リクルートワークス研究所「中途採用実態調査2025」(2025年12月公表)によると、企業の約6割が「採用業務の工数増加」を経営課題に挙げている。求人媒体の多様化、候補者対応のスピード要求、面接日程調整の煩雑さ——これらを人力で回し続ける限界は、情シス部門にも「なんとかならないか」という相談として降りかかる。

ATS(Applicant Tracking System:採用管理システム)の導入は、この課題に対する定番の解決策だ。ただし、費用感は選択肢によって大きく異なる。SaaS型なら月額3〜10万円で始められるが、自社の採用フローに完全に合わせたいならカスタム開発で300〜1,000万円、基幹システムとの統合まで含めたフルスクラッチなら800〜2,500万円が相場になる。

本記事では、情シス担当者が「うちの場合、どの選択肢が妥当か」を判断できるよう、費用の内訳と判断基準を整理する。


目次

  1. ATSの3つの導入パターンと費用相場
  2. 機能別の開発費用内訳
  3. SaaS vs カスタム vs フルスクラッチ -- 判断基準
  4. ROI試算 -- 投資回収のシミュレーション
  5. 開発会社の選び方と失敗しない進め方
  6. まとめ
  7. FAQ
  8. 参考資料
  9. 付録

1. ATSの3つの導入パターンと費用相場

ATSの導入方法は大きく3つに分かれる。それぞれの費用感と特徴を整理した。

導入パターン初期費用月額費用開発期間向いている企業
SaaS型(HRMOS、HERP、sonar ATSなど)0〜50万円3〜10万円即日〜2週間年間採用50名以下、標準的な選考フロー
カスタム開発(SaaS+独自機能追加)300〜1,000万円5〜15万円(保守)3〜8ヶ月年間採用50〜300名、独自の評価基準あり
フルスクラッチ開発800〜2,500万円10〜30万円(保守)6〜18ヶ月年間採用300名超、基幹人事システムとの統合必須
※ 費用はIPA「ソフトウェア開発分析データ集2024」の工数データおよびJISA「情報サービス産業 基本統計調査 2024年版」の人月単価を基に算出した目安。要件の複雑さ、連携先システムの数、ユーザー数により変動する。

費用に幅がある理由

たとえばカスタム開発の「300万円」と「1,000万円」の差は、主に以下の要因で生まれる。

  • 連携先の数:求人媒体1つだけなら安い。Indeed・リクナビ・マイナビ・Wantedlyなど複数媒体のAPI連携を組むと工数が増える
  • 評価機能の複雑さ:面接評価を5段階で記録するだけなら標準機能で済む。コンピテンシー評価やAIスコアリングを組み込むと別途開発が必要
  • 既存システムとの接続:勤怠管理や給与計算(SmartHR、freee人事労務など)との自動連携は、1システムあたり50〜150万円の追加費用が発生する

セクションまとめ:ATSの費用は、SaaS月額3〜10万円、カスタム300〜1,000万円、フルスクラッチ800〜2,500万円。「採用人数」「選考フローの独自性」「既存システムとの連携要否」の3つで、どのパターンが妥当かが決まる。


2. 機能別の開発費用内訳

ATSの開発費用を機能単位で分解すると、「何にいくらかかるか」が見えてくる。カスタム開発を基準に、主要機能ごとの費用目安を整理した。

コア機能(必須)

機能費用目安概要
求人管理50〜100万円求人票の作成・公開・停止、求人媒体への自動転載
応募者管理80〜150万円候補者情報の一元管理、ステータス管理(応募→書類選考→面接→内定)
選考パイプライン60〜120万円カンバン形式の選考進捗管理、ドラッグ&ドロップでのステータス変更
面接日程調整40〜80万円Google Calendar・Outlook連携、候補者への日程候補自動送信
コミュニケーション30〜60万円メールテンプレート、自動リマインド、SMS送信

拡張機能(オプション)

機能費用目安概要
求人媒体API連携50〜150万円/媒体Indeed・リクナビ・マイナビ等からの応募自動取り込み
評価・スコアリング80〜200万円面接評価シート、コンピテンシー評価、合否判定ワークフロー
レポート・分析60〜120万円採用ファネル分析、媒体別ROI、採用リードタイム分析
AI機能100〜300万円レジュメの自動パース、候補者マッチングスコア、面接質問の自動生成
基幹システム連携50〜150万円/システムSmartHR・freee人事労務・SAP等との人事データ自動連携
キャリアページCMS40〜100万円自社採用サイトの求人一覧・応募フォーム自動生成

