「中身がわからないシステム」が、DXの最大の壁になっている
レガシーシステムのブラックボックス化は、DX推進における最大の障壁のひとつです。本記事では、ブラックボックス化したシステムを可視化するための3つの実践的な手法——「ドキュメント自動生成」「コード構造解析」「業務フロー棚卸し」——を解説します。自社のレガシーシステムに「何から手をつければよいかわからない」と感じている方に向けて、具体的な進め方とポイントをお伝えします。
「このシステム、中身がどうなっているか誰もわからない」。経営層やIT担当者からこうした声が上がる企業は、決して少数派ではありません。経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」では、日本企業のおよそ8割がレガシーシステムを抱えていることが指摘されました。レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、そしてブラックボックス化といった問題を持つシステムのことです。そしてこの問題を放置した場合、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じるおそれがあると警鐘が鳴らされました。
さらに、2025年5月に経済産業省・デジタル庁・IPAが公表した「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」によれば、現在でもユーザー企業の約6割にレガシーシステムが残存しているとされています。改善は進みつつあるものの、道のりはまだ半ばです。
なかでも深刻なのが「ブラックボックス化」の問題です。長年にわたって担当者が入れ替わりながら継ぎ足しで改修を繰り返した結果、プログラムの構造が複雑に絡み合い、誰もシステムの全体像を把握できなくなっている状態を指します。設計書や仕様書が残っていないケースも多く、当時の開発者が退職してしまえば、なぜその処理が必要なのか、どの機能がどこに影響するのかすら説明できなくなります。
このような状態では、新しいシステムへの移行はおろか、日常的な保守・運用さえリスクを伴います。では、ブラックボックス化したシステムを「見える化」するには、具体的にどうすればよいのでしょうか。以下では、実務で有効な3つの可視化手法を順に解説します。
手法1:ドキュメント自動生成——「設計書がない」問題を解決する

ブラックボックス化の最も典型的な原因は、設計書や仕様書が存在しない、あるいは最新の状態に更新されていないことです。かつてはソースコードを一行ずつ読み解いてドキュメントを手作業で作成していましたが、現在は生成AIやリバースエンジニアリングツールの進化により、ソースコードから設計書・仕様書を自動生成する手法が実用段階に入っています。
この手法では、既存のソースコードをAIに読み込ませることで、プログラムの処理内容を自然言語で記述した仕様書や、システム全体の構造を示す設計書を自動的に出力します。COBOLやPL/Iといったレガシー言語にも対応するツールが登場しており、フローチャートやシーケンス図、ER図といった視覚的なドキュメントを生成できるサービスも増えています。
ドキュメント自動生成の最大のメリットは、属人化の解消です。特定のエンジニアだけが理解していた業務ロジックを文書として残すことで、チーム全体でシステムの仕様を共有できるようになります。また、将来的なシステム移行の際にも、生成されたドキュメントが要件定義の土台として活用できます。
ただし、AIの出力をそのまま鵜呑みにするのは危険です。生成された仕様書の内容が正確かどうか、業務の実態と齟齬がないかを、必ず人間の目で検証するプロセスが欠かせません。AIはあくまで「下書き」を高速で作成するツールであり、最終的な品質保証はエンジニアが担うべきものです。
手法2:コード構造解析——依存関係と影響範囲を「地図」にする
2つ目の手法は、ソースコードの構造をツールで解析し、プログラム同士の依存関係や処理の流れを可視化するアプローチです。ドキュメント自動生成が「個々のプログラムの中身を説明する」ことに重点を置くのに対し、コード構造解析は「システム全体の関係性を俯瞰する」ことに強みがあります。
具体的には、ソフトウェアメトリクス解析やアーキテクチャ構造解析と呼ばれる手法を用いて、モジュール間の呼び出し関係、データフロー、変数やコンポーネントの依存関係を自動的に特定し、ネットワーク図やツリー構造として表示します。これにより、「この機能を変更すると、どこに影響が及ぶのか」という改修時の影響範囲を事前に把握できるようになります。
コード構造解析が特に威力を発揮するのは、大規模なシステムの改修や移行を計画する場面です。たとえば、基幹システムの一部をクラウドに移行する場合、移行対象のモジュールと他のモジュールとの結合度を定量的に評価できれば、移行の優先順位やリスクの高い箇所を客観的に判断できます。感覚や経験に頼らず、データに基づいた意思決定が可能になるのです。
