電気工事業は、建築・土木と並ぶ建設業の柱だ。しかし実態は、見積書をExcelで手作りし、工程表はホワイトボード、安全書類は手書きの紙、工事写真はデジカメからパソコンに手動で取り込み――という会社がまだ多い。
経済産業省「電気保安制度ワーキンググループ」(2025年報告)によると、電気工事士の有資格者のうち55歳以上が約4割を占める。ベテランの退職が進む中、少ない人数で品質と安全を維持するには、「紙と人手に頼る仕事のやり方」を見直す必要がある。2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、現場を回すだけで精一杯の状態では、書類仕事や事務作業を今までどおりこなすのは物理的に不可能だ。
本記事では、電気工事業に特化した業務課題を整理し、見積・積算から工程管理・安全書類・写真管理・電子納品まで、業務領域ごとのデジタル化の方法と費用相場を解説する。
目次
- 電気工事業が直面する5つの業務課題
- 見積・積算のデジタル化
- 工程管理のデジタル化
- 安全書類・作業員管理のデジタル化
- 写真管理と電子納品
- 費用相場の全体像(SaaS vs カスタム開発)
- 補助金の活用と導入ステップ
- まとめ
- FAQ
- 付録:電気工事業DXチェックリスト
1. 電気工事業が直面する5つの業務課題
課題①:見積・積算に時間がかかりすぎる
電気工事の見積は、ケーブル・配管・分電盤・照明器具など部材点数が多く、単価の確認と数量の拾い出しに手間がかかる。Excelの見積書テンプレートを使っている会社でも、「前の案件のファイルをコピーして書き換える」やり方が主流だ。見積担当者が1人しかいない会社では、その人が休むと見積が止まる。案件が重なると見積の回答が遅れ、失注につながるケースもある。
課題②:工程管理がアナログで全体像が見えない
複数の現場を同時に進行する電気工事会社では、「どの現場に誰がいるか」「今日の進捗はどうか」を把握するのに、朝礼と電話とLINEのやり取りに頼っている。工程表はExcelかホワイトボードで、更新が遅れると実態とズレる。他の工種(建築・設備)との取り合い調整も、元請の工程会議で口頭確認するのみ、というケースが多い。
課題③:安全書類の作成に事務員の時間が取られる
元請に提出する安全書類(作業員名簿、新規入場者教育記録、KY活動記録、作業手順書など)は紙ベースが中心だ。同じ作業員の情報を現場ごとに何度も手書きし、記入漏れで差し戻される。電気工事は高所作業・活線作業・感電リスクなど危険度が高く、安全書類の種類と量は他の工種より多くなりがちだ。
課題④:工事写真の整理と管理が負担
電気工事の写真は「施工前・施工中・施工後」の各段階を、配線ルート・接続部・絶縁処理など細部にわたって記録する必要がある。1つの現場で数百枚になることも珍しくない。デジカメで撮影し、パソコンに取り込み、フォルダ分けし、黒板情報と紐づける――この作業に現場監督が毎日1〜2時間費やしている。
課題⑤:電子納品への対応
公共工事を中心に、電子納品(工事写真・施工図・完成図書をデジタルデータで提出する仕組み)の要求が広がっている。国土交通省の直轄工事ではすでに必須だが、地方自治体の工事でも電子納品を求められる案件が増えている。紙の書類をスキャンしてPDFにするだけでは要件を満たせないケースがある。
セクションまとめ:電気工事業の5大課題は「見積・積算の手間」「工程管理のアナログ運用」「安全書類の紙作業」「写真管理の負担」「電子納品対応」。いずれもデジタル化で大幅に改善できる領域だ。
2. 見積・積算のデジタル化
なぜ見積・積算から手をつけるべきか
見積の速さと正確さは、受注率に直結する。「見積回答が遅い」「金額の根拠が不明確」と元請に思われると、次から声がかからなくなる。見積・積算のデジタル化は、売上を守るための最優先施策だ。
電気工事向け見積・積算ツールの主な機能
- 部材マスタ管理:ケーブル・配管・器具の単価データベースを一元管理。メーカー改定があれば単価を更新するだけで、過去の見積も再計算できる
- 数量拾い出し補助:図面データ(PDF・CAD)を取り込み、配線ルートの長さや器具の個数を自動集計
- 積算基準の自動適用:公共工事の積算基準(電気設備工事積算基準)の労務単価・歩掛りを自動で反映
- 見積書の自動生成:拾い出し結果から見積書を自動作成。Excel出力やPDF出力に対応
- 過去案件の流用:類似案件の見積データを検索し、ベースとして再利用
