パスワードの限界と新しい認証の選択肢

「パスワードを忘れた」「パスワードが漏洩した」という問題に、多くの企業が頭を悩ませています。パスワードレス認証は、パスワードを使わずに本人確認を行う新しい認証方式です。指紋や顔といった生体情報、あるいはスマートフォンやセキュリティキーといったデバイスを活用することで、セキュリティの強化と利便性の向上を同時に実現できます。本記事では、パスワードレス認証の基本的な仕組みから、FIDO2やパスキーといった具体的な技術、そして中小企業が導入するための実践的な手順まで解説します。パスワード管理の負担を軽減しながら、セキュリティを強化したいと考えている方は、ぜひ最後までお読みください。
パスワードレス認証の基本と注目される背景
パスワードレス認証とは、その名の通りパスワードを使用せずにユーザーの本人確認を行う認証方式のことです。従来のパスワード認証では、ユーザーが設定した文字列をサーバー側で照合していました。しかしこの方式には、パスワードの使い回し、推測されやすいパスワードの設定、フィッシング攻撃による漏洩といった構造的な問題があります。
Verizonが発表した「2023 Data Breach Investigations Report」によると、データ漏洩の約80%以上がパスワードに関連する問題から発生しています。パスワードの管理不備や漏洩が、企業のセキュリティにおける最大の弱点となっているのです。
パスワードレス認証では、パスワードの代わりに以下のような要素を使用します。生体認証では指紋、顔、虹彩などの身体的特徴を活用します。所持認証ではスマートフォン、セキュリティキー、ICカードなどのデバイスを使用します。これらの要素は、パスワードのように「知識」として盗まれるリスクが低く、フィッシング攻撃への耐性も高いという特徴があります。
企業がパスワードレス認証に注目する理由は、セキュリティ強化だけではありません。パスワードを忘れた従業員への対応、定期的なパスワード変更の管理、複雑なパスワードポリシーの運用といった業務負担を大幅に軽減できることも大きなメリットです。IT部門の問い合わせの約30〜50%がパスワード関連という調査もあり、この負担軽減は経営面でも無視できない効果をもたらします。
FIDO2とは何か:国際標準規格の仕組みを理解する
パスワードレス認証を実現する技術として、現在最も普及が進んでいるのがFIDO2(ファイドツー)です。FIDO2は、FIDO Alliance(ファイドアライアンス)という業界団体が策定した国際標準規格で、Google、Microsoft、Apple、Amazonといった大手テクノロジー企業が参加しています。
FIDO2の技術的な仕組みを簡単に説明します。FIDO2では「公開鍵暗号方式」という技術を採用しています。ユーザーがサービスに登録する際、デバイス内で「秘密鍵」と「公開鍵」のペアが生成されます。秘密鍵はデバイス内に安全に保管され、公開鍵だけがサービス側のサーバーに送信・保存されます。
認証時には、サーバーから送られてきたチャレンジ(認証要求)に対して、デバイス内の秘密鍵で署名を行い、その署名をサーバーに送信します。サーバーは保管している公開鍵で署名を検証し、正当なユーザーであることを確認します。この仕組みにより、パスワードのような秘密情報がネットワーク上を流れることがなく、サーバー側にも秘密情報が保存されないため、情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。
FIDO2は、WebAuthn(ウェブオースン)とCTAP(シータップ)という2つの仕様で構成されています。WebAuthnはWebブラウザとサーバー間の認証プロトコルを定めたもので、CTAPはデバイス(スマートフォンやセキュリティキー)とWebブラウザ間の通信プロトコルを定めたものです。この2つが連携することで、様々なデバイスやブラウザで統一された認証体験が実現されています。
パスキーの登場:より身近になったパスワードレス認証
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2022年以降、FIDO2をさらに使いやすくした「パスキー」という技術が急速に普及しています。パスキーは、Apple、Google、Microsoftが共同で推進している認証方式で、FIDO2の技術をベースにしながら、一般ユーザーにとっての使いやすさを大幅に向上させています。
パスキーの最大の特徴は、クラウド同期による利便性です。従来のFIDO2では、秘密鍵は特定のデバイスに紐づいていたため、新しいデバイスを使用する際には再度登録が必要でした。パスキーでは、秘密鍵がiCloudやGoogleアカウントを通じてクラウド同期されるため、同じアカウントに紐づいた複数のデバイスで同一の認証情報を使用できます。
例えば、iPhoneで登録したパスキーを、iPadやMacでもそのまま使用できるようになります。これにより、デバイスを紛失した際のリカバリーも容易になり、パスワードレス認証導入のハードルが大きく下がりました。
FIDO Allianceの発表によると、2024年時点で主要なWebブラウザ(Chrome、Safari、Edge、Firefox)とOS(Windows、macOS、iOS、Android)のほぼすべてがパスキーに対応しています。また、多くの大手Webサービスがパスキー認証の導入を進めており、今後数年で急速に普及することが予想されています。
