一般社団法人大都市政策研究機構「コワーキングスペースに関する実態調査(2025年9月公表)」によると、国内のコワーキングスペース施設数は2025年時点で約4,200か所に達し、2020年比で約2.3倍に増加した。施設数の急増に伴い、運営側の管理業務は複雑化の一途をたどっている。同調査では、複数拠点を運営する事業者の約62%が「予約管理・入退室管理・課金処理が分散しており、月次の集計に毎回10時間以上を要している」と回答している。

一方で、管理システムの導入を検討する際に最初の壁となるのが「結局いくらかかるのか」という費用の問題だ。SaaS型サービスを利用するのか、自社の業務フローに合わせてカスタム開発するのかによって、費用は月額数万円から1,000万円超まで大きく開く。

本記事では、コワーキングスペースの管理システムを検討している経営者に向けて、費用相場を「SaaS型」と「カスタム開発」に分けて整理し、予約・入退室・課金・会員管理の一元化を実現するための選定ポイントを解説する。


目次

  1. コワーキングスペース管理で発生する5つの業務課題
  2. 管理システムに必要な4つの機能
  3. SaaS型とカスタム開発の費用比較
  4. 費用の内訳 -- 何にいくらかかるのか
  5. 入退室管理の方式別コスト比較(QRコード・ICカード・顔認証)
  6. 導入事例 -- コワーキングスペース運営会社の一元化
  7. システム選定の判断フロー
  8. 補助金の活用
  9. まとめ
  10. FAQ
  11. 付録:費用シミュレーションシート

1. コワーキングスペース管理で発生する5つの業務課題

コワーキングスペースの運営業務は、一見シンプルに見えて実際は多岐にわたる。施設の規模が拡大し、会員数や拠点数が増えるほど、以下の課題が顕在化する。

課題1:予約管理の煩雑化

会議室、個室ブース、イベントスペースなど複数の利用区分がある場合、予約の受付・変更・キャンセル処理が煩雑になる。Googleカレンダーやスプレッドシートで管理しているケースでは、ダブルブッキングが月に数件発生するのは珍しくない。電話やメールでの予約受付が残っている場合、スタッフの対応工数がさらに増加する。

課題2:入退室管理と利用時間の記録

従量課金(時間課金)を導入している施設では、利用者の入退室時刻を正確に記録する仕組みが不可欠だ。物理的な鍵の受け渡しや受付での手書き記録に頼っている場合、記録の抜け漏れや営業時間外の不正利用のリスクがある。24時間営業や無人運営を目指す場合、スタッフを介さない入退室管理は必須要件になる。

課題3:料金体系の複雑さと課金処理

コワーキングスペースの料金体系は「月額固定プラン」「時間課金プラン」「ドロップイン」「法人契約」など複数が併存することが多い。さらに、オプション料金(ロッカー利用、郵便物受取、会議室の追加利用)が加わると、手動での請求書作成は計算ミスの温床になる。Excelでの請求管理では、月末の締め作業に2〜3営業日を費やしている運営会社も少なくない。

課題4:会員情報の分散

契約情報はExcel、連絡先はGoogleコンタクト、利用履歴はスプレッドシート、決済情報はStripeの管理画面と、会員に関する情報が複数のツールに分散していることが多い。退会手続きや契約変更のたびに複数のシステムを手動で更新する運用は、人的ミスとセキュリティリスクの原因になる。

課題5:経営データの可視化が遅い

稼働率、会員あたりの売上(ARPU)、解約率(チャーンレート)、時間帯別の利用状況といった経営判断に必要なデータをリアルタイムで把握できていない運営会社は多い。データの集計に時間がかかると、空きスペースの有効活用や料金改定のタイミングを逃す。


2. 管理システムに必要な4つの機能

コワーキングスペースの管理業務を一元化するシステムには、以下の4機能が中核となる。

機能1:予約管理

要件内容
リアルタイム空き状況表示会議室・個室ブース・デスクの空き状況をWebまたはアプリ上で表示
セルフ予約会員が自分で予約・変更・キャンセルを完結
予約ルールの設定最大予約時間、キャンセル期限、連続予約の上限など
法人枠管理法人契約での利用枠上限の設定と消化状況の表示
カレンダー連携Google Calendar/Outlook Calendarとの双方向同期