費用の構成比

カスタムATS開発(総額600万円の場合)の典型的な費用構成は以下のとおりだ。

  • 要件定義・設計:120万円(20%)——採用フローのヒアリング、画面設計、データ設計
  • 開発・実装:330万円(55%)——コア機能+拡張機能の実装
  • テスト・品質保証:90万円(15%)——テスト設計、受入テスト、セキュリティテスト
  • 導入支援・データ移行:60万円(10%)——既存データの移行、操作研修、マニュアル作成

人件費が全体の85〜90%を占める。JISA「情報サービス産業 基本統計調査 2024年版」に基づくと、SE/プログラマの人月単価は60〜120万円が中心帯だ。

セクションまとめ:コア機能だけなら260〜510万円。AI機能や複数媒体連携を加えると800万円を超える。まずは「コア機能だけで始めて、拡張は効果検証後」が費用を抑える王道だ。


3. SaaS vs カスタム vs フルスクラッチ -- 判断基準

情シス担当者が最も悩むのが「SaaSで済ませるか、自社開発に踏み切るか」の判断だ。以下のチェックリストで、自社がどのパターンに該当するかを確認してほしい。

SaaS型が適しているケース

  • 年間採用人数が50名以下
  • 選考フローが「書類選考→一次面接→最終面接」の3〜4ステップで済む
  • 求人媒体は2〜3種類で、手動での応募管理でも回せている
  • 人事部門のITリテラシーが高く、SaaSの管理画面を自分たちで運用できる
  • 既存の人事システムとの自動連携は不要(CSV出力で十分)

この場合の費用:月額3〜10万円(年間36〜120万円)。初期費用はほぼゼロ。

カスタム開発が適しているケース

  • 年間採用人数が50〜300名で、複数の職種・雇用形態が混在
  • 独自の評価基準(自社コンピテンシーモデルなど)をシステムに組み込みたい
  • 5種類以上の求人媒体を使っており、手動管理が限界に達している
  • SmartHRやfreee人事労務との自動連携で、入社手続きまでワンストップで処理したい
  • SaaSの標準機能では「あと一歩足りない」が複数箇所ある

この場合の費用:300〜1,000万円(初期)+月額5〜15万円(保守)。

フルスクラッチが適しているケース

  • 年間採用人数が300名を超え、新卒・中途・派遣・アルバイトの全チャネルを一元管理する必要がある
  • グループ会社間で採用データを共有し、人材プールを横断的に活用したい
  • 既存の基幹人事システム(SAP、COMPANY、OBICなど)とリアルタイム連携が必須
  • セキュリティポリシー上、候補者の個人情報を外部SaaSに預けられない
  • 採用データを自社のBIツールで分析し、経営指標として活用したい

この場合の費用:800〜2,500万円(初期)+月額10〜30万円(保守)。

判断のフローチャート

迷ったら、以下の順番で考えるとよい。

  1. SaaSを3ヶ月試す → 標準機能でカバーできれば、そのまま継続
  2. 「SaaSでは無理」と判明した要件を洗い出す → 3つ以下ならSaaS+業務運用でカバーを検討
  3. カバーできない要件が4つ以上、または基幹連携が必須 → カスタム開発を検討
  4. グループ横断管理、オンプレ要件、年間300名超 → フルスクラッチを検討

重要なのは「最初からフルスクラッチを選ばない」ことだ。SaaSで試してから判断しても遅くはない。むしろ、SaaSで運用した経験が「本当に必要な機能」を見極める材料になる。

セクションまとめ:SaaS→カスタム→フルスクラッチの順に検討する。最初からフルスクラッチに飛びつくと、使わない機能に数百万円を費やすリスクがある。SaaSで3ヶ月回して「足りない部分」を特定するのが最も合理的だ。


ATS導入の費用感を把握したい方へ

採用人数・選考フロー・既存システムの情報を教えていただければ、SaaS/カスタム/フルスクラッチのどれが適切か、費用の概算とあわせてお調べします。見積もりだけでも構いません。

※ 営業電話はしません | オンライン対応可 | 相談だけでもOK

ATS導入の無料相談はこちら →


4. ROI試算 -- 投資回収のシミュレーション

「費用はわかった。で、いつ元が取れるのか」——情シス担当者が稟議を通すには、この数字が必要だ。採用業務における典型的なコスト削減効果を試算する。

採用業務の現状コスト(年間採用100名の場合)

コスト項目年間コスト算出根拠
人事担当者の候補者管理工数約240万円1名あたり2時間×100名×12回(月次)×時給2,000円
面接日程調整の工数約180万円1名あたり1.5時間×100名×6回×時給2,000円
求人媒体の手動管理工数約120万円5媒体×月20時間×12ヶ月×時給1,000円(事務担当)
対応遅延による辞退コスト約300万円辞退率10%×100名×推定30万円/人(再募集コスト)
合計約840万円