近年では、AIを活用したコード解析ツールも登場しています。自然言語でシステムに関する質問を入力すると、該当するコードの箇所や処理内容をAIが回答してくれる仕組みです。レガシー言語に精通したエンジニアが社内にいなくても、システムの構造を把握する手がかりが得られる点は大きな進歩と言えるでしょう。
手法3:業務フロー棚卸し——「なぜこの処理があるのか」を業務視点で整理する
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3つ目の手法は、技術面からではなく業務の側面からシステムを可視化する「業務フロー棚卸し」です。前述の2つの手法がソースコードを起点としているのに対し、この手法は「現場で実際にどのような業務が行われているか」を起点として、業務プロセスとシステム機能の対応関係を明らかにします。
なぜ業務視点からのアプローチが重要なのでしょうか。それは、ブラックボックス化したシステムには「使われていない機能」や「二重化した処理」が多数含まれている可能性が高いからです。業務フロー棚卸しを行うことで、実際に業務で利用されている機能と、すでに不要になっているにもかかわらず残り続けている機能を仕分けることができます。
具体的な進め方としては、まず現場の担当者へのヒアリングを通じて、日常業務の流れを業務フロー図として可視化します。次に、各業務ステップがどのシステム機能に対応しているかをマッピングし、業務とシステムの対応表を作成します。この作業によって、「システム上は存在するが誰も使っていない機能」「手作業で補完している業務」「複数のシステムで重複している処理」といった実態が浮き彫りになります。
業務フロー棚卸しのもうひとつの効果は、システム刷新後の「あるべき姿」を描きやすくなることです。現行の業務プロセスを整理した上で、不要な処理を削ぎ落とし、本当に必要な機能だけを新システムに移行する判断が可能になります。これにより、移行対象のスリム化によるコスト削減と、刷新後のシステムの保守性向上の両方が実現できます。
JUAS「企業IT動向調査報告書」によれば、レガシーシステム刷新の阻害要因として「複雑化したシステム」を挙げる企業が約6割に上ります。業務フロー棚卸しは、この複雑さを業務の側面から解きほぐし、刷新プロジェクトの成功確率を高める有効な手段です。
3つの手法を組み合わせることで可視化の精度が上がる

ここまで3つの手法を個別に解説しましたが、実際のプロジェクトではこれらを組み合わせて活用することが重要です。ドキュメント自動生成で個々のプログラムの仕様を明らかにし、コード構造解析でシステム全体の依存関係を俯瞰し、業務フロー棚卸しで「なぜその機能が必要なのか」を業務視点から裏づける。この3層のアプローチにより、ブラックボックスの解消は飛躍的に精度が上がります。
可視化を進める際に注意したいのは、「完璧を目指して立ち止まらない」ことです。レガシーシステムのすべてを一度に可視化しようとすると、膨大な工数がかかり、プロジェクトが頓挫するリスクがあります。まずはビジネス上のインパクトが大きい業務領域や、改修頻度が高いモジュールなど、優先度の高い部分から段階的に取り組むのが現実的です。
御社で今すぐ着手できるアクションとしては、次の5つが挙げられます。まず、自社のシステムの中で「設計書が存在しない」「特定の担当者しか触れない」領域を洗い出すこと。次に、業務部門へのヒアリングで「使われていない機能」「手作業で補っている業務」を把握すること。そして、コード構造解析ツールの無料トライアルなどを活用し、システムの依存関係を可視化してみること。加えて、可視化プロジェクトの対象範囲と優先順位を経営層と合意しておくこと。最後に、外部の専門パートナーに現状分析を依頼し、客観的な評価を得ることです。
まとめ:ブラックボックスの解消は、DX推進の「最初の一歩」
レガシーシステムのブラックボックス化は、DX推進を阻む根本的な課題です。しかし、ドキュメント自動生成・コード構造解析・業務フロー棚卸しという3つの可視化手法を適切に組み合わせることで、「中身がわからない」状態を段階的に解消していくことが可能です。
重要なのは、可視化はゴールではなく、システム刷新やDX推進に向けた「出発点」であるということです。まずは現状を正しく把握し、何を残し、何を捨て、何を新しくするかの判断材料を揃えること。それが、レガシーシステムの呪縛から解放される第一歩となります。
GXOでは、180社以上の支援実績をもとに、レガシーシステムの現状分析からDX戦略の策定、システム刷新の実行まで一気通貫で伴走しています。「自社のシステムがどの程度ブラックボックス化しているかわからない」「どこから手をつけるべきか判断できない」という方は、まずは現状分析からご相談ください。
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