「セキュリティ対策が必要なのはわかっている。でも、どこに頼めばいいのかわからない」――これが、中小企業の経営者やIT兼務担当者の本音だ。
IPA「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策の実態調査報告書」によると、従業員100人以下の中小企業の約3割が「セキュリティ対策への投資額はほぼゼロ」と回答している(IPA、2025年3月)。しかし同調査では、過去3年間でセキュリティインシデントを経験した中小企業のうち、被害額が100万円以上となったケースは約3割にのぼる。JNSA「インシデント損害額調査レポート 第2版」では、情報漏えい1件あたりの平均損害額は約6億3,767万円と報告されている(JNSA、2024年2月)。
「うちは小さい会社だから狙われない」という認識は、2026年の脅威環境では通用しない。警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(令和5年上半期)」では、ランサムウェア被害の約6割が中小企業だと報告されている(警察庁、2023年9月)。攻撃者は「セキュリティが弱い企業」を狙うのであり、企業規模は関係ない。
本記事では、中小企業がセキュリティ対策を外注する際の選択肢を4タイプに分け、費用相場・サービス範囲・選び方を比較するとともに、「まずこれだけはやるべき」最低限の3つの対策を解説する。
セキュリティ外注先の4タイプ
中小企業がセキュリティ対策を外注する先は、大きく4つのタイプに分類できる。それぞれの特徴、対応範囲、費用感を比較する。
タイプ別比較テーブル
| 比較項目 | MSSP(マネージドセキュリティサービスプロバイダ) | SIer(システムインテグレータ) | セキュリティ専門会社 | IT顧問(vCISO型) |
|---|---|---|---|---|
| 主なサービス | 24時間監視、EDR/UTM運用、インシデント対応 | セキュリティ製品の導入・運用・保守 | 脆弱性診断、ペネトレーションテスト、フォレンジック | セキュリティ戦略策定、規程整備、監査対応、経営助言 |
| 対応範囲 | 監視・検知・初動対応に特化 | 導入から運用まで幅広く対応 | 診断・検査・調査に特化 | 戦略・管理・体制構築に特化 |
| 月額費用目安 | 10万〜50万円 | 15万〜60万円 | スポット:50万〜300万円/回 | 15万〜50万円 |
| 24時間対応 | 対応(基本サービスに含む) | オプションで対応可 | 非対応(スポット型) | 非対応(アドバイザリー型) |
| インシデント発生時 | 初動対応から封じ込めまで対応 | ベンダー連携で対応 | フォレンジック調査に対応 | 対応方針の助言、外部連携調整 |
| 契約形態 | 月額定額制 | 月額定額制 or プロジェクト型 | スポット契約 | 月額顧問契約 |
| 向いている企業 | 24時間監視が必要な企業 | IT基盤全体の構築・運用を任せたい企業 | 定期的な脆弱性診断が必要な企業 | セキュリティ体制をゼロから作りたい企業 |
| 中小企業との相性 | ○(エントリープランあり) | △(最低契約金額が高いケースあり) | △(スポット型で利用しやすい) | ○(月次契約で利用しやすい) |
タイプ1:MSSP(マネージドセキュリティサービスプロバイダ)
MSSPは、ファイアウォール、EDR(Endpoint Detection and Response)、UTM(統合脅威管理)などのセキュリティ機器を24時間365日体制で監視・運用するサービスだ。
中小企業にとっての最大のメリットは、自社にセキュリティ専門家がいなくても、専門チームによる常時監視と初動対応が受けられる点だ。サイバー攻撃は深夜・休日に発生するケースが多く、「翌営業日に対応」では被害が拡大する。MSSPはこのギャップを埋める。
注意点:MSSPは「監視と初動対応」が主なサービスであり、セキュリティ戦略の策定や規程の整備はサービス範囲外であることが多い。「MSSPに任せておけば万全」ではなく、経営レベルでのセキュリティ判断は別途必要になる。
タイプ2:SIer(システムインテグレータ)
SIerは、ネットワーク・サーバー・クラウドの構築から、セキュリティ製品の導入・設定・運用までをワンストップで提供する。IT基盤全体を任せたい企業にとっては、窓口が一つで済むメリットがある。
