2026年度の賃上げ促進税制は、継続雇用者の給与総額を一定以上引き上げた企業に対し、増加額の一部を法人税額から控除できる制度だ。中小企業向け・中堅企業向け・大企業向けに区分されており、中堅企業(資本金・従業員規模で中小企業枠を超える企業群)への要件・控除率は毎年見直されている。

CFO・経営企画の実務担当者にとっての論点は「賃上げ税制の控除枠を、補助金・DX 投資と組み合わせて実効税率をどこまで下げられるか」だ。本記事では、2026 年度の制度前提を踏まえた設計ステップを整理する。

注意: 具体的な控除率・適用要件・上限額は年度ごとに見直されるため、国税庁・経済産業省の公式発表を必ず参照のうえ、顧問税理士との事前協議を前提に設計すること。本記事は制度理解と設計フレームワークを示すもので、個別適用の可否判定ではない。


賃上げ促進税制の基本構造(中堅企業向け)

賃上げ促進税制は、継続雇用者の給与総額を前年度から一定以上増加させた企業が、増加額に所定の控除率を乗じた金額を法人税額から控除できる制度だ。中堅企業枠では、以下の 3 要素が評価軸になる。

  • 給与総額の増加率(基本要件)
  • 教育訓練費の増加率(上乗せ要件)
  • くるみん・えるぼし等の認定取得(上乗せ要件)

中堅企業向け枠は、中小企業向けより基本要件が厳しい一方、上乗せ要件を満たせば控除率が段階的に積み増される構造になっている。

実務上の論点は 3 つ。

  1. 継続雇用者の定義と、対象給与の集計範囲(役員・パート・一時金の扱い)
  2. 教育訓練費の対象費用の線引き(外部研修費・講師謝金・OJT 人件費の扱い)
  3. 控除額の繰越可否と、当期の法人税額との上限関係

セクションまとめ: 中堅企業枠は上乗せ要件を積み上げて控除率を最大化する設計がカギ。対象費用の線引きは顧問税理士との事前確認が必須。


併用を検討できる主な補助金と論点

賃上げ税制は税額控除であり、補助金(歳出)とは法的性質が異なるため、原則として同時活用は可能だ。ただし「同一経費の二重充当」は認められないため、対象経費の切り分け設計が必要になる。

中堅企業が併用を検討する代表的な補助金は以下の通り。

  • 事業再構築系補助金(新分野展開・業態転換・事業再編)
  • ものづくり・商業・サービス系補助金(設備投資・生産性向上)
  • IT 導入補助金(業務 DX・インボイス対応・セキュリティ)
  • 省エネ投資系補助金(省エネ設備更新・EMS 導入)
  • 人材開発支援助成金(教育訓練費の一部助成)

論点 1:人材開発支援助成金は人件費・研修費への助成のため、賃上げ税制の教育訓練費要件とバッティングする可能性がある。助成金の対象費用は、賃上げ税制の教育訓練費集計から除外する設計が基本。

論点 2:事業再構築・ものづくり等の設備投資系補助金は、対象経費が「機械装置・システム構築費」中心のため、賃上げ税制(人件費中心)との経費の棲み分けは比較的しやすい

論点 3:IT 導入補助金で外部ベンダー研修費を計上する場合、同じ研修費を賃上げ税制の教育訓練費に含めるのは NG。領収書レベルで経費を分離管理する。

セクションまとめ: 併用は可能だが「同一経費の二重充当」は不可。対象経費を経費カテゴリ単位で棲み分ける設計が実務の肝。


DX 投資との組み合わせで実効税率を下げる設計

中堅企業の実効税率を下げる設計では、賃上げ税制・補助金・DX 投資促進税制(DX 投資促進税制が当年度に存続する前提)特別償却・税額控除制度の組み合わせを検討する。

組み合わせ例(あくまでフレームワーク、実額は顧問税理士と協議):

  • 人件費ライン:賃上げ促進税制で控除
  • 教育訓練費ライン:賃上げ促進税制の上乗せ要件として組み込み、上限を超える分は人材開発支援助成金で吸収
  • システム構築費ライン:IT 導入補助金 + DX 投資促進税制(または特別償却・中小企業投資促進税制)
  • 設備投資ライン:ものづくり補助金 + 中小企業経営強化税制(適用要件を満たす場合)
  • 省エネ設備ライン:省エネ投資補助金 + 省エネ投資促進税制

この設計で重要なのは施策カレンダーの前倒しだ。補助金は公募時期が固定されており、年度途中で思いついても間に合わない。CFO は期首時点で年度の補助金・税制活用計画を固め、経営計画に織り込む必要がある。

実務スケジュール例(年度開始 3 ヶ月前〜期末):

