情シス・DX推進部が生成AI / AI-OCR / RAG 導入の稟議を出しても、「費用対効果が不明」「業務改善の実感がない」「他社事例を見てから」 という経営層の反応で進まないケースが多い。問題は技術の選定ではなく、ROI の説明方法だ。
本記事では、経営層の決裁を通す3つのROI計算テンプレートと、経営層に刺さる数字の出し方を、稟議書の実例形式で整理する。
経営層が見る3つの指標
指標1:削減工数(時間×単価)
- 「月間 XX 時間削減 × 人件費単価 YY 円/時間 = ZZ 万円/月」
- 最も説得力がある指標。業務改善の成果を直接的に金額化
指標2:回避コスト
- 「ミスや事故の回避で、年間 XX 件 × 1 件あたり平均被害額 YY 万円 = ZZ 万円/年」
- リスク管理型の投資で説得力を持つ
指標3:売上増加
- 「AI活用で顧客対応速度が上がり、失注率 X% 低減 = 年間 YY 万円増収」
- 攻めの投資として経営層にアピール
セクションまとめ: 3 指標のうち 1 つだけでなく、組み合わせで説明すると稟議通過率が上がる。削減工数 + 回避コスト + 売上増加の合計額で見せる。
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テンプレ1:AI-OCR による請求書処理の ROI
前提: 月間 1,000 件の請求書処理を手入力 → AI-OCR + 確認作業へ
Before(現状)
- 作業員 2 名が請求書を手入力
- 1 件平均 5 分(入力+照合)
- 月間工数:1,000 件 × 5 分 = 5,000 分 = 約 83 時間
- 月間人件費:83 時間 × 3,000 円 = 約 25 万円
After(AI-OCR 導入後)
- 作業員 1 名が AI-OCR 出力を確認
- 1 件平均 1 分(確認のみ)
- 月間工数:1,000 件 × 1 分 = 1,000 分 = 約 17 時間
- 月間人件費:17 時間 × 3,000 円 = 約 5 万円
投資額
- AI-OCR ライセンス:月 10 万円
- 初期設定・学習:一時 50 万円(12 ヶ月償却 = 月 約 4 万円)
- 月間コスト:約 14 万円
ROI
- Before 人件費 25 万円 / 月 − After 人件費 5 万円 / 月 = 20 万円 / 月 削減
- 削減額 20 万円 − 月間コスト 14 万円 = 純削減 月 6 万円
- 年間純削減 72 万円、初期投資回収 約 8 ヶ月
回避コストの上乗せ:
- 手入力ミスによる年間損失(再発行・入金遅延):推定 50 万円 → AI-OCR で回避
- 合計の年間効果:72 万円 + 50 万円 = 122 万円
セクションまとめ: AI-OCR はROI計算が明快で稟議が通りやすい。削減工数 + 回避コストの2本立てで説明する。
テンプレ2:RAG(社内検索)の ROI
前提: 社員 150 名の情シス・総務・人事の問合せ対応を RAG で自動化
Before(現状)
- 社員 1 人あたり月間 4 件の問合せ
- 1 件の対応時間(問合せ側 + 回答側)平均 30 分
- 月間問合せ件数:150 × 4 = 600 件
- 月間工数:600 × 30 分 = 18,000 分 = 300 時間
- 月間人件費:300 時間 × 3,500 円 = 約 105 万円
After(RAG 導入後)
- 月間問合せの 60% が RAG で自己解決(360 件)
- 残り 240 件のみ人間対応、1 件あたり 20 分
- 月間工数:240 × 20 分 = 4,800 分 = 80 時間
- 月間人件費:80 時間 × 3,500 円 = 約 28 万円
投資額
- ChatGPT Team / Copilot:月 15 万円(30 ユーザー)
- RAG 構築・データ整備:初期 150 万円(12 ヶ月償却 = 月 約 13 万円)
- 月間コスト:約 28 万円
ROI
- Before 105 万円 / 月 − After 28 万円 / 月 = 77 万円 / 月 削減
- 削減額 77 万円 − 月間コスト 28 万円 = 純削減 月 49 万円
