結論:自治体の生成AI調達は「標準ガイドラインに沿った要件定義」から始める
自治体・行政機関で生成AIを使う動きが広がっている。だが「便利そうだから導入する」だけでは、住民情報の取り扱いや調達の妥当性で後からつまずく。デジタル庁は、行政が生成AIを調達・利活用するための標準的な進め方を「DS-920」として示している。これを土台に、自治体は何をAIに任せ、どんな要件でベンダーを選ぶかを発注前に設計する必要がある。
- デジタル社会推進標準ガイドライン DS-920「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」は、デジタル庁が令和7年(2025年)5月27日に公表した、行政機関・自治体向けの標準ガイドラインである。
- 2026年1月の先進的AI利活用アドバイザリーボードでは、対象を音声入出力・画像生成・AIエージェント型システムへ広げるなど、ガイドライン充実に向けた改定方針案が議論されている。生成AIの利活用の幅が広がる前提で読む必要がある。
- 自治体にとっての本質は「調達の段階で、利活用の目的・リスク・責任分界・ベンダーへの要件を標準に沿って定義できているか」にある。
- 汎用のAI事業者ガイドライン(第1.2版)を土台に、行政固有の調達・公共性の観点を上乗せして読むのが現実的な順序である。
なぜ自治体の生成AI調達で失敗が起きるのか
「ツール導入」と「行政としての利活用設計」は別物
生成AIの導入を「便利なツールを入れること」と捉えると、住民の情報をどう守るか、AIの誤りに行政としてどう責任を持つか、調達がどんな根拠で妥当かといった行政固有の論点が抜け落ちる。行政の利活用は、業務効率化の前に「公共として説明できる形で使えるか」を満たす必要がある。標準ガイドラインは、その設計を調達・利活用の段階から進めるための物差しになる。
この「目的とリスクを定義せずに発注する」構図は、AI開発全般の失敗とも重なる。規制・ガイドライン準拠を確認せず進める失敗は、AI開発発注の失敗図鑑(規制・ガイドライン準拠)でも扱っている。本記事はその行政版として、調達への落とし込みに踏み込む。
標準ガイドラインを「読んだだけ」で要件に落ちていない
DS-920のような標準ガイドラインは、読むだけでは調達仕様にならない。利活用の目的、扱う情報の範囲、人間の確認をどこに挟むか、ベンダーに求める要件、運用後の監視といった項目を、自治体の業務に合わせて具体化する必要がある。ここを飛ばすと「ガイドラインは参照したが、調達仕様は曖昧」という状態になり、ベンダー提案の比較もできない。
DS-920の位置づけを正しく理解する
標準ガイドラインとしての性格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 文書名 | 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920) |
| 位置づけ | デジタル社会推進標準ガイドライン群の一つ |
| 公表主体 | デジタル庁 |
| 公表日 | 令和7年(2025年)5月27日 |
| 対象 | 行政機関・自治体の生成AIの調達・利活用 |
| 適用の考え方 | 令和8年度以降の調達が対象。令和7年度はできる限り準拠することが望ましいとされる |
| 改定の動き | 2026年1月、対象拡大(音声入出力・画像生成・AIエージェント型)など充実に向けた改定方針案を議論 |
DS-920は、行政が生成AIを「調達」し「利活用」する両局面を対象に、標準的な進め方を示すものである。適用の考え方として、令和8年度以降の調達が対象とされ、令和7年度についてはできる限り準拠することが望ましいと整理されている。2026年に入って、テキスト中心だった対象を音声・画像・AIエージェント型へ広げる方向で見直しが議論されており、利活用の幅が広がる前提で読むことが求められる。
改定の方向性をふまえて読む
2026年1月の先進的AI利活用アドバイザリーボードでは、ガイドライン充実に向けた改定方針案が示された。対象の拡大は、生成AIが文章生成だけでなく音声対応や画像生成、さらには自律的にタスクを進めるAIエージェントへと使われ始めていることの反映である。自治体が今後の調達を設計するうえでは、最新版だけでなくこうした改定の方向性も視野に入れておきたい。AIエージェントの利活用を検討する場合は、権限付与や人による判断の介在の設計が論点になる(AIエージェント開発)。
調達・利活用への翻訳
まず「導入可否と要件」を切り分ける
自治体が生成AIを調達する前に、「どの業務に、どんな目的で使い、どこにリスクがあり、人間の確認をどこに残すか」を整理する必要がある。実現可能性と要件を第三者の視点で切り分けたい場合は、AI導入可否アセスメントが有効である。住民情報の保護など安全管理の観点は、セキュリティ支援とあわせて点検したい。具体的な開発・実装まで踏み込む段階では、AI開発やDX・システム開発のサービス内容も参考になる。
調達前チェックリスト(自治体向け)
- 生成AIを使う業務・目的と、扱う情報(住民情報を含むか)の範囲を整理したか
- DS-920など標準ガイドラインに沿って、利活用の方針・リスク・責任分界を定義したか
- 改定の方向性(音声・画像・AIエージェント型への対象拡大)をふまえ、将来の利活用も視野に入れたか
- ベンダーに求める要件(データの取り扱い、説明可能性、人間の確認点、運用後の監視)を調達仕様に落としたか
- AIの誤り・情報漏えいが起きた場合の検知・連絡・復旧の手順を定めたか
- 汎用のAI事業者ガイドライン上の自組織の立場を切り分けたうえで、行政固有の公共性・調達の観点を上乗せしたか
参考にした一次情報(文書名+URL)
- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920)」(令和7年5月27日) https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/80419aea/20250527_resources_standard_guidelines_guideline_01.pdf
- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン充実に向けた改定方針案」(先進的AI利活用アドバイザリーボード・2026年1月13日) https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/eb376409-664f-4f47-8bc9-cc95447908e4/9b7306d7/20260113_meeting_ai-advisory_%20outline_05.pdf
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20260331_report.html
※本記事は公表時点の情報に基づく。改定方針案は議論段階のものであり、最終的な内容・適用は今後変わり得る。最新版および適用範囲はデジタル庁の一次情報で必ず確認すること。
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よくある質問(FAQ)
Q1. DS-920とは何か。
デジタル庁が令和7年(2025年)5月27日に公表した、デジタル社会推進標準ガイドラインの一つで、正式名称は「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」である。行政機関・自治体が生成AIを調達・利活用する際の標準的な進め方を示す。
Q2. 2026年に何が変わるのか。
2026年1月の先進的AI利活用アドバイザリーボードで、対象を音声入出力・画像生成・AIエージェント型システムへ広げるなど、ガイドライン充実に向けた改定方針案が議論されている。議論段階のため最終的な内容は今後変わり得るが、生成AIの利活用の幅が広がる前提で調達を設計することが望ましい。
Q3. ガイドラインを読めば調達仕様になるのか。
ならない。標準ガイドラインは、利活用の目的・扱う情報の範囲・人間の確認点・ベンダーへの要件・運用後の監視といった項目を、自治体の業務に合わせて具体化して初めて調達仕様になる。ここを飛ばすとベンダー提案の比較もできない。
Q4. 何から着手すべきか。
どの業務に、どんな目的で生成AIを使い、どこにリスクがあるかを整理し、要件を切り分けることが出発点になる。第三者の視点で導入可否と要件を整理するアセスメントから着手するのが現実的である。
自治体・行政機関の生成AI調達と利活用設計、ベンダー選定・要件定義に不安があれば、まずは無料相談で現状を整理することをおすすめする。