「先月の突発停止で、ライン全体が8時間止まった。損害は1,000万円を超えた」「ベアリングの異常に気づいたのは、焼き付いた後だった」「定期交換の間隔を詰めたら、まだ使える部品まで捨てていた」——製造現場の保全担当者やCTO・工場長から、こうした声を聞く機会が増えている。
経済産業省「2025年版ものづくり白書」によると、国内製造業の設備老朽化率は過去20年で最も高い水準にあり、設備トラブルによる突発停止の発生件数は年々増加傾向にある。一方で、「予知保全」に取り組んでいる企業は全体の12%にとどまる。大多数の企業がいまだに「壊れたら直す」事後保全か、「決められた時期に点検する」時間基準保全に依存しているのが実情だ。
結論から言えば、AI予知保全システムの開発費用は PoC(概念実証)で200〜600万円、本番システム構築で500〜1,500万円、月額運用で15〜50万円 が2026年時点の相場だ。本記事では、この数字の根拠から、データ分析の手法、ROI試算の考え方、導入ステップまでを網羅する。
目次
- 予知保全とは何か——3つの保全方式の比較
- AI予知保全システムの全体像——何をどう作るか
- 費用相場——PoC・本番構築・月額運用の3段階
- 費用の内訳——何にいくらかかるのか
- 振動・温度・電流データの分析手法
- ROI試算——突発停止コスト vs 予知保全投資
- 導入ステップ——失敗しない5段階の進め方
- 開発会社の選定基準
- まとめ
- FAQ
- 付録:予知保全 導入チェックリスト
1. 予知保全とは何か——3つの保全方式の比較
「予知保全」を正しく理解するために、まず保全方式の全体像を整理する。
| 保全方式 | 考え方 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 事後保全(BM) | 壊れたら直す | 管理が簡単、平時のコストが低い | 突発停止が発生、二次被害のリスク大 |
| 時間基準保全(TBM) | 決められた間隔で交換・点検する | 突発停止をある程度防げる | まだ使える部品も交換、過剰コスト |
| 状態基準保全(CBM)/ 予知保全 | データで異常の予兆を検知し、必要なタイミングで対処する | 突発停止を最小化、部品寿命を最大限活用 | 導入コストとデータ基盤が必要 |
AI予知保全は「状態基準保全(CBM)」をAIで高度化したものだ。設備に取り付けたセンサーから振動・温度・電流などのデータを常時収集し、AIが正常パターンからの逸脱を検知する。人間の五感では気づけない微細な変化を、数値として捉えるのがAIの強みである。
予知保全で防げる代表的な故障
- ベアリングの劣化:振動データの周波数成分に異常が現れる
- モーターの過負荷:電流値の上昇傾向を検知
- ポンプの空転・キャビテーション:振動パターンの変化で判別
- 切削工具の摩耗:加工中の振動・電流の変化で寿命を推定
- 配管の詰まり・漏れ:圧力・流量データの異常検知
セクションまとめ:保全方式は「壊れたら直す」から「壊れる前に対処する」へ進化している。AI予知保全は状態基準保全をAIで高度化したもので、突発停止の防止と部品寿命の最大活用を両立できる。
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2. AI予知保全システムの全体像——何をどう作るか
AI予知保全システムは、大きく5つの層で構成される。
| 層 | 役割 | 主な構成要素 |
|---|---|---|
| センサー層 | 設備の状態を数値化する | 振動センサー、温度センサー、電流センサー、圧力センサー |
| 通信層 | データをクラウドへ送る | IoTゲートウェイ、Wi-Fi/LTE/LPWA、エッジコンピューティング端末 |
| 蓄積層 | データを貯める | クラウドDB(AWS IoT、Azure IoT Hub)、時系列DB(InfluxDB、TimescaleDB) |
| 分析層 | 異常の予兆を検知する | 機械学習モデル(異常検知・回帰分析・分類)、統計処理 |
| 表示・通知層 | 現場に伝える | ダッシュボード、アラート通知(メール・Slack・LINE) |
設備1台あたりのセンサー構成例
加工機(マシニングセンタ)を例にすると、以下の構成が一般的だ。
| 取り付け箇所 | センサー種別 | 計測項目 | データ送信間隔 |
|---|---|---|---|
| 主軸ベアリング | 加速度センサー | 振動(3軸) | 1秒〜5分 |
| 主軸モーター | 電流センサー | 電流値(3相) | 1秒〜1分 |
| 冷却液タンク | 温度センサー | 液温 | 5分 |
