで、自社と業務の回し方が近いものを選びたい。

方法3:導入したベンダーに、規模の近い実績を聞く。 提案を受けているベンダーがいるなら、**「当社と同じくらいの規模の会社で、同じような案件はありますか」と聞く。**答えられない場合、その提案は大企業向けの型を持ち込んでいる可能性がある。

方法4:失敗の話を聞く。 公開された事例には失敗が載らないため、**人から直接聞くしかない。**同業の経営者の集まりや、ベンダーとの会話の中で、「うまくいかなかった例」を聞く。成功事例10件より、失敗事例1件のほうが判断材料になることは多い。

事例が提案の道具として使われるとき

もう1つ、実務上の注意点がある。事例は、提案の説得材料として使われる。

「A社ではこの仕組みで成果が出ています」という説明は、それ自体が誤りではない。しかし、A社と自社の前提が同じかは、提案する側ではなく、発注する側が確認すべきことである。

確認したい点は3つである。

**確認1:A社の規模と、自社の規模。**従業員数、年商、対象業務の処理量。

**確認2:A社が導入前にどういう状態だったか。**すでに整備されていた仕組みは何か。自社にそれがあるか。

**確認3:A社で、その施策の前に何をやっていたか。**多くの成功事例は、いくつかの前段階を経ている。その前段階を飛ばして最後の施策だけを導入できるのか。

**この3点を確認すると、提案の適合度がかなり見える。**そして、これらはベンダーを疑うための質問ではない。規模の違いは、提案する側からは見えにくいことがあるためである。

よくある質問

Q. 中小企業の事例はどこで探せばよいか。 A. 公的機関の事例集にも中小企業のものは含まれている。**ただし、大企業の事例に比べて情報量が少ないことが多い。**業界団体や、地域の支援機関が持つ事例のほうが、規模の近いものが見つかりやすい場合がある。

Q. 大企業の事例はまったく参考にならないのか。 A. 施策の内容は参考にならないことが多いが、**課題の特定の仕方、優先順位の付け方、効果の測り方は参考になる。**読み取る対象を分けることが重要である。

Q. 事例に投資額が書かれていない場合、どう見積もればよいか。 A. 事例からは推定できない。**自社の対象業務の規模をもとに、複数のベンダーから見積もりを取るほうが確実である。**事例の内容をもとに「これくらいだろう」と想定すると、大きくずれる。

Q. 自社の事例を公開する側になるメリットはあるか。 A. 採用や取引先からの信頼という面での効果はあり得る。**ただし、公開のための工数と、社内の承認手続きの負担を先に見積もりたい。**特に、効果の数字を出すために測定をやり直すことになる場合、負担は小さくない。

Q. 事例を集めているが、社内の議論が進まない。 A. 事例を集める作業が目的化している可能性がある。**「何件集めたら決めるのか」を先に決めると進みやすい。**多くの場合、3件も読めば判断に必要な材料は揃う。

Q. ベンダーの提案に事例が付いていない。信用できないか。 A. そうとは限らない。**顧客との守秘義務により、事例を公開できないベンダーは多い。**公開事例の有無より、自社の状況をどこまで把握したうえでの提案かを見るほうが確実である。

Q. 同業他社がDXで先行していると聞いた。焦るべきか。 A. 焦る必要はないが、**何をやっているかは把握しておきたい。**ただし、他社がやっているという理由だけで同じことをやると、前述の規模差の問題がそのまま起きる。自社の課題から出発する順序は変わらない。

Q. 結局、自社は何から始めればよいか。 A. 事例を読む前に、**自社の業務のうち、最も人手がかかっている作業を3つ挙げる。**この3つが特定できていれば、事例を読んだときに「自社のどの作業に当たるか」を判断できる。特定できていない状態で事例を読むと、印象に残った施策を選ぶことになる。

自社の規模に合った進め方から相談したいとき

事例を読んでも自社に当てはめられないのは、読み方の問題であると同時に、**自社の課題が具体的に特定されていないことの現れでもある。**課題が特定できていれば、事例のどの部分が自社に関係するかは自然に判断できる。

自社の業務のどこに人手がかかっており、何から着手すべきかの整理から始めたい場合は、自社の現在地と着手順序を整理するで現在地の確認から対応している。AIや自動化の適用可能性を投資判断の前に評価したい場合は、AI適用可能性の評価が該当する。

受け取った提案が自社の規模や体制に見合っているかを社外の目で点検したい場合は、自社の規模に合う提案か点検してもらうで受け付けている。実際の改修範囲の設計まで進めたい段階であれば、改修範囲の設計まで進めるで扱っている。

なお、大企業のAI活用事例から中小企業が何を学べるかという同じ論点は三菱UFJ銀行の生成AI活用から中小企業が学べる3つのポイントでも具体例に沿って扱っている。自社の現在地を自己評価する枠組みはDX推進指標の集中実施期間で扱っている。本稿は、公開事例の読み方に絞っている。

参照した情報

2026年8月にIPAのデジタル事例データベースへ追加された事例として、株式会社トリドールホールディングス(2026年8月14日)、株式会社丸井グループ(同8月10日)、株式会社ブリヂストン(同8月7日)、旭化成株式会社(同8月6日)、東急不動産ホールディングス株式会社(同8月5日)が掲載された旨は、上記IPAのお知らせ一覧の記載に基づく。

**「5件すべてが大企業である」という記述は、2026年8月に追加された上記5件についての観察であり、デジタル事例データベース全体の構成比を示すものではない。**同データベースには中小企業の事例も含まれている。掲載企業の選定方法、掲載基準、および全体の件数構成については、本稿では扱っていない。

各社の事例の具体的な内容、取り組みの成果、投資額についても本稿では扱っていない。個別の事例の内容は、IPAのデジタル事例データベースで直接確認してほしい。

**事例が大企業に偏る4つの条件は、GXOによる仮説である。**IPAが掲載企業をどのように選定しているかは公表されておらず、本稿はその選定過程を評価するものではない。規模差を無視した場合に起きる5つのこと、事例から読み取るべき5つの問い、自社に近い事例を探す4つの方法、および提案を受けたときの3つの確認も、いずれもGXOが実務の中で整理した見方であって、IPAの見解でも基準でもない。

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