「業務フローを可視化しろと言われたが、何から手をつければいいかわからない」——DX推進の現場で、最初にぶつかる壁がこれです。

業務改善の第一歩は 現状(As-Is)を正確に描き、あるべき姿(To-Be)との差分を見える化すること です。しかし、記号の選び方や粒度の決め方を間違えると、せっかく作ったフロー図が「誰も読まない資料」になりかねません。

本記事では、As-Is/To-Beフロー図の書き方を基本記号の選び方から実務テンプレートまで体系的に解説します。ツール比較やフロー図からシステム化へ進む際の費用感もまとめていますので、DX推進担当の方はぜひ最後までご覧ください。


目次

  1. As-Is/To-Beフロー図とは?DX推進で不可欠な理由
  2. フロー図の基本記号と記法ルール
  3. As-Is(現状)フロー図の書き方 5ステップ
  4. To-Be(あるべき姿)フロー図の設計手法
  5. フロー図作成ツール比較と選定ポイント
  6. フロー図からシステム化へ:費用感と進め方

1. As-Is/To-Beフロー図とは?DX推進で不可欠な理由

As-Is/To-Beフロー図とは、業務プロセスの「現状(As-Is)」と「改善後の理想像(To-Be)」を図式化し、両者のギャップを明確にする手法です。

なぜフロー図が必要なのか

業務改善やDX推進プロジェクトが頓挫する原因の多くは、「現状認識のズレ」にあります。経営層・現場・IT部門がそれぞれ異なる業務イメージを持ったまま要件定義に入ると、開発後に「思っていたのと違う」という手戻りが発生します。

フロー図による可視化が解決するのは、以下の3つの課題です。

  • 認識の統一:部門間で業務プロセスの共通理解をつくる
  • ボトルネックの発見:手作業・重複作業・承認待ちなどの非効率を特定する
  • 改善効果の定量化:As-IsとTo-Beの差分から、削減できる工数やコストを試算できる

As-Is/To-Be分析の全体像

分析は以下のフローで進めます。

  1. As-Is調査:現行業務のヒアリング・観察・ドキュメント収集
  2. As-Isフロー図作成:現状プロセスの可視化
  3. 課題抽出:ムダ・ムラ・ムリの洗い出し
  4. To-Be設計:改善後のプロセス設計
  5. ギャップ分析:As-Is→To-Beの移行に必要な施策を整理
  6. 実行計画策定:優先順位づけとロードマップ作成

経済産業省「DXレポート2.1」では、DX推進においてまず「業務プロセスの可視化」を行うことが推奨されています(出典:経済産業省「DXレポート2.1」2021年)。フロー図作成はDXの土台づくりそのものです。

章末サマリー:As-Is/To-Beフロー図は、業務改善・DX推進の「共通言語」。現状を正確に可視化し、理想像とのギャップを明確にすることで、手戻りのないプロジェクト推進が可能になります。


2. フロー図の基本記号と記法ルール

フロー図を描く前に、記号の意味と使い分けルールを押さえておきましょう。ここを曖昧にすると、読み手によって解釈が分かれる図になってしまいます。

基本フローチャート記号

記号名称用途使用例
角丸長方形開始/終了プロセスの開始点と終了点「受注開始」「処理完了」
長方形処理具体的な作業・処理ステップ「見積書作成」「在庫確認」
ひし形判断/分岐Yes/Noの条件分岐「在庫あり?」「承認済み?」
平行四辺形データ入出力データの入力・出力・帳票「注文データ入力」「請求書出力」
矢印フロー処理の流れ・順序各記号間の接続

BPMN記法を採用すべきケース

業務プロセスを詳細に記述する場合は、BPMN(Business Process Model and Notation)の採用を推奨します。BPMNはISO 19510として国際標準化されており、以下のメリットがあります。

  • 部門横断のプロセスを「スイムレーン」で表現できる
  • イベント(トリガー)を明示でき、業務の開始条件が明確になる
  • システム連携部分をサービスタスクとして区別でき、開発要件に直結する