主要ツールと費用目安
| ツール種別 | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 電気工事向け積算ソフト(パッケージ) | 買い切り30万〜100万円 | 公共工事の積算基準対応。オフラインで動作 |
| クラウド型見積サービス | 月額1万〜5万円 | ブラウザから使える。複数人で同時編集可能 |
| Excel + マクロの改善 | 20万〜80万円(外注開発) | 既存のExcel運用を活かしたまま効率化 |
セクションまとめ:見積・積算のデジタル化はクラウド型なら月額1万〜5万円から始められる。部材マスタと過去案件の流用で、見積作成時間を半分以下に短縮できる。
3. 工程管理のデジタル化
電気工事の工程管理が複雑な理由
電気工事は建物の骨組みができてから仕上げまで、複数のフェーズにわたって施工する。配線の埋設は躯体工事と同時に行い、器具の取付けは内装仕上げ後だ。他の工種(空調・給排水・建築)と作業場所やタイミングが重なりやすく、調整なしでは手待ちや手戻りが頻発する。
工程管理ツールの主な機能
- ガントチャート表示:工程をバーチャートで表示。遅れが出たら自動で後工程をずらす
- 人員配置管理:作業員を「誰がどの現場にいつ入るか」カレンダーで管理。ダブルブッキングを自動検知
- 進捗入力(現場から):スマートフォンから作業完了を報告。写真を添付すれば証跡にもなる
- 元請・協力会社との共有:閲覧権限を設定して工程表を共有。口頭確認のやり取りを減らせる
- 天候・資材遅延の記録:工程変更の理由を記録し、追加請求や工期延長の根拠にする
主要ツールと費用目安
| ツール種別 | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 建設業向け工程管理SaaS | 月額3万〜10万円 | 電気工事を含む建設業全般に対応。スマホ対応 |
| 汎用プロジェクト管理ツール | 月額1万〜5万円 | 建設業特化ではないが安価。カスタマイズで対応 |
| カスタム開発(工程管理) | 200万〜500万円 | 自社独自のフローに完全対応したシステム |
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4. 安全書類・作業員管理のデジタル化
電気工事特有の安全管理
電気工事には、一般的な建設業の安全管理に加えて電気工事特有のリスクがある。
- 感電災害:活線作業・停電作業の区分、絶縁用保護具の使用確認
- 高所作業:天井裏・鉄塔・電柱での作業。フルハーネス型安全帯の着用義務
- 火災リスク:溶接・はんだ付け作業時の火気使用許可
- 有資格者の配置:電気工事士(第一種・第二種)、電気工事施工管理技士(1級・2級)、特別教育修了者の配置管理
これらの管理を紙で行うと、「あの作業員の資格証の有効期限はいつか」「今日の現場にフルハーネスの特別教育修了者は何人いるか」を確認するだけで時間がかかる。
安全書類デジタル化の主な機能
- 作業員マスタ管理:氏名・住所・資格・健康診断・特別教育の受講履歴をデータベース化。有効期限が近づくとアラート通知
- 安全書類の自動生成:作業員名簿・新規入場者教育記録・KY活動記録を、マスタデータから自動作成
- グリーンファイルの電子提出:元請が指定するグリーンサイト等と連携し、安全書類を電子提出
- 資格証・免許証のスキャン保管:作業員の資格証をスマホで撮影し、クラウドに保管。現場で即座に確認できる
- 電気工事施工管理技士の配置記録:監理技術者・主任技術者の配置状況を案件ごとに記録・管理
主要ツールと費用目安
| ツール種別 | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| グリーンサイト(MCデータプラス) | 月額数千円〜(ID数による) | 元請指定で利用するケースが多い |
| 安全書類作成SaaS | 月額1万〜5万円 | グリーンファイル作成に特化 |
| 建設業向け総合管理SaaS | 月額3万〜10万円 | 安全書類+工程管理+写真管理を一括 |
セクションまとめ:電気工事は感電・高所・有資格者配置など安全管理の項目が多い。作業員マスタの一元管理と書類の自動生成で、事務作業を大幅に削減しつつ安全レベルを向上させる。
5. 写真管理と電子納品
電気工事の写真管理が大変な理由
