2026年に入り、エンドポイント管理製品そのものを狙った脆弱性が目立ち始めた。特に Forticlient EMS の CVE-2026-35616(CVSS 9.8) は、「従業員の端末を守るための管理サーバーが、逆に攻撃者の侵入口になる」という典型例として話題になった。こうした事件を受けて、「今使っている EDR/EMS を継続するか、別製品に乗り換えるか」 を迫られている情シス部門は多い。
本記事では、国内の中堅企業で採用実績の多い3製品——Forticlient EMS・CrowdStrike Falcon・Microsoft Defender for Endpoint——を、費用・検知力・運用負荷・調達容易性の観点で比較する。同時に、「自社にとってどれが最適か」を決めるための意思決定フレームも提示する。
従業員 100〜500 名規模の企業で、脆弱性対応に追われている情シス・セキュリティ担当者向けの内容だ。
目次
- なぜ2026年が「EDR乗り換え検討のピーク」なのか
- 3製品の基本スペック比較
- 費用比較(100〜500名規模)
- 検知力・レスポンス機能の比較
- 運用負荷・人員要件
- 意思決定フレーム:4つの質問で製品を絞り込む
- 乗り換え時の注意点
- FAQ
なぜ2026年が「EDR乗り換え検討のピーク」なのか
エンドポイント製品は、ここ数年で「アンチウイルス → EPP(次世代AV)→ EDR → XDR」と進化してきた。2025〜2026年にかけては、EDR単体から XDR 連携、そしてMDR(運用を外部委託する形態)への移行が主流になりつつある。
加えて、以下の3つが重なり、今期に製品を見直す企業が増えている。
- 管理サーバー自体のCVEが多発:CVE-2026-35616(Forticlient EMS)に代表されるように、EDR/EMSの管理基盤を狙う攻撃が増加
- Windows 11 移行の峠越え:Windows 10 サポート終了(2025年10月)を機に端末を刷新した企業が、併せてEDRを見直す動き
- サイバー保険の条件厳格化:多くの保険会社が「EDR + MFA + バックアップ」の3点セットを引受条件に明記
セクションまとめ: 2026年は「管理基盤CVE・Windows刷新・保険条件」の3要素が重なり、EDR/EMSの乗り換え検討が集中する年になっている。
3製品の基本スペック比較
国内中堅企業で採用実績の多い3製品を基本スペックで並べる。
| 項目 | Forticlient EMS | CrowdStrike Falcon | Microsoft Defender for Endpoint |
|---|---|---|---|
| ベンダー本社 | 米国(Fortinet) | 米国(CrowdStrike) | 米国(Microsoft) |
| 提供形態 | オンプレ+クラウド | クラウドのみ | クラウドのみ(Microsoft 365連携) |
| 主なライセンス単位 | エンドポイント × 年 | エンドポイント × 年 | Microsoft 365 E5 / 単体サブスク |
| EDR 機能 | Forticlient Fabric Agent | Falcon Insight / Prevent | Defender for Endpoint Plan 2 |
| XDR 連携 | FortiAnalyzer・FortiSIEM | Falcon XDR | Sentinel・Defender XDR |
| 日本語サポート | 代理店経由で提供 | 直販 + 代理店 | Microsoft サポート直 |
| 直近の重大CVE | CVE-2026-35616 | (2026年公表の同等級CVEなし) | (2026年公表の同等級CVEなし) |
セクションまとめ: スペック上の機能差は小さいが、設計思想が異なる。選定は機能比較ではなく、自社のIT基盤(ネットワーク機器/クラウド/Microsoft 365)に合わせた統合性で判断すべきだ。
費用比較(100〜500名規模)
ライセンス体系の違いで単純比較は難しいが、100名・300名・500名の3ケースで概算を示す。
| 規模 | Forticlient EMS | CrowdStrike Falcon | Defender for Endpoint P2 |
|---|---|---|---|
| 100名 | 年額 80万〜150万円 | 年額 120万〜200万円 | 年額 80万〜140万円(単体) |
| 300名 | 年額 200万〜350万円 | 年額 330万〜550万円 | 年額 220万〜400万円 |
| 500名 | 年額 300万〜550万円 | 年額 500万〜850万円 | 年額 360万〜650万円 |
- Forticlient EMS:EMS管理サーバー込み、EDRライセンス相当で概算
- CrowdStrike Falcon:Falcon Pro〜Enterprise相当のレンジ
