もしいま身代金を要求されたら、自社は「払わない」と言い切れるだろうか。そして払わずに、事業を復旧できるだろうか。 JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)が公表した「企業IT利活用動向調査2026」では、ランサムウェアの感染経験がある企業が45.8%——およそ2社に1社にのぼった。一方で、身代金の支払い率は57.0%(前回)→43.8%(今回)へと低下し、「払わない」を選ぶ企業が増えている。
本記事では、特定の被害事例ではなく統計データを起点に、「身代金は払わない」前提に立ったとき、復旧力(バックアップ+事業継続計画)をどう設計すべきかを整理する。
この記事の要点
- JIPDEC「企業IT利活用動向調査2026」(ITRと共同・有効回答1,107社)では、ランサムウェアの感染経験がある企業が45.8%。これは「過去1年」ではなく「感染を経験したことがある」割合である点に注意。
- 業種別では製造業が57.1%で最多。規模別でも従業員299名以下で37.0%と、中小企業も例外ではない。
- 身代金の支払い率は57.0%→43.8%へ低下(感染企業ベース・3年連続で低下)。「払わない」が主流になりつつある。
- ただし払わずに復旧できなかった割合は10.5%→13.0%へ上昇。「払わない」を選ぶなら、払わなくても復旧できる仕組み(バックアップ・BCP)が前提になる。
- 対策の軸は「侵入を100%防ぐ」から「侵入されても払わず復旧できる」へ。
データが示す現実:感染は「特別な不運」ではない
JIPDEC「企業IT利活用動向調査2026」(株式会社ITRと共同、有効回答1,107社、2026年1月調査)から、押さえておきたい数字を整理する。
| 指標 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| ランサムウェア感染経験のある企業 | 45.8% | 「過去1年」ではなく「感染経験」の割合 |
| 製造業の感染経験率 | 57.1% | 業種別で最多 |
| 情報通信業 | 50.0% | — |
| 従業員299名以下 | 37.0% | 中小企業も広く被害 |
| 身代金 支払い率 | 57.0% → 43.8% | 感染企業ベース・低下傾向 |
| 払わず復旧できなかった割合 | 10.5% → 13.0% | 上昇 |
まず押さえたいのは、45.8%は「感染を経験したことがある企業」の割合であり、「毎年45.8%が感染している」という意味ではない点だ(前回調査からはわずかに低下している)。それでも、約2社に1社が感染を経験しているという事実は、「感染は特別な不運ではなく、起こりうる前提」であることを示している。
そして、中小企業も例外ではない。製造業の57.1%という最多値や、従業員299名以下でも37.0%という数字は、「うちは小さいから狙われない」という思い込みを否定する。被害の影響としては、データの消失・破損による復旧不能、事業の停止・中断、機密情報の漏えいが上位を占める。侵入経路としては、警察庁の公表でもVPN機器やリモートデスクトップ経由が多くを占めるとされ、外部に面した機器の管理が要になる。
「払わない」が主流に。ただし条件がある
注目すべき変化は、身代金の支払い率が57.0%→43.8%へ低下したことだ(感染企業ベース)。法執行機関や専門家が「支払いは推奨されない」と繰り返してきたこと、支払っても完全復旧の保証がないこと、支払い自体が次の標的化につながりうることなどから、「払わない」という判断が主流になりつつある。
しかし、ここに見落とせない数字がある。払わずに復旧できなかった割合は10.5%→13.0%へ上昇しているのだ。つまり、
「払わない」を選ぶなら、払わなくても自力で復旧できる仕組みが前提になる。
身代金を払わない方針は正しい。だが、復旧手段(健全なバックアップと、それを使って事業を戻すBCP)がないまま「払わない」を選べば、データも事業も戻らないという最悪の結末になりうる。「払わない」という意思決定と、「払わなくても復旧できる」という備えは、セットでなければならない。
身代金支払いの是非と法務・実務の論点はランサムウェア身代金 支払い判断フレームワーク(法務・FBI・保険)で整理している。
「払わない前提」で設計する3つの軸
統計が示す現実をふまえると、対策の重心は「侵入を100%防ぐ」から「侵入されても、払わず、復旧できる」へ移る。設計すべきは次の3軸だ。
1. 復旧できるバックアップ(3-2-1ルール)
ランサムウェアはバックアップごと暗号化しにいく。だからこそ、オフライン/イミュータブル(改ざん不可)なコピーを分離して持つことが要になる。「バックアップを取っている」と「バックアップから戻せる」は別物だ。復元テストまで含めて設計する。考え方は3-2-1ルールで実践するランサムウェア対策バックアップで詳説している。
2. 事業を戻すBCP
データが戻っても、業務が回らなければ事業は止まったままだ。どの業務を・どの順で・いつまでに戻すか(RTO/RPO)を決め、代替手段まで含めて計画する。中小・中堅向けの考え方はBCP(事業継続計画)策定ガイド(中小企業向け)で扱っている。
3. 侵入を前提とした検知・対応
防御だけでなく、侵入された前提で早期に検知し、封じ込め、復旧する体制を持つ。製造業の現場を想定したチェックは製造業のサイバー攻撃対策チェックリストが参考になる。緊急時の体制づくりはインシデント対応リテイナーの費用と相場も合わせて確認したい。
この3軸を、自社のシステム構成と業務に合わせて設計・実装するのが、セキュリティ事業の役割だ。
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GXOでは、現状のバックアップが本当に復旧に使えるかの確認から、BCP(復旧の優先順位・目標時間)の設計、侵入を前提とした検知・対応体制づくりまで支援しています。「バックアップは取っているが、戻せるか不安」という段階のご相談を歓迎します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 「感染経験45.8%」は毎年これだけ感染しているという意味ですか?
