AIで巧妙化するビジネスメール詐欺、御社は対策できていますか

結論から言えば、BEC対策は「メール認証+送金プロセス統制+継続的な従業員訓練」の3点セットが必須です。本記事で紹介する5つの対策を、まずは1週間で実行してください。
ビジネスメール詐欺(BEC)による被害が深刻化しています。FBIのIC3(Internet Crime Complaint Center)の年次報告によると、BECによる世界全体の被害額は2023年に29億ドルを超えました。サイバー犯罪の中でも最大の経済的損失をもたらしています。生成AIの登場により攻撃は一層巧妙化し、もはや「怪しいメールは見ればわかる」という時代ではありません。本記事では、最新手口の解説から技術対策、従業員教育、そして現場で使えるテンプレートまで、御社が今すぐ実践できる防御策をお伝えします。
ビジネスメール詐欺(BEC)とは何か
BECとは、企業の経営者、取引先、弁護士などの信頼できる人物になりすまし、従業員を騙して不正送金や機密情報の提供を行わせるサイバー攻撃です。IPAが発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」でも、BECは組織向け脅威の上位に継続してランクインしており、日本企業にとっても深刻なリスクとなっています。
BECの特徴は、マルウェアやランサムウェアのような技術的な侵害ではなく、人間の心理的な隙を突く「ソーシャルエンジニアリング」を主な手法としている点です。攻撃者は事前にターゲット企業の組織構造、取引先情報、経営者の出張スケジュールなどを徹底的に調査します。そして、経営者が海外出張中のタイミングを狙って「至急の送金依頼」を送るなど、被害者が冷静な判断を下しにくい状況を意図的に作り出します。
AIがもたらすBECの進化と最新手口
生成AIの急速な発展により、BECの手口は質的に大きく変化しています。従来のBEC攻撃は、文法ミスや不自然な表現が見破るポイントでした。しかし、ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の登場により、攻撃者は完璧な文章を容易に作成できるようになりました。総務省のサイバーセキュリティ関連資料でも、AI悪用による攻撃の高度化が警告されています。
完璧な日本語メールによる詐欺
2023年以降、AIを活用したと見られる精巧なBECメールが急増しています。これらのメールは、ターゲット企業の業界特有の専門用語を正確に使用します。過去のメールのやり取りを模倣した文体で書かれているため、受信者が偽物と見抜くことが極めて困難になっています。経理担当者や財務部門は特に狙われやすい立場にあります。
ディープフェイクによるビデオ会議詐欺
ディープフェイク技術の悪用も深刻な脅威となっています。2024年には、香港の多国籍企業で大規模な被害が発生しました。CFOを含む複数の幹部のディープフェイク動画を使ったビデオ会議詐欺により、約25億円が詐取されたのです。攻撃者は公開されている動画や音声データからリアルタイムでCFOの姿と声を再現し、経理担当者を完全に信じ込ませました。
音声クローニングによる電話詐欺
音声クローニング技術も進化しています。わずか数秒の音声サンプルから、本人と区別がつかない偽の音声を生成できる技術が一般に普及しつつあります。経営者の講演動画やインタビュー音声がSNSや企業サイトで公開されている場合、それらが攻撃者に悪用されるリスクがあります。電話でCEOを装い「緊急の送金が必要だ」と指示する音声フィッシング(ビッシング)の被害も報告されています。
AIを活用した標的型調査
攻撃者はAIを使って、LinkedInなどのSNS、企業のプレスリリース、IR情報などから組織構造や人間関係を自動的に分析しています。経営者の出張予定、大型案件の進行状況、人事異動のタイミングなど、攻撃に最適なタイミングを狙い撃ちにしてくるのです。情報システム部門だけでなく、広報・IR部門との連携も重要になっています。
技術的対策の最前線

BECに対抗するためには、複数の技術的対策を組み合わせた多層防御が不可欠です。単一の対策では、巧妙化する攻撃を防ぎきることはできません。
メール認証技術(SPF・DKIM・DMARC)
メール認証技術の導入は、なりすましメールを防ぐ基本対策です。SPF(Sender Policy Framework)は、送信元IPアドレスが正規のメールサーバーかどうかを検証します。DKIM(DomainKeys Identified Mail)は、メールに電子署名を付与し、改ざんを検知します。DMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting and Conformance)は、SPFとDKIMの認証結果に基づいて、不正メールの処理方法を指定します。これらの技術を適切に設定することで、自社ドメインを悪用したなりすましメールの到達を大幅に減らすことができます。費用をかけずに導入できる対策として、まず着手すべき項目です。
