この記事は、情シス責任者・IT管理者が「AI利用が広がる前に、端末管理とID設計をどこまで先に整えるか」の判断基準を得ることを目的としています。AIエージェントが使うポリシーの中身や回帰テストは、姉妹記事の AIエージェントのポリシー評価と回帰テスト で扱っています。
Project Solara:エージェントがアプリを置き換える端末の登場
2026年6月2日のMicrosoft Build 2026で、Microsoftはエージェントファースト設計の新プラットフォーム「Project Solara」を発表しました(Tom's Hardware、GeekWire他、2026年6月2〜3日報道)。
Project Solaraの主な特徴は次のとおりです。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| OS基盤 | MDEP(Microsoft Device Ecosystem Platform):Android OSP基盤 |
| デバイス管理 | Microsoft Intune・Entra ID・Defender for Endpoint と標準統合 |
| エージェント動作 | ローカルNPUとAzureを動的に使い分け |
| 参照デザイン | ウェアラブルバッジ+卓上コンパニオンの2種 |
| 限定プレビュー | AccuWeather・Best Buy・CVS Health・Target等と試験中 |
| 一般提供予定 | 早くても2027年中頃(報道ベース) |
重要なのは、Solaraのような専用端末が市場に出る前でも、既存のPC上でCopilot・ブラウザAI・画面操作AIがすでに端末管理の対象になっていることです。Solaraが採用したIntune+Entra IDの統合モデルは、現在の端末管理の延長線上にあります。今の管理体制を点検しておくことが、新端末導入時のコストを下げます。
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AIが端末管理を変える3つの構造変化
変化1:AIが「画面上の情報」を扱う
ファイルアクセスだけでなく、画面認識・操作支援型のAIは画面上に表示されている情報を読み取ります。人間には見えていいがAIには渡したくない情報(例:他の顧客案件名、人事情報)が同じ画面に混在する状況が生まれます。スクリーンリーダー制限やウィンドウ分離のポリシーが必要になります。
変化2:端末ローカルに生成物が蓄積する
議事録要約・顧客メール文案・コード片・契約書ドラフトなどの生成物が端末ローカルに残る場合、紛失・盗難時の影響が従来より大きくなります。生成物の保存先を管理フォルダに制限するDLPポリシーが必要です。
変化3:個人AIアカウントと会社利用の混在
会社端末で個人のChatGPT・Claude・Copilotアカウントを使うと、ログも契約上の保護もデータ所在も分断されます。顧客情報を個人アカウント経由でAIに入力した場合、DPAの範囲外になり、インシデント発生時に契約相手への説明が困難になります。
情シスが先に決める6項目
| 項目 | 決めること | 設定例 |
|---|---|---|
| MDM登録基準 | AI利用を許可する端末の条件 | Intune登録済み+OS最新版のみ |
| ID統制 | AI利用に使うアカウントの指定 | 会社EntraID+MFA必須、個人アカウント禁止 |
| 承認済みAIサービス | 利用可能なAIアプリ・サービスの一覧 | Copilot・承認済みSaaSのみ、未承認ブラウザ拡張禁止 |
| 生成物保存先 | 生成したファイルの保存場所 | 管理下OneDrive・SharePointのみ(ローカルデスクトップ禁止) |
| ログ保存範囲 | 何を記録し何か月保存するか | AIアプリ利用履歴・ファイルアクセスログを12か月保存 |
| 停止・ワイプ手順 | 紛失・退職・侵害時の対応 | Intuneリモートワイプ・アカウント無効化の手順と担当者 |
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AI利用管理ポリシーのテンプレート構造
情シスがAIポリシーを作るとき、「AI利用ルール」として単独で作ると端末管理・ID管理と分断されます。既存のエンドポイント管理ポリシーに次の節を追加する形が整合性を保ちやすいです。
3.X条 AI機能・AIサービスの利用
3.X.1 対象:会社が承認したAIサービスに限る(一覧は別表)
3.X.2 端末:MDM登録済みの会社管理端末のみ
3.X.3 アカウント:会社ID(EntraID)を使用。個人AIアカウントで会社情報を扱うことを禁じる
3.X.4 禁止入力:個人情報・機密情報・未公開情報(別表参照)
