DX・業務改善📖 8分で読了

AIを入れたのに現場が使わない本当の理由PoC止まりの95%から抜け出す、ワークフロー再設計の視点 (出典:MIT "The GenAI Divide: State of AI in Business 2025" / Fortune 2025年8月18日)

AIを入れたのに現場が使わない本当の理由

AI導入後に現場が使わない原因は、AIの性能ではなく業務設計にある。MIT調査では95%がPoC止まり。成功企業が実践するワークフロー再設計の考え方と、導入前チェックリストを解説。

【3行まとめ】

  • AIが定着しない要因として、AIの性能よりも**業務への統合(業務設計・人の使い方)**が課題になりやすいと指摘されている(出典:MIT Sloan Management Review "The Fundamental Flaw in AI Implementation")

  • 世界的に見ても、95%の生成AIパイロットが財務インパクトゼロで終わっている(出典:MIT "The GenAI Divide: State of AI in Business 2025")

  • 現場起点でワークフローを再設計した企業だけが、AI投資から価値を引き出している(出典:McKinsey "The State of AI" 2025年3月)


【結論】AIが使われないのではない。使える業務になっていないだけだ。

「高い費用をかけてAIツールを導入したのに、現場がまったく使ってくれない」

DX推進担当者や現場責任者の間で、こうした声がしばしば聞かれる。しかし、問題の本質はAIの性能にあるとは限らない。MITの研究が示すように、企業のAI投資が失敗する主因は「ツールの品質」ではなく「企業統合の欠陥」にあるとされている(出典:MIT "The GenAI Divide: State of AI in Business 2025" / Fortune 2025年8月18日)。

つまり、AIが使われない理由は、現場の業務フローがAIを受け入れる設計になっていないことにある。本記事では、なぜ多くの企業でAI導入がPoC(概念実証)止まりになるのか、その構造的な原因と対策を解説する。


【根拠(主要出典)】

本記事の主張は、以下の一次資料・調査機関レポートに基づいている。

出典

主要データ

リンク

MIT "The GenAI Divide: State of AI in Business 2025"

95%のAIパイロットが財務インパクトゼロ

Fortune報道 / PDF(ミラー)

McKinsey "The State of AI"(2025年11月5日版)

ワークフロー再設計企業55% vs 20%、経営層コミット48% vs 16%

McKinsey

McKinsey "The State of AI"(2025年3月12日版)

25属性分析でワークフロー再設計が最大影響因子

McKinsey

Gartner(2024年7月)

2025年末までに30%のGenAIプロジェクトがPoC後放棄

Gartner

TIS調査(東洋経済オンライン報道)2025年11月

日本企業の生成AI全社導入は21.9%

東洋経済オンライン

MIT Sloan(2025年7月)

AI採用後のJ-curve(一時的生産性低下)現象

MIT Sloan

MIT Sloan Management Review

AI導入の根本的問題点(Jeanne Ross)

MIT SMR

ABEJA(2020年2月)

AI導入やPoCで失敗する5つの事例と対処法

ABEJA公式note / ロボスタ


1. AIが定着しない企業の共通点

AIを「追加」しただけで終わっている

MIT Sloan Management Reviewの研究者Jeanne Ross氏は、AI導入の根本的な問題点を次のように指摘している。AIは業務プロセスの自動化を通じて価値を生むが、自動化された処理の結果を人が活用できなければ、その処理には価値がないとされている(出典:MIT Sloan Management Review "The Fundamental Flaw in AI Implementation")。

この指摘は、日本企業が直面している現実を的確に捉えている。現場にAIツールを「追加」しただけでは、既存の業務フローとの間に摩擦が生じ、結果として「使いにくい」「二度手間になる」という評価につながりやすい傾向がある。

