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システム開発

相見積もり比較表の作り方|3社比較とTCOの実例

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QUICK CHECK

本文を読みながら、自社で進めるべきか、相談前に何を整理するかを確認できます。

自社の場合を相談する
COLUMN

複数の開発会社から見積を集めたあと、最後に必要になるのが「比較して決める」作業です。ただし、見積書の総額を横に並べるだけでは、適切な判断はできません。これまでの連載で見てきたように、見積に含まれる範囲・品質・体制・前提は会社ごとに異なるためです。そこで役立つのが、比較の軸をそろえた「比較表」です。

本記事は連載第11回として、相見積もり比較表の作り方を整理します。比較表は、社内で意思決定し、その判断を説明できる形にするための道具です。点数化やTCO(総保有コスト)、リスクの評価まで含めると、金額だけに引きずられない比較ができます。

まず結論

  • 相見積もりは、総額を横に並べるだけでは判断できません。範囲をそろえ、未計上項目を補い、TCOとリスクまで含めて比較します。
  • 比較表には、範囲をそろえた総額、5年TCO、提案の質、体制、保守、主なリスクを入れると社内説明しやすくなります。
  • 点数化は答えを自動で出すものではなく、自社の優先順位を可視化し、判断理由を残すための道具です。
見る項目判断のしかた発注前の確認ポイント
範囲補正未計上項目を補う移行・教育・保守を同じ条件にする
TCO初期費+運用費で見る3年または5年の総額で比較
リスク評価懸念を記録する選定後の説明責任を残す

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この連載での位置づけ


比較表に入れる軸を決める

比較表は、まず「何を比べるか」という軸を決めることから始まります。金額だけでなく、これまでの連載で扱った観点を軸に加えると、内容を含めた比較ができます。

比較軸見るポイント連載の対応回
対象範囲工程・移行・教育・保守が含まれるか第1・5回
工数・単価工数の根拠、単価と役割の整合第2回
要件定義上流の関与の深さ、成果物第3回
保守・運用範囲、SLA、障害対応第4回
追加費用発生条件、変更管理第6回
継続費用クラウド・API費、月額・従量第8回
体制体制図、再委託・オフショアの開示第9回
提案の質課題理解、リスクの指摘

すべての軸を使う必要はありません。自社にとって重要な軸を選び、各社をその軸で評価していきます。


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範囲をそろえてから金額を比べる

比較で最も大切なのは、金額を比べる前に範囲をそろえることです。たとえば、A社には移行費が含まれ、B社には含まれていない場合、そのまま総額を比べるとB社が安く見えます。この場合、B社の見積に「移行費の概算」を補って、同じ範囲にそろえてから比較します。

範囲をそろえる手順は次の通りです。

  1. 各見積の項目を、共通の工程・費目に整理し直す
  2. 含まれていない項目には「別途」「未計上」と印をつける
  3. 未計上の項目を、概算で補って総額をそろえる
  4. そろえた総額で、はじめて金額を比較する

この作業をすると、「安く見えていた見積が、実は範囲を補うと他社と変わらなかった」ということが見えてきます。


点数化で定性面も比較する

金額だけでなく、提案の質や体制といった定性的な面も比較したい場合は、点数化が有効です。重要な軸に重み(配点)をつけ、各社を採点します。

  • 各比較軸に配点を決める(例:費用30点、提案の質20点、体制20点、保守20点、実績10点)
  • 各社をその軸で採点する
  • 合計点で全体像を捉え、金額と合わせて判断する

点数化のメリットは、判断の根拠が残ることです。「なぜこの会社を選んだのか」を社内に説明する際に、点数表があると説得力が増します。配点は自社の優先順位に合わせて調整します。比較の進め方は相見積もりの3社比較の方法でも詳しく扱っています。


TCO(総保有コスト)で見る

システムは、作るときの費用(初期費用)だけでなく、使い続ける費用(運用費用)がかかります。これらを合わせた「総保有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)」で比較すると、長く使ったときの実態に近い比較ができます。

  • 初期費用(要件定義・開発・テスト・移行・教育)
  • 月額の保守費・運用費
  • クラウド・外部APIの月額・従量費用
  • 想定利用期間(例:5年)でかけ合わせた総額

初期費用が安くても、月額費用が高ければ、数年使うと総額が逆転することがあります。逆も同様です。利用期間を決めて、その期間のTCOで比べると、総額の印象に左右されにくくなります。

TCOを比較する際は、「クラウドや外部サービスの費用が見積に含まれているか」を事前に確認しておくことが重要です。開発費用だけが見積に載っていて、インフラ費用や外部APIの月額費用が別途発生する場合、TCOに加算しないと運用フェーズで想定外の費用感が出てきます。連載第8回で扱ったクラウド・API費用の確認と合わせて、TCOの算出前提を各社でそろえるとよいでしょう。