ATS導入後の削減効果

改善項目削減率削減額(年間)
候補者管理の自動化60%約144万円
日程調整の自動化70%約126万円
求人媒体の一元管理50%約60万円
対応スピード向上による辞退率低下30%約90万円
合計削減額約420万円/年

投資回収期間の試算

導入パターン初期費用年間運用費年間削減額投資回収期間
SaaS(月額5万円)0万円60万円420万円即月から黒字
カスタム開発(600万円)600万円120万円420万円約2年
フルスクラッチ(1,500万円)1,500万円240万円420万円約8.3年
SaaS型は初月から投資対効果がプラスになる。カスタム開発でも2年で回収できるため、3年以上使う前提なら十分に合理的な投資だ。一方、フルスクラッチは回収に8年以上かかるため、「回収期間」だけで正当化するのは難しい。フルスクラッチを選ぶ場合は、セキュリティ要件や基幹連携による業務全体の効率化など、ROI試算に含まれない定性的な価値を稟議書に盛り込む必要がある。

セクションまとめ:年間採用100名の企業なら、ATS導入で年間約420万円のコスト削減が見込める。SaaSは即月黒字、カスタムでも2年で回収。稟議を通す際は「対応遅延による辞退コスト」を含めた試算を提示すると、投資対効果が明確になる。


5. 開発会社の選び方と失敗しない進め方

ATS開発を外注する場合、開発会社の選定が成否を分ける。人事業務を理解していない開発会社に発注すると、「画面はきれいだが、現場で使えない」システムが出来上がる。

選定の3つのチェックポイント

1. 人事・採用業務の開発実績があるか

ATSには「選考ステータスの遷移」「評価ワークフロー」「候補者への自動通知」など、採用業務に固有のロジックが多い。HR系システムの開発経験がない会社だと、要件定義の段階で認識齟齬が生まれやすい。

確認方法:「選考パイプラインの状態管理をどう設計しますか」と聞く。経験のある会社なら、候補者のステータス遷移図をすぐに描ける。

2. SaaS連携の技術力があるか

ATSは単独で使うシステムではない。求人媒体、カレンダー、メール、人事労務システムなど、複数のSaaSとAPI連携する前提で設計する必要がある。特に求人媒体のAPIは仕様が頻繁に変わるため、継続的なメンテナンス体制があるかも重要だ。

3. セキュリティ対応が明確か

ATSは候補者の個人情報(氏名、住所、職歴、年収など)を大量に扱う。個人情報保護法への対応はもちろん、データの暗号化、アクセスログの管理、保持期間のポリシー設定など、セキュリティ設計が明確にできる会社を選ぶべきだ。

失敗しない進め方 -- 5ステップ

Step 1:現状の採用フローを可視化する(1〜2週間) 「応募から入社まで、誰が何をしているか」を書き出す。Excelで管理している項目、メールで行っている連絡、手作業で行っている集計——これらが自動化の対象になる。

Step 2:SaaSで3ヶ月運用する(3ヶ月) 無料トライアルまたは最安プランでSaaS型ATSを試す。「これで十分」ならそのまま継続。「ここが足りない」が明確になれば、カスタム開発の要件になる。

Step 3:要件を「必須」「あれば便利」「不要」に分類する(2週間) SaaS運用で見えた課題を3段階に分類する。「必須」だけを開発範囲にすると、費用を30〜40%削減できるケースが多い。

Step 4:3社以上から見積もりを取る(2〜4週間) 開発会社によって見積額は2〜3倍異なることがある。費用だけでなく、「要件定義の進め方」「プロトタイプの提示時期」「保守体制」を比較する。

Step 5:段階リリースで進める(3〜12ヶ月) 第1フェーズ(コア機能)→ 現場検証 → 第2フェーズ(拡張機能)の段階リリースで進める。一括開発より総額は10〜15%増えるが、「使わない機能に費用をかけるリスク」を大幅に下げられる。

GXO株式会社の開発事例では、人事系システムを含む業務システム開発の事例を紹介している。会社概要もあわせてご確認いただきたい。

セクションまとめ:開発会社は「HR業務の理解」「API連携力」「セキュリティ設計」で選ぶ。進め方は「SaaSで試す→足りない部分を特定→段階開発」が最もリスクが低い。