| 油圧ユニット | 圧力センサー | 油圧値 | 5分 |
| 制御盤内 | 温度センサー | 盤内温度 | 5分 |
設備1台あたりのセンサー費用は5〜30万円が目安。取り付け工事費を含めると10〜50万円程度になる。
セクションまとめ:AI予知保全システムはセンサー→通信→蓄積→分析→表示の5層構成。設備1台あたりセンサー費用10〜50万円が目安。まずは故障リスクの高い設備1〜3台から始めるのが現実的だ。
3. 費用相場——PoC・本番構築・月額運用の3段階
AI予知保全の開発は「いきなり全設備に導入」ではなく、PoC(概念実証)→本番構築→運用 の3段階で進めるのが定石だ。各段階の費用相場を整理する。
段階1:PoC(概念実証)——200〜600万円
「本当にAIで故障を予測できるのか」を小規模に検証するフェーズ。
| 項目 | 費用目安 | 内容 |
|---|---|---|
| センサー設置(1〜3台) | 30〜100万円 | 対象設備へのセンサー取り付けとデータ収集環境の構築 |
| データ収集・前処理 | 50〜150万円 | 1〜3ヶ月分のデータ蓄積、欠損値処理、ノイズ除去 |
| AIモデル構築 | 80〜250万円 | 異常検知モデルの開発・学習・精度検証 |
| レポート・報告 | 30〜50万円 | 検証結果の報告書、本番移行の判断材料作成 |
| 合計 | 200〜600万円 | 期間:2〜4ヶ月 |
PoCの目的は「投資判断の材料を得ること」だ。PoCの段階で完璧な精度を求める必要はない。「異常を60〜70%の精度で検知できた」「データの品質に課題があるとわかった」という結果でも、本番構築に向けた貴重な知見になる。
段階2:本番システム構築——500〜1,500万円
PoCで有効性が確認できたら、本番システムを構築する。
| 項目 | 費用目安 | 内容 |
|---|---|---|
| センサー増設(5〜20台) | 100〜400万円 | 対象設備の拡大、センサーの追加設置 |
| データ基盤構築 | 100〜300万円 | クラウド環境の構築、時系列DBの設計、データパイプライン |
| AIモデルの精度向上・量産化 | 150〜400万円 | モデルの再学習、設備ごとのチューニング、推論基盤の構築 |
| ダッシュボード・通知機能 | 50〜200万円 | 現場向けの画面開発、アラート設定、既存システムとの連携 |
| テスト・導入支援 | 50〜100万円 | 現場での動作検証、運用マニュアル作成、操作研修 |
| 合計 | 500〜1,500万円 | 期間:4〜8ヶ月 |
費用に幅がある理由は「対象設備の台数」と「既存システムとの連携の複雑さ」だ。設備5台・単独運用なら500万円前後で収まるが、20台・既存の生産管理システムや基幹システムと連携する場合は1,000万円を超える。
段階3:月額運用——15〜50万円
本番稼働後の運用費用。
| 項目 | 月額目安 | 内容 |
|---|---|---|
| クラウドインフラ | 5〜15万円 | AWS/Azure/GCPの利用料(データ量に比例) |
| AIモデルの再学習・保守 | 5〜20万円 | 精度劣化への対応、新しいデータでの再学習 |
| システム監視・運用保守 | 5〜15万円 | 障害対応、セキュリティ更新、バージョンアップ |
| 合計 | 15〜50万円/月 | — |
AIモデルは一度作って終わりではない。設備の経年変化、季節の温度変動、加工対象の変更によって「正常の基準」が変わるため、定期的にモデルを再学習させる必要がある。この費用を見落とすと、半年後に誤報だらけのシステムになる。
費用一覧表
| 段階 | 費用 | 期間 | 目的 |
|---|---|---|---|
| PoC | 200〜600万円 | 2〜4ヶ月 | 技術的な実現可能性の検証 |
| 本番構築 | 500〜1,500万円 | 4〜8ヶ月 | 対象設備の拡大と業務への組み込み |
| 月額運用 | 15〜50万円/月 | 継続 | 精度維持・インフラ・保守 |
| 初年度合計(目安) | 880〜2,700万円 | — | PoC+本番+運用12ヶ月分 |
セクションまとめ:AI予知保全の費用はPoC 200〜600万円、本番500〜1,500万円、月額運用15〜50万円が相場。PoCを飛ばしていきなり本番構築すると、「データが取れない」「精度が出ない」で投資が無駄になるリスクが高い。段階的に進めるのが鉄則だ。
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4. 費用の内訳——何にいくらかかるのか
