「問い合わせ対応を外注したのに、社内のIT担当者が楽にならない」。その原因は、外注先の人数ではなく、何を減らし、何を社内に残すかを決めないまま受付だけを移したことにある。
キヤノンマーケティングジャパンが2026年7月22日に公表した定点調査では、従業員300〜1,000人未満の企業で働く情報システム部門のヘルプデスク担当者111人のうち、「業務全体を委託」が32.4%、「部分的に委託」が54.1%だった。合計すると、全部または一部を外部委託している割合は86.5%になる。
一方、3年前よりヘルプデスク負荷が増えたと答えた割合は73.0%、業務に課題を感じる割合は80.2%だった。外注が広がったことと、負荷が増えたことは矛盾しない。問い合わせの発生原因、受付後の差し戻し、社内でしか判断できない例外、古いFAQ、権限確認をそのまま残せば、社内担当者は「解決する人」から「外注先と社員の間を往復する中継係」に変わるだけだからだ。
この記事では、ひとり情シス・兼任情シスを抱える中堅企業の経営者に向けて、外注契約の前に問い合わせを「廃止・自己解決・自動化・外注・社内保持」へ分ける5分類、KPI、ベンダー確認票を示す。
この記事の要点
- 調査対象111人の回答では、ヘルプデスクの全部・一部外注率は86.5%だが、73.0%は3年前より負荷が増えたと感じている。
- この調査は従業員300〜1,000人未満の企業に限定されたインターネット調査であり、日本企業全体の実態と断定してはいけない。それでも「外注済みなのに負荷が残る」設計課題を点検する材料にはなる。
- 外注前に問い合わせを5分類し、廃止・自己解決・自動化で需要を減らした後、標準化できるものだけを外部へ渡す。
- 成功指標を「委託した件数」ではなく、自己解決率、一次解決率、社内差し戻し率、再発率、経営施策へ戻せた時間で測る。
- 生成AIは未整理のナレッジを自動で正しくする装置ではない。正本、更新責任、回答できないときの人への引き継ぎを先に設計する。
調査から確認できる事実と、確認できないこと
まず、数字を正しく読む必要がある。キヤノンMJの発表によると、調査期間は2026年6月12〜15日、対象は従業員300〜1,000人未満の企業で社内ヘルプデスク業務を担当する情報システム部門の111人だった。
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| 調査項目 | 回答 | 経営者が読み取れること |
|---|---|---|
| 業務全体を外部委託 | 32.4% | 全面委託も一定数ある |
| 部分的に外部委託 | 54.1% | 実務では社内外の分担が主流 |
| 3年前より負荷が増加 | 73.0% | 委託の有無だけでは負荷を説明できない |
| ヘルプデスク業務に課題 | 80.2% | 運用再設計の余地が大きい |
| 人員不足による一人当たり負担 | 55.1% | 人数と需要の両方を見る必要がある |
| 特定スタッフの休暇・退職で対応困難 | 47.2% | ナレッジと判断の属人化が残っている |
| 他の進めたい業務が進まない | 43.8% | DX・セキュリティ投資の機会費用が生じる |
| BPOに求める「自動化+有人」の運用 | 58.7% | 無人化か有人かの二択ではない |
| 外部委託に期待するセキュリティ強化 | 51.9% | 本人確認・権限・証跡も選定条件になる |
生成AIについては、調査回答者全体の38.7%が活用していると答え、その活用者のうち88.5%が「本格活用」または「一部本格活用」と回答した。88.5%は回答者全体ではなく、生成AIを活用している層の内訳である。ここを取り違えて「約9割の会社が生成AIを本格利用」と書くのは誤りだ。
また、この調査だけで「外注したから負荷が増えた」という因果関係は証明できない。会社ごとの委託範囲、問い合わせ件数、IT環境、従業員増減は示されていないためだ。本記事で扱うのは、外注と負荷増が同時に起きうる構造であり、調査結果から各社の外注効果を断定するものではない。
