ひとり情シスの退職は「経営リスク」である
中堅企業の約4割は、情報システム担当者が1名以下の体制で運用されているといわれています。いわゆる「ひとり情シス」の状態です。ひとり情シスの担当者が退職や異動で突然不在になった場合、社内のIT環境は一気に機能不全に陥るリスクがあります。アカウントの発行ができない、ネットワーク障害に対応できる人がいない、ベンダーとの契約内容を誰も把握していない——こうした事態は、業務の停滞にとどまらず、セキュリティインシデントや取引先への信用低下にもつながりかねません。
本記事では、ひとり情シスが「今日からでも」始められる引き継ぎドキュメントの整備方法を解説します。退職を控えている方はもちろん、「まだ辞める予定はないが、万が一のことを考えると不安」という方にも役立つ内容です。
なぜ引き継ぎが困難になるのか――3つの構造的原因

ひとり情シスの引き継ぎが難しいのは、本人の怠慢ではなく、構造的な問題に起因しています。
第一の原因は「業務の属人化」です。ひとり情シスは、社内のITインフラ管理、ヘルプデスク対応、セキュリティ対策、ベンダー管理、IT資産管理、さらにはDX推進の企画まで、多岐にわたる業務を一人でこなしています。その過程で蓄積された知識やノウハウの大部分は担当者の頭の中にしか存在せず、ドキュメント化されていないことがほとんどです。
第二の原因は「ドキュメント化する時間がない」ことです。日常的なトラブル対応やヘルプデスク業務に追われる中で、引き継ぎ用のドキュメントを作成する余裕がありません。「落ち着いたら整理しよう」と思いながら、その「落ち着いた時」が永遠に来ないのが、ひとり情シスの現実です。
第三の原因は「引き継ぎ先が存在しない」ことです。ひとり情シスの場合、社内に同じ業務を理解できる人材がいません。退職が決まってから後任を採用しようとしても、IT人材の採用には時間がかかり、退職日までに十分な引き継ぎ期間を確保できないケースが大半です。後任が見つからないまま退職日を迎え、引き継ぎが不完全なまま業務が宙に浮くという最悪のシナリオも珍しくありません。
だからこそ、「退職が決まってから」ではなく、「今の時点から」引き継ぎドキュメントを整備しておくことが重要です。ドキュメントが整備されていれば、後任者だけでなく、外部のアウトソーシング先にも業務を引き渡しやすくなります。
作るべき5種類の引き継ぎドキュメント
ひとり情シスが整備すべき引き継ぎドキュメントは、以下の5種類に整理できます。すべてを一度に作る必要はありません。優先度の高いものから段階的に整備していくことが、現実的かつ継続可能なアプローチです。
1つ目は「業務一覧表」です。これは引き継ぎの土台となる最も重要なドキュメントです。日次・週次・月次・年次で発生するすべての業務を洗い出し、それぞれの業務内容、頻度、所要時間、優先度、関連システム、参照先の情報を一覧にまとめます。定型業務だけでなく、「年に1回しか発生しないが重要な作業」(例:ドメインの更新、SSL証明書の更新、年次のセキュリティ監査対応など)も忘れずに記載してください。この業務一覧表があるだけで、後任者は「情シスが何をしていたのか」の全体像を把握できます。
2つ目は「システム構成図・IT資産管理台帳」です。社内で利用しているサーバー、ネットワーク機器、クラウドサービス(SaaS)、業務アプリケーションの一覧と、それぞれの構成・接続関係を図示したものです。各システムの管理者アカウント情報、契約先のベンダー名、契約期間、更新時期、月額費用もあわせて記録してください。パスワード情報は、セキュリティを考慮してパスワード管理ツールやセキュアな保管場所に別途管理し、その保管場所をドキュメントに明記する方法が推奨されます。
3つ目は「定型業務の手順書(マニュアル)」です。頻度の高い定型業務について、手順を誰が読んでも実行できるレベルで記述したものです。「新入社員のアカウント発行手順」「PCキッティング手順」「VPN接続の設定手順」「バックアップの確認手順」など、後任者が最初に直面する業務から優先的に作成してください。手順書は「画面キャプチャ付き」で作成すると、IT経験が浅い後任者にも伝わりやすくなります。
4つ目は「障害対応フロー・トラブルシューティング集」です。過去に発生したトラブルの内容、原因、対処方法をまとめたものです。「ネットワークが突然つながらなくなった場合」「特定の業務アプリがエラーを起こした場合」「プリンターが動かなくなった場合」など、よくあるトラブルのパターンと解決手順を記録します。さらに、トラブルの深刻度に応じた対応フロー(自力で対応できる範囲、ベンダーに連絡すべき範囲、経営層にエスカレーションすべき範囲)も定義しておくと、後任者が判断に迷わずに済みます。
5つ目は「ベンダー・外部連絡先一覧」です。取引のあるITベンダー、SaaSプロバイダー、通信キャリア、保守業者などの連絡先、契約内容、担当者名、サポート窓口の電話番号やメールアドレスを一覧にまとめます。「このシステムで問題が起きたらどこに連絡すればいいか」が一目でわかる状態にすることが目的です。ベンダーとの契約更新のタイミングも記載しておくと、うっかり契約が切れてしまうリスクを防げます。
ドキュメント整備の進め方――3つの実践ステップ
ここまで読んで
「うちも同じだ」と思った方へ
課題は企業ごとに異なります。30分の無料相談で、
御社のボトルネックを一緒に整理しませんか?