電気工事の写真は「隠蔽部の記録」が重要だ。壁や天井の中に隠れる配線・配管は、施工後には目視確認できない。だからこそ、施工中の写真を確実に撮影し、整理・保管する必要がある。公共工事では「デジタル写真管理情報基準」に基づいた整理が求められ、ファイル名・フォルダ構成にルールがある。
写真管理ツールの主な機能
- 電子小黒板:スマートフォンの画面上で黒板情報(工事名・工種・撮影箇所など)を入力。撮影した写真に自動合成
- 自動フォルダ分け:撮影時の入力情報に基づき、工種・部位ごとに自動で分類
- クラウド保存:撮影した瞬間にクラウドへアップロード。スマートフォンの故障やSDカードの紛失でデータを失うリスクを防止
- 改ざん検知:撮影日時・位置情報をメタデータに記録し、改ざん防止機能を付与
- 電子納品データの自動生成:国土交通省の基準に準拠した形式でデータを出力
主要ツールと費用目安
| ツール種別 | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 工事写真管理アプリ | 月額5,000円〜3万円 | 電子小黒板+クラウド保存。最も導入しやすい |
| 電子納品対応ソフト | 買い切り10万〜30万円 | 公共工事の電子納品基準に完全対応 |
| 総合管理SaaS(写真機能含む) | 月額3万〜10万円 | 工程・安全・写真をまとめて管理 |
セクションまとめ:電気工事の写真管理は「隠蔽部の記録」が特に重要。電子小黒板アプリ(月額5,000円〜)で撮影と整理の手間を大幅に削減し、電子納品にもそのまま対応できる。
6. 費用相場の全体像(SaaS vs カスタム開発)
SaaS(既存サービス)を使う場合
SaaSは「月額利用料を払って、すぐに使い始められるサービス」だ。初期費用が小さく、合わなければ解約できるのがメリットだ。
| 業務領域 | 月額費用目安 | 代表的なツール例 |
|---|---|---|
| 見積・積算 | 1万〜5万円 | クラウド型見積サービス |
| 工程管理 | 3万〜10万円 | 建設業向け工程管理SaaS |
| 安全書類 | 1万〜5万円 | グリーンサイト、安全書類SaaS |
| 写真管理 | 5,000円〜3万円 | 電子小黒板アプリ |
| 総合管理(上記を一括) | 3万〜10万円 | 建設業向け総合管理SaaS |
カスタム開発の場合
SaaSでは対応できない「自社独自の業務フロー」がある場合、カスタム開発を検討する。
| 開発内容 | 費用目安 | 期間 |
|---|---|---|
| 見積・積算システム | 200万〜500万円 | 2〜5ヶ月 |
| 工程管理+人員配置システム | 200万〜500万円 | 3〜5ヶ月 |
| 安全書類管理+作業員マスタ | 150万〜300万円 | 2〜4ヶ月 |
| 写真管理+電子納品 | 150万〜400万円 | 2〜4ヶ月 |
| 全業務統合システム | 500万〜800万円 | 6〜10ヶ月 |
SaaSとカスタム開発の判断基準
| 判断ポイント | SaaSが向いている | カスタム開発が向いている |
|---|---|---|
| 業務フロー | 一般的な電気工事業のフロー | 独自の見積体系・工程管理ルールがある |
| 予算 | 月額3万〜10万円を継続的に捻出できる | まとまった初期投資(200万〜800万円)が可能 |
| 導入スピード | すぐに使い始めたい | 3〜10ヶ月かけて自社に合ったものを作りたい |
| 社員数 | 30名以下 | 30名以上で業務が複雑 |
セクションまとめ:SaaSなら月額3万〜10万円、カスタム開発なら200万〜800万円が費用相場。まずSaaSで試し、自社の業務に合わない部分だけカスタム開発で補う段階的アプローチが堅実だ。
7. 補助金の活用と導入ステップ
活用できる主な補助金
電気工事業のデジタル化に使える補助金は複数ある。
| 補助金名 | 補助率 | 上限額 | 対象 |
|---|---|---|---|
| IT導入補助金 | 1/2〜2/3 | 最大450万円 | SaaSの導入費用・初期設定費 |
| ものづくり補助金 | 1/2〜2/3 | 最大1,250万円 | カスタムシステム開発 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 2/3 | 最大200万円 | 小規模事業者のデジタル化 |
| 事業再構築補助金 | 1/2〜2/3 | 最大1,500万円 | 新事業展開を伴うデジタル化 |