企業システムへの導入という観点では、パスキーはMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)やGoogle Workspaceなどの主要なIDaaS(Identity as a Service)でもサポートが進んでおり、企業の認証基盤に組み込みやすい環境が整いつつあります。
パスワードレス認証導入のメリットと注意点

パスワードレス認証を導入することで、企業は複数の面でメリットを享受できます。まずセキュリティ面では、フィッシング攻撃への耐性が格段に向上します。パスワードレス認証では、認証情報が特定のサービス(オリジン)に紐づいているため、偽サイトに誘導されても認証情報を詐取されることがありません。また、パスワードリスト攻撃やブルートフォース攻撃といった、パスワードを標的にした攻撃手法自体が無効化されます。
業務効率の面では、パスワード関連の問い合わせ対応が削減されることで、IT部門の負担が軽減されます。また、ユーザー側も複雑なパスワードを記憶する必要がなくなり、ログイン時のストレスが軽減されます。認証にかかる時間も、パスワード入力と比較して短縮されることが多く、業務全体の効率化につながります。
一方で、導入に際しては注意すべき点もあります。まず、すべてのシステムやサービスがパスワードレス認証に対応しているわけではないという点です。特にレガシーシステムや一部の業務アプリケーションでは、パスワード認証が必須となっている場合があります。このため、完全なパスワードレス化ではなく、段階的な導入や、パスワードレス認証と従来認証の併用を検討する必要があります。
また、生体認証を使用する場合には、プライバシーへの配慮も重要です。生体情報は変更できない情報であるため、その取り扱いには十分な注意が必要です。FIDO2やパスキーでは、生体情報自体はデバイス内で処理され、サーバーには送信されない設計になっていますが、この点を従業員に正しく説明し、理解を得ることが導入成功の鍵となります。
デバイス紛失時の対応も事前に検討しておく必要があります。パスキーのクラウド同期機能を活用することで、デバイス紛失時のリスクは軽減されますが、それでも代替認証手段やアカウントリカバリーの手順を整備しておくことが重要です。
中小企業がパスワードレス認証を導入するための実践ステップ
パスワードレス認証の導入を検討している中小企業に向けて、具体的なアクションを提示します。自社の状況に照らし合わせながら、取り組めることから始めてみてください。
最初のステップは、現状の認証環境の棚卸しです。社内で使用しているシステムやサービスをリストアップし、それぞれがどのような認証方式に対応しているかを確認します。Microsoft 365やGoogle Workspaceを利用している企業であれば、これらのサービスはすでにパスキーに対応しているため、比較的スムーズに導入を開始できます。
次に、パイロット導入から始めることをお勧めします。全社一斉導入ではなく、IT部門や一部の部署でまず試験的に導入し、運用上の課題を洗い出します。この段階で、従業員からのフィードバックを収集し、導入手順やサポート体制を整備していきます。
従業員への教育も重要なステップです。パスワードレス認証の仕組みやメリットを説明し、新しい認証方式への理解と協力を得ることが、スムーズな導入につながります。特に、生体情報の取り扱いに関する不安を払拭するため、技術的な仕組みを分かりやすく説明することが大切です。
段階的な展開として、パイロット導入で得られた知見をもとに、対象範囲を徐々に拡大していきます。この際、従来のパスワード認証を完全に廃止するのではなく、パスワードレス認証を優先しつつも、バックアップとしてパスワード認証を残しておくことで、移行期のトラブルに対応しやすくなります。
最後に、継続的な見直しと改善を行います。パスワードレス認証の技術は急速に進化しており、新しい認証方式や対応サービスが次々と登場しています。定期的に最新動向をキャッチアップし、自社の認証基盤を継続的に改善していくことが重要です。
まとめ
パスワードレス認証は、パスワードに起因するセキュリティリスクと管理負担を解消する、現実的かつ効果的な選択肢です。FIDO2やパスキーといった国際標準技術の普及により、中小企業でも導入しやすい環境が整ってきました。セキュリティ強化と業務効率化を同時に実現できるこの技術は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
自社のセキュリティ体制を見直し、パスワードレス認証の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
GXOでは、180社以上の支援実績をもとに、認証基盤の設計から導入、運用支援まで一気通貫でサポートしています。パスワードレス認証の導入や、セキュリティ全般に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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