この記事は、自治体・公共団体の調達担当者・評価委員が「提案書を受け取った後に採点する」段階で使える評価設計リファレンスです。RFPへの条項記載は姉妹記事(RFP条項)で、ベンダーへの証跡要求はAIポリシー証跡の記事で扱っています。
デジタル庁のDS-920ガイドラインは2026年4月に全面適用され、生成AIシステムの調達において「AIガバナンス観点の評価項目」を入れることを推奨しています。しかし多くの自治体では、提案評価の採点表が依然として「価格点+機能点+実績点」の3軸にとどまり、学習利用禁止の実装状況やインシデント対応力は採点されていません。
価格競争だけで選んだAIシステムは、運用開始後に次のような問題が顕在化します。初年度は安く見えても、ログ追加設計や権限設定の後付け作業、不具合時の対応費が積み上がって総コストが高くなるケースです。本記事では、DS-920ガイドラインが要求する観点を採点表に落とし込む方法を整理します。
スコアリングの基本設計:総点と配点の考え方
提案評価表の総点は100点で設計することを推奨します。価格点と技術点のバランスは案件規模によって変えますが、公共AI案件では「技術点」の中に「AIガバナンス点」を独立した評価軸として組み込むことがポイントです。
推奨配点(例:500万円以上のAIシステム調達)
| 評価軸 | 配点 | 内訳 |
|---|---|---|
| 価格点 | 30点 | 低価格ほど高得点(入札価格÷予定価格で換算) |
| 機能・技術点 | 30点 | 業務要件の充足度、システム構成の合理性 |
| AIガバナンス点 | 25点 | 下記7項目(各3〜4点) |
| 運用・サポート点 | 10点 | 保守体制、SLA、教育プログラム |
| 類似実績点 | 5点 | 公共・準公共分野での導入実績 |
AIガバナンス点を25点設けると、価格だけで逆転されにくくなります。
AIガバナンス評価の7項目と採点基準
以下の7項目が、DS-920ガイドラインと総務省「自治体AI導入ガイドブック第4版」が確認を求める主要観点です。各項目の採点基準を3段階(満点・部分点・0点)で定義します。
| 評価項目 | 配点 | 満点(3〜4点) | 部分点(1〜2点) | 0点 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 学習利用禁止の実装 | 4点 | 契約条項+API設定の証跡あり | 誓約書のみ(設定証跡なし) | 記載なし |
| 2. ログ設計の完全性 | 4点 | 全6項目(操作者・入力・出力・参照元・タイムスタンプ・変更履歴)保存 | 3〜5項目保存 | ログ項目の説明なし |
| 3. 権限管理の精度 | 3点 | 職員ロール別・部署別の制御、委託先アクセス制限の説明あり | 「管理者・一般」2種のみ | 権限設計の説明なし |
| 4. 停止条件と対応時間 | 4点 | 停止トリガーの数値基準+発注者への連絡時間(〇時間以内)を明示 | 停止手順はあるが時間基準なし | 「状況に応じて対応」のみ |
| 5. データ削除証跡 | 4点 | 削除手順書+完了報告書テンプレあり、削除期限(〇日以内)明示 | 「削除します」記載のみ | 記載なし |
| 6. 再委託の透明性 | 3点 | クラウド・AI API・運用委託先の名称と所在国まで開示 | サービス名のみ(所在国不明) | 「再委託なし」と記載も確認不可 |
| 7. 職員向け教育計画 | 3点 | 初回研修計画+更新研修計画+禁止事項マニュアルあり | 初回研修のみ計画 | 「ご要望に応じて対応」のみ |
採点実例:3社比較
以下は、同じRFPに対する3社の提案をAIガバナンス点(25点満点)で採点した架空の比較例です。
| 評価項目 | A社(大手クラウドSI) | B社(地場SIer) | C社(スタートアップ) |
|---|---|---|---|
| 学習利用禁止 | 4点(API設定証跡あり) | 2点(誓約書のみ) | 4点(自社LLMのため無関係と証明) |
| ログ設計 | 4点(全6項目) | 2点(操作者・入力・出力のみ) | 3点(参照元IDなし) |
| 権限管理 | 3点(ロール別詳細あり) | 1点(管理者・一般のみ) | 3点(AD連携対応) |
| 停止条件 | 4点(時間基準明示) | 1点(手順書のみ) | 2点(手順書+2時間連絡) |
| データ削除 | 3点(手順書あり、期限なし) | 1点(記載のみ) | 4点(30日以内+完了報告書) |
| 再委託透明性 | 2点(クラウド名のみ) | 3点(全委託先開示) | 3点(自社運用のみ) |
| 教育計画 | 3点(初回+更新計画あり) | 1点(初回のみ) | 2点(動画研修のみ) |
| AIガバナンス計 | 23点 | 11点 | 21点 |
この採点では価格点でB社が最安だとしても、AIガバナンス点の差(12点)が大きく、総合評価で逆転しやすい構造になっています。
採点表を機能させる3つの運用ルール
採点表は設計するだけでなく、評価委員が一貫して使えるよう以下の運用ルールを設けます。
- 根拠確認の義務化:「満点」をつける場合は提案書の該当ページと提出書類の名称を採点シートに記録します。
- 口頭説明への過剰評価防止:提案書・証跡書類に記載がない内容は、プレゼンで口頭説明があっても採点に反映しません。
- 部分点の定義を事前共有:評価委員間で部分点の基準が揺れると不公平になります。採点基準表を評価委員全員に事前配布します。
提案書の技術的な読み方はシステム見積の読み方・確認ポイントも参照してください。
GXOはどう支援するか
GXOでは、自治体・公共団体がDS-920対応の提案評価表を設計する支援を行っています。案件規模・業務内容・評価委員の構成に合わせて配点設計を調整し、採点基準の説明資料も含めて作成します。既存の調達案件の評価表を見直す作業も対応可能です。生成AIガバナンスの設計と組み合わせることで、調達後の運用ルール整備まで連続して進められます。
よくある質問
Q1. AIガバナンス点の配点を25点に設定すると、価格競争力のある地場業者が不利になりませんか
価格点が30点残っているため、価格差が大きければ地場業者が有利です。AIガバナンス点は「証跡を揃えればどの規模のベンダーでも取れる」設計にしているため、大手有利にはなりません。証跡整備の方法は提案前説明会で共有することを推奨します。
Q2. 採点表は情報公開請求の対象になりますか
なります。採点根拠の記録を残すことは情報公開対応だけでなく、落選ベンダーへの理由説明(不服申立て対応)にも必要です。「満点根拠の記録」ルールはその意味でも重要です。
Q3. 小規模案件(50万円未満)でも同じ採点表が必要ですか
小規模案件では評価項目を5項目(学習利用・ログ・停止条件・削除証跡・教育計画)に絞り、配点比重を下げた簡易版を使うことが現実的です。ただし住民情報を扱う業務なら、規模に関わらず学習利用禁止の確認は外さないことを推奨します。
参考情報
- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920)」:https://www.digital.go.jp/en/news/3579c42d-b11c-4756-b66e-3d3e35175623
- DS-920 ガイドライン本文(PDF):https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/80419aea/20250527_resources_standard_guidelines_guideline_01.pdf
- 総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック(導入手順編・第4版)」:https://www.soumu.go.jp/main_content/000820109.pdf
DS-920対応の提案評価表を設計しませんか
GXOでは、案件規模・業務内容に合わせた採点表設計、採点基準の説明資料作成、評価委員向けのブリーフィング支援まで行います。既存の評価表を見直したい場合もお気軽にご相談ください。