経営層の関与が薄い

McKinsey & Companyの2025年調査によると、AI導入で大きな成果を上げている企業(EBIT〈税引前利益〉影響5%以上)では、48%が「経営層がAI推進にオーナーシップを持ち、コミットしている」と回答している。一方、それ以外の企業ではわずか16%にとどまる(出典:McKinsey "The State of AI" 2025年11月5日版)。

経営層の関与が薄いと、AI導入は「IT部門の実験」として位置づけられ、業務プロセス全体の見直しにまで踏み込めない傾向がある。その結果、現場にとっては「自分ごと」になりにくく、定着が進まない場合がある。

【章末サマリー】 AIが定着しない企業には「AIを追加しただけ」「経営層の関与が薄い」という共通点がある。AIは業務フローに溶け込む設計がなければ価値を発揮しにくい。


2. 現場業務とAIのミスマッチが起きる理由

「効率化」だけを目的にしている

AIは効率化の手段として語られることが多い。しかし、McKinseyの分析によれば、AI導入で成果を上げている企業は「効率化」よりも「変革」を目指している傾向がある。ワークフローの根本的な再設計を行った企業は、そうでない企業と比較して約2.8倍(55% vs 20%)の確率でAIから財務的インパクトを得ているという(出典:McKinsey "The State of AI" 2025年11月5日版)。

効率化だけを目的にすると、「今の仕事をAIで少し楽にする」という発想にとどまりやすい。これでは、現場の担当者にとって「わざわざ新しいツールを覚える手間」が「得られるメリット」を上回る可能性がある。

現場の業務フローが可視化されていない

AIを導入する前に、そもそも現場の業務フローが正確に把握できているだろうか。ABEJAの分析によれば、AI導入の失敗パターンの一つに「全体のプロセスデザインの不足」がある。導入前に判断基準を設けず、現状の業務を十分に理解しないままPoCに入ると、「精度は出たが実務で使えない」という結果に陥りやすい傾向がある(出典:ABEJA「AI導入やPoCで失敗する5つの事例と対処法」2020年2月)。

AIは現場を知らない。現場を可視化できていなければ、AIが活躍できる場所は見つからない。

【章末サマリー】 「効率化」だけを目的にしたAI導入は、現場にとってメリットが見えにくい。業務フローの可視化なしにAIを入れても、実務で使える形にはなりにくい。


3. システムが現場に合っていない問題

レガシーシステムとの統合の壁

MIT Sloan Management Reviewの研究では、AI採用後に一時的な生産性低下が起きる「J-curve」現象が報告されている。特に、長年の業務慣行やレガシーシステムを抱える企業では、この影響が顕著になる傾向がある(出典:MIT Sloan "The Productivity Paradox of AI Adoption in Manufacturing Firms" 2025年7月)。

古いシステムにAIを「接ぎ木」しようとしても、データの形式が合わない、API連携ができない、セキュリティポリシーに抵触するなど、技術的な壁が立ちはだかる場合がある。現場担当者からすれば、「使おうと思っても使えない」状態が続くことになりかねない。

データ品質の問題

Gartnerは、生成AIプロジェクトがPoC段階で放棄される主因として「データ品質・リスク管理・ガバナンス体制の不備」を挙げている(出典:Gartner 2024年7月)。

現場で日々蓄積されるデータが、AIの学習や推論に使える状態になっていなければ、どれだけ優れたAIツールを導入しても期待した結果は得られにくい。データの「不在」ではなく「質の高い、アクセス可能で、ガバナンスの効いたデータの不在」が問題の本質である。

【章末サマリー】 レガシーシステムとの統合やデータ品質の問題が、AI活用の技術的な障壁となる。現場が「使いたくても使えない」状態を生まないためには、インフラ整備が不可欠。


4. なぜPoC止まりになるのか:構造的な問題

PoC止まりとは

PoC(Proof of Concept:概念実証)止まりとは、技術検証は完了したものの、本格的な業務導入・全社展開に至らず停滞している状態を指す。「Pilot Purgatory(パイロット地獄)」や「Pilot Paralysis(パイロット麻痺)」とも呼ばれ、世界的にAI活用を進める企業が共通して抱える課題となっている。