一方、社内の小規模な改善であれば、基本フローチャートで十分です。目的に応じて記法を選びましょう。

粒度の決め方:3つのレベル

レベル粒度用途記述量の目安
L1:概要フロー部門間の業務の流れ経営層への報告・全体俯瞰1枚に10〜15ステップ
L2:業務フロー担当者レベルの作業手順業務改善の分析・要件定義1枚に15〜30ステップ
L3:詳細フローシステム操作レベルの手順画面設計・テスト仕様1枚に30ステップ以上
As-Is/To-Be分析では、まずL2レベルで作成し、システム化の検討段階でL3に詳細化するのが効率的です。

章末サマリー:基本記号は5種類を押さえれば十分。粒度はL2(担当者レベル)から始め、部門横断プロセスにはBPMN記法の採用を検討しましょう。


3. As-Is(現状)フロー図の書き方 5ステップ

As-Isフロー図は「現実を正確に映す鏡」です。理想を混ぜず、ありのままを描くことが最も重要なポイントです。

ステップ1:対象業務のスコープを決める

最初にやるべきは、対象業務の「始まり」と「終わり」を明確にすることです。

悪い例:「受注業務をフロー図にする」(範囲が曖昧) 良い例:「顧客からの注文メール受信〜出荷指示書の発行まで」(始点と終点が明確)

スコープが広すぎると作成に時間がかかりすぎ、狭すぎると改善ポイントが見えません。1つのフロー図で扱う範囲は「1つの業務目的が達成されるまで」を基準にしましょう。

ステップ2:関係者ヒアリング

現場の担当者に業務手順をヒアリングします。ポイントは以下の3つです。

  • 複数人にヒアリングする:同じ業務でも担当者によって手順が異なる場合がある(これ自体が課題)
  • 例外処理も聞く:「通常はこうだが、○○の場合は△△する」という分岐を漏らさない
  • 実際の画面・帳票を見せてもらう:口頭説明だけでは抜け漏れが生じる

ステップ3:ラフスケッチ(手書きでOK)

ヒアリング内容をもとに、まず手書きやホワイトボードでラフに描きます。この段階では記号の正確さにこだわる必要はありません。

ラフスケッチのコツ

  • 付箋を使い、1ステップ=1枚で並べ替えられるようにする
  • 分岐点(判断)を明確にマークする
  • 「誰が」「何を使って」行うかをメモしておく

ステップ4:清書とレビュー

ラフスケッチをツール(後述)で清書し、関係者にレビューしてもらいます。

レビューで確認すべき項目は以下の通りです。

  • 漏れ:「この作業が抜けている」がないか
  • 順序:「実際にはAの前にBをやっている」がないか
  • 担当者:「この作業は別の人がやっている」がないか
  • 所要時間:各ステップにおおよその所要時間を付記する(To-Beとの比較に使う)

ステップ5:課題の可視化

完成したAs-Isフロー図に、課題箇所をマークします。

マーク意味改善の方向性
赤マークボトルネック(待ち時間・滞留)自動化・並列化
黄マーク手作業・属人化システム化・マニュアル整備
青マーク重複作業統合・削除
この課題マーク付きAs-Isフロー図が、次のTo-Be設計のインプットになります。

章末サマリー:As-Isフロー図は「スコープ定義→ヒアリング→ラフスケッチ→清書レビュー→課題可視化」の5ステップで作成。現実をありのまま描くことが最重要です。


4. To-Be(あるべき姿)フロー図の設計手法

As-Isで洗い出した課題をもとに、To-Beフロー図を設計します。ここが業務改善・DX推進の「腕の見せどころ」です。

改善パターン4分類

課題に応じて、以下の改善パターンを適用します。

パターン内容具体例期待効果
排除(Eliminate)不要な作業を削除形骸化した二重チェックの廃止工数削減
統合(Combine)複数作業を1つにまとめる別々の入力画面を統合時間短縮・ミス削減
順序変更(Rearrange)作業順序を最適化承認を後工程から前工程へ移動手戻り削減
自動化(Automate)システム化・RPA・AI活用手入力→OCR+自動データ連携大幅な工数削減

To-Beフロー図の設計ポイント

1. As-Isと同じ粒度で描く As-IsがL2レベルならTo-BeもL2で。粒度を揃えないと正確な比較ができません。

2. 定量的な改善目標を付記する 各改善ポイントに「現状:月40時間 → 目標:月10時間」のように数値目標を記載します。これが後のROI算出の根拠になります。

3. 段階的な移行を想定する 一気にTo-Beへ移行するのは現実的ではありません。「Phase 1:紙帳票のデジタル化」「Phase 2:承認ワークフロー自動化」「Phase 3:AIによる判断支援」のように段階を設計します。

