「必要なのはわかっている。でも稟議が通らない」
システム刷新の必要性は理解している。しかし、経営層に説明しても「今じゃなくてもいいだろう」「費用対効果がわからない」と言われて止まってしまう——DX推進担当者やIT部門の責任者が最も多く直面する壁のひとつです。本記事では、経営層の判断基準に合わせた説明術と、稟議資料に盛り込むべき要素を解説します。
システム刷新の稟議が通らない背景には、IT投資に対する経営層の構造的な認識のギャップがあります。経営層は日々、限られた経営資源の配分を判断しています。設備投資や人材採用、事業拡大など、IT投資以外にも候補は多数あります。その中でIT投資を選んでもらうためには、IT部門の言語ではなく、経営者の言語で、経営者が判断できる情報を届ける必要があるのです。
経営層がIT投資を見送る3つの「心の声」

稟議が却下される理由を表面的に捉えると「費用対効果がわからない」「優先度が低い」といった言葉になりますが、その裏には3つの構造的な理由があります。
第一に「システムは見えない投資」だという認識です。工場の設備や店舗の内装と違い、ITシステムは導入しても外から見えません。社員の業務が効率化されても、それが経営層の目に直接映ることは少ないため、優先度の低い支出に見えてしまいます。
第二に「今動いているなら急ぐ必要はない」という判断です。現行システムが致命的な障害を起こしていない限り、経営層にとっては「リスクはあるが、今すぐ顕在化するわけではない」と映ります。限られた予算を「将来のリスク回避」に投じるよりも、「今の成長」に投じたいと考えるのは経営判断として自然です。
第三に「IT部門の説明が経営言語になっていない」ことです。技術的な必要性をいくら詳しく説明しても、それが売上・利益・コスト・リスクといった経営指標に翻訳されていなければ、経営層は判断材料を持てません。IBMの調査では、経営層の71%が「ITが事業実績の改善にどう貢献するか、明確なビジョンが共有されていない」と回答しています。
稟議を通す3つのフレームワーク
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これらの壁を突破するために、3つの説明フレームワークを紹介します。
第1のフレームワークは「経営課題起点の3段論法」です。稟議が通らない最大の原因は、「このシステムを入れたい」から説明を始めてしまうことにあります。経営層が聞きたいのは「なぜそのシステムが必要なのか」ではなく「どの経営課題を解決するのか」です。説明の構造を「経営課題 → 課題を放置した場合のリスク → 解決策としてのシステム刷新」の順に組み立てます。たとえば「基幹システムの保守費用が毎年10%ずつ増加しており、3年後にはIT予算の80%が維持管理に消える。この構造を放置すれば、新規事業向けのIT投資ができなくなる。段階的な刷新によって保守費用を40%削減し、攻めの投資に振り向ける」という流れです。
第2のフレームワークは「放置コストvs投資コストの比較」です。経営層が最も反応するのは「やらないリスク」の金額です。経済産業省のDXレポートでは、レガシーシステムを放置した場合に年間最大12兆円の経済損失が生じると指摘されています。この数字を自社に引き寄せて、「現在の保守費用が年間○○万円 → 3年後に○○万円に増大する」「技術者が退職した場合の緊急対応費用は○○万円」「システム障害が発生した場合の事業損失は○○万円」といった試算を並べます。そして、刷新に必要な投資額と比較すれば、「やらないほうが高くつく」ことが数字で示せます。経営層にとっては、「投資のリターン」よりも「放置した場合の損失」のほうが意思決定の動機として強く働くことが多いため、このフレームワークは特に効果的です。
第3のフレームワークは「段階投資の提案(松竹梅方式)」です。経営層にとって、数千万円〜数億円の一括投資は心理的なハードルが高いのは当然です。そこで、投資規模の異なる3つのプランを提示します。たとえば「松:基幹システム全体をクラウドネイティブで再構築(1.5億円・3年)」「竹:リスクの高い領域から段階的にリライト移行(8,000万円・2年)」「梅:まず現状分析と仕様書整備のみ先行実施(1,000万円・6ヶ月)」というように、最小限の投資で着手できるプランを含めることで、「まず始める」という判断を引き出しやすくなります。
稟議資料に入れるべき5つの要素

フレームワークを活用して、実際の稟議資料に盛り込むべき要素を整理します。
1つ目は「経営課題との接続」です。中期経営計画やDX方針と刷新プロジェクトの関連を明記します。「この投資は中計の○○目標を達成するために必要な施策である」と位置づけることで、単発のIT投資ではなく、経営戦略の一部として稟議の優先度が上がります。
2つ目は「放置した場合のリスクとコスト」です。前述の「放置コストvs投資コスト」のフレームワークで算出した数字を盛り込みます。経産省DXレポートの「年間最大12兆円の経済損失」や、IT人材の「2030年最大79万人不足」といった公的データを権威性の裏付けとして併記するのも有効です。
3つ目は「投資額と投資回収期間」です。初期費用、年間ランニングコスト、期待される年間効果額を明記し、投資回収期間を示します。中堅企業では2〜3年以内の投資回収が承認されやすい目安です。リスク回避が主目的の投資の場合は、ROIだけでなく「障害発生時の想定損失額」との比較で説得力を補完します。
4つ目は「段階的な実行計画」です。松竹梅方式で提示したプランのうち推奨案について、フェーズ分けされたスケジュールと各フェーズの予算を示します。年度ごとの予算配分を明確にすることで、「今年度はここまで、来年度はここまで」という形で承認を得やすくなります。
5つ目は「外部パートナーの活用方針」です。自社だけで刷新プロジェクトを完遂できるケースはまれです。外部パートナーに何を委託するのか、パートナー選定の基準は何か、複数社から見積もりを取得しているかを明記することで、投資の妥当性を補強します。「信頼できるパートナーから概算見積もりを取得済みである」という一文があるだけで、稟議の説得力は大幅に増します。
なお、稟議資料の分量はA4で2〜3枚に収めることを推奨します。経営層は多忙であり、詳細な技術説明を読む時間はありません。技術的な補足資料は別紙として添付し、本体はあくまで「経営判断に必要な情報」に絞り込みます。口頭説明の場を設けられるのであれば、稟議資料は「口頭説明の補助」として機能させ、数字とリスクの要点だけを簡潔に伝える構成が効果的です。
まとめ:稟議は「技術の説明」ではなく「経営の翻訳」
システム刷新の稟議が通らない原因の多くは、技術的な必要性を経営言語に翻訳できていないことにあります。経営課題から出発し、放置コストを数字で示し、段階的な投資プランを提示する——この3つのフレームワークを使いこなすことで、経営層の判断基準に合った説明が可能になります。稟議は「技術の正しさを証明する場」ではなく「経営判断のための材料を提供する場」です。この視点の転換が、承認への第一歩となります。
GXOでは、180社以上の支援実績をもとに、システム刷新の現状分析から移行戦略の策定、実行まで一気通貫で伴走しています。稟議の段階から、経営層への説明資料の作成支援や、概算見積もりの提供も対応可能です。「刷新の必要性は感じているが、社内の合意形成が進まない」という方は、まずはお気軽にご相談ください。
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