機能2:入退室管理

入退室管理は、利用時間の正確な記録(従量課金の根拠)とセキュリティの両面で重要な機能だ。

方式概要適合する施設
QRコードスマートフォンにQRコードを表示し、入口の読み取り端末にかざすスタッフ常駐・中小規模
ICカード(Felica/NFC)専用カードまたはスマートフォンのNFC機能で解錠月額会員中心・中〜大規模
顔認証カメラによる顔認証で解錠(AI画像認識)無人運営・高セキュリティ
暗証番号テンキーでの暗証番号入力ドロップイン中心・小規模
24時間・無人運営を志向する場合は、QRコードまたは顔認証が現実的な選択肢になる。物理鍵の受け渡しが不要になるため、スタッフの人件費削減にも直結する。

機能3:従量課金・請求管理

  • 時間単位の従量課金(15分刻み、30分刻みなど)の自動計算
  • 月額固定プランと従量課金の併用(ハイブリッド課金)
  • オプション料金(ロッカー、郵便、プリンタ利用枚数)の自動加算
  • 法人一括請求と個人決済の両対応
  • Stripe/GMOペイメント等の決済サービスとのAPI連携
  • 請求書の自動発行とPDFダウンロード

機能4:会員管理(CRM)

  • 契約プラン・契約期間・更新日の一元管理
  • 利用履歴(入退室ログ、予約履歴、課金履歴)の蓄積
  • 契約変更・アップグレード・退会のワークフロー
  • メール配信(施設のお知らせ、請求通知、更新案内)
  • 法人アカウントと個人アカウントの紐づけ

3. SaaS型とカスタム開発の費用比較

管理システムの導入方法は、大きく「SaaS型」と「カスタム開発」に分かれる。拠点数、会員数、業務の独自性によって最適な選択が異なる。

費用一覧

比較項目SaaS型カスタム開発
初期費用0〜30万円300〜1,000万円
月額費用3〜10万円保守運用:月5〜15万円
入退室ハードウェア5〜30万円/拠点10〜80万円/拠点
導入期間2週間〜1か月3〜8か月
カスタマイズ性限定的(設定の範囲内)自由(業務フローに完全適合)
拠点追加のコスト月額×拠点数(またはプラン変更)追加設定のみ(5〜20万円)
外部システム連携対応製品による(API公開の有無)要件に応じて自由に構築
データの所有権サービス提供者側自社

SaaS型が向いているケース

  • 拠点数が1〜3拠点で、今後の急拡大予定がない
  • 料金体系がシンプル(月額固定+ドロップインの2パターン程度)
  • スタッフが常駐しており、完全無人化の必要がない
  • 初期費用を抑えて早期にデジタル化したい

カスタム開発が向いているケース

  • 拠点数が5拠点以上で、拠点ごとに異なる料金体系がある
  • 独自の法人契約管理(請求先の分割、利用枠の部署別配分など)が必要
  • 顔認証による完全無人運営を実現したい
  • 既存の会計システム(freee、マネーフォワード、勘定奉行)やCRMとのデータ連携が必須
  • 利用データを自社で蓄積し、稼働率の予測分析に活用したい

4. 費用の内訳 -- 何にいくらかかるのか

カスタム開発を選択した場合の費用内訳を、機能別に整理する。

機能開発費用の目安開発期間
予約管理(Web+管理画面)80〜200万円1〜2か月
入退室管理(QRコード方式)50〜120万円1〜1.5か月
入退室管理(顔認証方式)150〜350万円2〜3か月
従量課金・請求管理100〜250万円1.5〜2.5か月
会員管理(CRM)60〜150万円1〜2か月
経営ダッシュボード40〜100万円0.5〜1か月
決済連携(Stripe等)30〜80万円0.5〜1か月
スマートフォンアプリ(iOS/Android)150〜400万円2〜4か月
スマートロック連携30〜80万円0.5〜1か月
※ IPA「ソフトウェア開発分析データ集2024」の工数データおよびJISA「情報サービス産業 基本統計調査 2024年版」の人月単価(約90〜120万円)を基に算出した目安。要件の複雑さ、セキュリティ要件、外部API連携の数により変動する。

費用の幅が生まれる要因

  • 拠点数:1拠点と10拠点では、マルチテナント設計の有無で設計コストが変わる
  • 入退室方式:QRコード(安価)と顔認証(高額)では3倍以上の差が出る
  • 決済の複雑さ:個人クレジットカード決済のみか、法人請求書払い対応まで含むかで工数が増減する
  • スマホアプリの要否:ネイティブアプリ開発を含めると150万円以上が加算される。PWA(Progressive Web App)であれば50〜100万円に抑えられる
  • 既存システム連携の数:会計、CRM、チャットツールなど連携先が増えるほどAPI開発工数が増える

5. 入退室管理の方式別コスト比較(QRコード・ICカード・顔認証)