As-Is/To-Be比較テンプレート

以下の比較表をフロー図と合わせて作成すると、改善効果が一目でわかります。

業務ステップAs-Is(現状)To-Be(改善後)改善内容削減効果
受注データ入力メールからExcelに手入力(30分/件)受注フォーム→DB自動連携(5分/件)自動化月20時間削減
在庫確認倉庫に電話確認(10分/件)在庫管理システムで即時確認(1分/件)システム化月8時間削減
見積承認紙の稟議書で回覧(平均2日)ワークフローシステムで承認(平均2時間)デジタル化リードタイム短縮
この比較表は要件定義の際にも活用でき、開発会社との認識合わせに役立ちます。要件定義の進め方については「要件定義の進め方ガイド」で詳しく解説しています。

章末サマリー:To-Be設計は「排除・統合・順序変更・自動化」の4パターンで課題を分類。As-Isと同じ粒度で描き、定量目標を付記することで、ROI算出と段階的移行の計画につなげましょう。


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5. フロー図作成ツール比較と選定ポイント

フロー図作成ツールは無料から有料まで数多くありますが、業務用途では「チーム共有」「バージョン管理」「BPMN対応」の3点が選定基準になります。

主要ツール比較表

ツール費用BPMN対応共同編集特徴
Lucidchart月額約1,000〜2,000円/人直感的UI、テンプレート豊富
Miro月額約1,000〜2,000円/人△(プラグイン)ホワイトボード型、ワークショップ向き
draw.io(diagrams.net)無料○(Google Drive連携)無料でBPMN対応、中小企業に最適
Microsoft Visio月額約600〜1,200円/人○(Microsoft 365連携)Office環境との親和性が高い
Cacoo月額約600〜1,800円/人国産ツール、日本語サポート充実

選定フローチャート

以下の基準で選ぶと失敗しません。

  1. 予算がない → draw.io(無料、十分な機能)
  2. Microsoft 365を導入済み → Visio(追加コスト小、環境統一)
  3. 複数部門でワークショップ形式で使いたい → Miro(リアルタイム共同編集が強い)
  4. 本格的なBPMN図を継続的に管理したい → Lucidchart(バージョン管理・権限管理が充実)

ツール選定の落とし穴

よくある失敗は「ツールにこだわりすぎて、肝心のフロー図作成が進まない」ことです。まずはdraw.ioやPowerPointで素早くプロトタイプを作り、運用が定着してから有料ツールへ移行する段階的アプローチがおすすめです。

章末サマリー:無料ならdraw.io、Office環境ならVisio、チームワークショップならMiro。ツール選定に時間をかけすぎず、まず描き始めることが最優先です。


6. フロー図からシステム化へ:費用感と進め方

As-Is/To-Beフロー図が完成したら、次はTo-Beを実現するためのシステム化です。ここでは費用感と進め方を解説します。

業務フロー可視化→システム化の費用目安

段階内容費用目安
フロー図作成支援外部コンサルによるAs-Is/To-Be作成50万〜150万円
要件定義To-Beフロー図をもとにした機能要件整理100万〜300万円
システム開発(小規模)受発注管理・ワークフロー等の単機能300万〜800万円
システム開発(中規模)複数業務を統合した基幹システム800万〜2,000万円
保守・運用(年間)障害対応・機能追加・サーバー費用開発費の15〜20%/年
※ 上記は一般的な目安です。業務の複雑さや既存システムとの連携要件により変動します。

中小企業のシステム開発費用の詳細は「中小企業のシステム開発費用ガイド」をご参照ください。また、Excelベースの業務を受発注システムに移行する具体的な手順は「Excel→受発注システム移行ステップ」で解説しています。

コストを抑える3つのアプローチ

1. 段階的開発(フェーズ分け) 一括開発ではなく、効果の大きい業務から順にシステム化。初期投資を抑えつつ、早期にROIを実感できます。

2. ノーコード・ローコードの活用 定型的なワークフロー承認やデータ入力画面は、kintoneやPower Appsで構築可能。開発費を3〜5割削減できるケースもあります。