中小企業にとってのメリットは、IT基盤とセキュリティを一体で管理できる点だ。ネットワーク構成を理解した上でセキュリティ対策を設計するため、整合性が取りやすい。
注意点:SIerのセキュリティ対応力は会社によって差が大きい。「セキュリティも対応できます」と言いつつ、実態はUTMの設置だけ、というケースもある。セキュリティ専門のエンジニアが在籍しているかを必ず確認する。
タイプ3:セキュリティ専門会社
脆弱性診断、ペネトレーションテスト(疑似攻撃テスト)、フォレンジック調査(インシデント発生後のデジタル証拠調査)など、高度なセキュリティ技術を提供する会社だ。
中小企業にとってのメリットは、スポット契約で必要なときだけ利用できる点だ。年1回の脆弱性診断や、インシデント発生時のフォレンジック調査など、ピンポイントで専門家の力を借りられる。
注意点:日常的な監視・運用はサービス範囲外のケースが多い。「診断は受けたが、指摘された脆弱性を誰が修正するのか」という運用面の課題は別途解決する必要がある。
タイプ4:IT顧問(vCISO型)
vCISO(virtual Chief Information Security Officer)は、セキュリティの責任者(CISO)機能を外部から提供するサービスだ。月次の顧問契約で、セキュリティ戦略の策定、社内規程の整備、インシデント対応方針の策定、取引先からのセキュリティ監査への対応などを支援する。
中小企業にとってのメリットは、「経営レベルのセキュリティ判断」を専門家に相談できる点だ。「どのツールを入れるべきか」「予算をどう配分すべきか」「取引先からのセキュリティ要求にどう対応するか」といった経営判断を支援してもらえる。
注意点:vCISOはアドバイザリーが主な役割であり、実際のツール運用や監視業務は行わない。運用はMSSPやSIerに別途委託する必要がある。
費用相場の詳細比較
年間費用の比較
中小企業(従業員30〜100名規模)がセキュリティ対策を外注する場合の年間費用目安を比較する。
| 外注タイプ | 年間費用目安 | 含まれるサービス | コストパフォーマンス |
|---|---|---|---|
| MSSP(基本プラン) | 120万〜360万円 | EDR/UTM監視、アラート対応、月次レポート | ◎ 24時間監視がこの価格帯で得られる |
| MSSP(上位プラン) | 360万〜600万円 | 上記+インシデント初動対応、脆弱性管理 | ○ インシデント対応まで任せたい場合 |
| SIer(セキュリティ込み) | 180万〜720万円 | IT基盤運用+セキュリティ監視 | ○ IT基盤も含めて一括管理 |
| セキュリティ専門会社 | 50万〜300万円/回 | 脆弱性診断(年1〜2回) | △ スポット利用に最適 |
| vCISO | 180万〜600万円 | 戦略策定、規程整備、監査対応 | ○ 体制構築フェーズに最適 |
予算帯別のおすすめ組み合わせ
| 年間予算 | おすすめの組み合わせ | 実現できるセキュリティレベル |
|---|---|---|
| 〜100万円 | EDR導入+年1回の脆弱性診断 | 最低限の防御と現状把握 |
| 100万〜300万円 | MSSP基本プラン+年1回の脆弱性診断 | 24時間監視+定期診断 |
| 300万〜500万円 | MSSP上位プラン+vCISO | 監視+インシデント対応+戦略的なセキュリティ管理 |
| 500万円以上 | MSSP+vCISO+年2回の脆弱性診断 | 包括的なセキュリティ体制 |
最低限やるべき3つの対策
「予算が限られていて、全てを外注するのは難しい」という企業に向けて、最低限やるべき3つの対策を示す。この3つは、コストに対する防御効果が最も高い施策だ。
対策1:多要素認証(MFA)の全社導入
費用:月額0〜500円/ユーザー(Microsoft 365やGoogle Workspaceの標準機能を利用すれば追加費用ゼロ)
効果:パスワードが漏洩しても、多要素認証があればアカウントへの不正アクセスを99.9%以上防止できるとMicrosoftが報告している(Microsoft Digital Defense Report 2023)。
やり方:
- Microsoft 365またはGoogle Workspaceの管理画面でMFAを有効化