営業電話なし オンライン対応可 相談だけでもOK
限られた時間の中でドキュメントを整備するための現実的な進め方を3つのステップで紹介します。
ステップ1は「業務一覧表を2時間で作る」ことです。完璧を目指す必要はありません。まずは、自分が日常的に行っている業務を思いつく限り書き出してください。マインドマップやスプレッドシートなど、自分が使いやすいツールで構いません。ポイントは「2時間」と時間を区切ることです。2時間で完成しなくても、8割の業務が洗い出せれば十分です。残りは思い出すたびに追記していきます。
ステップ2は「週に1つずつ手順書を作る」ことです。業務一覧表で洗い出した業務の中から、頻度が高くかつ他の人が対応する可能性が高いものを優先して、手順書を作成していきます。1つの手順書にかける時間は30分〜1時間が目安です。重要なのは「完璧な手順書」よりも「存在する手順書」です。粗くてもドキュメントが存在すること自体が、引き継ぎの成否を大きく左右します。日常業務の合間に「今やった作業をそのまま手順書にする」という習慣をつけると、追加の時間をほとんどかけずにドキュメントが蓄積されていきます。
ステップ3は「四半期に1回、棚卸しと更新を行う」ことです。一度作ったドキュメントも、システムの変更やサービスの追加によって内容が古くなります。3か月に1回、業務一覧表と各ドキュメントの内容が現状と合っているかを確認し、必要に応じて更新してください。この棚卸しを定期業務としてカレンダーに登録しておくと、更新漏れを防げます。
引き継ぎドキュメントテンプレートの構成

引き継ぎドキュメントを効率的に作成するためのテンプレート構成を紹介します。以下の構成に沿って情報を埋めていくだけで、必要十分な引き継ぎ資料が完成します。
テンプレートの全体構成は、「表紙(最終更新日、作成者、保管場所)」「第1章:業務一覧表(日次/週次/月次/年次/随時の業務を網羅)」「第2章:システム構成図とIT資産管理台帳(ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービスの一覧と構成)」「第3章:定型業務の手順書(頻度の高い業務から順に掲載)」「第4章:障害対応フローとトラブルシューティング集(過去事例と対応手順)」「第5章:ベンダー・外部連絡先一覧(契約情報と連絡先)」「付録:パスワード管理情報の保管場所、セキュリティポリシーの概要」の7部構成です。
各章は独立して作成・更新できるように設計されているため、一度にすべてを完成させる必要はありません。まず第1章の業務一覧表から着手し、徐々に各章を埋めていくアプローチが最も無理のない進め方です。
まとめ
ひとり情シスの引き継ぎ問題は、「退職が決まってから慌てる」のでは間に合いません。今日からできる最初の一歩は、業務一覧表を2時間で作成することです。完璧である必要はなく、「存在するドキュメント」が属人化を解消する最大の武器になります。本記事で紹介した5種類のドキュメントとテンプレート構成を参考に、ぜひ引き継ぎ体制の整備に着手してください。
「ひとり情シスの業務整理を手伝ってほしい」「引き継ぎドキュメントの作成を支援してほしい」という方は、180社以上の支援実績を持つGXOにお気軽にご相談ください。情シス業務の可視化からドキュメント整備、さらには運用保守のアウトソーシングまで、御社の状況に合わせた体制構築を支援いたします。
👉 無料相談はこちら
「やりたいこと」はあるのに、
進め方がわからない?
DX・AI導入でつまずくポイントは企業ごとに異なります。
30分の無料相談で、御社の現状を整理し、最適な進め方を一緒に考えます。
営業電話なし オンライン対応可 相談だけでもOK