AIを活用したメール検知
AIを活用したメールセキュリティソリューションも有効です。機械学習によって通常のメールパターンを学習し、送信者の行動パターン、文体、送信時間などの異常を検知するツールが登場しています。たとえば、普段は日本語でメールを書く経営者から突然英語のメールが届いた場合に警告を発することができます。通常は業務時間内にしかメールを送らない人物から深夜にメールが届いた場合も検知対象となります。
SIEM・SOARによる統合監視
SIEM(Security Information and Event Management)とSOAR(Security Orchestration, Automation and Response)の導入も検討に値します。SIEMはメールログ、アクセスログ、認証ログなどを統合的に分析し、不審な活動パターンを検出します。SOARは検出されたインシデントに対して、自動的に初動対応を実行します。たとえば、不審なメールを検知した際に、該当アカウントの一時停止、関係者への通知、フォレンジック用のログ保全などを自動的に行うことができます。導入には一定の投資が必要ですが、中長期的なセキュリティ強化には効果的です。
送金ワークフローの統制
送金プロセスの技術的な統制も重要です。振込先口座の変更には、メールだけでなく複数のチャネル(電話、ビデオ会議、対面など)での確認を必須とするワークフローをシステムに組み込むことで、BECによる不正送金を防止できます。一定金額以上の送金には複数の承認者を必要とする多重承認の仕組みも効果的です。経理部門と情報システム部門が連携して、承認フローを設計することが求められます。
従業員教育の設計と実践ポイント
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技術的対策だけでは、BECを完全に防ぐことはできません。最終的に送金を実行するのは人間であり、従業員のセキュリティ意識と判断力が最後の防波堤となります。
フィッシングシミュレーション訓練
フィッシングシミュレーションは、最も効果的な教育手法の一つです。実際の攻撃を模した訓練メールを従業員に送信し、クリック率や報告率を測定します。重要なのは、引っかかった従業員を責めるのではなく、なぜ騙されたのかを一緒に振り返ることです。次回の対応力を高めることが目的です。シミュレーションの結果を部門別、役職別に分析し、リスクの高いグループに対して重点的な教育を行うことも有効です。
ロールプレイングワークショップ
ロールプレイング形式のワークショップも効果があります。経理担当者がCEOを装った電話を受けたという設定で、どのように対応すべきかを実際に演じてみます。頭で理解していることと実際にできることのギャップを埋めることができます。特に、上司からの指示を断ることへの心理的抵抗を乗り越えるトレーニングが重要です。総務部門や人事部門が主導して、定期的に実施することを推奨します。
報告文化の醸成
インシデント発生時の報告ルールの周知徹底も欠かせません。不審なメールを見つけた際や、誤ってリンクをクリックしてしまった際に、どこに、どのように報告すればよいかを全従業員が理解している必要があります。報告しやすい雰囲気づくりも大切です。ミスを責める文化では、従業員はインシデントを隠そうとし、被害が拡大してしまいます。経営層が「報告を歓迎する」姿勢を明確に示すことが重要です。
職種別・リスク別の教育設計
教育内容には、BECの典型的な手口と見破り方、緊急性や権威を悪用する心理的テクニックへの対処法、不審なメールを受け取った際の報告手順、送金依頼を受けた際の確認プロセスなどを含める必要があります。特に経理・財務部門、経営層の秘書、人事部門など、攻撃者に狙われやすい職種には、より詳細かつ頻度の高い教育を実施することが重要です。
現場で使えるテンプレートとチェックリスト
送金・口座変更時の確認チェックリスト
以下の10項目を、送金や口座変更の依頼を受けた際に必ず確認してください。
送信元メールアドレスのドメインは正規のものか(1文字違いに注意)
依頼内容は通常の業務フローに沿っているか
「至急」「極秘」など、心理的圧力をかける表現が含まれていないか
振込先口座が過去に取引実績のある口座か
メール以外の手段(登録済み電話番号への発信)で本人確認を行ったか
上長または別の承認者に相談したか
金額が通常の取引範囲内か
依頼のタイミングが不自然ではないか(深夜、休日、出張中など)
返信先アドレスが送信元と一致しているか
添付ファイルやリンクに不審な点はないか
不審メール報告テンプレート
不審なメールを発見した際は、以下の形式で報告してください。