「見積もりを見ても、何にお金がかかっているのかわからない」という相談は多い。費用の構造を分解する。
人件費(全体の60〜75%)
AI予知保全の開発費用の大部分はエンジニアの稼働時間だ。
| 役割 | 人月単価の目安 | 主な作業 |
|---|---|---|
| プロジェクト管理 | 100〜150万円 | 要件整理、進捗管理、顧客折衝 |
| データエンジニア | 80〜120万円 | データ収集基盤の構築、前処理パイプライン |
| 機械学習エンジニア | 100〜150万円 | 異常検知モデルの設計・学習・評価 |
| IoTエンジニア | 80〜120万円 | センサー選定、通信設計、エッジ処理 |
| フロントエンドエンジニア | 80〜100万円 | ダッシュボード、画面開発 |
(参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2024」、JISA「情報サービス産業 基本統計調査 2024年版」)
センサー・ハードウェア費(全体の10〜20%)
| 項目 | 単価目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 加速度センサー(振動計測) | 3〜15万円/個 | 産業用は10万円前後、簡易型は3万円程度 |
| 温度センサー | 0.5〜3万円/個 | 熱電対やサーミスタ |
| 電流センサー(CT) | 1〜5万円/個 | クランプ式が取り付け容易 |
| IoTゲートウェイ | 5〜20万円/台 | 設備3〜10台を1台のゲートウェイで集約 |
| 取り付け工事 | 5〜15万円/台 | 配線工事、防水・防塵対策を含む |
クラウド・インフラ費(全体の5〜15%)
設備20台、データ送信間隔1分の場合、月額のクラウド費用は5〜15万円が目安。データを1秒間隔で送ると月額は3〜5倍に膨らむ。PoCの段階では送信間隔を粗く設定し、本番で必要に応じて細かくするのがコスト管理のコツだ。
セクションまとめ:費用の6〜7割は人件費。見積もりでは「誰が何ヶ月稼働するか」の内訳を確認するのがポイント。センサーとクラウドの費用は対象台数とデータ量で決まるため、段階的に広げることでコストを制御できる。
5. 振動・温度・電流データの分析手法
AI予知保全の精度を決めるのは、モデルの複雑さではなく「データの質」と「分析手法の適切さ」だ。代表的な3種類のセンサーデータについて、分析手法を整理する。
振動データ分析
振動データはAI予知保全の中核を成す。ベアリングの劣化、軸のずれ、歯車の摩耗など、回転機械の多くの故障は振動に変化として現れる。
| 分析手法 | 概要 | 検知できる異常 |
|---|---|---|
| 周波数分析(FFT) | 時系列データを周波数成分に分解する | ベアリングの外輪・内輪・転動体の損傷(特定の周波数にピークが出る) |
| 包絡線分析 | 振動波形の包絡線を抽出し、微小な衝撃成分を可視化する | 初期段階のベアリング損傷、歯車の欠け |
| 統計的特徴量 | 実効値(RMS)、尖度、歪度などの統計量を時系列で監視する | 全体的な振動レベルの上昇傾向 |
| 機械学習(異常検知) | 正常時のデータで学習し、逸脱を検知する | 未知の異常パターン、複合的な劣化 |
温度データ分析
温度データは変化がゆっくりで、単体では故障予測の精度が低い。しかし、振動データや電流データと組み合わせることで、判断の確度を上げる「補助的な指標」として重要だ。
- 閾値監視:温度が設定値を超えたらアラート(最も基本的な手法)
- トレンド分析:温度の上昇傾向を線形回帰で捉え、閾値到達時期を予測する
- 差分監視:環境温度と設備温度の差を監視し、異常な発熱を検知する
電流データ分析
モーターの電流データは、負荷の変動や回路の異常を反映する。
- 電流値の統計監視:平均値・標準偏差の変動を検知
- 起動電流の分析:モーター起動時の電流波形から、巻線の劣化や絶縁低下を推定
- 負荷パターン分析:定常運転時の電流パターンの変化で、設備への過負荷や摩耗を判別
データ分析の実務上のポイント
- まず統計的手法を試す:いきなり深層学習に飛びつかない。RMSのトレンド監視だけで十分な設備もある
- 正常データを十分に集める:異常検知では「正常とは何か」の定義が肝。最低1ヶ月、理想は3ヶ月分の正常データが必要
- 複数のセンサーを組み合わせる:振動だけ、温度だけでは誤検知が多い。振動+温度+電流の組み合わせで精度が上がる
セクションまとめ:予知保全の分析手法は「振動の周波数分析」「温度のトレンド監視」「電流の統計監視」が3本柱。深層学習よりもまず統計的手法を試すのが現実的で、正常データの十分な蓄積が精度を決める。
