AIチャットボットには、大きく分けて「シナリオ型(ルールベース)」と「生成AI・RAG型」の二つの方式がある。あらかじめ決めた選択肢に沿って案内するのがシナリオ型、社内のFAQやマニュアルを参照しながら自然な文章で答えるのがRAG型である。どちらか一方が優れているわけではなく、問い合わせの性質によって向き不向きが分かれる。方式を取り違えると、確実に答えるべき手続きが曖昧になったり、柔軟に答えるべき質問に機械的な選択肢しか出せなかったりする。
本記事は、AIチャットボット導入の前に押さえておきたい「方式の使い分け」を、発注者の視点で解説する。読者として想定しているのは、中小企業の経営者、カスタマーサポートの責任者、DX担当である。技術の詳細を理解する必要はなく、「決まった案内か・幅広い質問か」で適した方式を選べれば十分である。
結論:手続きはシナリオ型、幅広い質問はRAG型、組み合わせて使う
チャットボットの方式は、一つに決め打ちする必要はない。問い合わせの性質に応じて、向いた方式を使い分けるのが現実的である。使い分けで重視するのは、次の3点である。
- 決まった手続きや申込はシナリオ型で確実に案内する
- 幅広い質問にはRAG型で柔軟に答える
- 両方を組み合わせ、入口で振り分ける構成にする
「どちらか一方ですべてをまかなう」より、得意な領域を分担させるほうが、確実さと柔軟さを両立しやすい。
なぜ方式の使い分けが重要か
シナリオ型とRAG型は、得意なことが正反対に近い。方式を取り違えると、次のような問題につながる。
- 手続きの案内をRAG型に任せ、表現が毎回ぶれて確実性が下がる
- 幅広い質問をシナリオ型に任せ、選択肢に当てはまらない質問に答えられない
- 方式の特性を理解せず導入し、期待した使い勝手にならない
方式の選択は、回答の確実さ・柔軟さ・運用の手間を左右する。問い合わせの性質と方式を対応づけて考えることが大切である。RAG型の仕組みはRAGチャットボット開発の費用ガイドでも扱っている。
シナリオ型とRAG型の違い
両方式の違いを、得意・不得意の観点で整理すると次のようになる。
| 観点 | シナリオ型(ルールベース) | RAG型(生成AI+検索) |
|---|---|---|
| 答え方 | 決めた選択肢・分岐に沿う | 文書を参照し文章で答える |
| 向く問い合わせ | 手続き案内、申込誘導、定型対応 | 幅広い質問、表現の揺れがある質問 |
| 確実さ | 高い(想定どおりに動く) | 内容次第(出典の整備が前提) |
| 柔軟さ | 低い(想定外に弱い) | 高い(多様な聞き方に対応) |
| 主な準備 | シナリオ・分岐の設計 | FAQ・ナレッジの整備 |
シナリオ型は「決めたとおりに確実に動く」のが強みで、RAG型は「多様な質問に柔軟に答える」のが強みである。確実さを取るか柔軟さを取るかは、問い合わせの性質によって決まる。
シナリオ型が向く場面
シナリオ型は、回答の手順が決まっていて、確実に同じ案内をしたい場面に向く。
- 申込・予約などの手続き案内:入力項目や手順が決まっており、順番に案内したい。
- 条件で答えが分かれる案内:「会員か非会員か」など、分岐がはっきりしている。
- 確実に同じ回答を出したい案内:表現がぶれると困る、金額や規約に関わる案内。
これらは、選択肢を提示して順に進める形が向く。想定どおりに動くため、検証もしやすい。
RAG型が向く場面
RAG型は、質問の幅が広く、聞き方が人によって異なる場面に向く。
- よくある質問への幅広い回答:同じ内容でも、人によって表現が違う質問に答えたい。
- マニュアルや資料からの回答:社内に蓄積された文書を元に答えたい。
- 網羅的な問い合わせ対応:選択肢では拾いきれない、多様な質問に応じたい。
RAG型は、参照するFAQやマニュアルの質がそのまま回答の質に直結する。元になる文書の整備が前提になる点は押さえておきたい。FAQ整備の進め方はFAQ・ナレッジ整備とRAG活用ガイドで詳しく扱っている。
組み合わせて使うのが現実的
実際の導入では、どちらか一方ではなく、両方を組み合わせる構成が現実的なことが多い。入口で問い合わせの種類を振り分け、手続きはシナリオ型、幅広い質問はRAG型に渡す形である。
- 入口で振り分ける:最初に大きな分類を提示し、手続き系とそれ以外を分ける。
- 手続きはシナリオ型へ:申込や予約は、確実な分岐で案内する。
