林野庁「森林・林業統計要覧(2025年版)」によると、日本の森林面積は国土の約67%を占める約2,505万ヘクタールに達するが、林業就業者数は過去20年間で約3割減少し、約4.4万人にまで落ち込んでいる。就業者の約25%が65歳以上という高齢化も深刻だ。

一方で、2019年に施行された森林経営管理法により、市町村が森林所有者に代わって経営管理を委託する仕組みが制度化され、森林情報の正確な把握と管理の効率化が急務となっている。この状況を背景に、林業でもデジタル技術の活用、いわゆる「林業DX」の導入が進みつつある。

本記事では、林業DXの主要4分野(GIS森林管理・ドローン測量・原木追跡・作業安全)について、できることと費用の目安を解説する。


林業DXが求められる3つの背景

1. 人手不足と高齢化への対応

林業の現場では、かつて10人で行っていた作業を5〜6人でこなさなければならない状態が常態化している。紙の台帳による森林管理、目視での測量、電話と手書きによる出荷管理といった従来のやり方では、少ない人数で広大な森林を管理しきれない。デジタル技術で作業を効率化し、限られた人員でも回せる仕組みを作る必要がある。

2. 森林経営管理法への対応

森林経営管理法では、森林所有者が適切に経営管理を行わない場合、市町村が経営管理権を取得して意欲ある林業経営者に委託できる仕組みが設けられた。これに伴い、市町村側には森林の現況把握と管理計画の策定が求められている。紙ベースの台帳では、所有者・境界・樹種・林齢・蓄積量といった情報の更新が追いつかず、制度の実効性が担保できない。デジタル化による情報の一元管理が不可欠となっている。

3. 安全管理の強化

林業は、全産業の中で最も労働災害の発生率が高い業種のひとつだ。厚生労働省「労働災害統計(2024年)」によると、林業の死傷年千人率は全産業平均の約10倍にのぼる。伐木作業中の「かかり木」による事故、急斜面での滑落、重機との接触など、危険と隣り合わせの現場で働く作業員の安全を守るために、GPS位置管理やセンサーによるリアルタイム監視が注目されている。


分野1:GIS森林管理システム

GIS森林管理とは

GIS(地理情報システム)を使って、森林の位置・境界・樹種・林齢・蓄積量・施業履歴などの情報を地図上で一元管理する仕組みだ。従来の紙の森林簿や施業台帳をデジタル化し、パソコンやタブレットから必要な情報をすぐに確認できるようにする。

具体的にできること

  • 森林境界の可視化: 所有者ごとの境界を地図上に表示。現地調査時にタブレットで境界を確認しながら作業できる
  • 樹種・林齢・蓄積量の管理: 区画ごとの情報をデータベースで管理し、伐採適期の判断や収穫予測に活用する
  • 施業履歴の記録: いつ、どの区画で、どのような作業(植栽・下刈り・間伐・主伐)を行ったかを記録。次の施業計画の策定に役立てる
  • 森林経営計画の策定支援: 森林経営管理法に基づく経営管理権集積計画の作成を、地図データと連動して効率的に行える
  • 林地台帳との連携: 市町村が管理する林地台帳の情報をGIS上で一体管理することで、所有者への意向調査や管理委託の事務処理を効率化する

主なサービスと費用目安

  • 森林クラウド(各都道府県版): 都道府県が整備する森林GISの基盤。市町村や林業事業体が利用できるが、機能はデータ閲覧が中心のものが多い
  • mapry(マプリー): スマートフォンのLiDARセンサーを使って立木の本数・胸高直径・樹高を現地で計測し、クラウドで管理できるサービス。森林調査の時間を大幅に短縮できる
  • カスタムGISシステム: 自社の業務フローに合わせた森林管理システムを開発する場合、既存の森林データとの連携や独自の帳票出力が可能

導入方式初期費用の目安月額費用の目安
SaaS型(クラウドサービス)0〜30万円月額3〜8万円
カスタム開発200〜400万円保守月額2〜5万円

分野2:ドローン測量

ドローン測量でできること

従来、森林の測量は人が現地に入り、コンパスと測量機器を使って行っていた。急斜面や密林では1日に測量できる面積が限られ、安全面のリスクも伴う。ドローンを使えば、上空から広い範囲を短時間で測量でき、以下のデータを取得できる。

