大切な方が亡くなったあとの手続きは種類が多く、何から手を付ければよいのか分からなくなりがちです。結論からお伝えすると、専門家に相談へ行く前に「相続人は誰か」「財産はどれくらいあるか」「遺言はあるか」の3点をメモ程度でよいので整理しておくと、初回相談で得られる答えの具体性が大きく変わります。
この3点は、司法書士・税理士・行政書士のどの士業に相談する場合でも、最初に必ず確認される項目です。完璧に調べ切る必要はありません。「分かっていること」と「まだ分からないこと」を仕分けしておくだけで、専門家は次に何をどの順番で調べるべきかを示しやすくなります。
この記事では、3つの整理ポイントの確認方法に加えて、2024年4月に義務化された相続登記や相続税の申告期限といった、見落とすと影響の大きい期限、そして相談先の考え方を順に解説します。
なぜ「相談前の整理」で相談の質が変わるのか
士業への初回相談は、時間が限られていることがほとんどです。状況の説明に時間の大半を使ってしまうと、肝心の「では何をすべきか」という助言を受ける時間が短くなってしまいます。事前に要点をメモしておけば、説明は数分で済み、残りの時間を今後の進め方の相談に充てられます。
また、相続で必要になる手続きは、不動産の名義変更(相続登記)、相続税の申告、遺産分割協議書の作成など多岐にわたり、それぞれ担当する士業が異なります。3点の整理ができていると、自分のケースでどの手続きが発生しそうか、つまり誰に相談すべきかの見当が付きやすくなります。
なお、「調べたけれど分からなかったこと」も立派な相談材料です。たとえば財産の一部が把握できない、連絡の取れない親族がいる、といった状況は、それ自体が専門家に調査方法を尋ねるべき論点になります。
整理①:相続人は誰かを確認する
最初に整理したいのは、相続人の範囲です。法律上、誰が相続人になるかは配偶者や子、親、兄弟姉妹といった続柄に応じて決まりますが、正確に確定するには戸籍をさかのぼって収集する必要があります。相談前の段階では、分かる範囲で家族関係を図にしておけば十分です。
戸籍を集めてみると、家族が把握していなかった相続人の存在が判明することもあります。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、相続人の確定は後続のすべての手続きの前提になります。だからこそ、最初の相談で「相続人の調査から必要か、すでに確定しているか」を専門家と共有できると、進め方の設計が早くなります。
- ・亡くなった方(被相続人)の氏名・本籍地・亡くなった日をメモする
- ・配偶者・子・親・兄弟姉妹など、把握している親族関係を図にする
- ・音信不通の親族や、把握しきれていない親族の心当たりを書き出す
整理②:財産の全体像を洗い出す
次に、財産の全体像です。不動産・預貯金・有価証券・保険といったプラスの財産だけでなく、借入金や保証債務などマイナスの財産も含めて書き出します。マイナスが大きい場合には取りうる選択肢や判断の期限が変わってくるため、早い段階で全体像をつかむことが大切です。
正確な金額までは分からなくても構いません。「どこに・何がありそうか」の手がかりを集めておくだけで、専門家は調査の道筋を立てられます。自宅に届く郵便物や通帳、固定資産税の納税通知書などが代表的な手がかりになります。
- ・預貯金:通帳・キャッシュカード・金融機関からの郵便物
- ・不動産:固定資産税の納税通知書・権利証(登記識別情報)
- ・有価証券:証券会社や信託銀行からの取引報告書
- ・保険:保険証券・保険会社からの案内
- ・負債:借入の返済予定表・督促状・保証に関する書類
整理③:遺言の有無と種類を確認する
3つ目は、遺言があるかどうかです。遺言には自筆証書遺言や公正証書遺言などの種類があり、どの種類かによってその後の取り扱いが変わります。自宅の保管場所や貸金庫、生前に付き合いのあった専門家など、心当たりを確認してみましょう。
遺言が見つかった場合、種類によっては家庭裁判所での手続きが必要になるなど、開封や取り扱いに注意を要することがあります。見つけた遺言は勝手に処理せず、そのままの状態で相談時に伝えるのが安全です。遺言がなければ、相続人全員による遺産分割協議で分け方を決めることになります。
なお、エンディングノートや家族へのメモ書きが見つかることもあります。これらは法律上の遺言とは扱いが異なりますが、故人の意向を知る手がかりにはなるため、あわせて保管しておき、相談時に「こういうものが見つかった」と伝えるとよいでしょう。