- 質問はRAG型へ:自由に書かれた質問は、文書を参照して答える。
- どちらも難しければ有人へ:方式を問わず、対応しきれない相談は人へ渡す。
この構成にすると、確実さと柔軟さの両方を活かせる。どちらの方式をどこに使うかは、自社の問い合わせの内訳によって決まる。発注前に、問い合わせの種類ごとにどちらが向くかを整理しておきたい。組み合わせ方は一度で決め切る必要はなく、運用しながら振り分けの境目を調整していけばよい。最初は大きく二分しておき、実際の問い合わせの流れを見て、シナリオ型に寄せる範囲とRAG型に寄せる範囲を少しずつ整えていくのが現実的である。
方式選びでよくある失敗
方式の選択では、次のような失敗が起きやすい。いずれも、発注前に方針を決めておけば避けられる。
- 流行だけでRAG型を選ぶ:手続き案内まで生成AIに任せ、確実性が必要な場面でぶれが出る。
- シナリオ型ですべてをまかなおうとする:選択肢が膨大になり、利用者が目的にたどり着けない。
- 元になる文書を整備しないままRAG型を入れる:参照先が薄く、回答が頼りなくなる。
- 方式の特性を発注者が把握しない:開発会社任せにし、期待と実装がずれる。
方式は、問い合わせの性質に合わせて選ぶものである。流行や開発会社の都合ではなく、自社の問い合わせに照らして判断したい。提案を受けるときも、なぜその方式が自社に向くのかという理由まで説明してもらい、納得したうえで選ぶことが、後の手戻りを防ぐ。
導入前チェックリスト
- 自社の問い合わせを、手続き系と質問系に分けたか
- 手続き系にシナリオ型が向くことを確認したか
- 質問系にRAG型が向くことを確認したか
- RAG型を使う場合、元になる文書の整備状況を把握したか
- 両方を組み合わせる構成を検討したか
- どちらでも対応しきれない相談を、有人へ渡す想定をしたか
開発会社に確認する質問
| 質問 | 確認したいこと |
|---|---|
| シナリオ型とRAG型のどちらが自社に向きますか | 方式の適合 |
| 両方を組み合わせる構成は可能ですか | 構成の柔軟さ |
| RAG型の場合、元になる文書は何が必要ですか | ナレッジの前提 |
| シナリオの分岐は後から変更できますか | 運用のしやすさ |
| 方式ごとの長所と短所を説明してもらえますか | 提案の中立性 |
「最新のAIなので何でも答えられます」という説明には注意したい。問い合わせの性質に応じて方式を提案できるかが、信頼できる相手かの分かれ目になる。
相談前に整理しておくとよい情報
- 自社の問い合わせのうち、手続き系がどれくらいあるか
- 幅広い質問が、どれくらいの割合を占めるか
- RAG型の元にできる文書(FAQ・マニュアル)があるか
- 確実に同じ回答を出したい案内は何か
- 現在、問い合わせにどう対応しているか
これらが整理されていなくても相談は可能である。「手続きの案内」と「自由な質問」がどれくらいの割合かが見えていれば、適した方式を一緒に選べる。
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よくある質問
Q1. RAG型のほうが新しくて優れているのではないですか
新しいからといって、すべての場面で優れているわけではない。確実に同じ案内をしたい手続きには、想定どおりに動くシナリオ型が向く。新しさより、問い合わせの性質に合うかどうかで選ぶのが適切である。
Q2. シナリオ型とRAG型を後から切り替えられますか
切り替えは可能だが、準備するものが異なる。シナリオ型は分岐の設計、RAG型は元になる文書の整備が必要である。後から大きく方式を変えると手戻りが出やすいため、最初に問い合わせの性質を踏まえて選んでおきたい。
Q3. 両方を組み合わせると、費用は高くなりますか
組み合わせると構成は複雑になるが、必ずしも費用が大幅に増えるとは限らない。むしろ、向かない方式に無理に詰め込むより、得意な領域に分担させたほうが、運用全体では効率的なこともある。費用の考え方は導入費用の記事でも扱っている。
シナリオ型とRAG型、どちらが自社に向くか整理しませんか
GXOでは、自社の問い合わせの性質を踏まえ、シナリオ型・RAG型のどちらが向くか、組み合わせるならどう振り分けるかを一緒に整理します。方式ありきではなく、確実さと柔軟さのバランスから現実的な構成をご提案します。
※ 初回相談では、営業資料の説明よりも現状整理とリスク確認を優先します。