  • オルソ画像(上空からの正射投影写真): 森林の現況を俯瞰で把握。伐採後の地形確認や路網計画の検討に活用する
  • DSM/DTM(数値表面モデル/数値地形モデル): 樹木を含む表面の高さデータと、地表面の高さデータ。樹高の推定や崩壊危険箇所の特定に使う
  • 立木の本数・樹種の推定: AI画像解析と組み合わせることで、上空写真から立木の本数や樹種を自動推定する試みが実用段階に入りつつある
  • 路網の計画・管理: 地形データをもとに、林道や作業道の計画を机上で検討。災害後の路網被害状況もドローンで迅速に確認できる

導入の注意点

  • 航空法の規制: 森林上空は多くの場合DID(人口集中地区)外だが、150m以上の高度での飛行や目視外飛行(BVLOS)には国家資格(二等以上の無人航空機操縦者技能証明)または個別の飛行許可が必要
  • 天候の制約: 風速5m/s以上、雨天、濃霧の場合は飛行できない。山間部は天候が変わりやすいため、予備日を含めたスケジュール設計が重要
  • データ処理のスキル: 撮影した画像を測量データに変換するには、専用ソフト(Pix4D、DJI Terraなど)の操作スキルが必要。外部委託も選択肢のひとつ

費用目安

項目費用の目安
測量用ドローン機体(RTK対応)100〜250万円
画像処理ソフト(年間ライセンス)30〜60万円/年
外部委託(測量代行)1haあたり3〜8万円
パイロット養成(講習費用)20〜40万円/人
自社でドローンを購入する場合と、外部に測量を委託する場合では投資額が大きく異なる。年間の測量面積が50ha以下であれば、外部委託のほうが費用を抑えられるケースが多い。

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分野3:原木追跡システム(QRコード・RFID)

原木追跡とは

伐採した原木の1本1本に識別情報を付与し、「どの山のどの区画で伐採されたか」「いつ搬出されたか」「どの市場・製材所に出荷されたか」を一貫して追跡できる仕組みだ。食品業界でいうトレーサビリティに相当する。

なぜ原木追跡が必要か

  • 合法木材の証明: 2017年施行のクリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)により、木材関連事業者には合法性の確認が求められている。伐採届との紐づけにより、合法性を客観的に証明できる
  • 森林認証(FSC/PEFC/SGEC)への対応: 認証材として販売するためには、CoC(加工・流通過程の管理)認証が必要。原木追跡システムがあれば、認証監査への対応が効率化される
  • 原価管理の精緻化: 原木1本単位のコスト(伐採費・搬出費・運送費)を把握できるため、どの山のどの樹種が利益率が高いかをデータで判断できるようになる

仕組みの概要

  1. 伐倒時: 原木の木口にQRコードラベルまたはRFIDタグを取り付け、伐採日・場所・樹種・長さ・径級をスマートフォンやハンディ端末で登録する
  2. 集材・搬出時: 土場に集積した原木のQRコードを読み取り、搬出日時と数量を記録する
  3. 市場・製材所への出荷時: 出荷先と納品日を紐づけて記録。出荷伝票の自動生成が可能
  4. データの一元管理: クラウド上で伐採から出荷までの全履歴を閲覧・集計できる

費用目安

項目費用の目安
SaaS型追跡システム月額5〜10万円
QRコードラベル(耐水・耐候性)1枚5〜15円
RFIDタグ(耐環境性)1個50〜200円
ハンディ端末(業務用)15〜30万円/台
カスタム開発(既存システム連携含む)250〜600万円
QRコードラベルはRFIDタグに比べてコストが低く、スマートフォンで読み取れるため導入のハードルが低い。一方、RFIDは汚れや距離があっても読み取れるため、泥や樹皮で汚れやすい現場環境ではRFIDのほうが実用的な場合がある。

分野4:作業安全GPSシステム

作業安全GPSとは

林業の現場で働く作業員にGPS端末(または位置情報対応のスマートフォン)を携帯させ、リアルタイムで位置を把握する仕組みだ。伐倒作業中の作業員同士の距離が近すぎる場合にアラートを出したり、緊急時の位置特定に活用する。

具体的にできること

  • 作業員の位置把握: 管理者が事務所から現場の作業員の位置をリアルタイムで確認。広い山林に散らばった作業員の配置状況を一目で把握できる
  • 危険接近アラート: 重機の稼働範囲に作業員が近づいた場合や、伐倒作業の危険区域に別の作業員が入った場合にアラートを発信する
  • 緊急通報・SOS機能: 事故や体調不良が発生した際、ボタンひとつで管理者に位置情報付きの緊急通報を送信できる。山間部では携帯電話の電波が届かないことが多いため、衛星通信対応の端末を組み合わせる場合もある
  • 作業実績の自動記録: GPS軌跡データから、誰がいつどの区画で作業したかを自動記録。日報作成の手間を削減する
  • バイタルセンサー連携: 心拍数や体温を計測するウェアラブル端末と組み合わせ、熱中症や過度の疲労を早期に検知する取り組みも始まっている

