「見積書をExcelで作るたびに単価を調べ直している」「マニフェストの控えが事務所のキャビネットを圧迫している」「工程の変更を電話で伝えたはずなのに、現場に届いていなかった」。解体業の経営者や現場責任者なら、一つは思い当たる場面があるのではないだろうか。

国土交通省「建設業活動実態調査」(2025年公表)によると、解体工事業の許可業者数は約4.7万社。そのうち従業員30名以下の事業者が9割を超える。少人数で回しているからこそ、事務作業や書類管理の負担が利益率を直接圧迫する。

この記事では、解体業のデジタル化を「見積作成」「工程管理」「産廃マニフェスト管理」「安全管理」「写真管理」の5つの領域に分けて、それぞれの課題・システムの選び方・費用相場を整理した。IT用語はできるだけ使わず、「うちの会社で何がどう変わるか」がわかるように書いている。


なぜ今、解体業にデジタル化が必要なのか

1. 利益率が圧迫されている

解体工事の原価構成は、人件費・重機費・産廃処理費の3つで8割以上を占める。このうち産廃処理費は、分別の精度や処理業者との交渉次第で工事ごとに大きく変動する。しかし、多くの事業者は過去の実績を紙やExcelでしか管理しておらず、見積段階で処理費を正確に見込めていない。結果として「終わってみたら赤字だった」という工事が年に数件発生する。

2. 法令対応の負担が増えている

解体業には、建設リサイクル法に基づく届出義務、廃棄物処理法に基づくマニフェスト管理義務がある。2023年4月からは電子マニフェストの一部義務化の範囲が拡大し、年間50トン以上の特別管理産業廃棄物を排出する事業者には電子マニフェストの使用が求められている。紙のマニフェストで運用し続けると、記入漏れや返送遅延による行政指導のリスクが年々高まっている。

3. 人手不足で「兼務」が限界に来ている

事務員を1名雇う余裕がない事業者では、社長や現場責任者が見積作成・マニフェスト管理・安全書類作成を兼務している。現場にいるべき人間が事務所で書類を作っている時間は、本来稼げるはずの時間を失っている。


デジタル化すべき5つの領域と費用相場

解体業のデジタル化を進める場合、以下の5つの領域を対象にすることが多い。すべてを一度に導入する必要はない。自社で最も時間がかかっている領域から1つ選んで始めるのが現実的な進め方だ。

領域1:見積作成

よくある困りごと

  • Excelのテンプレートに毎回単価を手入力しており、1件あたり2〜3時間かかる
  • 過去の見積データが個人のパソコンに散らばっていて、担当者が変わると参照できない
  • 解体対象の構造(木造・鉄骨・RC)や面積で単価が変わるが、一覧表を毎回探している

システムで変わること

見積作成システムを導入すると、構造・面積・地域を入力するだけで過去の実績単価をもとに概算見積を自動生成できる。産廃処理費も、過去の処理単価データベースから自動計算される。見積作成時間は1件あたり30分〜1時間程度に短縮される。

費用相場

導入方式初期費用月額費用備考
SaaS(既製品)0〜30万円3〜8万円解体業特化型のサービスは少ない。建設業向けを転用するケースが多い
カスタム開発200〜500万円保守費1〜3万円自社の見積フォーマットや単価体系に完全に合わせられる

領域2:工程管理

よくある困りごと

  • ホワイトボードに書いた工程表を写真に撮ってLINEで共有している
  • 近隣住民への事前告知日、アスベスト調査日、届出期限などの「やるべきこと」を頭の中で管理している
  • 複数現場を同時に進めると、重機や作業員の配置が重なり、手配ミスが発生する

システムで変わること

工程管理システムを使うと、各現場の進捗をスマホから確認・更新できる。重機・作業員の配置状況を一覧で確認できるため、ダブルブッキングを防げる。届出期限や近隣告知日もアラートで自動通知される。

費用相場

導入方式初期費用月額費用備考
SaaS(既製品)0〜20万円3〜10万円ANDPAD、ダンドリワークなど建設業向けが利用可能
カスタム開発300〜600万円保守費2〜5万円解体業特有の工程パターンを組み込める

領域3:産廃マニフェスト管理

よくある困りごと

  • 紙マニフェストの控え(A票〜E票)をファイリングする作業に毎月まる1日かかっている
  • 処理業者からの返送が遅れ、90日・180日ルールの期限管理がギリギリになっている
  • 行政の立入検査で「この工事のマニフェストを出してください」と言われ、探すのに30分以上かかった

システムで変わること

電子マニフェスト(JWNET)に対応したシステムを導入すると、マニフェスト情報をスマホやパソコンから入力・送信できる。控えの紙は不要になり、検索も一瞬で終わる。返送期限もシステムが自動で監視し、期限が近づくとアラートを出してくれる。

