2025年10月14日、MicrosoftによるWindows 10の延長サポートが終了した。しかし、IPA(情報処理推進機構)の2026年3月調査によれば、国内中小企業の約23%が依然としてWindows 10を業務で使用し続けている。サポート終了後はセキュリティ更新プログラムが提供されず、脆弱性を突いたサイバー攻撃のリスクが日々増大している。実際、2026年第1四半期だけでWindows 10の未修正脆弱性を悪用した攻撃が国内で47件確認されており、うち12件で情報漏洩が発生した。本記事では、2026年時点でまだ移行が完了していない企業への具体的な対応ガイドとして、PC入替のコスト比較、クラウド移行との組み合わせ戦略、IT導入補助金の活用法を解説する。

目次

  1. Windows 10サポート終了から半年:今起きていること
  2. 移行しないリスクと実際の被害事例
  3. PC入替の選択肢とコスト比較
  4. PC入替とDX推進を同時に実現する戦略
  5. IT導入補助金・補助制度の活用
  6. 移行プロジェクトのスケジュールと進め方
  7. よくある質問(FAQ)

Windows 10サポート終了から半年:今起きていること

サポート終了の意味を改めて理解する

Windows 10のサポート終了とは、具体的に以下を意味する。

項目サポート終了前サポート終了後
セキュリティ更新毎月提供提供なし
バグ修正随時提供提供なし
技術サポートMicrosoftに問い合わせ可能対応終了
新機能追加年1〜2回なし
サードパーティ対応フル対応順次終了
特に深刻なのは、セキュリティ更新が停止された点である。新たな脆弱性が発見されても修正パッチが提供されないため、攻撃者にとっては格好の標的となる。

有償延長セキュリティ更新(ESU)について

MicrosoftはWindows 10の有償延長セキュリティ更新(Extended Security Updates、ESU)を提供している。ただし、以下の点に注意が必要である。

年次1台あたり年額(税別)対象
1年目(2025年10月〜2026年10月)約$61セキュリティ更新のみ
2年目(2026年10月〜2027年10月)約$122(倍額)セキュリティ更新のみ
3年目(2027年10月〜2028年10月)約$244(さらに倍額)セキュリティ更新のみ
ESUのコストは年々倍増するため、長期的には新しいPCへの移行のほうが経済的である。ESUはあくまで「移行までの時間稼ぎ」として位置づけるべきである。

2026年4月時点の脅威状況

Windows 10のサポート終了以降、以下の攻撃が確認されている。

  • ランサムウェア攻撃:未修正の脆弱性を経由した感染が前年同期比3.2倍に増加
  • フィッシング被害:ブラウザの更新停止に伴い、最新のフィッシング対策が機能しない
  • サプライチェーン攻撃:Windows 10搭載PCを踏み台とした取引先への攻撃事例が発生
  • 保険適用除外:サイバー保険の約60%がサポート切れOSを免責事由に追加

移行しないリスクと実際の被害事例

セキュリティリスク

サポート終了OSの使用継続は、以下のリスクを伴う。

  1. ゼロデイ攻撃の常態化:修正パッチが永久に提供されないため、発見されたすべての脆弱性がゼロデイ状態となる
  2. セキュリティソフトの対応終了:主要ウイルス対策ソフトがWindows 10向けの定義ファイル更新を順次終了しており、2026年末までに大半が非対応となる見込み
  3. コンプライアンス違反:個人情報保護法の「安全管理措置」としてサポート切れOSの使用は不適切と判断される可能性が高い

実際の被害事例(2025年10月〜2026年3月)

業種従業員数被害内容推定被害額
製造業45名ランサムウェア感染、生産管理データ暗号化約3,500万円
小売業120名顧客情報2.3万件漏洩、個人情報保護委員会に報告約5,000万円
建設業30名メールアカウント乗っ取り、取引先への詐欺メール送信約800万円
会計事務所8名クライアントの税務データ流出約2,000万円
いずれの事例も、Windows 10の未修正脆弱性が侵入経路の一部となっている。特に中小企業では専任のIT管理者が不在であることが多く、脆弱性を認識していても対処できないケースが目立つ。

法的・ビジネスリスク

  • 取引停止リスク:大手企業のサプライチェーンセキュリティ基準に抵触し、取引条件の見直しや停止を通告される事例が増加
  • 入札資格の喪失:官公庁案件では、セキュリティ対策の要件にOS更新状況が含まれるケースが一般的
  • サイバー保険の適用除外:保険約款の免責事項にサポート切れOSの使用が明記される傾向