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なぜ外注しても社内担当者が中継係になるのか
外注後に負荷が下がらない会社では、受付窓口だけが社外へ移り、判断・調査・例外処理が社内へ戻ってくる。典型的には次の5つが残る。
1. 問い合わせの発生原因を消していない
パスワード再設定の手順が分かりにくい、申請画面の項目名と社内用語が違う、入社時に必要な説明がない。同じ原因から毎月100件の問い合わせが発生しているのに、100件をより速く受けることだけを考えている。根本原因を直さなければ、委託費は問い合わせ件数に比例して残る。
2. 外注先が参照する正本がない
FAQ、手順書、過去の回答、口頭ルールが食い違い、どれを正しい回答として扱うか決まっていない。外注先は誤回答を避けるため、少しでも曖昧な案件を社内へ戻す。ナレッジがないのではなく、「どれが正本か」「誰が更新を承認するか」がない状態だ。
3. 分担がシステム名でしか決まっていない
「Microsoft 365は外注」「基幹は社内」とだけ決めても、本人確認、権限付与、例外承認、障害連絡は複数システムをまたぐ。受付分類と解決権限が一致しないため、チケットが往復する。ITアウトソーシングで外に出す業務・残す業務の決め方でも、業務単位と責任単位を分ける必要性を整理している。
4. SLAが「何分で返事するか」だけ
初回返信が30分でも、「確認します」という回答だけなら解決していない。返信時間だけを追うと、外注先は未解決のまま素早く社内へ転送する方が評価される。経営が欲しいのは返事の速さではなく、社員が仕事へ戻れるまでの時間である。
5. 改善責任が契約にない
問い合わせを処理する契約はあっても、件数を減らす提案、FAQ更新、原因部門への改善要求が範囲外になっている。件数課金なら、需要が減ることがベンダーの売上減につながる場合もある。責めるべきはベンダーではなく、改善に報酬が付かない契約設計だ。
外注前に使う「問い合わせ5分類」
問い合わせ一覧を、次の順番で分類する。重要なのは、最初から「外注する・しない」の二択にしないことだ。
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| 分類 | 対象 | 判断質問 | 例 | 成功指標 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 廃止 | 問い合わせ原因そのものを消せる | 画面、権限、案内、制度を直せば発生しないか | 分かりにくい申請項目、重複承認 | 同種問い合わせの減少 |
| 2. 自己解決 | 利用者が正本を見れば解ける | 正解が一つで、本人が安全に実行できるか | 操作手順、FAQ、利用時間 | 自己解決率、検索後の未解決率 |
| 3. 自動化 | 定型判断と定型処理にできる | 例外条件と本人確認を明文化できるか | 状況照会、定型通知、申請受付 | 自動完了率、誤処理率 |
| 4. 外注 | 標準化できるが人の対応が要る | 必要情報、権限、完了条件を渡せるか | PC一次切り分け、アカウント案内 | 一次解決率、社内差し戻し率 |
| 5. 社内保持 | 経営・人事・高権限の判断を伴う | 社外へ判断権限を渡すべきでないか | 特権付与、例外承認、重大事故 | 判断時間、証跡、例外再発率 |
分類は1から順に行う。廃止できるものをFAQにし、FAQにできるものをチャットボットへ入れ、最後に残ったものを外注すると、不要な需要へ継続課金するのを避けられる。
5分類の採点方法
直近4週間の問い合わせから上位30種類を抜き出し、各行を次の4項目で0・1・2点評価する。
- 発生原因を変更できるか: 2点なら「廃止」候補
- 正解が一つに定まるか: 2点なら「自己解決」候補
- 入力と判断条件が定型か: 2点なら「自動化」候補
- 社外へ渡せる権限・情報か: 2点なら「外注」候補
高権限、人事判断、重大事故、法的判断を含むものは、合計点にかかわらず「社内保持」へ戻す。この停止条件を置かないと、効率化を優先してはいけない業務まで外へ出る。
