IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)は2026年3月27日、「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」の 第4.0版 を公表した。前版(第3.1版、2023年4月公表)から約3年ぶりの大幅改訂であり、生成AIリスク・サプライチェーンセキュリティ・クラウド利用の安全対策が新たに加わった。

ガイドラインは法的拘束力を持たないが、SECURITY ACTION宣言(IT導入補助金の申請要件)やサプライチェーンセキュリティ対策評価制度の実質的な基準として機能する。中小企業のIT担当者・経営者にとって「読まなくてもいいが、対応しないとビジネスに影響する」文書だ。本記事では、改訂ポイントと中小企業が優先的に対応すべき事項を解説する。


目次

  1. 第4.0版の全体構成
  2. 第3.1版からの主要変更点
  3. 新たに追加された対策項目
  4. SECURITY ACTION ★1/★2の要件変更
  5. 「5分でできる自社診断」の使い方
  6. 対応チェックリスト
  7. 経営者が最低限知っておくべき5つのこと
  8. FAQ
  9. まとめ

第4.0版の全体構成

内容対象読者
第1章経営者の責任と役割経営者
第2章情報セキュリティ対策の基本全従業員
第3章情報セキュリティ管理の進め方情報セキュリティ担当者
第4章(新設AI利活用におけるセキュリティ全従業員・管理者
第5章(強化サプライチェーンセキュリティ経営者・担当者
第6章(強化クラウドサービス利用のセキュリティ担当者
付録1情報セキュリティ5か条全従業員
付録25分でできる!情報セキュリティ自社診断経営者・担当者
付録3情報セキュリティポリシーサンプル担当者
付録4情報セキュリティ関連規程サンプル担当者
第3.1版から最も大きな変更は、第4章(AI利活用)の新設 と、第5章(サプライチェーン)・第6章(クラウド)の大幅強化 だ。

第3.1版からの主要変更点

変更カテゴリ第3.1版(2023年4月)第4.0版(2026年3月)
AI関連記載なし第4章として新設。生成AI利用のリスクと対策を体系化
サプライチェーン概要レベルの記載取引先管理の具体的チェックリストを追加
クラウド一般的な注意事項SaaS/IaaS/PaaS別の具体的セキュリティ設定を記載
テレワーク付録的な位置づけ本編に統合、VPN代替(ZTNA)の記載追加
インシデント報告一般的な手順改正個人情報保護法に基づく72時間ルールを明記
経営者の責任啓発レベルサイバー攻撃による経営責任(善管注意義務)を明確化

新たに追加された対策項目

AI利活用のセキュリティ(第4章)

生成AIの業務活用が急速に進む中、AI特有のリスクが初めてガイドラインに盛り込まれた。

AIリスク具体例推奨対策コスト目安
機密情報の外部流出従業員がChatGPTに顧客データや設計図面を入力AI利用ガイドラインの策定、入力禁止データの定義0〜30万円
AIを悪用した攻撃の高度化AI生成フィッシングメールの精度向上フィッシング訓練の更新、メールフィルタリングの強化年10〜30万円
AI生成情報の信頼性AIが誤った法令情報を出力→業務判断に影響AI出力の人間検証ルール、重要判断にはAI単独不可0円(ルール策定)
学習データへのデータ流出無料版AIサービスで入力データが学習に利用オプトアウト設定、法人向けプラン(学習OFF)の利用月額差額数百円/人
シャドーAI従業員が無許可でAIサービスを業務利用利用申請フロー、許可済みサービスリストの策定0円(ルール策定)

サプライチェーンセキュリティ(第5章強化)

  • 取引先との契約にセキュリティ要件を含めることを明確に推奨
  • 委託先のセキュリティ対策状況を定期的に確認するチェックリストを新設
  • インシデント発生時の取引先への通知ルールの策定を推奨

クラウドサービス利用のセキュリティ(第6章強化)

  • SaaS/IaaS/PaaS別の責任分界点(クラウドベンダー vs 利用企業)を明確化
  • クラウドサービスの選定基準チェックリストを追加
  • データ保管場所(国内/海外)の確認義務を記載