入退室管理はコワーキングスペースの運営形態を決定づける重要な要素だ。方式ごとのコスト・運用負荷・セキュリティを比較する。

比較項目QRコードICカード(Felica/NFC)顔認証
ハードウェア費用/拠点5〜15万円10〜25万円30〜80万円
ソフトウェア開発費用50〜120万円60〜150万円150〜350万円
月額ランニングコスト0.5〜2万円1〜3万円2〜5万円
カード/端末の発行コスト不要(スマホ表示)300〜500円/枚不要
セキュリティレベル中(スクショ不正利用のリスクあり)高(物理カードの貸し借りリスク)最高(なりすまし困難)
無人運営との適合性高い高い非常に高い
導入のしやすさ容易中程度(カード配布が必要)やや難(プライバシー説明が必要)

方式選定の目安

  • ドロップイン中心・小規模施設:QRコードが費用対効果が高い。スマートフォンさえあれば追加機器が最小限で済む
  • 月額会員中心・中規模施設:ICカードまたはQRコードの併用が実用的。既にICカードのインフラがあるビルテナントの場合は、既存設備との連携を検討する
  • 無人24時間・高セキュリティ施設:顔認証が最適。初期コストは高いが、カード紛失やQRコード流出のリスクがなく、運用コストを長期的に抑えられる

6. 導入事例 -- コワーキングスペース運営会社の一元化

都内で3拠点のコワーキングスペースを運営するS社(会員数約800名、法人契約50社)の事例を紹介する。

導入前の課題

  • 予約はGoogleフォームで受付し、スタッフがGoogleカレンダーに転記。ダブルブッキングが月3〜5件発生
  • 入退室は受付で手書き台帳に記帳。営業時間外の利用記録が取れない
  • 課金は月末にExcelで集計し、請求書を手作業で発行。締め作業に毎月3営業日を消費
  • 法人契約の利用枠管理ができておらず、超過利用が把握できていなかった
  • 3拠点の会員データがそれぞれ別のスプレッドシートで管理されており、横断検索ができない

導入したシステムと施策

  1. 予約・入退室・課金・会員管理を統合したカスタムシステムを開発
  2. 入退室はQRコード方式を採用(全拠点にタブレット端末+スマートロックを設置)
  3. 従量課金は15分刻みで自動計算、月額プランとの併用に対応
  4. Stripe連携で個人はクレジットカード自動決済、法人は請求書払い(PDF自動生成+メール送信)
  5. 経営ダッシュボードで稼働率、ARPU、チャーンレート、時間帯別利用を可視化

開発費用と期間

項目金額
予約管理140万円
入退室管理(QR+スマートロック)90万円
従量課金・請求管理180万円
会員管理(CRM)100万円
経営ダッシュボード70万円
Stripe決済連携50万円
ハードウェア(3拠点分)36万円
合計666万円
開発期間は約5か月。要件定義に1か月、設計・開発に3か月、テスト・導入に1か月の配分だった。

導入後の効果(運用開始6か月後)

指標導入前導入後
ダブルブッキング月3〜5件月0件
月末の請求処理3営業日自動化(確認のみ0.5日)
法人契約の超過利用の把握月末にならないと不明リアルタイムで確認可能
スタッフの管理業務工数月80時間(3拠点合計)月20時間
稼働率不明(体感で60%程度)72%(データで把握)
ARPU(会員あたり月売上)不明12,800円(可視化に成功)
スタッフの管理業務が月60時間削減されたことで、年間換算で約180万円の人件費削減効果があった。システム投資は約3.7年で回収できる計算だが、ダブルブッキング解消による顧客満足度向上や法人契約の適正課金による売上増加(月額約15万円の増収)を加味すると、実質的な回収期間は約2年と見込んでいる。

コワーキングスペースに限らず、業種別のシステム導入事例はGXOの導入事例ページで紹介している。


7. システム選定の判断フロー

以下のフローで、自社に適した導入方法を判断する。

ステップ1:拠点数と会員数の確認

  • 1拠点・会員100名以下 → SaaS型を優先検討
  • 2〜3拠点・会員300名以下 → SaaS型またはSaaS+部分カスタマイズ
  • 4拠点以上・会員500名以上 → カスタム開発を検討

ステップ2:料金体系の複雑さ

  • 月額固定のみ → SaaS型で十分対応可能
  • 月額+従量課金 → SaaS型でも対応できる製品あり
  • 法人別の個別料金体系+従量課金+オプション → カスタム開発が現実的

