AIチャットボットには、大きく分けて「シナリオ型(ルールベース)」と「生成AI・RAG型」の二つの方式がある。あらかじめ決めた選択肢に沿って案内するのがシナリオ型、社内のFAQやマニュアルを参照しながら自然な文章で答えるのがRAG型である。どちらか一方が優れているわけではなく、問い合わせの性質によって向き不向きが分かれる。方式を取り違えると、確実に答えるべき手続きが曖昧になったり、柔軟に答えるべき質問に機械的な選択肢しか出せなかったりする。
本記事は、AIチャットボット導入の前に押さえておきたい「方式の使い分け」を、発注者の視点で解説する。読者として想定しているのは、中小企業の経営者、カスタマーサポートの責任者、DX担当である。技術の詳細を理解する必要はなく、「決まった案内か・幅広い質問か」で適した方式を選べれば十分である。
結論:手続きはシナリオ型、幅広い質問はRAG型、組み合わせて使う
チャットボットの方式は、一つに決め打ちする必要はない。問い合わせの性質に応じて、向いた方式を使い分けるのが現実的である。使い分けで重視するのは、次の3点である。
- 決まった手続きや申込はシナリオ型で確実に案内する
- 幅広い質問にはRAG型で柔軟に答える
- 両方を組み合わせ、入口で振り分ける構成にする
「どちらか一方ですべてをまかなう」より、得意な領域を分担させるほうが、確実さと柔軟さを両立しやすい。
AI ASSESSMENT
PoC の前に「そもそも使えるか」を30分で見極めませんか?
対象業務、データ、権限、ログ、運用責任を確認し、PoC前に失敗要因と本番化条件を整理します。
なぜ方式の使い分けが重要か
シナリオ型とRAG型は、得意なことが正反対に近い。方式を取り違えると、次のような問題につながる。
- 手続きの案内をRAG型に任せ、表現が毎回ぶれて確実性が下がる
- 幅広い質問をシナリオ型に任せ、選択肢に当てはまらない質問に答えられない
- 方式の特性を理解せず導入し、期待した使い勝手にならない
方式の選択は、回答の確実さ・柔軟さ・運用の手間を左右する。問い合わせの性質と方式を対応づけて考えることが大切である。RAG型の仕組みはRAGチャットボット開発の費用ガイドでも扱っている。
シナリオ型とRAG型の違い
両方式の違いを、得意・不得意の観点で整理すると次のようになる。
横にスクロールして確認できます
| 観点 | シナリオ型(ルールベース) | RAG型(生成AI+検索) |
|---|---|---|
| 答え方 | 決めた選択肢・分岐に沿う | 文書を参照し文章で答える |
| 向く問い合わせ | 手続き案内、申込誘導、定型対応 | 幅広い質問、表現の揺れがある質問 |
| 確実さ | 高い(想定どおりに動く) | 内容次第(出典の整備が前提) |
| 柔軟さ | 低い(想定外に弱い) | 高い(多様な聞き方に対応) |
| 主な準備 | シナリオ・分岐の設計 | FAQ・ナレッジの整備 |
シナリオ型は「決めたとおりに確実に動く」のが強みで、RAG型は「多様な質問に柔軟に答える」のが強みである。確実さを取るか柔軟さを取るかは、問い合わせの性質によって決まる。
シナリオ型が向く場面
シナリオ型は、回答の手順が決まっていて、確実に同じ案内をしたい場面に向く。
- 申込・予約などの手続き案内:入力項目や手順が決まっており、順番に案内したい。
- 条件で答えが分かれる案内:「会員か非会員か」など、分岐がはっきりしている。
- 確実に同じ回答を出したい案内:表現がぶれると困る、金額や規約に関わる案内。
これらは、選択肢を提示して順に進める形が向く。想定どおりに動くため、検証もしやすい。
RAG型が向く場面
RAG型は、質問の幅が広く、聞き方が人によって異なる場面に向く。
- よくある質問への幅広い回答:同じ内容でも、人によって表現が違う質問に答えたい。
- マニュアルや資料からの回答:社内に蓄積された文書を元に答えたい。
- 網羅的な問い合わせ対応:選択肢では拾いきれない、多様な質問に応じたい。
RAG型は、参照するFAQやマニュアルの質がそのまま回答の質に直結する。元になる文書の整備が前提になる点は押さえておきたい。FAQ整備の進め方はFAQ・ナレッジ整備とRAG活用ガイドで詳しく扱っている。
FREE DOWNLOAD
AI導入チェックリスト(PoC 失敗要因 10項目)
