結論:賃金統計はプラス、倒産統計は最多。2つの一次統計は「賃上げできる会社とできない会社の選別」が始まったことを示している

東京商工リサーチ(TSR)の調査によると、2026年5月の「人手不足」関連倒産は37件(前年同月比60.8%増) で、5月としては2024年の28件を上回り、調査を開始した2013年以降で最多 を更新した。とりわけ 「人件費高騰」を起因とする倒産は19件と前年同月の約2.4倍(137.5%増)、「従業員退職」起因も9件(80.0%増)に増えた。

一方、厚生労働省の毎月勤労統計調査(2026年4月分速報)では、現金給与総額は312,425円で前年同月比3.5%増、実質賃金は1.9%増 と、2026年1月以降4か月連続のプラスである。賃金は物価を上回って上がり続けている。

この2つの一次統計を並べると構造が見える。経済全体では「賃上げが当たり前」になり、その水準に追随できない会社から人が抜け、無理に追随した会社は利益が消える。「賃上げしないと辞められる、賃上げすると潰れる」という板挟みだ。解は精神論ではなく、人を増やさずに同じ売上を回す投資=省力化・自動化で、1人あたりの粗利を賃上げ原資ごと引き上げる ことにある。

押さえるべき1点:実質賃金プラスは経営にとって「良いニュース」ではなく「賃上げ競争の長期化宣言」である。人件費高騰起因の倒産2.4倍は、値上げと省力化で原資を作れなかった会社の末路を先に見せている。


2つの一次統計が示す事実

統計発表主要数値
TSR「人手不足」関連倒産(2026年5月)2026年6月8日37件(前年同月比60.8%増)・5月として2013年の調査開始以降最多。人件費高騰19件(137.5%増)、従業員退職9件(80.0%増)。資本金1千万円未満が25件(92.3%増)、形態は破産が36件(56.5%増)
毎月勤労統計調査 2026年4月分速報(厚労省)2026年6月5日現金給与総額 312,425円(3.5%増)。一般労働者403,170円(3.9%増)、パートタイム114,921円(2.8%増)。パートの時間当たり所定内給与は 1,436円(4.9%増)。実質賃金(持家の帰属家賃を除く総合で実質化)1.9%増・2026年1月以降4か月連続プラス(消費者物価は1.5%上昇)

TSRの調査は負債1,000万円以上の全国企業倒産のうち「求人難・従業員退職・人件費高騰」を起因とするものを抽出したもので、後継者難は含まない。つまり37件は「人が採れない・辞める・人件費が払えない」ことが直接の引き金になった倒産だ。資本金1千万円未満が25件と約7割を占め、形態のほぼ全てが破産——再建ではなく消滅型——である点も重い。


なぜ「実質賃金プラス」の裏で倒産が増えるのか

賃金相場は市場全体で決まり、支払能力は自社の粗利で決まる

毎月勤労統計が示す3.5%の名目賃金上昇は、自社が賃上げするかどうかに関係なく 採用市場の「相場」 として効いてくる。パートの時間当たり給与が4.9%増えている事実は、最も流動性の高い労働力から相場が切り上がっていることを意味する。相場に追随しなければ従業員退職起因の倒産(9件・80.0%増)の側に近づき、粗利の裏付けなく追随すれば人件費高騰起因の倒産(19件・2.4倍)の側に近づく。

TSRは「コロナ禍から業績回復が遅れ、価格転嫁も難しい中小企業は少なくない。賃上げが二極化するなか、賃上げ原資を確保できない企業は、抜本的な見直しが必要な時期に差し掛かっている」と指摘する。賃上げの問題は人事の問題ではなく、粗利構造の問題 だということだ。

「人を増やして売上を作る」モデルの限界

人手不足局面では、増員による成長は採用費・教育費・賃金相場の三重コストを伴う。逆に言えば、同じ人数で処理量を増やす(または同じ処理量を少ない工数で回す) 投資は、賃上げ原資と採用競争力を同時に生む。人手不足倒産が増える年に業績を伸ばす会社ほど、「1人あたり粗利」を管理指標として重視する傾向が強い。この構造は人手不足倒産2026と粗利率を守るデジタル化の3ステップで詳しく解説している。