件名:【不審メール報告】[受信日時] [送信元アドレス]
本文:
受信日時:20XX年XX月XX日 XX:XX
件名:(メールの件名をそのまま記載)
概要:(依頼内容や不審に感じた点を簡潔に記載)
対応状況:(リンクをクリックした/添付を開いた/何もしていない)
添付:該当メールを.eml形式で添付(転送ではなく添付を推奨)
BEC対策ロードマップ(担当部門別)
期間
情報システム部門
経理・財務部門
総務・人事部門
1週間以内
SPF/DKIM/DMARC設定確認
送金承認フロー見直し
報告窓口の周知
30日以内
メール検知ツール評価
口座変更確認ルール策定
全社向け注意喚起配信
90日以内
SIEM/SOAR導入検討
多重承認システム導入
フィッシング訓練実施
御社が今すぐ実践できる5つの対策
BEC対策は、大規模な投資がなくても始められることがあります。以下に、御社が今すぐ実践できる具体的なアクションを優先順位付きで紹介します。
第一に、送金承認プロセスの見直しです(担当:経理部門、1週間以内)。現在の送金フローを確認し、一定金額以上の送金や振込先口座の変更には、メール以外の手段(電話、対面確認など)での確認を必須とするルールを設けましょう。このルールは例外を認めない形で運用することが重要です。「緊急だから」という理由で手順を省略することを許してしまうと、まさにそこを攻撃者に突かれます。
第二に、メール認証技術の導入状況の確認です(担当:情報システム部門、1週間以内)。自社ドメインでSPF、DKIM、DMARCが正しく設定されているか、IT担当者または外部の専門家に確認を依頼しましょう。設定されていない場合は、早急に導入を検討してください。これらの技術は無料で利用でき、なりすましメールの到達を大幅に減らすことができます。
第三に、経営層を含めた訓練の実施です(担当:総務部門、30日以内)。BECは経営者を装うことが多いため、経営層自身がセキュリティ意識を持つことが重要です。経営層がセキュリティ教育に参加する姿勢を見せることで、組織全体のセキュリティ文化の醸成にもつながります。また、経営層の声紋や映像がネット上でどの程度公開されているかを確認し、ディープフェイクに悪用されるリスクを評価することも推奨します。
第四に、報告体制の整備と周知です(担当:総務部門、1週間以内)。不審なメールを受け取った際の報告先と報告方法を明確にし、全従業員に周知しましょう。報告専用のメールアドレスや内線番号を設け、「迷ったら報告」というルールを徹底します。報告者を責めない文化を明確に打ち出すことも重要です。
第五に、定期的な教育・訓練の実施計画の策定です(担当:人事部門、30日以内)。年間のセキュリティ教育計画を策定し、最低でも四半期に一度は何らかの形でBECに関する注意喚起や訓練を行う体制を整えましょう。最新の攻撃事例を共有し、「他人事」ではなく「自分事」として捉える意識づけを継続的に行うことが大切です。
GXOのセキュリティ支援サービス
BEC対策を自社だけで進めることに不安を感じる企業も多いのではないでしょうか。特に、中小企業では専任のセキュリティ担当者を置くことが難しく、日々の業務に追われて対策が後回しになりがちです。
GXOでは、180社以上の支援実績(プロジェクト完遂率92%)をもとに、企業のセキュリティ課題に対して包括的な支援を提供しています。具体的には、SPF/DKIM/DMARC設定診断と導入支援、SIEM/SOARの構築と24時間365日のSOC運用監視、従業員向けセキュリティ教育プログラムの設計・フィッシング訓練の実施、インシデント発生時の緊急対応支援まで、お客様の状況に合わせた最適なソリューションを提案します。
福岡本社とベトナム開発拠点を持つGXOは、上流のコンサルティングから下流の運用支援まで一気通貫で対応できる体制を整えています。セキュリティ対策は導入して終わりではなく、継続的な運用と改善が求められます。伴走型の支援により、御社のセキュリティレベルを着実に向上させるお手伝いをいたします。
まとめ
ビジネスメール詐欺(BEC)は、AIの進化によって攻撃手口が高度化しています。完璧な日本語で書かれた詐欺メール、ディープフェイクを使ったビデオ会議詐欺、音声クローニングによる電話詐欺など、技術を悪用した攻撃が現実の脅威となっています。
これに対抗するためには、メール認証技術やAIを活用したセキュリティソリューションなどの技術的対策と、従業員教育による人的対策を組み合わせた多層防御が不可欠です。本記事で紹介した「メール認証+送金プロセス統制+継続的な従業員訓練」の3点セットを軸に、送金承認プロセスの見直し、フィッシングシミュレーションの実施、報告体制の整備など、今すぐ始められる対策から着手しましょう。
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