ステップ3:入退室方式の要件

  • スタッフ常駐+営業時間内のみ → QRコードで十分
  • 24時間運営・無人化を目指す → QRコード+スマートロック、または顔認証

ステップ4:既存システム連携の有無

  • 独立運用で問題ない → SaaS型
  • 会計ソフト・CRM・チャットツールとの連携が必須 → カスタム開発

8. 補助金の活用

コワーキングスペースの管理システム導入には、以下の補助金が活用可能だ。

補助金名補助上限額補助率対象
IT導入補助金(通常枠)最大450万円1/2以内ITツール導入全般
IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)最大350万円2/3〜3/4会計・受発注・決済・EC
小規模事業者持続化補助金最大250万円2/3以内販路開拓・業務効率化
事業再構築補助金最大1,500万円1/2〜2/3新分野展開・業態転換
IT導入補助金のデジタル化基盤導入枠は、課金・決済機能を含むシステムが対象となるため、コワーキングスペース管理システムとの相性が良い。補助金申請には「導入効果の定量的な説明」が求められるため、「月間管理工数の削減時間」「課金漏れの改善額」「稼働率向上による売上増加見込み」を事前にシミュレーションしておくことが重要だ。

GXOの会社概要ページでは、補助金申請支援を含めたシステム開発の支援体制を紹介している。


まとめ

コワーキングスペースの管理システム開発費用は、SaaS型で月額3〜10万円、カスタム開発で300〜1,000万円が相場だ。選定のポイントは「拠点数」「料金体系の複雑さ」「入退室方式の要件」「既存システム連携の有無」の4つに集約される。

1〜3拠点のシンプルな運営であればSaaS型で十分対応できる。一方、複数拠点・法人契約の個別管理・24時間無人運営・従量課金の複雑な計算といった要件がある場合は、カスタム開発によって業務フローに完全に適合したシステムを構築する方が、長期的なコストメリットが大きい。

いずれの方法でも、導入の第一歩は「現在の管理業務にどれだけの時間と人件費がかかっているか」を数値で把握することだ。そのうえで費用対効果を比較検討することが、投資判断の精度を高める。


FAQ

Q1. SaaS型とカスタム開発、どちらを先に検討すべきか?

まずSaaS型のサービスが自社の業務フローに合うかを確認することを推奨する。無料トライアルを提供しているSaaS製品が多いため、1〜2製品を試したうえで「SaaS型では実現できない要件」を明確にし、その要件がビジネス上不可欠であればカスタム開発に進むという順序が合理的だ。SaaS型で業務の80%をカバーし、残り20%を運用でカバーできるのであれば、無理にカスタム開発を選ぶ必要はない。

Q2. 無人運営にはどのくらいの追加コストがかかるか?

QRコード+スマートロックによる無人化であれば、有人運営のシステムに加えて50〜150万円(ハードウェア込み)の追加コストが目安だ。顔認証方式を採用する場合は、カメラ+認証エンジンで拠点あたり80〜150万円が加算される。ただし、24時間のスタッフ人件費(月額30〜50万円/拠点)を削減できるため、無人化のシステム投資は半年〜1年で回収できるケースが多い。

Q3. 既存のSaaSから途中でカスタム開発に切り替えることは可能か?

可能だが、移行コストが発生する。会員データ、予約履歴、課金データの移行には、SaaS側のデータエクスポート機能の有無とフォーマットに依存する。CSV出力に対応しているSaaSであれば比較的スムーズだが、API経由でのデータ取得が必要な場合は移行ツールの開発費用(30〜80万円)が追加で発生する。SaaS選定時にデータポータビリティ(データを持ち出せるかどうか)を確認しておくことが重要だ。

Q4. スマートフォンアプリは必須か?

必須ではない。Web予約画面をPWA(Progressive Web App)として構築すれば、スマートフォンのホーム画面にアイコンを配置でき、ネイティブアプリに近い操作感を実現できる。PWAであれば開発費用を50〜100万円に抑えられる(ネイティブアプリは150〜400万円)。App Store/Google Playへの審査対応や更新の手間も不要だ。ただし、QRコードの常時表示やプッシュ通知を多用する場合はネイティブアプリの方がユーザー体験が優れる。

Q5. 開発期間はどのくらいかかるか?

SaaS型であれば初期設定と利用開始まで2週間〜1か月が目安だ。カスタム開発の場合、要件定義(1か月)→ 設計・開発(2〜5か月)→ テスト・導入(0.5〜1か月)で、全体で3.5〜7か月が標準的な期間になる。予約管理と会員管理を先行リリースし、入退室管理と課金管理を第2フェーズで追加する段階的な導入も有効な方法だ。