まとめ

ATS(採用管理システム)の費用は、SaaS型なら月額3〜10万円、カスタム開発なら300〜1,000万円、フルスクラッチなら800〜2,500万円が2026年時点の相場だ。

情シス担当者として押さえるべきポイントは3つある。

  1. まずSaaSで試す:無料トライアルで3ヶ月運用し、「本当に必要な機能」を見極める
  2. ROIで稟議を通す:年間採用100名の企業なら、ATS導入で年間約420万円のコスト削減が見込める。カスタム開発でも2年で回収可能
  3. 段階開発でリスクを抑える:コア機能から始めて、効果検証後に拡張機能を追加する

採用市場の競争が激化する中、「候補者への対応スピード」は採用成果を左右する最大の変数だ。応募から初回連絡までの時間が24時間を超えると、候補者の辞退率が3倍になるというデータもある(リクルートワークス研究所「採用プロセス調査2025」)。ATSは「業務効率化ツール」であると同時に、「採用競争力を維持するための基盤」でもある。

ATS導入・採用管理システム開発の無料相談を受付中

GXO株式会社は、人事系システムを含む業務システム開発に対応するシステム開発・DX支援会社です。SaaSの選定支援からカスタムATS開発、既存人事システムとの連携設計までワンストップで対応します。「SaaSで足りるのか判断がつかない」という段階でもお気軽にご相談ください。

無料の見積シミュレーションはこちら →

※ 営業電話はしません | オンライン対応可 | 相談だけでもOK


よくあるご質問(FAQ)

Q1. SaaS型ATSとカスタム開発、どちらを選ぶべきですか?

A1. 年間採用50名以下で、選考フローが標準的(書類選考→面接2〜3回→内定)であれば、SaaS型で十分です。HRMOS、HERP、sonar ATSなどの主要サービスは月額3〜10万円で利用でき、初期費用もほぼかかりません。一方、独自の評価基準をシステムに組み込みたい、5種類以上の求人媒体と自動連携したい、SmartHRやfreee人事労務と入社手続きまでワンストップでつなげたい——といった要件がある場合は、カスタム開発を検討してください。まずはSaaSを3ヶ月試してから判断するのが最もリスクが低い進め方です。

Q2. ATS開発の費用を抑える方法はありますか?

A2. 3つの方法があります。第一に、段階開発です。コア機能(求人管理・応募者管理・日程調整)だけを先に開発し、AI機能や高度な分析機能は効果検証後に追加します。これだけで初期費用を30〜40%削減できるケースが多いです。第二に、SaaSをベースにしたカスタマイズです。kintoneやSalesforceのプラットフォーム上にATS機能を構築すれば、フルスクラッチより安く仕上がります。第三に、補助金の活用です。IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)を使えば、開発費の1/2〜4/5が補助される可能性があります。

Q3. 既存のExcel管理からATSに移行する際、データは引き継げますか?

A3. ほとんどの場合、引き継げます。候補者情報、選考履歴、評価データなどをCSV形式で整理できれば、ATSに一括インポートできます。ただし、Excelの自由記述フィールド(備考欄に面接所感を書いているケースなど)は、ATS側のデータ構造に合わせて整理する必要があります。データ移行の工数は、件数とデータの整合性チェック範囲によりますが、10〜50万円が目安です。過去何年分を移行するかは事前に決めておくとスムーズです。

Q4. ATSに候補者の個人情報を保管するにあたり、セキュリティ上の注意点は?

A4. 候補者データは個人情報保護法の対象です。最低限、以下の対策が必要です。(1) データの暗号化(保管時・通信時の両方)、(2) アクセス権限の設定(人事部門のみ閲覧可能にする)、(3) アクセスログの記録と監査、(4) データ保持期間の設定と自動削除(不採用者のデータは6ヶ月〜1年で削除するのが一般的)、(5) 候補者への利用目的の明示と同意取得。SaaS型であればサービス提供元がこれらの対策を実装していますが、カスタム開発の場合は設計段階から組み込む必要があります。


参考資料

  • IPA(情報処理推進機構)「ソフトウェア開発分析データ集2024」(2024年10月公表) https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/metrics/
  • JISA(情報サービス産業協会)「情報サービス産業 基本統計調査 2024年版」 https://www.jisa.or.jp/
  • リクルートワークス研究所「中途採用実態調査2025」(2025年12月公表) https://www.works-i.com/
  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
  • 経済産業省「DXレポート2.2」(2024年7月公表) https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/
  • 中小機構「デジタル化・AI導入補助金2026」公式サイト https://it-shien.smrj.go.jp/
  • HR総研「採用管理システム利用実態調査2025」(2025年9月公表) https://www.hrpro.co.jp/