人材を「採る」以外の選択肢——伴走型の外部活用や共同開発——についてはIT人材不足2026と『内製か外注か』の先も参照してほしい。


賃上げ原資を作る省力化投資:確認手順

  1. 1人あたり粗利の現状把握:粗利総額÷従業員数を直近3期で算出し、賃上げ率3〜4%を吸収するために必要な改善幅を数値で確認する
  2. 工数の棚卸し:受発注・請求・日報・転記・問い合わせ対応など、定型業務に月何時間使っているかを部門別に洗い出す
  3. 自動化レバーの優先順位付け:①紙・Excel転記の排除(システム化)、②定型のやり取りの自動化(AIエージェント・チャット対応)、③基幹業務の再設計、の順に投資対効果を試算する
  4. 損益分岐の試算:投資額÷(削減工数×時間単価+採用・退職コストの回避額)で回収期間を計算し、3年以内を目安に絞り込む
  5. 補助金の併用検討:省力化・新事業向けの補助金で自己負担を圧縮する。省力化投資補助金(一般型)や、6/19締切の新事業進出補助金(第4回)が候補になる
  6. 賃上げ計画との接続:削減した工数と増えた粗利を、何%の賃上げに充てるかまで決めて初めて「人が辞めない省力化」になる

チェックの勘所:省力化投資の目的を「人員削減」と説明すると現場の協力を失い、データも知見も集まらない。「同じ人数で粗利と給与を増やすための投資」と定義し、削減工数の使い道(付加価値業務・賃上げ)を先に約束するのが定着の条件である。


よくある質問(FAQ)

Q. 省力化投資の損益分岐はどう考えればよいか? A. 効果は「削減工数×時間単価」だけでなく、退職・採用の回避コストまで含めて見る。1人の退職は求人費・教育期間・引き継ぎロスを伴うため、定型業務の自動化で残業と離職要因を減らすこと自体が回収原資になる。回収期間3年以内を一つの目安に、補助金で初期投資を圧縮できれば分岐点はさらに手前に来る。

Q. 何から自動化すべきか? A. 「件数が多く、判断が少なく、複数システム間の転記を伴う」業務が最優先である。受発注処理、請求・入金消込、日報・報告書の集計、定型問い合わせ対応が典型だ。効果測定がしやすく、現場の抵抗も小さい。基幹システムそのものの刷新は、こうした周辺の自動化で効果を実証してから着手する方が失敗しにくい。

Q. 賃上げ原資がない会社でも投資はできるのか? A. だからこそ補助金の活用順位が高い。省力化・新事業系の補助金は補助率1/2〜2/3の水準があり、自己負担を抑えて「賃上げ原資を作る投資」に踏み出せる。ただし賃上げ要件(未達時の返還規定)を伴う制度が多く、無理のない計画値の設計が前提になる。

Q. 自社がどこから手を付けるべきか分からない。 A. 業務の棚卸しと優先順位付けの段階でつまずく会社が大半であり、まず現状の成熟度を客観評価するのが早い。診断で「効果が出やすい順」を特定してから投資判断に進むことで、ツール先行の失敗を避けられる。


経営判断に変換する確認観点

経営・DX系の記事は、統計や先進事例を読むだけでは成果につながらない。自社の採用、賃金、業務量、システム投資、AI活用、外注費にどう影響するかを数字に落とす必要がある。確認すべきは、どの部門で人手不足が深刻か、どの業務が採用難の原因か、賃上げ原資をどの業務改善で作るか、IT投資の効果をどう測るかである。

DX投資は「便利にする」だけでは稟議が通りにくい。人件費、残業、採用費、外注費、機会損失のどれを下げるのか、または売上・受注率・稼働率のどれを上げるのかを明確にする。記事の統計は、その優先順位を決めるための材料として使う。

GXOへ相談する前に整理しておくと早い情報

相談前には、課題部門、人数、月間処理件数、残業時間、採用難の状況、既存システム、改善に使える予算、経営会議で問われている指標をまとめる。投資判断に必要なROI試算から支援できる。