- 全社員にスマートフォンの認証アプリ(Microsoft Authenticator / Google Authenticator)をインストール
- MFAを「任意」ではなく「強制」に設定する(任意では設定しない社員が出る)
対策2:クラウドバックアップの導入
費用:月額3,000〜15,000円(バックアップ容量による)
効果:ランサムウェアに感染してデータが暗号化されても、クラウド上のバックアップから復旧できる。JNSA「インシデント損害額調査レポート 第2版」では、適切なバックアップからの復旧に成功した企業は、被害額を平均90%以上抑制できたと報告されている(JNSA、2024年2月)。
やり方:
- 業務データを3か所以上にバックアップ(3-2-1ルール:データは3つのコピー、2種類のメディア、1つはオフサイト)
- クラウドバックアップサービス(Acronis、Veeam、AWS Backupなど)を導入
- 月1回のリストアテストを必ず実施する(バックアップの取得だけでは不十分。復元できることを確認するテストが必須)
対策3:EDR(エンドポイント検知・対応)の導入
費用:月額500〜2,000円/台
効果:従来型のウイルス対策ソフト(アンチウイルス)がマルウェアの「侵入を防ぐ」のに対し、EDRは「侵入された後の検知と対応」を行う。既知のマルウェアだけでなく、未知の攻撃パターンも振る舞い検知で捕捉できる。
やり方:
- EDR製品(CrowdStrike Falcon Go、Microsoft Defender for Business、SentinelOne Singularity等)を導入
- 全PCに展開(サーバーを含む)
- アラート対応を自社で行うか、MSSPに委託するかを決定
3つの対策の合計費用
従業員30名・PC30台の企業の場合の月額費用目安を示す。
| 対策 | 月額費用目安 |
|---|---|
| MFA全社導入 | 0円(既存サービスの設定変更) |
| クラウドバックアップ | 約8,000円 |
| EDR(30台) | 約30,000円 |
| 合計 | 約38,000円 |
外注先選定のチェックリスト
セキュリティ外注先を選ぶ際に、必ず確認すべき項目を10個のチェックリストにまとめた。
- [ ] セキュリティ関連の資格・認証を保有しているか(ISO 27001、ISMS、プライバシーマーク等)
- [ ] 自社と同規模の企業の対応実績があるか(大企業向けサービスを中小企業にそのまま適用するケースに注意)
- [ ] SLA(サービスレベル合意書)が明確か(対応時間、レスポンスタイム、稼働率の保証)
- [ ] 24時間対応の体制が整っているか(少なくともセキュリティ監視は24時間365日が望ましい)
- [ ] 月次レポートで状況が可視化されるか(検知した脅威、対応件数、改善提案の報告)
- [ ] インシデント発生時の対応フローが明文化されているか(誰が・何分以内に・何をするか)
- [ ] 担当者が固定されるか(毎回違う担当者だと自社環境の理解が浅くなる)
- [ ] 契約期間と解約条件が明確か(最低契約期間、中途解約のペナルティ)
- [ ] 情報の取り扱い(秘密保持契約)が厳格か(セキュリティ外注先に自社の脆弱性情報を渡すことになる)
- [ ] 緊急連絡先が明示されているか(営業時間外のインシデント発生時に連絡できる窓口)
まとめ
中小企業のセキュリティ対策は、「どこに頼むか」を正しく選ぶことで、限られた予算でも効果的な防御体制を構築できる。
- 外注先は4タイプ:MSSP(監視特化)、SIer(IT基盤一体)、セキュリティ専門会社(診断特化)、IT顧問/vCISO(戦略特化)
- 年間予算100万〜300万円なら、MSSP基本プラン+年1回の脆弱性診断がコストパフォーマンスが高い
- まず最低限やるべき3つの対策:MFA全社導入(0円)、クラウドバックアップ(月額約8,000円)、EDR導入(月額約3万円)
- 外注先選びの鍵はSLAの明確さ、24時間対応体制、インシデント対応フローの有無
「セキュリティ対策は高い」と思い込んでいる経営者は多いが、月額4万円で基本的な防御ラインは構築できる。逆に、何も対策しないまま1件のインシデントを受ければ、数百万〜数千万円の損害が発生する。セキュリティ対策は「コスト」ではなく「損害回避のための投資」だ。
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