  • 期首 90 日前:補助金・税制カレンダーの棚卸し、顧問税理士との方針協議
  • 期首 30 日前:賃上げ率・教育訓練費の年間計画を確定
  • 期中 Q1:補助金公募への応募、設備投資計画の具体化
  • 期中 Q2-Q3:投資実行、経費記録の分離管理
  • 期末:賃上げ税制の要件判定、控除額シミュレーション、申告書への反映

セクションまとめ: 税制・補助金・DX 投資は期首時点で年度カレンダーに織り込む。「思いついたタイミングでの活用」は取りこぼしが多い。


実効税率の試算フレーム(中堅企業想定)

実効税率の試算は、以下の 4 ステップで行う。

  1. 基準実効税率の確認(法人税 + 地方税 + 事業税の合算。年度により変動するため顧問税理士に確認)
  2. 賃上げ税制の控除見込額(給与増加額 × 控除率、上乗せ要件の適用判定込み)
  3. 特別償却・税額控除制度の適用見込額(DX 投資促進・中小企業経営強化等)
  4. 実効税率ベースの軽減幅(控除額 ÷ 課税所得ベース)

試算上の留意点:

  • 法人税額の 20% または 25% の上限(賃上げ税制の控除には法人税額に対する上限がある。年度により変動)
  • 繰越税額控除(控除しきれない部分の繰越可否は年度ルールに依存)
  • 地方税への影響(法人住民税への波及)

具体的な税率・控除率は国税庁発表のパンフレットと、顧問税理士による個別シミュレーションを前提とすること。本記事の数値はフレーム提示のみで、実額の試算は税理士に依頼するのが実務の原則。

セクションまとめ: 試算は 4 ステップ。上限・繰越・地方税影響まで織り込むと、現実的な軽減幅が見える。


CFO・経営企画が期首に整備すべき実務リスト

中堅企業の CFO・経営企画が、2026 年度期首に整備すべき実務項目を整理する。

1. 社内データ基盤の整備

  • 継続雇用者の給与総額の月次トラッキング(賃上げ率のリアルタイム把握)
  • 教育訓練費の費目分離(外部研修費・講師謝金・OJT 人件費)
  • 設備投資・システム投資の補助金対象区分

2. 意思決定プロセスの整備

  • 賃上げ・教育訓練費・設備投資の 予算枠の紐付け
  • 補助金応募の 社内承認フロー
  • 顧問税理士・社労士との 年 4 回以上の定例会

3. リスク管理

  • 補助金不採択時の 代替シナリオ(税制優遇のみで試算)
  • 賃上げ未達時の 修正シミュレーション
  • 決算直前の 要件判定ダブルチェック

4. ドキュメント整備

  • 賃上げ税制要件判定の根拠資料(賃金台帳・研修記録)
  • 補助金実績報告の経費証憑
  • 申告書への控除額反映の記録

セクションまとめ: 期首時点の整備が年度末の控除額を決める。データ基盤・意思決定・リスク・ドキュメントの 4 領域を同時並行で進める。


まとめ

  • 賃上げ促進税制と補助金の併用は可能だが、同一経費の二重充当は NG。対象経費の棲み分け設計が実務の肝
  • 中堅企業枠は上乗せ要件(教育訓練・認定取得)を積み上げて控除率を最大化する
  • DX 投資・設備投資・省エネ投資と組み合わせることで実効税率の軽減幅を広げられる
  • 期首時点で年度カレンダーに織り込むことが取りこぼし防止の基本
  • 具体的な税率・控除額は国税庁公式発表および顧問税理士との事前協議を前提に設計する

控除率・上限額・繰越ルール・対象経費の線引きは年度により変動します。必ず国税庁・経済産業省の公式発表を参照のうえ、顧問税理士・社労士との個別協議のもとで設計してください。本記事は制度理解のためのフレームワーク提示であり、個別適用の可否判定を行うものではありません。


FAQ

Q1. 賃上げ税制と人材開発支援助成金の併用はできますか?

原則可能ですが、同一の教育訓練費を両方に計上することはできません。助成金の対象費用は賃上げ税制の教育訓練費要件集計から除外する運用が基本です。費目ごとの分離管理を顧問税理士・社労士と事前協議してください。

Q2. 補助金で取得した資産は賃上げ税制の控除計算に影響しますか?

直接の影響は限定的ですが、補助金充当部分の経費を別途、特別償却や投資促進税制に計上する場合、対象経費の重複計上に注意が必要です。設備投資系の税制と補助金の組み合わせは顧問税理士との事前協議が必須です。

Q3. 中堅企業と中小企業の境目で、どちらの枠を使うべきですか?

資本金・従業員数の基準で機械的に判定されますが、直前期末基準・当期首基準など判定時点の解釈は年度ルールに依存します。境目にある企業は判定時点の確認を顧問税理士に依頼してください。


参考情報

  • 国税庁「賃上げ促進税制パンフレット」
  • 経済産業省「賃上げ促進税制のご利用ガイドブック」
  • 中小企業庁「各種補助金公募情報」
  • 厚生労働省「人材開発支援助成金のご案内」

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