GXO株式会社、代表の藤吉です。
前回の記事では、LLM・RAG・CAGというAI技術の基礎と、その限界についてお伝えしました。「AIが人間みたいに、経験から学習してくれたらいいのに…」と思った方も多いのではないでしょうか。
今回は、まさにそれを実現する革新技術「Nested Learning(入れ子学習)」について詳しく解説します。
この記事で得られること
Nested Learning(入れ子学習)が“何を解決する考え方”かが1分で分かる
RAGが“便利なのに育たない”理由が腹落ちする
その考え方を、問い合わせ対応AIに落とす設計イメージが掴める
Nested Learningとは:人間の学習を再現する革新技術
2025年11月7日、Google Researchが Nested Learning(入れ子学習) という新しい機械学習パラダイムを発表しました。 これは、モデルを「複数の“入れ子(ネスト)”になった最適化問題の集合」として捉えることで、継続学習で起きがちな 破滅的忘却(新しいことを学ぶと古いことを忘れる) を抑える狙いがあります。 Google Research、Google Research+1
※本記事で扱うNested Learningは、スマートホーム製品の「Nest Learning Thermostat」の“Learning”とは別物です。
簡単に言うと、「AIが人間のように、経験から継続的に学習する」技術です。
新入社員の成長に例えると
新入社員の田中さん(22歳)が入社してから1年間の成長を想像してください。
入社時(4月):田中さん「お客様対応?初めてです…」(マニュアルを見ながら対応)(30分かかる)
3ヶ月後(7月):田中さん「あ、これ前に似たケースあったな」(マニュアル+経験で対応)(15分で対応)
6ヶ月後(10月):田中さん「このパターンね。こうすればOK」(ほぼ経験だけで対応)(5分で対応)
1年後(翌年4月):田中さん「任せてください!」(後輩に教えられるレベル)(3分で対応、しかも的確)
Nested Learningは、この人間の成長過程をAIで再現します。

Nested Learningの仕組み:「二段階の学習」
人間の学習プロセスを理解する
人間の学習に“速い学び(その場の適応)”と“遅い学び(経験の蓄積)”があるように、Nested Learningは 更新頻度の異なる学習を入れ子にして扱う ことで、継続学習の難所(忘却)を避けようとします。 Google Research+1
外側の学習(長期記憶):学校で学んだ基礎知識、経験から得たパターン、業界の常識など。ゆっくり蓄積される(週〜月〜年単位)
内側の学習(短期適応):今の状況に応じた判断、「これは前回と似てるな」という気づき、過去の経験を今に応用すること。すぐに反応する(秒〜分〜時間単位)
料理の上達に例えると
あなたがカレーを作る練習をしているとします。
外側の学習(長期記憶):1回目はレシピ通りに作る。5回目は「あ、このタイミングで入れるのか」と気づく。10回目は「このとろみ具合がベスト」と分かる。50回目は「完璧なカレーの作り方」が体に染み付く。
内側の学習(短期適応):今日は人数が多いから材料を2倍に調整。冷蔵庫にニンジンがないからジャガイモを多めに。子供がいるから辛さは控えめに。基本(外側)を押さえた上で、状況に合わせて調整(内側)します。
Nested Learningも同じです。
従来技術との違い:具体例で完全理解
長くなりますが、ここが最も重要なので、製造業での品質管理支援を例に詳しく説明します。
RAG(従来技術)の場合
【1回目:1月】
品質管理担当・山田さんが「A製品の不良率が3%に上昇した。原因は?」と質問します。RAGは「A製品」「不良率」「原因」で検索し、品質管理マニュアル(一般論)、A製品仕様書、過去のトラブル事例集(100件)を見つけます。
AIは「一般的な不良の原因としては、1.温度管理の問題、2.湿度管理の問題、3.材料の品質、4.作業者のスキル…」と回答。
山田さんは「うーん、どれなんだろう…」と2時間かけて調査し、「分かった!湿度が65%を超えてた!これが原因だ!」と特定。対策を実施し、報告書を社内システムに保存しました。
【2回目:3月】
山田さんが「またA製品の不良率が上がった…」と質問。RAGは同じく「A製品」「不良率」「原因」で検索し、同じ文書(1件増えただけ)を見つけ、また同じ汎用的な回答をします。
山田さんは「はぁ?前回は湿度が原因だったじゃん!なんで学習してないの!?また2時間調査しろってこと!?」とイライラしながら2時間調査。「やっぱり湿度だった…(疲れた)」
RAGの問題点:毎回同じやり取り、パターンを学習しない、「前回湿度だった」という経験が活かされない、ユーザーの時間を無駄にする、AIへの信頼が失われる。