- Defender for Endpoint:単体サブスク価格(Microsoft 365 E5 に含まれる場合は実質コストがさらに下がる)
実費用に影響する3要素:
- 代理店マージン:国内代理店経由の場合、定価の 15〜25% 上乗せが一般的
- MDR オプション:24/365 の監視運用を外部に委託する場合、ライセンス費用とほぼ同額が追加
- 複数年契約割引:3年一括で 10〜15% 程度の割引が交渉余地としてある
セクションまとめ: 単体ライセンス費用は Defender と Forticlient が近く、CrowdStrike はやや高め。ただし Microsoft 365 E5 を契約済みなら、Defender の実質追加コストは大きく下がる可能性がある。
「今の EDR を続けるべきか、乗り換えるべきか」の1次判定を30分でお伝えします
現在の利用状況・Microsoft 365 ライセンス・ネットワーク機器構成を伺い、費用対効果と運用負荷の観点で継続/乗り換えの1次判定をご提示します。乗り換えの場合は実装計画と概算費用の目安までお伝えします。
※ 営業電話はしません | オンライン対応可 | 相談だけでもOK
検知力・レスポンス機能の比較
公開されているベンチマーク(MITRE ATT&CK Evaluations など)の結果と、国内運用現場での体感を総合すると、以下のように整理できる。
| 評価軸 | Forticlient EMS | CrowdStrike Falcon | Defender for Endpoint |
|---|---|---|---|
| 既知マルウェア検知率 | ◎ | ◎ | ◎ |
| 未知/ファイルレス攻撃検知 | ○ | ◎ | ○ |
| 横展開(Lateral Movement)検知 | ○ | ◎ | ◎ |
| 自動隔離・対応の速度 | ○ | ◎ | ○ |
| ログ保持期間(標準) | 30〜90日 | 7〜90日(プランによる) | 30日(Sentinel連携で延長可能) |
| MITRE ATT&CK 2024 結果 | 検知率 90%超 | 検知率 95%超 | 検知率 92%超 |
- 検知力重視:CrowdStrike Falcon(特に未知攻撃・横展開)
- 統合性重視:Defender for Endpoint(Microsoft 365 / Entra ID / Sentinel 連携)
- ネットワーク機器連動重視:Forticlient EMS(FortiGate と連動した自動隔離)
セクションまとめ: 3製品とも既知マルウェアの検知は横並びだが、未知攻撃・横展開検知では CrowdStrike がやや優位。自社環境との統合性も含めて総合判断したい。
運用負荷・人員要件
製品の能力以上に重要なのが「継続運用できる体制があるか」だ。
| 項目 | Forticlient EMS | CrowdStrike Falcon | Defender for Endpoint |
|---|---|---|---|
| 推奨運用人員(専任換算) | 0.5〜1人 | 0.5〜1人 | 0.5〜1人 |
| 学習コスト | 中(Fortinet製品群の知識前提) | 中(独自UI) | 低(Microsoft 管理センター統合) |
| ダッシュボード/レポートの標準性 | ○ | ◎ | ◎ |
| アラート疲れの発生しやすさ | 中 | 低(トリアージ自動化) | 中 |
| MDR(運用委託)の選択肢 | 代理店経由 | CrowdStrike Complete | Microsoft 公式 + パートナー |
- アラートのトリアージ自動化:CrowdStrike は重要度別の自動振り分けが強く、人員負荷を下げやすい
- ダッシュボードの見やすさ:経営層への月次報告には Defender が統合レポートで有利
- 既存スキルとの親和性:Fortinet 製品を広く使っているなら Forticlient、Microsoft 365 を中核に置くなら Defender
セクションまとめ: 「運用できるか」は製品性能より、既存スキルと MDR の選択肢で決まる。少人数情シスでは MDR を前提にした製品選びが現実的だ。
意思決定フレーム:4つの質問で製品を絞り込む
以下の4問に答えるだけで、3製品のどれを深掘りすべきかが決まる。
質問1:Microsoft 365 E5 を契約しているか?
- Yes → Defender for Endpoint P2 が第1候補(追加コストが最小)
- No → 次の質問へ
質問2:既に FortiGate / FortiAnalyzer を使っているか?
- Yes → Forticlient EMS が第1候補(既存投資の活用)。ただし CVE-2026-35616 を踏まえ、パッチ運用体制の見直しとセット
- No → 次の質問へ
質問3:未知攻撃の検知力を最優先したいか?
- Yes → CrowdStrike Falcon が第1候補
- No → 次の質問へ
質問4:24/365 の運用を社内で回す体制があるか?