世界的に見てもPoC止まりは深刻

MITが2025年に発表した調査によると、企業の生成AIパイロットのうち、実際に財務的なインパクト(P&L影響)を生み出しているのはわずか約5%にとどまる。残りの95%は「PoC止まり」の状態にあるとされている(出典:MIT "The GenAI Divide: State of AI in Business 2025" / Fortune 2025年8月18日)。

日本企業の現状

TISが2024年に実施した調査によれば、日本企業における生成AIの全社的導入は21.9%にとどまり、「PoC止まり」で経営へのインパクトがある成果を出せていない状況にある(出典:東洋経済オンライン 2025年11月)。

Gartnerは2024年のレポートで、「2025年末までに、全生成AIプロジェクトの30%がPoC段階後に放棄される」と予測している。その主因として、明確なビジネスケースやROI指標が設定されていないこと、PoCが技術実験にとどまり業務フローに統合されていないこと、ガバナンス体制が整備されていないことが挙げられている(出典:Gartner 2024年7月)。

PoC止まりの構造

PoC止まりが起きる典型的なパターンとして、以下が指摘されている。

  • 課題設定が曖昧:「AIで何かできないか」から始まり、解決すべき業務課題が特定されていない

  • 成功基準が不明確:PoCの「成功」が何を意味するか定義されないまま開始される

  • 業務統合の設計がない:技術検証だけで終わり、実際の業務フローへの組み込み方が検討されていない

  • 推進体制が脆弱:現場任せになり、経営層のコミットメントがない

AIは「導入」で終わらない。「業務に溶け込む」まで設計しなければ、投資は回収できない。

【章末サマリー】 世界的に95%のAIパイロットが財務インパクトゼロで終わっている。PoC止まりの原因は「課題設定の曖昧さ」「成功基準の不明確さ」「業務統合設計の欠如」にある。


5. ワークフロー再設計とは:成功企業の共通点

ワークフロー再設計の定義

ワークフロー再設計とは、AIがいることを前提に、業務プロセス全体を見直し、人とAIの役割分担を最適化することを指す。既存の業務にAIを「追加」するのではなく、AIが自然に機能する形に業務フロー自体を変革するアプローチである。

ワークフロー再設計こそが成功の鍵

McKinseyの2025年調査では、25の組織属性を分析した結果、「ワークフローの再設計」がAIから財務的インパクトを得るための最も重要な要因であると結論づけている(出典:McKinsey "The State of AI" 2025年3月12日版)。

AI導入で成果を上げている企業の55%が「ワークフローを根本的に再設計した」と回答しているのに対し、それ以外の企業ではわずか20%にとどまる。この差が、成果の差を生んでいる(出典:McKinsey "The State of AI" 2025年11月5日版)。

成功企業とそれ以外の企業の違い

項目

成果を出している企業

それ以外の企業

ワークフロー再設計

55%

20%

経営層のコミットメント

48%

16%

変革志向(効率化ではなく)

高い

低い

(出典:McKinsey "The State of AI" 2025年11月5日版)

現場起点で考える3つのステップ

ステップ1:業務フローの可視化 現場の業務を「見える化」し、どこに時間がかかっているか、どこでミスが起きやすいかを特定する。AIを入れる場所を決める前に、まず現状を正確に把握することが不可欠。

ステップ2:AIがいる前提での再設計 既存の業務にAIを「追加」するのではなく、AIがいることを前提に業務フロー全体を再設計する。これにより、AIが「自然に使える」状態を作り出せる。

ステップ3:小さな成功の積み重ね 全社展開を急がず、特定の業務・部門で成果を出してから横展開する。小さな成功体験が、現場のAI活用への信頼を醸成する。

【章末サマリー】 ワークフロー再設計とは、AIを前提に業務プロセス全体を見直すこと。成功企業の55%がこれを実施しており、それ以外の企業(20%)との差が成果の差を生んでいる。


FAQ

Q1. AIツールを導入したのに使われません。原因は何でしょうか?