建設リサイクル法で求められる「分別解体等の記録」もデジタルで一元管理できるため、届出書類の作成が大幅に楽になる。

費用相場

導入方式初期費用月額費用備考
JWNET(公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター)約2.6万円(加入料)基本料+使用料(件数による)電子マニフェストの公的システム。操作画面がやや分かりにくいという声もある
SaaS(JWNET連携型)0〜30万円5〜10万円JWNETと自動連携し、使いやすい画面で入力できる。マニフェスト以外の廃棄物管理機能もセットになっている製品が多い
カスタム開発(JWNET API連携)300〜800万円保守費3〜5万円見積システムや工程管理と一体化したい場合に選択

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領域4:安全管理

よくある困りごと

  • 新規入場者教育の記録を紙で作成し、毎回同じ内容を手書きしている
  • KY(危険予知)活動記録を現場で書いたあと、事務所でExcelに転記している
  • 元請から求められる安全書類(作業員名簿、有資格者一覧、車両届など)の作成に毎月丸1日以上かかっている

システムで変わること

安全書類作成システムを使うと、作業員情報を一度登録するだけで名簿・有資格者一覧・社会保険加入状況の書類が自動生成される。新規入場者教育もタブレットで実施でき、記録が自動で残る。KY活動記録もスマホから入力するだけで、転記作業が不要になる。

解体工事では石綿(アスベスト)の事前調査が義務化されている。調査結果の記録・保存もデジタルで管理すれば、報告書作成の手間が省ける。

費用相場

導入方式初期費用月額費用備考
SaaS(既製品)0〜20万円3〜8万円グリーンサイト、安全書類作成くんなど
カスタム開発200〜400万円保守費1〜3万円元請ごとの書式に完全対応させたい場合

領域5:写真管理

よくある困りごと

  • 解体前・解体中・解体後の写真を1現場あたり200〜500枚撮影し、フォルダ分けに毎回1〜2時間かかっている
  • 近隣家屋の事前調査写真と工事写真が混在してしまい、あとから探すのが大変
  • 発注者や元請への報告書用に写真を選んで貼り付ける作業に半日かかることがある

システムで変わること

工事写真管理アプリを使うと、撮影時にスマホ画面で「工種」「撮影箇所」などを選択し、写真と一緒にクラウドへ自動保存される。フォルダ分けが不要になり、検索で必要な写真をすぐに見つけられる。報告書へのレイアウトも自動生成機能があるサービスなら、写真を選ぶだけで帳票が完成する。

費用相場

導入方式初期費用月額費用備考
SaaS(既製品)0〜10万円3〜5万円蔵衛門、フォトラクションなど。無料プランがある製品も
カスタム開発150〜300万円保守費1〜3万円報告書フォーマットの自動生成をカスタマイズしたい場合

費用の全体像:SaaS活用 vs カスタム開発

5領域すべてをデジタル化する場合の費用を、SaaS活用とカスタム開発でまとめた。

項目SaaS活用(既製品の組み合わせ)カスタム開発(一体型システム)
初期費用合計 0〜110万円合計 200〜800万円
月額費用合計 3〜10万円保守費 合計 2〜10万円
導入期間1〜3ヶ月3〜8ヶ月
メリット初期費用が安い。すぐ使い始められる自社の業務フローに完全に合わせられる。データが一箇所にまとまる
デメリットサービス間のデータ連携に手間がかかる場合がある費用が高い。開発期間が長い

どちらを選ぶべきか

SaaS活用が向いている事業者:

  • 従業員10名以下で、まずは1〜2領域から試したい
  • 初期投資を抑えたい
  • 「まず使ってみて、合わなければ別のサービスに乗り換えたい」

カスタム開発が向いている事業者:

  • 従業員20名以上で、見積から産廃管理まで一気通貫で管理したい
  • 独自の見積体系や帳票フォーマットがあり、既製品では対応しきれない
  • 将来的にデータを分析して経営判断に活かしたい

導入を成功させる3つのステップ

ステップ1:一番困っている領域を1つ選ぶ

5つの領域を一度にデジタル化するのは、予算的にも人手の面でも現実的ではない。「毎月一番時間をかけている作業」か「ミスが起きたとき一番痛い作業」を1つ選ぶ。

たとえば、マニフェストの期限管理でヒヤリとした経験があるなら産廃管理から。見積の赤字工事が年に何件もあるなら見積作成から。迷ったら写真管理が始めやすい。費用が安く、効果がすぐ目に見えるからだ。

ステップ2:2週間の試用期間で「現場が使えるか」を確認する

SaaS型のサービスであれば、ほとんどの製品に無料トライアル期間がある。この期間中に、実際の現場で使ってもらうことが重要だ。事務所のパソコンで画面を眺めるだけでは、現場で使えるかどうかはわからない。

確認すべきポイントは3つだけ。

  1. 現場でスマホの電波が入る場所で操作できるか
  2. 50代以上の作業員が10分以内に基本操作を覚えられるか
  3. 毎日の入力にかかる時間が、今の紙の作業より短いか