6. ROI試算——突発停止コスト vs 予知保全投資
「費用はわかった。で、元は取れるのか?」——経営層への稟議で最も問われるのがROI(投資対効果)だ。
突発停止のコスト構造
突発停止によるコストは「目に見えるコスト」と「目に見えにくいコスト」の2つに分かれる。
| コスト項目 | 1回あたりの目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 生産損失 | 50〜500万円 | ライン停止時間 × 時間あたり生産額。自動車部品ラインなら1時間あたり100万円以上の損失も珍しくない |
| 緊急修理費 | 30〜200万円 | 通常修理の1.5〜3倍。夜間・休日の緊急対応は割増 |
| 部品の二次破損 | 50〜300万円 | ベアリングの焼き付きがシャフトや歯車に波及するケース |
| 納期遅延ペナルティ | 30〜100万円 | 取引先への違約金、特急便での代替品手配 |
| 仕掛品の廃棄 | 10〜50万円 | 停止時に加工途中だった製品の廃棄 |
| 信頼低下(定量化困難) | — | 取引先からの評価低下、失注リスク |
ROI試算のモデルケース
前提条件
- 対象設備:10台(加工機・プレス機など)
- 現状の突発停止:年間6回(平均停止時間4時間)
- 1回あたりの突発停止コスト:150万円(生産損失+緊急修理費)
- 過剰保全の削減:年間120万円(まだ使える部品の交換見送り)
年間の突発停止コスト
150万円 × 6回 = 900万円/年
AI予知保全の投資額(初年度)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| PoC | 400万円 |
| 本番構築 | 800万円 |
| 運用12ヶ月分 | 360万円(月額30万円 × 12) |
| 初年度合計 | 1,560万円 |
投資回収の計算
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 突発停止コストの削減(70%削減と仮定) | 630万円/年 |
| 過剰保全の削減 | 120万円/年 |
| 年間削減効果 | 750万円/年 |
| 2年目以降の運用費 | 360万円/年 |
| 2年目以降の純効果 | 390万円/年 |
- 初年度:投資1,560万円 − 削減効果750万円 = 810万円の持ち出し
- 2年目:運用費360万円 − 削減効果750万円 = 390万円のプラス
- 投資回収期間:約2.1年(初年度の持ち出し810万円 ÷ 2年目以降の純効果390万円/年 + 1年)
試算のポイント
- 突発停止コストを過小評価しない:目に見えにくいコスト(信頼低下、失注リスク)を含めると、実際のコストは上記の1.5〜2倍になることが多い
- 削減率は70%で計算する:AI予知保全でも100%の防止は不可能。70%が現実的な目標
- 段階的に設備を増やす前提で試算する:最初から20台分の投資額で稟議を通そうとせず、まず3台のPoCで実績を作る
セクションまとめ:突発停止コスト年間900万円に対し、AI予知保全の投資回収期間は約2年。2年目以降は年間390万円のコスト削減効果が続く。稟議では「突発停止1回あたりのコスト × 年間発生回数」を定量化するのが説得の鍵だ。
7. 導入ステップ——失敗しない5段階の進め方
AI予知保全の導入で最も多い失敗は「いきなり全設備にセンサーをつけて、データを集めたけど、何もわからなかった」というパターンだ。以下の5段階で進めれば、リスクを抑えながら確実に成果を出せる。
ステップ1:対象設備の選定(1〜2週間)
すべての設備にAI予知保全が必要なわけではない。以下の基準で優先度をつける。
| 選定基準 | 具体的な判断ポイント |
|---|---|
| 故障頻度が高い | 過去2年間の故障記録を確認し、年2回以上故障している設備 |
| 故障時の影響が大きい | ライン全体が停止する「ボトルネック設備」 |
| センサー取り付けが容易 | 振動・温度・電流を計測できる取り付けスペースがある |
| データが取得しやすい | 常時稼働しており、正常データを十分に蓄積できる |
最初は1〜3台に絞る。 これがPoCの対象になる。
ステップ2:PoC(概念実証)(2〜4ヶ月)
選定した設備にセンサーを設置し、データ収集とAIモデルの構築を行う。
- 最初の1ヶ月:センサー設置、データ収集環境の構築、正常データの蓄積
- 2ヶ月目:データの前処理、特徴量の抽出、異常検知モデルの構築
