医療機関やクリニックのシステム開発は、患者の個人情報や医療情報を扱うため、一般的な業務システムよりも情報の取り扱いに慎重さが求められる。予約システム、問診、患者向けのWebサイトやアプリ、院内の業務支援など、対象はさまざまだが、いずれも「誰のどの情報を、どこで、どう扱うか」が論点の中心になる。同じ開発会社でも、医療分野の情報の扱いに慣れているかどうかで、提案の前提は変わってくる。

本記事は「開発会社選びの実務チェック」連載の業種特化編として、医療・クリニックがシステム・AI開発会社を選ぶ際に確認したい観点を整理する。想定している読者は、診療所や病院の経営者、事務長、院内のシステム担当である。なお、医療情報の取り扱いは法令や公式ガイドラインが関わる領域である。本記事は発注前の確認の出発点として読み、最新の公式ガイドライン、所管省庁の情報、必要に応じて専門家の確認を推奨する。


結論:情報の取り扱いとガイドライン対応を最初に確認する

医療・クリニックのシステム開発では、機能の作り込みよりも先に、患者情報や医療情報をどう扱うか、公式ガイドラインを踏まえた設計ができるかを確認したい。ここがあいまいなまま進めると、後から情報の取り扱いを見直すことになり、手戻りが大きくなりやすい。

  • 患者の個人情報・医療情報を、どこに、どう保管・管理するかを確認する
  • 医療情報の取り扱いに関する公式ガイドラインを踏まえた説明ができるかを見る
  • 既存の医療系システムとの連携や、外部委託の管理を確認する

機能の多さよりも、情報を安全に扱える前提を共有できるかを基準にするとよい。


なぜ医療分野の開発は固有の確認が必要なのか

医療機関が扱う情報には、患者の氏名や連絡先といった個人情報に加えて、診療や健康に関わる情報が含まれる。これらは特に慎重な取り扱いが求められる情報であり、保管場所、アクセス権限、外部への委託、事故時の対応まで、設計の前提に大きく影響する。一般的なWebサイトや業務システムと同じ感覚で進めると、情報の取り扱いで前提が食い違うことがある。

加えて、医療分野には情報システムの安全管理に関する公式のガイドラインがあり、医療機関側にも遵守が求められる。開発会社がこうした枠組みを理解しているかどうかは、提案の安心感に直結する。また、電子カルテやレセプト、検査系など、既存の医療系システムが院内にあることも多く、それらとの連携やデータの扱いも論点になる。だからこそ、一般的な開発会社選びの観点に加えて、医療分野固有の確認が必要になる。

セクションまとめ: 医療情報は慎重な取り扱いが求められ、公式ガイドラインや既存の医療系システムが前提に絡む。一般的な観点に加えた固有の確認が要る。


個人情報・医療情報の取り扱いを確認する

最初に確認したいのは、患者の個人情報や医療情報を、どこで、どう扱うかである。提案や初回相談で、情報の取り扱いを具体的に説明できるかを見たい。

確認項目見るポイント
取り扱う情報どの情報を扱うか、扱う範囲を最小限にしているか
保管場所データをどこに保管するか、国内か、管理主体は誰か
アクセス権限医師、看護師、事務、保守で権限を分けているか
外部委託保守やクラウドを含む委託先を、どう管理するか
事故時の対応漏えいや障害が疑われたときの連絡と対応の流れ
データの削除不要になった情報の保管期間と削除の取り決め

医療情報は、扱う範囲を必要最小限にすることが安心につながる。「とりあえず全部の情報を扱える設計にしておく」のではなく、目的に必要な情報だけを、明確な権限のもとで扱う設計になっているかを確認したい。詳細は自院の方針や専門家と相談しながら詰めるのがよい。


公式ガイドラインへの対応を確認する

医療分野には、医療情報システムの安全管理に関する公式のガイドラインがある。開発会社がこうした枠組みを踏まえて設計・運用を考えているかを確認したい。

  • 医療情報の安全管理に関するガイドラインを把握しているか
  • ガイドラインのどの観点を、どの工程や成果物に反映するか
  • 医療機関側が遵守すべき事項を、設計に織り込んでいるか
  • クラウドや外部サービスを使う場合、その利用の前提を説明できるか
  • ガイドラインの改定に追従する運用を想定しているか