情シス部門が PoC 前に押さえるべき失敗要因を10項目に整理した無料チェックリスト。
組み合わせて使うのが現実的
実際の導入では、どちらか一方ではなく、両方を組み合わせる構成が現実的なことが多い。入口で問い合わせの種類を振り分け、手続きはシナリオ型、幅広い質問はRAG型に渡す形である。
- 入口で振り分ける:最初に大きな分類を提示し、手続き系とそれ以外を分ける。
- 手続きはシナリオ型へ:申込や予約は、確実な分岐で案内する。
- 質問はRAG型へ:自由に書かれた質問は、文書を参照して答える。
- どちらも難しければ有人へ:方式を問わず、対応しきれない相談は人へ渡す。
この構成にすると、確実さと柔軟さの両方を活かせる。どちらの方式をどこに使うかは、自社の問い合わせの内訳によって決まる。発注前に、問い合わせの種類ごとにどちらが向くかを整理しておきたい。組み合わせ方は一度で決め切る必要はなく、運用しながら振り分けの境目を調整していけばよい。最初は大きく二分しておき、実際の問い合わせの流れを見て、シナリオ型に寄せる範囲とRAG型に寄せる範囲を少しずつ整えていくのが現実的である。
方式選びでよくある失敗
方式の選択では、次のような失敗が起きやすい。いずれも、発注前に方針を決めておけば避けられる。
- 流行だけでRAG型を選ぶ:手続き案内まで生成AIに任せ、確実性が必要な場面でぶれが出る。
- シナリオ型ですべてをまかなおうとする:選択肢が膨大になり、利用者が目的にたどり着けない。
- 元になる文書を整備しないままRAG型を入れる:参照先が薄く、回答が頼りなくなる。
- 方式の特性を発注者が把握しない:開発会社任せにし、期待と実装がずれる。
方式は、問い合わせの性質に合わせて選ぶものである。流行や開発会社の都合ではなく、自社の問い合わせに照らして判断したい。提案を受けるときも、なぜその方式が自社に向くのかという理由まで説明してもらい、納得したうえで選ぶことが、後の手戻りを防ぐ。
導入前チェックリスト
- 自社の問い合わせを、手続き系と質問系に分けたか
- 手続き系にシナリオ型が向くことを確認したか
- 質問系にRAG型が向くことを確認したか
- RAG型を使う場合、元になる文書の整備状況を把握したか
- 両方を組み合わせる構成を検討したか
- どちらでも対応しきれない相談を、有人へ渡す想定をしたか
開発会社に確認する質問
横にスクロールして確認できます
| 質問 | 確認したいこと |
|---|---|
| シナリオ型とRAG型のどちらが自社に向きますか | 方式の適合 |
| 両方を組み合わせる構成は可能ですか | 構成の柔軟さ |
| RAG型の場合、元になる文書は何が必要ですか | ナレッジの前提 |
| シナリオの分岐は後から変更できますか | 運用のしやすさ |
| 方式ごとの長所と短所を説明してもらえますか | 提案の中立性 |
「最新のAIなので何でも答えられます」という説明には注意したい。問い合わせの性質に応じて方式を提案できるかが、信頼できる相手かの分かれ目になる。
相談前に整理しておくとよい情報
- 自社の問い合わせのうち、手続き系がどれくらいあるか
- 幅広い質問が、どれくらいの割合を占めるか
- RAG型の元にできる文書(FAQ・マニュアル)があるか
- 確実に同じ回答を出したい案内は何か
- 現在、問い合わせにどう対応しているか
これらが整理されていなくても相談は可能である。「手続きの案内」と「自由な質問」がどれくらいの割合かが見えていれば、適した方式を一緒に選べる。
関連記事
GXOの見解
AI導入はツール追加ではなく、業務フロー、権限、ログ、停止条件、責任分界を同時に設計する経営課題として扱う。
GXOはPoC単体ではなく、現場業務に残る承認、例外処理、監査証跡まで見て本番運用に落とすべきだと見る。
GXOは、AI活用の構想整理から要件定義、社内ルール、システム連携、運用改善まで一気通貫で支援します。
実務判断のポイント
この記事は、経営者、DX責任者、情シス、開発責任者向けです。AI導入前の業務棚卸し、権限設計、PoC、本番運用、AI利用規程を自社で進めるか、外部の専門家と整理するかを判断する材料として使えます。
GXOが重視するのは、話題性の高さよりも「自社の業務、データ、権限、予算、運用責任にどう影響するか」です。AIチャットボット・カスタマーサポート自動化|シナリオ型 vs AI(RAG)型の使い分けに関する検討では、担当者だけで判断を閉じず、経営、現場、情シス、外部パートナーの役割を早い段階で分けることが重要です。