- 3〜4ヶ月目:モデルの精度検証、誤検知率の評価、結果報告
PoCの成功基準は「完璧な精度」ではなく、「この方向で本番構築すれば成果が出る」と判断できる材料が揃うことだ。
ステップ3:本番システムの設計・構築(4〜8ヶ月)
PoCの結果をもとに、対象設備を拡大し、業務に組み込めるシステムを構築する。
- 対象設備を5〜20台に拡大
- ダッシュボードで設備の状態を一覧表示
- アラート通知の仕組みを構築(メール、Slack、LINE等)
- 既存の生産管理システムとの連携(必要に応じて)
ステップ4:現場への展開・定着(1〜2ヶ月)
システムを作っても、現場が使わなければ意味がない。
- 操作研修:保全担当者・ラインリーダーへの操作説明
- アラート対応フローの整備:アラートが鳴ったら「誰が」「何を」「いつまでに」やるかを決める
- 運用ルールの策定:日次・週次で確認する項目、報告のルートを明文化する
ステップ5:継続改善(運用開始後)
AI予知保全は「導入して終わり」ではなく、「運用しながら精度を上げていく」ものだ。
- 月次で検知精度をレビュー:誤検知率・見逃し率を集計し、モデルの再学習に反映
- 四半期ごとに対象設備の拡大を検討:成果の出た設備タイプを他の設備に横展開
- 年次でROIを評価:突発停止の実績と予知保全のコストを比較し、投資効果を確認
セクションまとめ:導入は「設備選定→PoC→本番構築→現場展開→継続改善」の5段階。PoCを飛ばさないことが最大のリスク回避策。現場の定着まで含めて計画するのが成功の鍵だ。
8. 開発会社の選定基準
AI予知保全のシステム開発は「ITだけの話」ではない。設備の知識、センサーの扱い、現場への定着支援まで含めた総合力が問われる。
必須の確認項目
| 確認項目 | なぜ重要か | 確認方法 |
|---|---|---|
| 製造業での開発実績 | 工場のネットワーク環境やセキュリティ制約を理解しているか | 実績一覧、導入事例の具体的な内容を確認 |
| IoT・センサーの知見 | ソフトウェアだけでなく、ハードウェア選定やネットワーク設計ができるか | 提案書にセンサー構成やネットワーク設計が含まれているか |
| 機械学習の実務経験 | 論文レベルではなく、実運用レベルのモデル構築ができるか | PoCの実績、モデルの精度指標の提示 |
| PoC対応の姿勢 | 「いきなり本番」を提案してこないか | 提案にPoC段階が明記されているか |
| 運用保守の体制 | 開発だけで終わらず、運用後の精度維持まで支援できるか | 運用保守契約の内容、再学習の頻度と費用 |
見積もり比較のポイント
複数社から見積もりを取る際は、以下を揃えて比較する。
- 対象設備の台数と種類を統一する
- PoC・本番・運用の3段階の費用を分けて提示してもらう
- センサーのハードウェア費用を含めるか含めないかを明確にする
- 月額運用費にAIモデルの再学習を含めるかどうかを確認する
GXOでは、AI・IoTのシステム開発からPoC支援、本番構築、運用保守までを一貫して支援しています。製造業のお客様への導入実績について詳しくは導入事例ページをご覧ください。また、会社概要ページでは開発体制や技術スタックをご確認いただけます。
セクションまとめ:開発会社の選定では「製造業の実績」「IoTの知見」「PoCへの対応」「運用保守の体制」を必ず確認する。見積もり比較は3段階の費用を分けて提示してもらうのが基本。
まとめ
AI予知保全システムの費用と導入の要点を振り返る。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 費用相場 | PoC 200〜600万円、本番構築 500〜1,500万円、月額運用 15〜50万円 |
| データ分析 | 振動(周波数分析)、温度(トレンド監視)、電流(統計監視)の3本柱 |
| ROI | 突発停止コスト年間900万円のケースで、投資回収期間は約2年 |
| 導入ステップ | 設備選定→PoC→本番構築→現場展開→継続改善の5段階 |
| 最重要原則 | PoCを飛ばさない。段階的に進める。現場の定着まで計画する |
突発停止は「いつか起きる」ではなく「必ず起きる」ものだ。問題は「起きてから対処する」のか、「起きる前に備える」のかの違いでしかない。AI予知保全は、その備えを「勘」ではなく「データ」で行うための技術である。
まずは対象設備を1台選び、小さく始めることが第一歩だ。
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FAQ
Q1. AI予知保全と従来の状態監視(振動診断)は何が違いますか?