ガイドライン名を挙げられるだけでなく、それを実際の設計や運用にどう落とすかを説明できるかが目安になる。ただし、ガイドラインの解釈や適用は専門性が高く、改定もある。開発会社の説明をうのみにせず、最新の公式ガイドラインを自院でも確認し、必要に応じて専門家の確認を受けることを推奨する。本記事は固有の枠組みの細部を断定するものではない。

セクションまとめ: 医療情報のガイドラインを把握し、設計・運用に落とせるかを見る。解釈や適用は最新の公式情報と専門家の確認を前提にする。


既存の医療系システムとの連携を確認する

院内には、電子カルテや予約、会計など、既存の医療系システムがあることが多い。新しく作るシステムとの連携や、データのやり取りをどう設計するかを確認したい。

確認項目見るポイント
連携対象既存のどのシステムと、どの情報を連携するか
連携方式データのやり取りの方法と、その安全性
既存ベンダー既存システム側のベンダーとの調整を誰が担うか
二重管理の回避同じ情報を複数の仕組みで持たない設計か
移行既存データを移す場合の手順と、移行時の安全策

医療系システムの連携は、既存システム側のベンダーとの調整が必要になることが多い。その調整を開発会社が担うのか、自院が担うのかを発注前に明確にしておきたい。連携部分は患者情報が動く箇所でもあるため、安全策を含めて説明できるかを確認したい。


AI・データ活用を依頼する場合の追加確認

医療・クリニックでも、問診の補助、予約や問い合わせの自動応答、院内文書の検索といったAI・データ活用の相談がある。AIを含む場合は、通常の確認に加えて次の点を見ておきたい。

  • AIに患者情報や医療情報を入力する設計になっていないか、入力範囲を限定しているか
  • 外部のAIサービスを使う場合、情報がどこに送られるかを説明できるか
  • AIの回答が医療判断の代替にならないよう、用途を限定しているか
  • 誤った回答が出た場合の表示や運用を、設計に含めているか
  • 患者向けに使う場合、回答の責任の所在を整理しているか

医療分野でのAI活用は、情報の取り扱いと用途の限定が特に重要になる。便利さだけで判断せず、どの情報を、どこで、どう扱うかを明確に説明できる会社かを確認したい。患者の診療に関わる判断にAIを用いる場合は、特に慎重な検討と専門家の確認を推奨する。AI開発全般の観点は、連載第9回でも扱っている。


提案を医療の観点で採点するための実務メモ

医療・クリニックの開発会社を複数比較するときは、印象だけで残すと後から比較しにくい。次のような評価軸を並べ、各社を同じ尺度で採点し、根拠メモを一行ずつ残すと、院内の説明に使いやすい。点数は精密な採点ではなく、未確認事項を見つけるための補助線である。

評価軸0〜3 点の状態4〜7 点の状態8〜10 点の状態
情報の取り扱い扱う情報や保管場所が曖昧保管場所の説明はある取り扱い範囲・権限・削除まで明確
ガイドライン対応枠組みを把握していない名称は挙げられる設計・運用への反映まで説明できる
既存システム連携連携方針が不明連携の構想はあるが役割分担が弱い既存ベンダーとの役割分担まで明確
外部委託委託先の管理が曖昧委託先の把握はある委託先の管理と契約上の取り決めが明確
事故時の対応連絡・対応の流れがない窓口はある連絡・切り分け・報告の流れが明確
運用保守納品後の範囲が曖昧保守窓口はあるが範囲が弱い障害対応・改修・継続支援の範囲が明確

合計点だけで機械的に決めず、重要軸と未確認リスクを残して判断したい。たとえば全体の点が高くても、情報の取り扱いやガイドライン対応が弱い会社は、発注前に前提を詰める必要がある。医療分野では、便利さや価格よりも、情報を安全に扱える前提を共有できるかを優先軸に置くと、後の見直しを減らしやすい。