リスクと説明責任を残す

比較表には、各社のリスクや懸念も書き残しておきます。たとえば「実績は豊富だが体制の開示が薄い」「金額は魅力的だが要件定義の関与が浅い」といったメモです。これにより、選定後に問題が起きたときも、何を承知のうえで選んだかを振り返れます。

社内で決裁を通す際にも、比較表は説明責任を果たす道具になります。総額・範囲・点数・TCO・リスクが一覧になっていれば、「価格だけで選んだのではない」ことを示せます。


比較表を経営層・決裁者に説明するとき

比較表を経営層や決裁者に提示する際は、数字の並びだけでなく「何を重視して選んだか」という説明軸を添えると伝わりやすくなります。経営層が判断材料として求めるのは、おおむね次の三点です。「なぜこの会社を選ぶのか(選ばなかったのか)」「主なリスクは何で、どう対処するのか」「数年後までの費用感はどうなるか」。比較表に範囲補正済みの総額・TCO・リスクの欄があれば、この三点に対して数字と言葉で答えられます。

「初期費用ではA社が有利に見えたが、5年TCOではB社の方が抑えられる見込みで、体制の透明性を優先してB社を選ぶ判断をした」という説明は、比較表なしでは成立しません。担当者が個人で判断するだけでなく、組織として意思決定を記録する意味でも、比較表の存在は重要です。

また、比較の過程で見えてきた「各社の提案における前提の違い」を経営層と共有しておくことも有効です。たとえば「A社は要件定義の関与が浅い前提で安い」という点をあらかじめ共有しておけば、発注後に要件調整のコストが増えても、社内での認識のずれが起きにくくなります。比較表は発注時の意思決定の記録であり、プロジェクト進行中に立ち返れる参照資料でもあります。


比較表のサンプル様式

比較表は、特別なツールがなくても表計算ソフトで作れます。下の例は、販売管理システムを3社で比較する場合の簡易サンプルです。金額はあくまで比較表の作り方を示すための例です。

比較軸A社B社C社
初期見積総額420万円300万円620万円
未計上の移行・教育を補正+80万円+180万円+0万円
範囲をそろえた総額500万円480万円620万円
月額保守・運用8万円15万円10万円
5年TCO(概算)980万円1,380万円1,220万円
提案の質(20点)161218
体制の明確さ(20点)151018
主なリスク・所見移行範囲の追加確認が必要初期費は安いが月額と未計上項目が重い高いが範囲と体制は明確

この例では、初期見積だけならB社が最も安く見えます。しかし、未計上項目と5年TCOを加えると、A社の方が総額を抑えやすい可能性があります。一方で、C社は高額ですが、体制と範囲の明確さを重視する案件では候補に残ることがあります。比較表の目的は、最安値を探すことではなく、選ぶ理由を説明できる状態にすることです。

比較で迷ったときの戻り方

点数が拮抗して迷ったときは、自社の優先順位に立ち返るのが有効です。今回のシステムで最も重視するのは費用なのか、納期なのか、運用のしやすさなのか、体制の安心感なのか。優先順位を一つ決めると、拮抗していた比較に判断の軸が生まれます。迷いの多くは、軸が定まっていないことから生じます。比較表は答えを自動的に出す道具ではなく、自社の優先順位に照らして判断するための材料だと捉えると、使いやすくなります。


発注前チェックリスト(比較表)

  • 自社にとって重要な比較軸を決めたか
  • 各見積の範囲をそろえてから金額を比較したか
  • 未計上の項目を概算で補って総額をそろえたか
  • 重要な軸に配点をつけ、各社を点数化したか
  • 初期費用だけでなく、運用まで含めたTCOで比較したか
  • 各社のリスク・懸念を比較表に書き残したか
  • 社内に説明できる形(根拠が残る形)になっているか

開発会社に確認する質問

  • 「見積の内訳を、共通の工程・費目の粒度で出していただけますか」
  • 「運用まで含めた、数年間のおおよその費用感を教えてください」
  • 「この提案で、想定されるリスクや前提をどう見ていますか」
  • 「他社と比べて、御社の強み・前提の違いはどこにありますか」
  • 「未計上の項目があれば、概算で教えていただけますか」

比較に必要な情報を整えて出してくれる相手は、発注後のやり取りでも前提を共有しやすい傾向があります。


相談前に整理しておくとよい情報

  • 自社にとっての優先順位(費用・納期・品質・体制の重みづけ)
  • 想定するシステムの利用期間
  • 社内の決裁ルートと、説明が必要な相手
  • 各社から受け取った見積の総額と内訳
  • これまでの連載で整理した自社の前提(範囲・規模・連携)