推奨導入ステップ
| ステップ | 内容 | 期間 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| Step 1 | 写真管理アプリの導入 | 2週間〜1ヶ月 | 月額5,000円〜 |
| Step 2 | 安全書類のデジタル化 | 1〜2ヶ月 | 月額1万〜5万円 |
| Step 3 | 工程管理SaaSの導入 | 1〜2ヶ月 | 月額3万〜10万円 |
| Step 4 | 見積・積算のデジタル化 | 2〜3ヶ月 | 月額1万〜5万円 |
| Step 5 | 全業務の統合(必要に応じて) | 3〜10ヶ月 | 200万〜800万円 |
- 全員が毎日使う:工程管理や見積は一部の担当者しか使わないが、写真は全員が撮る。全員が「便利になった」と体感するからデジタル化への抵抗感が下がる
- 費用が安い:月額5,000円〜と最も安く試せる
- 効果がすぐ出る:導入初日から写真整理の時間が減る
セクションまとめ:IT導入補助金(最大450万円)やものづくり補助金(最大1,250万円)を活用すれば初期投資を半分以下に抑えられる。導入は写真管理→安全書類→工程管理→見積の順で段階的に進める。
まとめ
電気工事業のデジタル化は、「現場の困りごと」を一つずつ解消する積み重ねだ。
| 投資段階 | 内容 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 写真管理アプリの導入 | 月額5,000円〜3万円 |
| 第2段階 | 安全書類・工程管理SaaSの導入 | 月額3万〜10万円 |
| 第3段階 | 見積・積算のデジタル化 | 月額1万〜5万円 or 買い切り30万〜100万円 |
| 第4段階 | 全業務統合のカスタム開発 | 200万〜800万円 |
最初の一歩は小さくていい。月額5,000円の写真管理アプリから始めて、効果を実感してから次のステップに進む。それが、現場の反発を最小限に抑えながらデジタル化を成功させる王道だ。
GXOの会社概要・実績は会社概要ページをご覧ください。建設業を含む業界別のシステム導入事例は導入事例ページで紹介しています。
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FAQ
Q1. パソコンが苦手なベテラン職人でも使えるか?
使える。最近の建設業向けアプリは「スマートフォンから大きなボタンを押すだけ」で操作できるように作られている。写真管理アプリであれば、撮影→黒板情報を選択→保存の3ステップだ。導入時に全員で30分ほど一緒に操作する研修を行えば、大半のベテランが1週間で慣れる。大事なのは「便利になった」と本人が実感できる機能から始めることだ。
Q2. 見積のデジタル化で、自社独自の単価体系にも対応できるか?
SaaSの場合、部材マスタに自社独自の単価を登録できるツールが多い。ただし、「元請ごとに異なる値引きルール」「特殊な工事の独自歩掛り」などが複雑な場合は、SaaSの標準機能では対応しきれないことがある。その場合はカスタム開発(200万〜500万円)を検討する。まずは無料トライアルで自社の見積パターンを試してみるのが確実だ。
Q3. 電気工事施工管理技士の配置管理もシステム化できるか?
できる。作業員マスタに資格情報(1級・2級電気工事施工管理技士、第一種・第二種電気工事士、認定電気工事従事者など)を登録し、現場ごとの配置状況を管理する。監理技術者・主任技術者の専任要件(請負金額4,000万円以上で専任)のチェック機能を持つSaaSもある。資格の有効期限が近づくとアラート通知が届くので、更新忘れも防げる。
Q4. 元請が使っているシステムとデータ連携はできるか?
元請がグリーンサイトを指定している場合、グリーンサイトに対応したSaaSを選べばデータ連携が可能だ。工程管理についても、主要な建設業向けSaaSはCSVやExcel形式での入出力に対応しているため、元請のシステムとデータをやり取りできる。API連携が必要な場合はカスタム開発で対応する。
Q5. 補助金の申請は難しいか?
IT導入補助金は比較的申請しやすい補助金だ。申請手続きはITツールのベンダー(販売元)が支援してくれるケースが多い。ものづくり補助金は事業計画書の作成が必要で、やや手間がかかる。中小企業診断士や認定支援機関に相談すれば、申請書の作成をサポートしてもらえる。GXOでも補助金活用のご相談を承っています。