SECURITY ACTION ★1/★2の要件変更

SECURITY ACTIONは、IPAが運用する中小企業向けのセキュリティ自己宣言制度だ。IT導入補助金の申請要件にもなっている。

★1(一つ星)の要件

「情報セキュリティ5か条」に取り組むことを宣言する。第4.0版では5か条の内容が一部更新された。

#第3.1版の5か条第4.0版の5か条(変更点)
1OS・ソフトウェアは常に最新に変更なし
2ウイルス対策ソフトを導入EDR導入を推奨(従来のEPPに加え、振る舞い検知型への移行を推奨)
3パスワードを強化MFA導入を推奨(パスワード強化に加え、多要素認証の活用を推奨)
4共有設定を見直すクラウドサービスの共有設定を含む(範囲を明確化)
5脅威や攻撃の手口を知るAI生成攻撃を追加(フィッシングメールのAI生成事例を含む)

★2(二つ星)の要件

「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」を実施し、情報セキュリティ基本方針を策定・公開することを宣言する。

第4.0版では自社診断の項目が更新され、以下が追加・強化された。

  • AI利用に関する項目(生成AIの利用ルール策定状況)
  • サプライチェーンに関する項目(取引先へのセキュリティ要件設定状況)
  • クラウドサービスに関する項目(アクセス制御・データ保管場所の確認)

「5分でできる自社診断」の使い方

IPAが提供する自社診断シートは、25項目の質問に答えるだけで自社のセキュリティ対策状況を数値化できるツールだ。

実施手順

  1. IPAの公式サイトから診断シートをダウンロード(PDF/Excel形式、無料)
  2. 25項目の質問に「実施している」「一部実施」「実施していない」で回答
  3. 合計スコアを算出(100点満点)
  4. スコアに応じた対策レベルを確認

スコアの目安

スコア評価次のアクション
70点以上基本的な対策ができている不足項目の補強+★2宣言の準備
40〜69点対策に穴がある優先度の高い項目から段階的に対応
39点以下早急な対策が必要5か条の実施から着手+専門家への相談を推奨

活用のポイント

  • 経営者とIT担当者が一緒に実施する:経営者だけ、IT担当者だけでは認識にギャップが生じやすい。両者で実施し、認識を一致させることが重要
  • 年2回の定期実施:半期ごとにスコアの推移を確認する
  • 結果を社内で共有する:スコアを可視化することで、セキュリティ対策への社内の理解と協力を得やすくなる

対応チェックリスト

第4.0版に基づく中小企業向けの対応チェックリストを、組織的・人的・技術的・物理的の4カテゴリで整理した。

組織的対策

#チェック項目優先度コスト目安
1情報セキュリティポリシーを策定し、経営層が承認しているか最優先0円(IPAテンプレート活用)
2セキュリティ責任者を任命しているか(兼任可)最優先0円
3リスクアセスメントを年1回以上実施しているか0〜50万円
4インシデント対応計画を策定し、連絡先リストを整備しているか0〜30万円
5AI利用ガイドラインを策定しているか(第4.0版で追加)0〜30万円
6取引先へのセキュリティ要件を契約に含めているか(第4.0版で強化)0円(契約書修正)

人的対策

#チェック項目優先度コスト目安
7全従業員向けセキュリティ研修を年2回以上実施しているか年10〜50万円
8入社時にセキュリティ誓約書を取得しているか0円
9退職時のアカウント無効化を即日実施する手順があるか最優先0円
10標的型メール訓練(模擬フィッシング)を年1回以上実施しているか年5〜20万円

技術的対策

#チェック項目優先度コスト目安
11MFA(多要素認証)をVPN・クラウドサービスに導入しているか最優先月額0〜500円/人
12EDR(エンドポイント検知・対応)を全端末に導入しているか月額500〜1,500円/台
13バックアップを3-2-1ルールで実施しているか最優先月額3万〜10万円
14OS・ソフトウェアのパッチを定期的に適用しているか最優先月額300〜1,000円/台
15ファイアウォール/UTMのログを90日以上保管しているか月額0〜1万円
16クラウドサービスのアクセス権限を最小限に設定しているか(第4.0版で強化)0円