AIツールが既存の業務フローと「ミスマッチ」を起こしている可能性があります。現場の担当者にとって、新しいツールを使う手間が得られるメリットを上回っている状態かもしれません。まずは現場の業務フローを可視化し、AIが自然に使える形に再設計することが重要です。

Q2. PoCは成功したのに本格導入に進めません。なぜでしょうか?

PoCの「成功」と「本番運用への適合」は異なる基準で評価される場合があります。PoCでは技術的な精度だけを見ていたが、実際の業務では使い勝手やシステム連携、運用コストなど多くの要素が関わってきます。PoC開始前に、本格導入への判断基準を明確にしておくことが推奨されます。

Q3. 現場がAIに抵抗感を持っています。どうすればよいでしょうか?

抵抗感は「よくわからないもの」への不安から生じる傾向があります。まずは小規模な業務でAIを試し、成果を可視化することが効果的です。「自分の仕事が楽になった」という実感が広がれば、自然と活用が進む傾向があります。また、経営層がAI活用の意義を明確に示し、現場の不安に応えることも重要です。

Q4. DXとAI導入は同じことでしょうか?

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して事業や組織を変革することを指します。AI導入はその手段の一つですが、DXの本質は「技術の導入」ではなく「業務や組織の変革」にあります。AIを入れても業務が変わらなければ、それはDXとは言えません。

Q5. 中小企業でもAI活用は可能でしょうか?

可能です。ただし、大企業と同じアプローチを取る必要はありません。まずは「どの業務に時間がかかっているか」を洗い出し、小さな範囲から始めることが推奨されます。既存のSaaSサービスに組み込まれたAI機能を活用するなど、初期投資を抑えた方法もあります。


AI導入前チェックリスト

AI導入を検討する際、以下の項目を確認してください。

  • [ ] 解決したい業務課題が具体的に特定されている

  • [ ] 現場の業務フローが可視化されている

  • [ ] AIを使う場面と使わない場面が明確になっている

  • [ ] 成功を測る指標(KPI)が定義されている

  • [ ] 経営層がAI推進にコミットしている

  • [ ] 現場担当者への説明と教育の計画がある

  • [ ] 既存システムとの連携方法が検討されている

  • [ ] データの品質とアクセス可能性が確認されている

  • [ ] PoC後の本格導入への判断基準が決まっている

  • [ ] 小規模な成功を積み重ねる計画がある


まとめ:AIが現場で使われるために

AIが現場で使われない原因は、AIそのものにあるとは限らない。業務フローがAIを受け入れる設計になっていないこと、経営層のコミットメントが不足していること、そしてPoCから本格導入への道筋が描けていないことが主な要因として指摘されている。

成功している企業は、AIを「追加する」のではなく、AIがいることを前提にワークフローを「再設計」している。この違いが、AI投資から価値を引き出せるかどうかを分けている。

現場の声を聞き、業務を可視化し、小さな成功を積み重ねる。地道なアプローチこそが、AI定着への近道となる。


出典一覧

  • MIT Sloan Management Review "The Fundamental Flaw in AI Implementation" - Jeanne Ross

  • MIT NANDA Initiative "The Gen AI Divide: State of AI in Business 2025"

  • McKinsey & Company "The State of AI" November 2025

  • McKinsey & Company "The State of AI: How organizations are rewiring to capture value" March 2025

  • MIT Sloan "The Productivity Paradox of AI Adoption in Manufacturing Firms" July 2025

  • TIS調査(東洋経済オンライン報道, 2025年11月)

  • Gartner "Predicts 30% of Generative AI Projects Will Be Abandoned After Proof of Concept By End of 2025" 2024年

  • ABEJA「AI導入やPoCで失敗する5つの事例と対処法」2020年2月


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