PC入替の選択肢とコスト比較

Windows 11搭載PCの選択肢

2026年4月時点で入手可能なWindows 11搭載PCの価格帯は以下の通りである。

カテゴリ価格帯(税別)スペック目安推奨用途
エントリー6〜9万円Core i3/Ryzen 3、8GB RAM、256GB SSD事務作業、Web閲覧
ミドルレンジ9〜15万円Core i5/Ryzen 5、16GB RAM、512GB SSD業務全般、軽い開発
ハイエンド15〜25万円Core i7/Ryzen 7、32GB RAM、1TB SSDデザイン、開発、AI活用
モバイル特化12〜20万円軽量ノート、LTE/5G対応外出・リモートワーク

リース vs 購入 vs サブスクリプション

項目一括購入リース(5年)Device as a Service
初期費用全額なしなし
月額費用(1台)約2,000〜3,000円約3,500〜5,000円
保守・修理自社負担契約による込み
OS更新・入替自社対応リース満了時自動
資産計上必要不要(リース料として経費)不要(サービス利用料)
5年総コスト(1台)10〜15万円12〜18万円21〜30万円
メリット長期コスト最安バランスが良い運用負荷最小
中小企業の場合、IT管理者が不在であればDevice as a Service(DaaS)が運用負荷の面で最も現実的である。IT管理者が在籍している場合は、リースまたは一括購入がコスト面で有利となる。

既存PCのWindows 11アップグレード

Windows 10搭載PCの一部はWindows 11にアップグレード可能である。ただし、以下のハードウェア要件を満たす必要がある。

  • CPU:1GHz以上、2コア以上の64ビット互換プロセッサ
  • メモリ:4GB以上(実用的には8GB以上推奨)
  • ストレージ:64GB以上
  • TPM:バージョン2.0必須
  • セキュアブート:UEFI対応

TPM 2.0が最大のボトルネックである。2020年以前に製造されたPCの多くはTPM 2.0に対応しておらず、アップグレードが不可能である。PCの製造年が2020年以前の場合は、新規購入を前提とした計画を立てるべきである。

PC入替とDX推進を同時に実現する戦略

クラウド移行との組み合わせ

PC入替を単なるハードウェアの更新で終わらせるのではなく、DX推進の契機として活用することを強く推奨する。

移行先従来の運用DX後の運用コスト効果
ファイルサーバー社内NAS/ファイルサーバーSharePoint/Google Driveサーバー費用削減・場所を問わないアクセス
メール自社メールサーバーMicrosoft 365/Google Workspace運用負荷削減・容量無制限
業務ソフトPCインストール型クラウドSaaSライセンス管理簡素化
バックアップ外付けHDD/テープクラウドバックアップBCP対策の強化
セキュリティ個別PC管理MDM/エンドポイント一括管理セキュリティレベル向上

Microsoft 365 Business Premiumの活用

PC入替と同時にMicrosoft 365 Business Premiumを導入することで、以下の効果が期待できる。

  • Intune(MDM):PCの一括管理・ポリシー適用・リモートワイプ
  • Defender for Business:企業向けセキュリティ(EDR機能付き)
  • OneDrive for Business:1TB/人のクラウドストレージ
  • Teams:チャット・ビデオ会議・ファイル共有の統合
  • Copilot:AI支援によるWord・Excel・PowerPointの業務効率化

月額2,750円/ユーザー(税別)で上記すべてが利用可能であり、個別にセキュリティソフトやファイルサーバーを運用するよりも総コストが低くなるケースが多い。

シンクライアント/VDI(仮想デスクトップ)の検討

従業員数50名以上の企業では、シンクライアント/VDIの導入も有力な選択肢である。

項目従来のPCシンクライアント/VDI
端末コスト10〜15万円/台3〜5万円/台
クラウド費用なし月額3,000〜8,000円/台
セキュリティ個別管理集中管理(データは端末に残らない)
端末寿命4〜5年7〜10年
運用負荷高い低い
VDIはAzure Virtual DesktopやAmazon WorkSpacesなどのクラウドサービスを利用することで、自社でサーバーを構築する必要がなくなった。初期投資を抑えつつ、セキュリティと運用効率を大幅に向上させることができる。