※RAGは「検索で根拠を取り出す」仕組みであり、仕組み単体では“経験の蓄積→次回に活かす”は起きません(別途、フィードバック設計が必要です)。

Nested Learning的アプローチ(GXOの実装例)の場合
※以下は、Google ResearchのNested Learningの考え方(“育つ=更新頻度の違う学びを分ける”)を、問い合わせ対応/品質管理支援の業務AIに応用した 設計例 です。 Google Research+1
【1回目:1月】
同じ質問に対し、まだ経験が少ないのでRAGと同様に検索して一般的な原因を提示します。ただし「初めてのケースなので、一つずつ調査をお勧めします」と伝えます。山田さんが2時間かけて調査し、湿度が原因だと分かり、対策を実施。結果をシステムに入力します。
ここからがNested Learningの本領。
AIの内部処理(自動)が始まります。
パターン記録として「A製品+不良率上昇=湿度が原因だった」を記録。ナレッジグラフを更新し、A製品→湿度管理→不良率上昇→原因:湿度65%超→対策:除湿器追加→結果:3日で正常化、という関連を構築。
類似パターンを検索し、「過去に似たケースは…B製品でも湿度が原因だった事例あり→湿度の重要性を学習」。さらに週次で全社データを集計し、「湿度×不良率」の傾向を 学習用データとして蓄積。
その上で、精度評価(テスト)→反映可否の承認→段階的な反映(ルール/プロンプト/ナレッジの更新) を行います。
※業務AIでは、いきなり本番でモデルが自己更新しないよう、評価とロールバック前提で更新します。
【2回目:3月】
山田さんが「またA製品の不良率が上がった…」と質問。Nested Learning AIは学習済み知識を活用します。
内部処理(瞬時)でパターンマッチング「A製品+不良率上昇」→過去の類似ケース検出!経験の活用「1月の事例と90%類似」「前回は湿度が原因だった」。検索不要、学習済みなので即座に回答を生成します。
AI「分析結果:【最も可能性の高い原因】湿度管理の問題(確率87%)【根拠】過去の類似ケース3件(1月の事例含む)、全て湿度が原因と確認済み、現在の時期は湿度が上がりやすい【推奨アクション】1.作業環境の湿度を今すぐ確認してください 2.65%を超えている場合、除湿器を追加投入(前回は3台追加で効果あり)3.対策後、3日以内に効果が出る見込み【前回(1月)の詳細】発生日:1月15日、原因:湿度68%、対策:除湿器3台追加、結果:3日後に不良率0.8%まで改善。現在の湿度データ見せますか?」
山田さん「すごい!即座に答えが出た!しかも前回の詳細まで!すぐ確認します!」(5分後)「確認したら、やっぱり湿度70%だった!すぐ対策します!」
「AIのおかげで、2時間かかってたのが5分で終わった!しかも前より的確な指示!」
【10回目:1年後】
山田さん「A製品の不良率が…」AI(山田さんが言い終わる前に)「湿度をチェックしてください。今の季節、過去のデータから82%の確率で湿度が原因です。すでに除湿器レンタル会社に問い合わせメールの下書きを準備しました。送信しますか?」山田さん「完璧すぎる…もう手放せない…」
時系列での成長比較
導入時:RAGもNested Learningも2時間(経験なし)
3ヶ月後:RAGは2時間(変わらず)、Nested Learningは30分(パターン学習)
6ヶ月後:RAGは2時間(変わらず)、Nested Learningは5分(高精度予測)
1年後:RAGは2時間(変わらず)、Nested Learningは1分(予兆検知・予防提案)
RAGは対応時間がずっと同じですが、Nested Learningはどんどん短くなり、最終的には問題が起きる前に予防提案までできるようになります。
まとめ
今回の記事では、Nested Learningの基本的な仕組みと、従来技術(RAG)との決定的な違いを解説しました。
Nested Learningは「人間のように経験から学習する」技術
「外側の学習(長期記憶)」と「内側の学習(短期適応)」の二段階で構成
RAGが毎回同じ対応なのに対し、Nested Learningは使うほど賢くなる
最終的には問題を予測し、予防提案までできるようになる
次回は「Nested Learningで実現できる驚きの機能6選」と題して、予兆検知、パターン発見、個人最適化など、より具体的な活用シーンをご紹介します。
導入に必要なもの(最小)
問い合わせ/品質異常などのログ(できれば“結果”も)
社内ルール・手順書(既存資料でOK)
「正解」を決める基準(誰が承認するか)
【無料相談受付中】
「Nested Learningに興味がある」「自社でも導入できるか知りたい」という方は、ぜひ30分の無料相談をご利用ください。
お問い合わせ:https://gxo.co.jp/contact
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