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生成AIを入れる前にナレッジの正本を決める
調査では、生成AIを活用・検討する領域としてFAQ自動作成が62.9%、チャットボットによる自動対応が54.3%だった。生成AIは、過去チケットの要約、類似問い合わせの検索、回答案の作成には有効だ。しかし、古い回答と新しい回答が混在していれば、矛盾を流暢な文章にまとめるだけになる。
最低限、ナレッジには次の7項目を持たせる。
- 質問または症状
- 対象者・対象システム
- 正式な回答と手順
- 回答できない例外
- 本人確認・必要権限
- 正本の所有者と最終更新日
- 次回見直し日と変更履歴
生成AIの役割は、正本を勝手に決めることではない。正本から回答案を作り、根拠を表示し、分からない場合に人へ渡すことだ。AIヘルプデスクの導入手順や問い合わせ時間を短縮するAIヘルプデスク設計も、対象業務と運用責任を決めてから参照したい。
外注効果を測る8つのKPI
委託開始後に「忙しさが減った気がする」で評価すると、契約を継続すべきか判断できない。少なくとも次の8指標を、導入前4週間と導入後で比較する。
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| KPI | 定義 | 注意点 |
|---|---|---|
| 問い合わせ発生数 | 従業員100人当たりの月間件数 | 事業・人員増減を補正する |
| 自己解決率 | FAQ等で解決しチケット化しなかった割合 | 検索しただけを成功にしない |
| 一次解決率 | 最初の担当で完了した割合 | 社内転送を完了扱いしない |
| 社内差し戻し率 | 外注先から社内へ判断が戻った割合 | 分類・権限不足を発見する |
| 再問い合わせ率 | 同じ人・同じ原因で再発した割合 | 見かけの早期クローズを防ぐ |
| 解決時間 | 受付から利用者が業務復帰するまで | 初回返信時間と分ける |
| ナレッジ更新率 | 再発上位項目の正本を更新した割合 | 改善責任を測る |
| IT施策へ戻せた時間 | 情シスがDX・セキュリティへ使えた時間 | 外注の経営価値を示す |
月額費用は、委託料だけでなく次の式で比べる。
ヘルプデスク総費用 = 外注固定・従量費 + 社内対応時間 × 社内時間単価 + 再作業費 + 管理・セキュリティ対応費
外注費が上がっても、社内差し戻しと再問い合わせが減り、DX施策へ戻せる時間が増えれば投資価値はある。逆に委託単価が安くても、社内担当者が毎日2時間中継しているなら安くない。
外注先を探す前に、問い合わせの5分類から整理しませんか
GXOでは、ひとり情シス・兼任情シスを抱える企業向けに、問い合わせの棚卸し、5分類、ナレッジ正本、外注範囲、生成AI適用、KPIまでを短期診断します。特定のBPOやツールを前提にせず、「減らす・自動化する・外へ出す・社内に残す」の順番を整理します。
BPO・ヘルプデスク事業者へ聞く12問
RFPや初回面談では、機能一覧より次の質問への回答と証拠を見る。
- 対象外・例外・重大事故をどの条件で社内へ上げますか
- 一次解決率の分母と完了の定義は何ですか
- 転送した案件を「解決」に含めますか
- 利用者の本人確認は、問い合わせ種別ごとにどう変えますか
- オペレーターへ渡す権限を最小化できますか
- ナレッジの正本、更新提案、承認、公開を誰が担当しますか
- 問い合わせを減らす改善提案は契約範囲ですか
- 生成AIが参照するデータ、保存先、学習利用、ログはどうなりますか
- AIが回答できない・根拠が弱い場合に、人へどう切り替えますか
- セキュリティ事故時の連絡時間と証跡は何ですか
- 契約終了時にFAQ、チケット、分析結果、設定をどの形式で返しますか
- 月次報告では件数以外に、再発原因と削減提案を示しますか