院内で発注の判断に関わる人が複数いる場合は、診療側(医師や看護師)、事務、システム担当がそれぞれ重視する点を共有しておくとよい。診療側は現場での使いやすさ、事務は運用の負担、システム担当は情報の取り扱いと既存システムとの整合を見やすい。観点を一つの比較表に並べると、価格だけで急いで決めるよりも、院内で説明しやすい判断になる。ガイドラインや法令に関わる判断は、いずれの段階でも最新の公式情報と専門家の確認を前提にしたい。


GXOに相談する前に整理するとよい情報

相談の前に、自院側の情報を整理しておくと、開発会社からの提案が具体的になる。医療・クリニックの場合は、次のような点をまとめておくとよい。

  • 作りたいシステムの目的(予約、問診、患者向けサイト、院内業務などのどれか)
  • 扱う情報の種類と、患者情報・医療情報を含むかどうか
  • 既存の医療系システム(電子カルテ、予約、会計などの現状)
  • 連携したい既存システムと、その管理ベンダー
  • 情報の取り扱いで自院が重視している点や制約
  • 困っている課題(予約の電話対応、紙運用、二重入力など)

未定の項目は「未定」と書けばよい。扱う情報と既存システムの状況を共有できると、提案や見積の前提がそろい、後の比較がしやすくなる。


参考にした外部観点

医療・クリニックのシステム・AI開発会社を確認するときは、開発会社の説明だけで判断せず、公的機関が示す観点に照らして整理すると、社内説明に耐える比較になりやすい。本記事は法律・監査・セキュリティ診断の代替ではない。医療情報は法令やガイドラインが関わる領域であり、最新の内容は各機関の公式情報を確認し、必要に応じて専門家の確認を推奨する。

参照先発注前に使う場面
厚生労働省医療情報システムの安全管理に関するガイドラインなど、医療分野の公式情報を確認する場面
個人情報保護委員会個人情報や要配慮個人情報の取り扱いに関する考え方を確認する場面
情報処理推進機構(IPA)セキュリティ対策や、システム取引・契約の観点を確認する場面

これらは、発注者が全文を読み込むためのものではない。重要なのは、開発会社に対して「どの基準やガイドラインを参考に設計・運用を考えているか」を確認できる状態にすることである。回答が資料名だけで終わる場合は、どの工程や成果物に反映されるのかを追加で尋ねたい。なお、ガイドラインは改定されることがあるため、最新版を公式サイトで確認することを推奨する。


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よくある質問

Q1. 医療系の実績がない開発会社は避けるべきですか

実績がないこと自体は、必ずしも避ける理由にはならない。ただし、医療情報の取り扱いやガイドライン対応など固有の論点が多いため、情報の扱いを具体的に説明できるか、医療分野の枠組みを把握しているかを確認したい。実績がなくても、最新の公式ガイドラインを踏まえて設計しようとする姿勢があるかを判断材料にするとよい。

Q2. 患者情報をクラウドに置いても大丈夫ですか

クラウドの利用自体が一律に問題というわけではないが、保管場所、管理主体、外部委託の扱いなど、確認すべき点が増える。医療情報の安全管理に関する公式ガイドラインを踏まえた前提で説明できる会社かを確認し、自院の方針や専門家の確認も前提に判断するとよい。

Q3. ガイドラインへの対応は、どこまで開発会社に任せられますか

開発会社が設計や運用にガイドラインの観点を反映することは期待できるが、医療機関側にも遵守すべき事項がある。開発会社の説明をうのみにせず、最新の公式ガイドラインを自院でも確認し、必要に応じて専門家の確認を受けることを推奨する。本記事も含め、固有の枠組みの細部を断定的に扱わないのが安全である。

Q4. AIで問い合わせ対応を自動化したいが、注意点はありますか

患者情報や医療情報をAIに入力しない設計か、外部サービスを使う場合に情報がどこに送られるかを説明できるかを確認したい。また、AIの回答が医療判断の代替にならないよう用途を限定し、誤った回答が出た場合の運用まで設計に含めるかを見るとよい。診療に関わる判断にAIを用いる場合は、特に慎重な検討と専門家の確認を推奨する。


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