導入の注意点

  • 山間部の電波状況: GPS衛星からの測位自体は電波圏外でも可能だが、位置情報をサーバーに送信するにはモバイル通信が必要。圏外エリアが多い場合は、メッシュ通信やLPWA(省電力広域通信)対応の端末を検討する
  • バッテリー持続時間: 1日8時間以上の作業に耐えるバッテリー容量が必要。予備バッテリーの用意も考慮する
  • プライバシーへの配慮: 作業員の位置を常時監視することへの心理的抵抗がある場合は、導入前に目的と運用ルールを丁寧に説明する。「監視」ではなく「安全のための仕組み」であることを現場に理解してもらうことが定着の鍵になる

費用目安

項目費用の目安
GPS端末(業務用)3〜10万円/台
管理システム(SaaS型)月額3〜8万円
衛星通信対応端末(圏外対策)10〜20万円/台
カスタム開発(アラート機能付き)200〜500万円

林業DXシステムの費用一覧(まとめ表)

4分野の費用目安を一覧で比較する。

分野SaaS型の月額費用カスタム開発の初期費用主な効果
GIS森林管理月額3〜8万円200〜400万円森林情報の一元管理、経営計画の効率化
ドローン測量外部委託:1haあたり3〜8万円機体+ソフトで130〜310万円測量時間の短縮、安全性の向上
原木追跡(QR/RFID)月額5〜10万円250〜600万円合法性証明、原価管理の精緻化
作業安全GPS月額3〜8万円200〜500万円労働災害の防止、緊急時対応の迅速化
SaaS型であれば月額3〜10万円の範囲で始められる分野が多い。カスタム開発は既存システムとの連携や独自の帳票出力が必要な場合に検討する。費用は200〜600万円が中心価格帯だ。

林業DXの進め方|5つのステップ

Step 1:課題の棚卸し

「人手不足で間伐が追いつかない」「原木の出荷管理が紙ベースで手間がかかる」「安全管理が属人的」など、自社の経営課題を具体的に洗い出す。課題が明確であれば、どの分野のDXから着手すべきかが自然と決まる。

Step 2:SaaS型サービスで小さく始める

最初からカスタム開発に着手するのではなく、既存のクラウドサービスで試すのが現実的だ。月額数万円のSaaSであれば、合わなかった場合の撤退コストも小さい。

Step 3:現場の声を取り入れる

林業の現場にはデジタル機器に不慣れなベテラン作業員が多い。導入前に現場の意見を聞き、「これは自分たちの作業が楽になる」と実感してもらえるツールを選ぶことが定着の鍵だ。操作画面が複雑なシステムは、いくら機能が優れていても使われなくなる。

Step 4:補助金を活用する

林業DXに活用できる補助金として、以下の制度がある。

  • 林業・木材産業成長産業化促進対策交付金: 林野庁が実施する事業で、ICT技術を活用した森林管理の高度化が補助対象に含まれる
  • デジタル化・AI活用補助金(2026年度): 中小企業のデジタル化を幅広く支援する制度。林業事業体も対象となる場合がある
  • 各都道府県の林業振興事業: 都道府県独自のスマート林業推進事業として、ドローンやICT機器の導入に補助金を出しているケースがある

補助率は1/2〜2/3が一般的だ。申請にあたっては、導入前後の効果を定量的に示す計画書の作成が求められるため、補助金の公募要領を確認した上で、早めに準備を始めることを推奨する。

Step 5:データを蓄積して改善を回す

デジタル化の効果は、データが蓄積されるほど大きくなる。GISの森林データ、ドローンの測量データ、原木追跡の出荷データ、GPSの作業実績データを年単位で蓄積し、次年度の施業計画や経営判断に反映する。1年目は「紙をなくす」、2年目以降は「データで判断する」という段階を意識すると、無理なく進められる。


他社はどう進めている?導入事例のご紹介

林業を含む一次産業のDX導入事例を、GXOの事例紹介ページで公開している。導入前の課題、選定のプロセス、導入後の効果を具体的にまとめているので参考にしてほしい。

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