3.X.5 生成物保存:管理下クラウドストレージのみ。端末ローカル保存は原則禁止
3.X.6 ログ:利用履歴とファイルアクセスを12か月保存。監査時に提出できること
3.X.7 例外:業務上必要な場合は情シスの事前承認を取得する
MDM・ID・ログを整えるための優先順序
フェーズ1(今すぐ):現状把握
- 会社端末のうちMDM未登録の台数を確認する
- 退職者アカウントの無効化状況を確認する
- 承認されていないAIサービスの利用状況をSWG・Proxyログで確認する
フェーズ2(30日以内):最低限の統制を入れる
- MDM未登録端末からの社内リソースアクセスを条件付きアクセスで制限する
- 個人AIアカウントでの業務情報入力を禁止するポリシーを周知する
- AIアプリのカテゴリをCASBで可視化する
フェーズ3(90日以内):AI特有のログ設計を追加する
- Copilot・承認済みAIサービスの利用ログを統合ログに収集する
- 生成物保存先のDLPポリシーを設定する
- AI利用に関するインシデント対応手順(誰に連絡し、どこを止めるか)を文書化する
LLMセキュリティreadiness診断では、AI利用ルールと端末・ID管理の整備状況を合わせて確認できます。ゼロトラスト・SASE・生成AIセキュリティはそれぞれ単独ではなく、同じID基盤の上に整合させて設計することを推奨します。
GXOはどう支援するか
GXOでは、現在のMDM・ID管理状況の棚卸しから、AI利用ポリシーの策定、Intune・Entra IDの設定レビュー、CASB・DLPを使ったAIサービス可視化まで支援します。初回相談では、会社端末の台数・MDM導入状況・現行IDプロバイダー・AI利用の実態を確認し、優先度の高い統制から順に整備する計画を提案します。ゼロトラスト設計の実務チェックや情シスのAI readiness診断と合わせてご相談ください。
よくある質問
Q1. Project Solaraのような専用AI端末が来るのはまだ先ではないですか
専用端末の一般提供は早くても2027年以降の見込みです(報道ベース)。ただし、既存PC上のCopilot・ブラウザAI・画面操作AIはすでに端末管理の対象です。今すぐ整備することで新端末導入時の追加コストを下げられます。
Q2. BYODでもAIを使わせることはできますか
MDM・DLP・会社ID統制の3点が揃えば技術的には可能です。ただし、顧客情報や機密情報を扱う業務では、会社管理端末に限定するポリシーが法務・コンプライアンス上のリスクを管理しやすくなります。
Q3. 最低限ログに残すべき情報は何ですか
「誰が・どの端末から・どのAIサービスを使い・どのファイルにアクセスしたか」の4点が最低ラインです。インシデント発生時に48〜72時間以内に調査できる保存設計を目安にしてください。
参考情報
- Microsoft Community Hub「Powering new devices and Agent-First experiences with MDEP」:https://techcommunity.microsoft.com/blog/microsoftdeviceecosystemplatformblog/powering-new-devices-and-agent-first-experiences-with-mdep/4524525
- Microsoft「Composing a new platform for agent-first devices」:https://commandline.microsoft.com/project-solara-build-2026/
- Tom's Hardware「Microsoft unveils Project Solara AI」(報道ベース):https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/microsoft-unveils-project-solara-ai-a-chip-to-cloud-platform-built-to-power-a-new-generation-of-agent-first-enterprise-devices-hardware-designed-to-run-ai-agents-instead-of-traditional-apps
- IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」(2026年4月2日):https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260402.html
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