放置した場合と整備した場合の違い
横にスクロールして確認できます
| 観点 | 放置した場合 | 整備した場合 |
|---|---|---|
| 業務影響 | 属人的な判断が増え、対応の優先順位がぶれやすい | 影響範囲、期限、責任者を決めて進められる |
| 投資判断 | ツール導入や外注費だけが先行し、効果測定が曖昧になる | 売上、工数削減、リスク低減の指標にひも付けられる |
| 現場運用 | 例外処理や承認フローが残り、定着しにくい | 権限、ログ、教育、改善サイクルまで設計できる |
| 経営報告 | 問題が発生してから説明資料を作ることになる | 月次で状況、課題、次の打ち手を説明できる |
導入・改善前のチェックリスト
- 対象業務、対象部門、対象データを明文化しているか
- 現在の課題を、売上機会、原価、工数、リスクのいずれかに分解しているか
- 既存システム、SaaS、Excel、手作業の依存関係を棚卸ししているか
- 例外処理、承認、差し戻し、監査証跡まで確認しているか
- 社内で判断できる範囲と外部支援が必要な範囲を分けているか
- 初期費用だけでなく、保守、運用、教育、改善費用を見積もっているか
- 成功指標を、問い合わせ数、商談数、削減時間、停止リスクなどで定義しているか
- 実装後の責任者、更新頻度、レビュー会議の持ち方を決めているか
- セキュリティ、法務、個人情報、契約条件の確認ポイントを洗い出しているか
- 既存の問い合わせ、商談、障害、運用ログから優先順位を決めているか
- 経営判断に必要な資料を1枚で説明できる状態にしているか
- 次の90日で検証する範囲と、やらない範囲を明確にしているか
GXOの実務補足
AI導入はツール追加ではなく、業務フロー、権限、ログ、停止条件、責任分界を同時に設計する経営課題として扱う。
GXOはPoC単体ではなく、現場業務に残る承認、例外処理、監査証跡まで見て本番運用に落とすべきだと見る。
GXOは、AI活用の構想整理から要件定義、社内ルール、システム連携、運用改善まで一気通貫で支援します。記事のテーマを単なる情報収集で終わらせず、相談、診断、要件定義、実装、運用改善に接続することで、AIアセスメント、PoC、業務システム連携、AIエージェント運用設計へ接続。さらに、診断テンプレートと標準設計を使い、短期診断から継続伴走へ展開。
実行までの進め方
- 現在の業務、データ、ツール、担当者を棚卸しする
- 売上拡大、工数削減、リスク低減のどれに効くテーマかを決める
- 初期対応、90日以内の改善、半年以上の投資を分ける
- 必要な社内体制、外部支援、予算、セキュリティ確認を整理する
- 小さく検証し、効果測定後に本番化や横展開を判断する
よくある質問
Q1. RAG型のほうが新しくて優れているのではないですか
新しいからといって、すべての場面で優れているわけではない。確実に同じ案内をしたい手続きには、想定どおりに動くシナリオ型が向く。新しさより、問い合わせの性質に合うかどうかで選ぶのが適切である。
Q2. シナリオ型とRAG型を後から切り替えられますか
切り替えは可能だが、準備するものが異なる。シナリオ型は分岐の設計、RAG型は元になる文書の整備が必要である。後から大きく方式を変えると手戻りが出やすいため、最初に問い合わせの性質を踏まえて選んでおきたい。
Q3. 両方を組み合わせると、費用は高くなりますか
組み合わせると構成は複雑になるが、必ずしも費用が大幅に増えるとは限らない。むしろ、向かない方式に無理に詰め込むより、得意な領域に分担させたほうが、運用全体では効率的なこともある。費用の考え方は導入費用の記事でも扱っている。
シナリオ型とRAG型、どちらが自社に向くか整理しませんか
GXOでは、自社の問い合わせの性質を踏まえ、シナリオ型・RAG型のどちらが向くか、組み合わせるならどう振り分けるかを一緒に整理します。方式ありきではなく、確実さと柔軟さのバランスから現実的な構成をご提案します。
※ 初回相談では、営業資料の説明よりも現状整理とリスク確認を優先します。
参考情報
- 制度、価格、仕様、脆弱性、法務、セキュリティに関する判断は、公開時点の公式情報と一次情報を確認したうえで更新してください。