物理的対策

#チェック項目優先度コスト目安
17サーバー・ネットワーク機器の設置場所に施錠管理があるか0〜10万円
18離席時のPC画面ロック(スクリーンセーバー+パスワード)を全社で設定しているか0円
19外部記憶媒体(USB等)の利用ルールを策定しているか0円
20廃棄するPCのデータ消去手順を定めているか0〜5万円

経営者が最低限知っておくべき5つのこと

1. サイバー攻撃は経営リスクである

ランサムウェア被害の平均復旧コストは1,000万〜5,000万円、業務停止期間は平均23日間。中小企業にとっては事業継続を脅かす経営リスクだ。「ITの問題」ではなく「経営の問題」として認識する必要がある。

2. 経営者に善管注意義務がある

取締役には会社法上の善管注意義務があり、合理的なセキュリティ対策を怠った結果インシデントが発生した場合、株主代表訴訟のリスクがある。第4.0版では経営者の責任がより明確に記載された。

3. 対策コストはインシデント損害の1%未満

従業員30名規模の企業でガイドライン準拠の対策を行う場合の年間コストは約57〜98万円(補助金適用後)。インシデント発生時の平均損害額(500万〜5,000万円)と比較すると1%未満の投資だ。

4. SECURITY ACTION宣言はIT導入補助金の申請要件

SECURITY ACTION二つ星は、IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠、補助率1/2・上限100万円)の申請要件だ。宣言自体は無料。ガイドラインへの対応が補助金獲得にも直結する。

5. サプライチェーン対策評価制度の基盤になる

経産省が2026年度に開始する「サプライチェーンセキュリティ対策評価制度」の★1〜★2は、本ガイドラインの対策項目と実質的に連動している。ガイドラインに準拠していれば、評価制度への対応もスムーズに進められる。


FAQ

Q1. ガイドラインに法的拘束力はありますか?

法的拘束力はない。 ただし、SECURITY ACTION(IT導入補助金の申請要件)やサプライチェーンセキュリティ対策評価制度の実質的な基準として機能しており、「知らなかった」では済まない位置づけだ。インシデント発生時に「ガイドラインに準拠していたか」が善管注意義務の判断材料になる可能性もある。

Q2. 第3.1版に準拠していれば第4.0版への対応は不要ですか?

対応が必要だ。 第4.0版ではAIリスク(第4章新設)、サプライチェーン管理の強化、クラウドセキュリティの具体化が追加されている。特にAI利用ガイドラインの策定は、第3.1版に準拠していても追加対応が必要な項目だ。

Q3. 対応にどのくらいの期間がかかりますか?

★1レベル(5か条の実施)は即日〜1週間★2レベル(自社診断+ポリシー策定)は1〜3か月 が目安だ。既にSECURITY ACTION二つ星を宣言済みの企業は、第4.0版の追加項目(AI利用ガイドライン、サプライチェーン管理等)への対応に1〜2か月を見込む。

Q4. 外部の専門家に依頼する必要がありますか?

★2レベルまでは自社対応が可能だ。 IPAが提供するテンプレート(セキュリティポリシーサンプル、関連規程サンプル)を活用すれば、専門家なしでも文書化できる。ただし、リスクアセスメントやインシデント対応計画の策定は、セキュリティの知見がある外部支援を受けることで質と効率が大幅に向上する。

Q5. 従業員10名程度の小規模企業でも対応すべきですか?

対応すべきだ。 ガイドラインは中小企業(小規模事業者を含む)を対象に書かれており、企業規模に応じた段階的な対応が想定されている。まず「5分でできる!自社診断」でスコアを確認し、5か条の実施から着手してほしい。


まとめ

項目ポイント
ガイドライン第4.0版(2026年3月27日公表)
主な改訂AIリスク対応の新設、サプライチェーン・クラウド対策の強化
最優先アクション「5分でできる!自社診断」の実施(無料・即日可能)
SECURITY ACTIONとの関連★1/★2の要件が第4.0版に準拠して更新
対応期間★2水準まで1〜3か月
評価制度との関係サプライチェーンセキュリティ対策評価制度の★1〜★2と実質連動
まず今日できることは、IPAの「5分でできる!自社診断」を実施し、自社のスコアを把握すること。そこが出発点だ。

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