90日で経営アクションへ変えるロードマップ

最初の30日は、統計や外部ニュースを自社の数字に置き換える。人件費、採用費、外注費、残業時間、離職、受注機会、問い合わせ件数など、経営会議で使える指標に変換する。

31日目から60日目は、改善テーマを3つまでに絞る。人手不足に効く業務自動化、賃上げ原資を作る生産性改善、生成AIの効果測定、基幹システム刷新など、投資テーマごとに期待効果と難易度を並べる。

61日目から90日目は、稟議に耐える投資計画にする。初期費用、運用費、削減できる時間、回収期間、リスク、実行体制を明文化する。外部ニュースは危機感を作る材料であり、社内投資を動かすには自社の数字に変換する必要がある。


よくある失敗パターン

第一の失敗は、外部統計を危機感だけで終わらせることだ。人手不足、賃金、AI活用、DX投資のニュースは、自社の数字に置き換えなければ行動につながらない。

第二の失敗は、投資テーマを増やしすぎることだ。経営資源は限られるため、最初に着手するテーマは3つ以内に絞る。効果が大きく、実行可能性が高く、経営指標に直結するものから始める。

第三の失敗は、ROIを初期費用だけで見ることだ。運用費、教育費、保守費、外注費、機会損失まで含めた総額で見なければ、投資判断を誤る。

成果物として残すべきもの

経営判断には、課題仮説、現状数値、投資案、期待効果、回収期間、実行体制、リスク、意思決定期限を残す。これらが揃えば、ニュースを一過性の話題で終わらせず、具体的な投資判断に変えられる。


判断表:読むだけで終わらせないための整理

確認項目見るべきポイントNGサイン
対象範囲どの部門・システム・データ・端末が関係するか「たぶん関係ない」で止まる
責任者判断者・作業者・承認者が分かれているかベンダー任せ、部門任せになっている
期限いつまでに何を終えるか次回定例、落ち着いたら、など曖昧
証跡判断根拠と作業結果を残せるか口頭確認だけで記録がない
次の一手今回の対応を仕組みに変えるか単発対応で終わる

この表を埋めると、記事の内容を「読んだ情報」から「社内で動かすタスク」に変えられる。特に重要なのはNGサインである。NGサインが1つでも出る場合、問題は個別ニュースではなく、社内の判断プロセスにある。

公開情報は日々更新されるため、記事本文の数値や期限をそのまま固定値として扱うのではなく、一次情報の最新版、社内の対象有無、実施記録をセットで確認する。これにより、速報記事を一過性の話題で終わらせず、監査・稟議・改善計画に使える材料へ変換できる。


いつGXOに相談すべきか

  • 賃上げ相場に追随したいが、どの業務の省力化から原資を作るべきか 優先順位を客観的に判断したい
  • 受発注・請求・問い合わせなどの定型業務を AIエージェントやシステム化で自動化 したいが、要件定義の人材が社内にいない
  • 省力化・新事業系の 補助金を使った投資計画と賃上げ要件の設計 を伴走してほしい

GXOは、DX成熟度診断で自動化余地と優先順位の可視化を、AIエージェント開発で定型業務の自動化を、DX・システム開発で業務システムの再設計までを支援している。→ 省力化投資・業務自動化の相談はこちら

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編集部注:公開後の更新方針

本記事は速報性のある公開情報をもとに、GXOの商談領域であるシステム開発、AI導入、セキュリティ、レガシー刷新、データ基盤構築の観点へ翻訳したものである。公開後に一次情報の更新、ベンダー側の追記、制度要件の変更、悪用状況の変化が確認された場合は、本文・参考資料・CTAの導線を更新する。

読者が実務で使う場合は、記事の数値や期限を固定値として扱うのではなく、必ず一次情報と自社環境を突き合わせることが重要である。特に、契約条件、対象バージョン、制度要件、提供リージョン、価格、悪用状況は短期間で変わり得る。この記事の役割は、最新情報を自社の判断項目へ変換することであり、最終判断は一次情報と社内の対象有無確認にもとづいて行う。


参考資料

本記事は2026年6月12日時点の公開情報をもとに作成。毎月勤労統計の速報値は確報で改訂される場合がある。統計数値・調査定義は各一次情報の最新版を必ず確認すること。


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