働き方改革とIT活用——「制度導入」だけでは成果は出ない
中小企業の働き方改革は、テレワークやフレックスタイムなどの「制度」を導入するだけでは成果につながりません。制度を支えるITインフラと業務プロセスのDXを同時に進めることで、初めて生産性向上と人材確保の両方を実現できます。本記事のポイントは次の3つです。
2025年4月施行の改正育児介護休業法で、3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク導入が努力義務化された。中小企業にとって「対応しない」選択肢は人材流出リスクを高める
中小企業庁白書2024のデータによると、テレワークが「不実施」の中小企業は8割以上。一方で、仕事選びで「勤務形態(出社・テレワーク)」を重視する求職者は60.0%で最多(学情調査)
働き方改革はDX実現のための手段であり、テレワーク導入をきっかけに業務プロセスのデジタル化を進める企業が成果を上げている
日本銀行の2025年12月短観では、雇用人員判断指数(DI)が34年ぶりの人手不足超過水準を記録しました。人手不足が経営を直撃する時代において、柔軟な働き方を提供できるかどうかは、採用競争力と従業員の定着率に直結する経営課題です。
テレワーク——「できない」のではなく「できるように業務を変える」

テレワークが中小企業に浸透しない最大の理由は、「うちの業種ではテレワークは無理」という思い込みです。しかし、総務省の「働き方DX」の取り組みでは、建設業や製造業など現場がある業種でも、設計業務、進捗管理、事務処理、経理、クライアントとの打ち合わせなど、リモートで実施可能な業務は数多く存在することが示されています。
重要なのは、「テレワークでできる業務を探す」のではなく、「テレワークができるように業務を変える」という発想の転換です。具体的には、紙ベースの業務をクラウドサービスに移行し、対面での報告・連絡・相談をビジネスチャットやオンライン会議に置き換え、勤怠管理をデジタル化する——これらのIT投資が、テレワーク導入の前提条件となります。
テレワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークは、中小企業にとって最も現実的な導入形態です。完全テレワークではなく「週2〜3日は出社、残りはリモート」のように段階的に導入し、業務への影響を確認しながら範囲を拡大する進め方が定着しやすい傾向にあります。
フレックスタイム——柔軟な時間管理で生産性を引き出す
フレックスタイム制度は、従業員が始業・終業の時刻を自ら決められる制度で、テレワークと組み合わせることで効果が倍増します。たとえば、育児中の従業員が朝7時から勤務を開始し、15時に退勤してお迎えに行く——こうした柔軟な時間管理は、制度として導入するだけでなく、勤怠管理システムで正確に記録・管理できるIT環境が必要です。
フレックスタイム制度を導入する際は、「コアタイム」(全員が勤務する時間帯)の設定が重要です。10時〜15時をコアタイムとし、前後を自由に調整できる設計にすると、チーム内のコミュニケーションを維持しながら個々の事情に応じた働き方が実現します。
クラウド型の勤怠管理システムを導入すれば、フレックスタイムの労働時間を自動集計し、残業管理や36協定の上限管理も一元化できます。手作業による集計ミスや管理コストの削減にもつながるため、制度導入とIT投資を同時に進めることが合理的です。
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業務DX——働き方改革の「土台」をつくる
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テレワークやフレックスタイムの制度を機能させるためには、その土台となる業務のデジタル化が不可欠です。東京商工会議所の「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」によると、デジタルシフトに関わる予算を前年度より「増加させた」企業は24.8%で、デジタル化のレベルが高い企業ほど予算も増加させる傾向が確認されています。
業務DXで最初に取り組むべきは、「紙の業務のデジタル化」と「情報共有のクラウド化」の2つです。具体的には、請求書・見積書・稟議書の電子化、ファイル共有のクラウドストレージへの移行、社内連絡のビジネスチャット導入が優先度の高い施策です。これらは投資額が比較的小さく、効果が実感しやすいため、DXの「入口」として最適です。
さらに、RPA(ソフトウェアによる定型業務の自動化)を導入すれば、データ入力や集計作業を自動化し、従業員はより生産的な業務に集中できるようになります。ある中小企業では、勤怠管理をデジタル化してサービス残業を削減し、削減した分を給与に還元することで他社との差別化に成功した事例も報告されています。
3施策の比較と導入で陥りやすい失敗パターン
テレワーク・フレックスタイム・業務DXの3施策を整理すると、次のとおりです。
施策 | 主な効果 | 必要なIT投資 | 導入の優先順位 |
|---|---|---|---|
テレワーク | 人材確保・定着率向上・BCP強化 | クラウドサービス・VPN・オンライン会議ツール | 2番目(業務DXの後) |
フレックスタイム | 生産性向上・育児介護との両立 | クラウド型勤怠管理システム | 3番目(テレワークと同時可) |
業務DX | 場所を問わない業務環境の構築 | 電子化ツール・ビジネスチャット・RPA | 1番目(すべての土台) |
働き方改革でよくある失敗パターンとして、「テレワーク制度を導入したが、紙の稟議書や請求書が残っているため結局出社が必要になり、制度が形骸化した」「フレックスタイムを導入したが、勤怠管理がExcel手作業のままで集計ミスが頻発し、労務管理の負担が増えた」「ツールを導入したが現場への説明不足で利用率が低迷し、従来の業務フローに戻ってしまった」の3つが挙げられます。いずれも「制度だけ導入してIT基盤と業務プロセスの変更を同時に進めなかった」ことが原因です。
まとめ——働き方改革×IT活用で押さえるべき要点

中小企業の働き方改革×IT活用で押さえるべきポイントは、次の5点です。
テレワークは「できる業務を探す」のではなく「できるように業務を変える」発想で、ハイブリッドワークから段階的に導入する
フレックスタイムはコアタイム(10〜15時)を設定し、クラウド型勤怠管理システムで労働時間を自動管理する
業務DXはまず「紙のデジタル化」と「情報共有のクラウド化」から着手し、小さな成功体験を積む
2025年4月施行の改正育児介護休業法でテレワーク導入が努力義務化されており、対応しないことは人材流出リスクに直結する
働き方改革は「制度」と「IT」と「業務プロセス」の3つをセットで設計しないと成果が出ない
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よくある質問(FAQ)
Q. テレワーク導入に使える補助金はありますか?
厚生労働省の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」では、就業規則の改定、外部コンサルティング、テレワーク用通信機器の導入に係る費用が助成対象となります。東京都では「テレワーク定着強化奨励金」として20万円が支給される制度もあります。自治体独自の支援策もあるため、自社の所在地の制度を確認してください。
Q. 中小企業でもフレックスタイムは導入できますか?
導入可能です。フレックスタイム制度の導入には、労使協定の締結と就業規則の改定が必要ですが、手続き自体は複雑ではありません。まずはコアタイムを設定し、管理部門や営業部門など一部の部署から試験導入する進め方が現実的です。クラウド型勤怠管理システムを同時に導入すれば、管理の負担も最小限に抑えられます。
Q. 働き方改革とDXはどちらを先に進めるべきですか?
同時に進めるのが理想ですが、優先順位をつけるなら「業務のデジタル化」を先に進めてください。紙の業務が残ったままテレワークを導入しても、出社しなければ処理できない業務がボトルネックになり、制度が形骸化します。まず業務のデジタル化で「場所を問わず仕事ができる環境」を整備した上で、テレワークやフレックスタイムの制度を導入するのが合理的な順序です。
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