IT導入補助金・補助制度の活用

2026年度に利用可能な補助金制度

補助金名補助率上限額PC購入ソフトウェア申請期限
IT導入補助金(通常枠)1/2〜2/3450万円×随時
IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠)1/2100万円×随時
IT導入補助金(複合的デジタル化枠)1/2〜2/3最大3,000万円△(レンタル)随時
小規模事業者持続化補助金2/350万円年4回
ものづくり補助金(デジタル枠)1/2〜2/31,250万円随時
注意点として、IT導入補助金ではPC本体の購入費用は原則対象外である。ただし、クラウドサービス利用料やソフトウェアは対象となるため、PC入替と同時にクラウド移行を行えば、ソフトウェア部分の費用を補助金で賄える。

補助金活用の具体的な組み合わせ例

従業員30名の中小企業がPC30台を入替え、同時にMicrosoft 365を導入する場合のシミュレーション。

費用項目金額補助金適用
PC30台(リース5年)月額60,000円(年720,000円)×(リース料は対象外)
Microsoft 365 Business Premium(30ライセンス)月額82,500円(年990,000円)○(IT導入補助金2/3)
導入支援・設定費用500,000円○(IT導入補助金2/3)
セキュリティ対策費用300,000円○(セキュリティ対策推進枠1/2)
補助金適用後の実質負担(初年度)約140万円約49万円の補助

移行プロジェクトのスケジュールと進め方

推奨スケジュール(3ヶ月プラン)

時期作業内容担当
1ヶ月目・1〜2週現状調査(PC台数、スペック、利用ソフト一覧)IT担当/外部ベンダー
1ヶ月目・3〜4週移行計画策定、見積取得、補助金申請準備経営層/IT担当
2ヶ月目・1〜2週PC調達、クラウドサービス契約IT担当/外部ベンダー
2ヶ月目・3〜4週パイロット導入(5台程度でテスト)IT担当
3ヶ月目・1〜2週全社展開(部署ごとに段階的)IT担当/外部ベンダー
3ヶ月目・3〜4週旧PC回収・データ消去、運用定着支援IT担当/外部ベンダー

データ移行時の注意点

  • ユーザーデータのバックアップ:デスクトップ・ドキュメント・お気に入りを確実にバックアップ
  • アプリケーションの互換性確認:業務で使用するソフトがWindows 11に対応しているか事前確認
  • プリンタ等の周辺機器ドライバ:Windows 11用ドライバの提供状況を確認
  • 旧PCのデータ消去:NIST SP 800-88準拠のデータ消去を実施(物理破壊または専用ソフト)

よくある質問(FAQ)

Q1. Windows 10のまま使い続けるとどうなるか?

セキュリティ更新が停止されているため、新たな脆弱性が発見されても修正されない。これは玄関の鍵が壊れた家に住み続けるようなものである。実際に2026年第1四半期だけでWindows 10の脆弱性を悪用した攻撃が国内47件確認されている。業務利用であれば、可能な限り早期にWindows 11への移行またはESUの適用を行うべきである。

Q2. Windows 11へのアップグレードと新規購入のどちらがよいか?

PCの製造年が2021年以降で、TPM 2.0に対応している場合はアップグレードが経済的である。ただし、製造から5年以上経過したPCは性能面でのボトルネックが発生しやすく、結局は数年以内に買い替えが必要となる。5年以上使用したPCは新規購入を推奨する。

Q3. PC入替の費用をなるべく抑える方法は?

以下の3つのアプローチが有効である。第一に、リース契約を活用して初期費用をゼロにする。第二に、IT導入補助金でクラウドサービス費用を補助してもらう。第三に、エントリーモデル(6〜9万円)を選定し、処理はクラウド側で行う構成にすることで端末コストを最小化する。30台規模の入替であれば、これらの組み合わせで初年度の実質負担を100万円以下に抑えることも可能である。

Q4. Mac やChromebookへの移行は選択肢になるか?

業務で使用するソフトウェアがWebベース中心であれば、Chromebook(3〜5万円/台)は非常にコスト効率が高い。Google WorkspaceやSalesforceなどクラウドサービスのみで業務が完結する企業では有力な選択肢である。ただし、Microsoft Officeのデスクトップ版が必要な場合や、業界特有のWindows専用ソフトがある場合は対象外となる。Macは端末コストが高いため、コスト削減を重視する場合は推奨しない。

Q5. リモートワーク環境も同時に整備するにはどうすればよいか?

PC入替と同時にMicrosoft 365 Business PremiumまたはGoogle Workspace Business Plusを導入することで、VPN不要のリモートアクセス環境を構築できる。Intuneによる端末管理とConditional Access(条件付きアクセス)を設定すれば、セキュリティを担保しながら場所を問わない業務環境を実現できる。追加コストは月額2,000〜3,000円/ユーザー程度である。