ステップ3:3ヶ月運用して効果を数字で測る

導入後3ヶ月が定着の分かれ目だ。この期間で以下の数字を記録しておく。

  • 見積作成時間(1件あたり):導入前 → 導入後
  • マニフェスト管理にかける時間(月あたり):導入前 → 導入後
  • 写真整理にかける時間(1現場あたり):導入前 → 導入後
  • 赤字工事の件数(四半期あたり):導入前 → 導入後

この数字があれば、次の領域への投資判断がしやすくなる。補助金を申請する際にも「導入前後の変化」として使える。


建設リサイクル法への対応ポイント

解体業にとって建設リサイクル法への対応は避けて通れない。デジタル化と絡めて押さえておくべきポイントを整理する。

分別解体等の届出

特定建設資材(コンクリート、アスファルト、木材)を用いた建築物の解体工事で、床面積80平方メートル以上の場合、工事着手の7日前までに都道府県知事に届出が必要だ。届出書には分別解体等の計画を記載する。

工程管理システムに届出期限をアラートとして登録しておけば、うっかり期限を過ぎてしまうリスクを防げる。

再資源化等の完了報告

分別解体で発生した特定建設資材廃棄物は、再資源化が義務付けられている。発注者への完了報告書の作成も必要だ。産廃管理システムで廃棄物の種類・数量・処理先を記録していれば、報告書を自動生成できる。

マニフェスト管理の実務

マニフェストは、廃棄物の種類ごとに交付が必要だ。1つの現場からコンクリートがら、木くず、金属くず、石膏ボードなど複数の廃棄物が出るため、交付枚数は1現場あたり10〜30枚になることも珍しくない。電子マニフェストであれば、交付・回付・処理終了の状況をリアルタイムで確認でき、期限管理が格段に楽になる。


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使える補助金制度

解体業のデジタル化にも、国の補助金が活用できる。

補助金名補助率補助上限額主な対象
デジタル化・AI導入補助金(IT導入補助金)1/2〜4/5最大450万円SaaS利用料、クラウドサービスの導入費用
ものづくり補助金1/2〜2/3最大1,250万円カスタムシステムの開発費用、設備投資
小規模事業者持続化補助金2/3最大200万円従業員20名以下の事業者のIT導入費用
(出典:中小機構「デジタル化・AI導入補助金2026」公式サイト、中小企業庁「ものづくり補助金総合サイト」、日本商工会議所「小規模事業者持続化補助金」公式サイト)

たとえば、SaaS型の産廃管理+写真管理で年間費用が約100万円の場合、デジタル化・AI導入補助金を使えば自己負担は20〜50万円程度に抑えられる可能性がある。カスタム開発で500万円かかるシステムも、ものづくり補助金を活用すれば自己負担を200万円前後にできる場合がある。

補助金の申請にはgBizIDプライムの取得が必要だ。取得に2〜3週間かかるため、早めの準備をお勧めする。


まとめ

解体業のデジタル化は、「見積作成」「工程管理」「産廃マニフェスト管理」「安全管理」「写真管理」の5つの領域が対象になる。SaaS型のサービスを活用すれば月額3〜10万円から始められ、カスタム開発でも200〜800万円の範囲で一体型のシステムが構築できる。

すべてを一度にやる必要はない。一番手間がかかっている領域を1つ選び、まず2週間試してみるところから始めればよい。補助金を活用すれば費用負担はさらに軽くなる。

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よくあるご質問(FAQ)

Q1. パソコンが苦手な職人でも使えますか?

A1. 使えます。この記事で紹介したSaaS型のサービスは、いずれもスマホやタブレットで操作が完結します。「写真を撮る」「選択肢をタップする」程度の操作なので、60代のベテラン職人が問題なく使っている現場は多数あります。

Q2. 紙のマニフェストから電子マニフェストに切り替えるのは大変ですか?

A2. JWNETへの加入手続き自体は1〜2週間で完了します。操作に慣れるまでの期間は、1〜2ヶ月が目安です。切り替え時に、紙と電子を並行して運用する期間を設けるとスムーズです。処理業者側も電子マニフェストに対応している必要があるため、事前に確認してください。

Q3. 1つの領域だけデジタル化して意味がありますか?

A3. あります。たとえば写真管理だけデジタル化した場合でも、「1現場あたり1〜2時間の写真整理が15分に短縮」「月に3現場こなしていれば月5〜6時間の削減」という効果が出ます。小さく始めて効果を確認してから次の領域に進めるのが、定着率が高い進め方です。

Q4. 既存のExcelデータは移行できますか?

A4. ほとんどのSaaS型サービスでCSVインポート機能を備えています。Excelの見積データや取引先情報をCSV形式で書き出し、新しいシステムに取り込むことが可能です。カスタム開発の場合は、既存データの移行を開発要件に含めることで確実に対応できます。