A1. 従来の振動診断は「閾値を超えたらアラートを出す」方式で、閾値の設定は熟練の保全技術者の経験に依存していた。AI予知保全は、正常時のデータパターンをAIが学習し、人間が設定した閾値ではなく「正常からの逸脱」を自動的に検知する。これにより、経験の浅い担当者でも高精度な異常検知が可能になり、従来は気づけなかった初期段階の異常も捕捉できる。
Q2. 古い設備にもセンサーを後付けできますか?
A2. できる。1980年代以降の設備であれば、ほとんどの場合、外付けの振動センサー・温度センサー・電流センサーを後付けで設置可能だ。設備自体を改造する必要はなく、マグネット式やクランプ式のセンサーを外側から取り付ける。PLCや制御装置にアクセスしなくても、外部センサーだけでデータは取得できる。
Q3. データが少ない(導入したばかりで蓄積がない)場合はどうすればよいですか?
A3. まず1〜3ヶ月のデータ蓄積期間を設ける。この間はAIモデルの構築と並行してデータを貯める。正常データが最低1ヶ月分あれば、基本的な異常検知モデルは構築可能だ。データが増えるほど精度は上がるため、最初は精度が低くても運用しながら改善していく方針でよい。
Q4. 誤報(誤検知)が多いと、現場が無視するようになりませんか?
A4. その通りで、誤検知の多さは現場の信頼を損なう最大の要因だ。対策は3つある。1つ目はPoCで誤検知率を事前に把握し、許容範囲に収まるまでモデルを調整すること。2つ目はアラートを「緊急」「注意」「情報」の3段階に分け、「緊急」の誤検知率を最小化すること。3つ目は誤検知が発生したら、そのデータをフィードバックしてモデルを再学習させる運用を回すこと。
Q5. 補助金は使えますか?
A5. 使える可能性がある。「デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)」の枠でIoT・AIシステムの導入が対象になる場合がある。補助率は1/2〜2/3、上限額は450万〜1,000万円程度。また、「ものづくり補助金」も設備投資を含む案件であれば対象になる。ただし申請には事業計画書の作成が必要で、採択率は約40%。詳細は各補助金の公式サイトで最新情報を確認してほしい。
付録:予知保全 導入チェックリスト
自社の現状を確認するためのチェックリストを用意した。該当する項目が多いほど、AI予知保全の導入効果が高い。
設備の現状
- 過去1年間に突発停止が3回以上発生した設備がある
- 突発停止1回あたりのライン停止時間が2時間を超える
- 修理費用が1回あたり50万円を超えることがある
- 壊れたら直す「事後保全」が中心になっている
- 定期交換の間隔が「感覚」で決まっており、根拠がない
データ環境
- 設備にPLCや制御装置が搭載されている
- 設備の稼働データ(電流・温度など)を一部でも取得している
- 工場内にWi-Fiまたは有線LANの環境がある
- 設備の故障履歴を記録・保管している
- 日報や点検記録をデジタル(Excel含む)で管理している
組織体制
- 保全専任の担当者がいる(兼任でも可)
- 設備の故障に詳しいベテラン社員がいる
- 経営層がDXや設備投資に前向きである
- IT部門または外部のIT支援パートナーがいる
- 補助金の申請経験がある、または支援してくれる専門家がいる
チェックが「設備の現状」で3つ以上、かつ「データ環境」で2つ以上ついた場合、AI予知保全の導入効果は高い。 まずはPoCから検討することをお勧めする。
参考資料
- 経済産業省「2025年版ものづくり白書」 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/
- IPA「ソフトウェア開発分析データ集2024」 https://www.ipa.go.jp/
- JISA「情報サービス産業 基本統計調査 2024年版」 https://www.jisa.or.jp/
- 中小機構「デジタル化・AI導入補助金2026」公式サイト https://it-shien.smrj.go.jp/
- 中小企業庁「ものづくり補助金総合サイト」 https://portal.monodukuri-hojo.jp/