- 年間純削減 588 万円、初期投資回収 約 3 ヶ月
売上増加の上乗せ:
- 問合せ対応の高速化で、顧客窓口対応も改善 → 顧客満足度向上 → 年間 2% の売上増加(仮)
- 売上 5 億円の 2% = 1,000 万円の売上増加見込み
セクションまとめ: RAG はROIが極めて高い投資。社員問合せ工数は可視化されていない "隠れコスト" で、導入すると経営層が驚く数字になる。
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テンプレ3:生成AI による営業資料作成の ROI
前提: 営業 20 名の提案資料作成を Copilot / ChatGPT で効率化
Before(現状)
- 営業 1 人あたり月間 4 本の提案書
- 1 本の作成時間 平均 8 時間
- 月間工数:20 × 4 × 8 = 640 時間
- 月間人件費:640 時間 × 5,000 円 = 320 万円
After(生成AI 導入後)
- 1 本の作成時間 平均 4 時間(初稿 AI 作成 + 営業カスタマイズ)
- 月間工数:20 × 4 × 4 = 320 時間
- 月間人件費:320 時間 × 5,000 円 = 160 万円
投資額
- Copilot for Microsoft 365:月 10 万円(30 ユーザー)
- ChatGPT Enterprise(一部):月 15 万円
- 月間コスト:約 25 万円
ROI
- Before 320 万円 / 月 − After 160 万円 / 月 = 160 万円 / 月 削減
- 削減額 160 万円 − 月間コスト 25 万円 = 純削減 月 135 万円
- 年間純削減 1,620 万円、初期投資回収 1 ヶ月未満
売上増加の上乗せ:
- 提案書作成時間短縮で、商談件数 20% 増
- 年間商談 1,200 件 × 20% = 240 件増 × 平均単価(仮に 300 万円)= 7.2 億円の商談機会増
- 商談成約率 10% と仮定しても、7,200 万円の売上増
セクションまとめ: 営業系AI投資はROIが最大。削減工数だけで月100万円超、売上増加まで含めると投資の2〜3桁倍のリターンも現実的。
経営層を説得する数字の出し方 3原則
原則1:保守的な見積もりで提示する
- 期待値ではなく「最低限これくらいは削減できる」というラインで示す
- 期待値で提示して下振れすると次回以降の稟議が通らなくなる
原則2:パイロットでの実測値を必ず併記
- 「1 部門 1 ヶ月でのパイロット結果:削減時間 XX、満足度 YY」
- 試算ではなく実測値が経営層を動かす
原則3:回収期間で勝負しない、戦略的必要性を合わせて語る
- 「12 ヶ月で回収」より「競合に遅れを取らないタイミング」
- 経営層はコスト合理性 + 競争優位性の両方を見ている
まとめ
- 経営層が見る3指標:削減工数 + 回避コスト + 売上増加
- AI-OCR / RAG / 生成AI の3テンプレで ROI 計算が可能
- 保守的見積もり + パイロット実測値 + 戦略的必要性の3原則
FAQ
Q1. ROI 計算で「削減工数」をどう金額化すべきですか?
人件費単価 × 削減時間で計算します。人件費単価は「年収 ÷ 1,800 時間(標準年間労働時間)」で概算。経理部に実際の労働単価を確認するのも有効です。
Q2. 「削減した時間で他の業務をする」ので実質削減ではないのでは?
その通りです。稟議書では機会創出価値として別立てで示します。「削減時間を顧客対応・新規業務に振替 → 売上増加」の流れで説明。
Q3. 経営層が ROI より「他社事例」を求める場合は?
同業他社の導入事例を添えます。ただし自社の規模・業態に近い事例でないと意味がないため、事前にベンダーに事例資料を請求しておくのが肝心。
参考情報
- 経済産業省「DX 推進ガイドライン」
- IPA「DX 白書」
- MIT Sloan Management Review「Generative AI ROI」
- 経営層向け IT 投資判断の実務書
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