- Yes → いずれの製品でも選定可能
- No → MDR が選べる製品(CrowdStrike Complete / Microsoft 認定MDRパートナー) を優先
4問すべてがフラットな場合は、Defender for Endpoint → Forticlient EMS → CrowdStrike Falcon の順で社内検証するのが、費用と統合性の両面で合理的だ。
セクションまとめ: 選定は「Microsoft 365 / Fortinet 既存資産 / 検知力最優先 / 運用体制」の4問で機械的に絞り込める。迷ったらまず Microsoft 365 E5 の契約状況から確認する。
乗り換え時の注意点
乗り換えを決めた場合、以下の5点を事前に確認しておく。
- 既存EDRとの並行運用期間:2〜4週間はエージェントが混在する。競合して端末が不安定になるケースがあるため、パイロット部門から段階展開する
- ポリシー移行の棚卸し:ホワイトリスト・除外ルール・隔離条件を新製品のポリシー体系にマッピングし直す必要がある
- インシデント対応プレイブックの更新:既存の運用手順書を新製品のUIと用語に合わせて書き直す
- ログ保持・監査要件の再確認:業界規制(金融・医療等)で必要なログ保持期間が製品標準と一致しているか確認
- 契約の終了タイミング調整:旧製品の契約解除タイミングを新製品のパイロット終了と合わせる
セクションまとめ: 乗り換えはパイロット部門での並行運用が必須。ポリシーとプレイブックの更新工数を見誤ると、切替直後にインシデントを見逃す事故につながる。
意思決定チェックリスト
- [ ] Microsoft 365 E5 / E3 + Defender for Endpoint の契約状況を確認した
- [ ] 既存 FortiGate / FortiAnalyzer などネットワーク機器との連動要件を洗い出した
- [ ] 現在のEDRで直近6ヶ月に発生したアラート件数・誤検知率を集計した
- [ ] 社内で 24/365 の運用が可能か、MDR 委託が必要かを経営層と合意した
- [ ] サイバー保険の契約条件(EDR 要件)を確認した
- [ ] 3製品それぞれの代理店から見積もりを取得した
- [ ] パイロット部門を選定し、2〜4週間の並行運用期間を確保した
- [ ] ポリシー・プレイブックの移行工数を IT 部門のスケジュールに組み込んだ
FAQ
Q1. Forticlient EMS は CVE-2026-35616 があったから避けるべきですか?
避けるべきではなく、「パッチ運用が回るか」で判断します。どのベンダーでも管理基盤のCVEは発生し得ます。むしろ今回 Fortinet が速やかに修正と緩和策を公表した対応速度は評価できる面もあります。判断基準は「自社でパッチ検証・適用を確実に回せるか」です。
Q2. CrowdStrike は2024年の障害があったから不安ですが?
2024年7月のアップデート障害はセンサー更新の展開方式が原因でした。以降、段階展開のデフォルト化など運用改善が入っています。選定時は「自社での段階展開設定が可能か」を必ず確認してください。
Q3. Microsoft Defender 無料版(Defender Antivirus)で十分では?
Windows 標準の Defender Antivirus は EPP(次世代AV)相当で、EDR 機能(プロセス監視・インシデント対応・ログ保持)はありません。業務利用では Defender for Endpoint Plan 1 以上を推奨します。
Q4. MDR は本当に必要ですか?
中堅企業の多くは社内で 24/365 の監視を回すのが難しいため、MDR または EDR と SOC 運用を組み合わせるケースが多いです。社内の人員状況と、インシデント発生時の責任分界を経営層と擦り合わせて判断してください。
Q5. 乗り換えると社内のサポート問い合わせが増えませんか?
パイロット期間に社内教育と FAQ 整備を行えば、切替後 1〜2 週間で問い合わせは落ち着くのが一般的です。UI の慣れが主因なので、事前の社内説明会が効果的です。
参考情報
- MITRE Engenuity「ATT&CK Evaluations 2024 Enterprise」
- NIST National Vulnerability Database「CVE-2026-35616」
- IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」
- 総務省「サイバーセキュリティ戦略」(2024年度改訂版)
- 各ベンダー公式ドキュメント(Fortinet・CrowdStrike・Microsoft)
関連記事
EDR/EMS 選定の意思決定支援はGXOにご相談ください
「見積もりは取ったが、どれが自社に合うか判断できない」「現在のEDRを続けるべきか悩んでいる」——そんな情シス部門の意思決定を、費用・検知力・運用負荷の3軸で整理してご支援します。オンラインを中心に全国対応可能です。
※ 営業電話はしません | オンライン対応可 | 相談だけでもOK