これらを整理しておくと、比較表の軸が決めやすく、判断を社内に説明しやすくなります。


GXOの発注前レビューで見る実務メモ

GXOが見積書の相談を受けるときは、最初から「高い」「安い」を判定せず、見積の前提を分解します。まず初期費用、月額費用、追加費用、発注側作業、リスク項目の5区分に分けます。そのうえで、3社比較、5年TCO、社内稟議、契約条件の順に確認します。これにより、金額の差が価格差なのか、範囲差なのか、リスクの見込み方の差なのかを説明しやすくなります。

発注側で用意しておくとよいのは、完璧な要件定義書ではありません。現行業務の流れ、利用者数、画面・帳票・連携の数、希望時期、予算の幅、社内決裁者、止められない業務、個人情報や機密情報の有無です。これらが曖昧なまま見積を取ると、開発会社ごとに前提が変わり、相見積もりの比較が難しくなります。

確認領域発注側が用意する情報見積で確認すること
業務範囲対象部署、利用者数、現行フローどこまでが開発対象か
機能規模画面数、帳票数、API本数工数の根拠が説明できるか
データ移行対象、件数、クレンジング要否移行費・移行リハーサルの有無
運用利用時間、障害時の影響、社内担当保守範囲、SLA、月額費用
契約請負/準委任、検収、知財、再委託責任分界と追加費用の条件
稟議予算上限、比較対象、判断基準3社比較や5年TCOで説明できるか

この整理を先に行うと、AI開発、セキュリティ要件、補助金活用を含む案件でも、見積の前提を同じ粒度にそろえやすくなります。特に補助金を使う場合は、対象経費と対象外経費、発注前着手の可否、証憑の残し方を見積段階で確認しておく必要があります。

参考にすべき一次情報・確認観点

見積書を社内稟議やベンダー比較に使う場合は、一般論だけで判断せず、公式資料と自社データを照合してください。特に契約形態、責任分界、DX投資の目的、セキュリティ要件は、見積金額より前にそろえるべき前提です。

  • IPA「情報システム・モデル取引・契約書」:請負、準委任、成果物、検収、責任分界を確認する際の参考になります。
  • 経済産業省「DX推進指標」:経営課題、ITシステム、組織体制を分けて、DX投資の目的を確認する際の参考になります。
  • 自社の見積比較では、3社比較、5年TCO、月額5万円・10万円・15万円、画面20件、帳票10件、API3本、移行データ1000件、受入テスト5日、操作研修2回、障害受付24時間、初期予算500万円・1000万円など、仮でも数字を置いて前提をそろえます。
  • AI開発、セキュリティ要件、補助金活用を含む案件では、機能要件だけでなく、ログ保管、個人情報、権限管理、証跡、補助対象経費の切り分けも見積条件に入れてください。

よくある質問

Q. 比較表は、金額を並べるだけではだめですか。

A. 範囲がそろっていないまま金額を並べると、範囲を絞った見積が安く見えてしまいます。まず各見積を同じ範囲にそろえ、未計上の項目を概算で補ってから金額を比べることが大切です。金額の比較は、範囲をそろえた後に行います。

Q. TCO(総保有コスト)とは何ですか。

A. 初期費用に加え、運用やクラウド・API費を、使う期間ぶん合わせた総額のことです。初期費用が安くても、月額費用が高ければ、数年使うと総額が逆転することがあります。利用期間を決めてTCOで比べると、実態に近い比較ができます。

Q. 点数が拮抗して迷ったときは、どう決めればよいですか。

A. 自社の優先順位に立ち返るのが有効です。費用・納期・運用のしやすさ・体制の安心感のうち、最も重視するものを一つ決めると、拮抗していた比較に判断の軸が生まれます。比較表は、その判断を支える材料です。

Q. 比較表を経営層に見せる際のポイントはありますか。

A. 数字の並びとともに、「何を重視してこの会社を選んだか」「主なリスクと対処の考え方」「数年後までの費用感」の三点を言葉で添えると伝わりやすくなります。比較表は決定の根拠を残す道具でもあるため、発注後のプロジェクト進行中の参照資料として手元に保管しておくことをおすすめします。


まとめ

相見積もりの比較は、金額を並べるだけでは判断できません。比較軸を決め、範囲をそろえてから金額を比べ、点数化やTCOで定性面と運用費まで含めて評価することで、自社に合う選択を根拠とともに説明できる形にできます。リスクと懸念を書き残しておけば、選定後の振り返りにも役立ちます。次回は連載の締めくくりとして、発注前に開発会社へ聞いておきたい20の質問を整理します。


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