いいえ。JIPDEC「企業IT利活用動向調査2026」の45.8%は「ランサムウェアに感染した経験がある企業」の割合で、「過去1年で45.8%が感染した」という年率ではありません。前回調査からはわずかに低下しています。それでも約2社に1社が感染を経験しているという事実は重く受け止めるべきです。
Q2. 身代金は払うべきですか、払わないべきですか?
調査では支払い率が57.0%→43.8%へ低下し、「払わない」が主流になりつつあります。支払っても完全復旧の保証はなく、再標的化のリスクもあるため、一般に支払いは推奨されません。ただし「払わない」を選ぶには、払わなくても復旧できる仕組み(健全なバックアップとBCP)が前提です。最終的な判断は法務・保険・専門家を交えて行うべきです。
Q3. 中小企業でもそこまで備える必要がありますか?
あります。調査では従業員299名以下でも37.0%が感染を経験しており、製造業は57.1%で最多です。規模の小ささは「狙われない理由」にはなりません。むしろ復旧体制が手薄なほど、被害が事業停止に直結しやすくなります。
Q4. まず何から始めればよいですか?
(1) 現状のバックアップが「復旧に使えるか」(オフライン/改ざん不可の分離コピーがあるか、復元テストをしているか)を確認する、(2) 止められない業務と復旧目標時間(RTO/RPO)を洗い出す、(3) 侵入経路になりやすいVPN・リモートデスクトップ等の外部公開機器を棚卸しする——この3点から始めるのが現実的です。
まとめ:対策の重心は「防ぐ」から「払わず復旧できる」へ
JIPDEC「企業IT利活用動向調査2026」は、ランサムウェアが「特別な不運」ではなく「起こりうる前提」であることを数字で示した。感染経験45.8%、製造業57.1%、中小企業も37.0%。一方で身代金支払い率は43.8%まで低下し、「払わない」が主流になりつつある。だが払わず復旧できなかった割合は13.0%へ上昇している。
結論はシンプルだ。「払わない」を選ぶなら、払わなくても復旧できる仕組み——健全なバックアップと、事業を戻すBCP、侵入を前提とした検知・対応——をセットで持つこと。対策の重心を「100%防ぐ」から「侵入されても払わず復旧できる」へ移すことが、データが示す現実への答えになる。
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参考情報
- 一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)「企業IT利活用動向調査2026」(株式会社ITRと共同・有効回答1,107社・2026年1月調査)プレスリリース:https://www.jipdec.or.jp/news/pressrelease/20260327.html
- 同調査 報告書・関連ページ(感染経験45.8%/製造業57.1%/支払い率57.0%→43.8%/払わず復旧できなかった割合10.5%→13.0%):https://www.jipdec.or.jp/library/it-resarch/it-resarch2026.html
- 警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(ランサムウェア被害は中小企業にも広く及び、侵入経路はVPN機器・リモートデスクトップ経由が多いとされる。最新の件数等は公表資料を参照):https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/
- ※ 本記事の感染率・支払い率等はJIPDEC調査の公表値に基づく。一部に流布する「21.8%→28.4%」等の数値はJIPDEC公式で確認できなかったため本記事では用いていない。