期限のある手続きを先に押さえる
相続の手続きには、法律で期限が定められているものがあります。代表的なものが相続登記と相続税の申告です。
不動産を相続した場合の名義変更(相続登記)は、2024年(令和6年)4月1日から申請が義務化されました。法務省の案内によれば、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく怠った場合は過料の対象になり得ます。義務化より前に相続した未登記の不動産にも適用があり、こちらは2027年(令和9年)3月31日までが期限とされています。期限内の登記が難しい場合の「相続人申告登記」という簡易な仕組みも設けられています。
相続税の申告が必要な場合は、国税庁のタックスアンサーにあるとおり、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内が申告・納税の期限です。申告が必要かどうかの判断も含めて、財産の全体像が見えた段階で早めに税理士へ確認するのがおすすめです。
このほかにも、マイナスの財産が大きい場合の対応など、より短い期限が設けられている手続きがあります。自分のケースにどんな期限が関係するのかを最初の相談で確認すること自体が、相談前整理の大切な仕上げだと考えてください。
整理した3点を、どの専門家に相談するか
相続では、テーマごとに相談先の士業が分かれます。おおまかには、相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士、遺産分割協議書などの書類作成は行政書士や司法書士が担い、複数の士業が連携して進めるケースも多くあります。相続・遺言の相談先の役割分担で全体像を確認したうえで、相談先診断を使うと、自分の状況に合った入口が見つけやすくなります。
一方、相続人の間で分け方をめぐる対立がある場合は、交渉や裁判手続の代理ができる弁護士の領域です。当サイトには弁護士は掲載していないため、争いが生じている場合は法テラス(日本司法支援センター)や各地の弁護士会が設けている法律相談窓口など、公的な窓口の利用をご検討ください。
初めての士業相談で何を持って行けばよいか迷う方は、オンラインでの士業相談の準備もあわせてご覧ください。この記事は一般的な手続きの整理であり、個別のご事情への当てはめは必ず専門家にご確認ください。
よくある質問
財産が少ない場合でも、相談前の整理は必要ですか?
はい。財産の多寡にかかわらず、不動産があれば相続登記の申請義務(3年以内)の対象になりますし、相続人の確定は預貯金の解約などにも必要です。財産が少ないと感じる場合でも、3点の整理をしたうえで、必要な手続きの有無を専門家に確認することをおすすめします。
相続登記は自分で申請できますか?
制度上は本人による申請も可能で、法務局が手続きのハンドブックを公開しています。ただし、相続人が多い場合や遺産分割協議が必要な場合など、状況によって難易度が変わります。自分で進めるか司法書士に依頼するかは、戸籍収集の負担や不動産の状況を踏まえて判断するとよいでしょう。
遺言書が見つかったら、まず何をすればよいですか?
遺言の種類によって取り扱いが異なり、家庭裁判所での手続きが必要な場合があります。開封や処分をせず、そのままの状態で司法書士などの専門家、または法務局や裁判所の公式案内で取り扱いを確認してください。
相続人同士で意見が対立しています。どこに相談すればよいですか?
相続人間に争いがある場合の交渉や調停・裁判の代理は弁護士の業務領域です。当サイトには弁護士を掲載していないため、法テラスや各地の弁護士会の法律相談窓口など、公的な窓口の利用をご検討ください。
出典・公式情報
- ・法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(2024年4月1日施行・3年以内の申請義務・相続人申告登記の一次情報)
- ・法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」
- ・法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」
- ・国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」(申告期限(10か月以内)の一次情報)
- ・法テラス(日本司法支援センター)
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