回答が「運用で相談」「ケースバイケース」だけなら、開始後も社内判断が増える可能性が高い。少なくとも、役割分担表、エスカレーション条件、サンプル月報、データ返却形式を契約前に確認する。
90日で再設計する実行順
0〜30日:需要と中継時間を測る
- 直近4週間の問い合わせを種類、件数、対応時間、再発、転送先で集計する
- 上位30種類を5分類する
- 社内担当者が外注先との中継に使った時間を記録する
- 高権限・人事・重大事故を「社内保持」として先に隔離する
31〜60日:正本と完了条件を作る
- 上位問い合わせのFAQ・手順・例外・本人確認を一枚にまとめる
- 一次解決、差し戻し、業務復帰の定義を決める
- 外注先と社内のRACI(実行・説明責任・相談・共有)を作る
- 生成AIは限定した正本と評価質問で検証する
61〜90日:限定運用し、止める条件も試す
- 一部門・一カテゴリで限定運用する
- 誤回答、権限外要求、重大事故を人へ上げられるか訓練する
- 8KPIを導入前と比較する
- 改善しないカテゴリは、外注拡大ではなく発生原因の修正へ戻す
DX成熟度診断は、ヘルプデスクだけでなく、兼任情シスが抱える資産管理、アカウント、ベンダー管理、DX施策の優先順位を一緒に見る入口になる。ヘルプデスクの再設計が単なるコスト削減で終わらず、情シスを本来の改善業務へ戻せるかまで判断したい。
よくある質問(FAQ)
外注率86.5%なら、ほとんどの会社が全面委託しているのですか
いいえ。業務全体を委託している回答は32.4%、部分的な委託は54.1%で、合計が86.5%です。調査対象も従業員300〜1,000人未満の企業の担当者111人に限られます。
外注しても負荷が増えたのは、外注先の品質が低いからですか
調査だけでは原因を特定できません。委託範囲、問い合わせ増、社内の例外判断、ナレッジ不足など複数の要因が考えられます。まず社内差し戻し率と中継時間を測り、契約と業務のどちらに原因があるか分けます。
問い合わせは全部チャットボットへ移せますか
移せません。正解が一つで、本人が安全に実行できるものは自己解決・自動化に向きます。特権付与、人事判断、重大事故は社内保持とし、AIが自動完了しない停止条件が必要です。
外注先のSLAは何を重視すべきですか
初回返信時間だけでなく、一次解決率、社内差し戻し率、業務復帰までの時間、再問い合わせ率を見ます。転送を「解決」と数えない定義を契約前に合意してください。
生成AIを先に導入すればFAQ整備も自動化できますか
回答案や分類は効率化できますが、どの文書が正本か、例外は何か、誰が更新を承認するかは人が決めます。古いナレッジを大量に入れると、古い回答を速く生成するだけです。
GXOにはどの段階で相談できますか
外注先選定前、既存契約の見直し、生成AIのPoC前、すでに外注済みだが負荷が下がらない段階のいずれでも相談できます。問い合わせ一覧がなくても、2〜4週間の計測方法から設計できます。
出典・確認日
- キヤノンMJグループ ニュースルーム掲載項目(2026年7月22日)
- キヤノンマーケティングジャパン「2026年版情報システム部門の社内ヘルプデスク業務に関する定点調査」
- キヤノンMJ 調査資料ダウンロード
- IPA「DX動向2024―深刻化するDXを推進する人材不足と課題」
最終確認日:2026年7月27日。調査は特定規模・111人の回答であり、業界・企業規模を超えた一般化や、外注と負荷増の因果関係の断定は行っていない。調査設問、集計方法、サービス条件が更新された場合は出典元で再確認する。
まとめ
外注率86.5%と負荷増73.0%が同時に示すのは、「外注が無効」という結論ではない。問い合わせ需要を減らさず、正本・権限・例外・改善責任を決めずに受付だけを移すと、社内担当者が中継係として残るという警告だ。
経営者が最初に決めるのは委託先ではない。問い合わせを廃止・自己解決・自動化・外注・社内保持へ分け、何を減らすか、何を外へ渡せるか、何を社内が判断し続けるかである。その地図ができて初めて、外注と生成AIを「情シスを本来の改善へ戻す投資」として評価できる。