3. 既存SaaSとの組み合わせ すべてをスクラッチ開発する必要はありません。SaaS+カスタム開発のハイブリッド構成で、コストと柔軟性を両立します。

製造業での受発注システム構築の費用詳細は「製造業の受発注システム費用(2026年版)」でまとめています。

開発パートナー選定のポイント

業務フロー可視化の段階から開発パートナーに相談すると、To-Be設計の段階で技術的な実現可能性を確認でき、手戻りを防げます。以下のチェックリストを参考にしてください。

  • 業務ヒアリングから参画してくれるか(コード書きだけの会社は避ける)
  • 類似業務のシステム化実績があるか → GXOの開発事例はこちら
  • 要件定義フェーズだけでも依頼できるか
  • 保守・運用体制が明確か

GXO株式会社では、業務フロー可視化からシステム開発・保守運用まで一貫して対応しています。会社概要はこちらをご覧ください。

章末サマリー:フロー図からシステム化へ進む際の費用は、小規模で300万〜800万円、中規模で800万〜2,000万円が目安。段階的開発・ノーコード活用・SaaS併用でコスト最適化を図りましょう。


まとめ

As-Is/To-Beフロー図は、業務改善・DX推進のすべての起点になるドキュメントです。

本記事のポイントを整理します。

  1. As-Is/To-Beフロー図はDX推進の「共通言語」。関係者間の認識統一と課題の定量化に不可欠
  2. 基本記号は5種類で十分。部門横断プロセスにはBPMN記法を検討
  3. As-Is作成は5ステップ:スコープ定義→ヒアリング→ラフスケッチ→清書レビュー→課題可視化
  4. To-Be設計は4パターン:排除・統合・順序変更・自動化で分類し、定量目標を付記
  5. ツールはdraw.io(無料)から始めてOK。まず描くことが最優先
  6. システム化の費用は小規模300万〜800万円。段階的開発でリスクとコストを抑制

フロー図を描いて終わりではなく、To-Beの実現まで見据えた計画を立てることが成功の鍵です。


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よくある質問(FAQ)

Q1. As-Is/To-Beフロー図の作成にどのくらい時間がかかりますか?

対象業務の規模によりますが、1つの業務プロセスであれば、ヒアリングからAs-Is完成まで1〜2週間、To-Be設計まで含めると2〜4週間が目安です。外部コンサルに依頼する場合は、業務理解のためのヒアリング期間を含めて1〜2か月程度を見込んでおくとよいでしょう。

Q2. フロー図作成は社内でやるべきですか、外部に依頼すべきですか?

理想は「社内主導+外部ファシリテーション」です。業務知識は社内にありますが、客観的な視点やフロー図作成のノウハウは外部の方が豊富です。初回は外部の支援を受けながら作成し、2回目以降は社内で回せる体制を目指すのがコストパフォーマンスの高い進め方です。

Q3. ExcelやPowerPointでフロー図を作っても問題ありませんか?

初期段階ではまったく問題ありません。むしろ、ツール選定に時間をかけるよりも、手元のツールで素早く描き始める方が重要です。ただし、継続的に更新・共有する場合は、バージョン管理や共同編集が可能な専用ツール(draw.ioなど)への移行をおすすめします。

Q4. フロー図からシステム化する際、最初に手をつけるべき業務は?

「作業頻度が高く、手順が定型化されている業務」から着手するのが鉄則です。たとえば、日次で発生する受発注データの入力や、月次で繰り返す請求処理などが典型例です。成功体験を早期に得ることで、社内のDX推進への理解と協力を得やすくなります。

Q5. As-Isフロー図を作ったら、現状の問題点が山ほど出てきました。どう優先順位をつければよいですか?

「影響度(業務への影響の大きさ)× 改善難易度(コスト・時間・技術的ハードル)」の2軸マトリクスで整理しましょう。影響度が高く改善難易度が低い課題(=クイックウィン)から着手するのが定石です。GXOでは無料のDX診断でこの優先順位づけもサポートしています。


参考資料

  • 経済産業省「DXレポート2.1(DXレポート2 追補版)」(2021年)
  • 経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」(2022年)
  • ISO 19510:2013「Information technology — Object Management Group Business Process Model and Notation」
  • 総務省「令和5年版 情報通信白書」
  • IPA「DX実践手引書 ITシステム構築編」(2023年)