「AI導入を取締役会で説明するが、何を見せれば承認が取れるか分からない」「役員から想定外の質問が飛んできて答えられなかった」——情シス・経営企画・DX推進部長から多い相談です。
取締役会・経営会議でAI導入を承認させるには、現場目線ではなく 経営目線のストーリー が必要です。本記事では、12スライド構成のテンプレートと、各スライドの記載内容・話し方を解説します。
目次
取締役会で承認されないプレゼンの3つの特徴
特徴1:技術用語が多すぎる
「LLM」「Transformer」「ファインチューニング」を多用すると、役員は理解を諦めます。経営の言葉に翻訳する必要があります。
特徴2:効果が定性的
「業務効率化」「生産性向上」だけでは弱く、定量効果(金額・時間・件数)と財務インパクトが必要です。
特徴3:リスクが書かれていない
「うまくいきます」だけのプレゼンは経営層の不信感を招きます。リスクと対策の対称性が承認を引き出します。
承認を取る12スライド構成
| # | スライドタイトル | 主な目的 |
|---|---|---|
| 1 | 表紙・要旨 | 結論先出し(投資額・効果・期間) |
| 2 | 経営アジェンダとの関係 | 中期経営計画との整合 |
| 3 | 業界動向・競合状況 | 業界の AI 化の現状 |
| 4 | 自社の課題 | 解決すべき具体課題 |
| 5 | 提案するソリューション | 何を導入するか(経営語で) |
| 6 | 期待効果(定量) | 売上・コスト・リスクへの影響 |
| 7 | 投資総額・回収計画 | ROI、投資回収期間 |
| 8 | 実装スケジュール | フェーズ別の段階導入 |
| 9 | リスクと対策 | 失敗時のフォールバック |
| 10 | 体制・パートナー | 外部パートナー含む実行体制 |
| 11 | 補助金・税制 | 実投資額の圧縮 |
| 12 | 決定事項のお願い | 承認してほしい事項を明示 |
スライド別の記載内容と話し方
スライド1:表紙・要旨
記載内容:
- プロジェクト名
- 投資総額
- 期待効果(年額)
- 投資回収期間
- 承認をお願いする事項
話し方:
「営業業務をAIで効率化するプロジェクトです。投資総額1,500万円、補助金活用で実投資750万円、回収期間18ヶ月、承認をお願いいたします。」
スライド2:経営アジェンダとの関係
記載内容:
- 中期経営計画の重点テーマ
- 当該プロジェクトの位置付け
話し方:
「中期経営計画で人材確保が最大課題と位置付けています。本プロジェクトは、限られた人員で売上を維持・拡大する手段として、計画の優先施策です。」
スライド3:業界動向・競合状況
記載内容:
- 業界の AI 導入率(公的統計)
- 主要競合の AI 活用状況
- 業界の AI 化進捗トレンド
スライド4:自社の課題
記載内容:
- 現状の業務工数を時間単位で
- 課題放置時の3年後リスク
スライド5:提案するソリューション
記載内容:
- ソリューション概要(経営語で)
- 既存システムとの位置関係
- 主要機能3〜5つ
話し方:
「営業担当者がAIエージェントに『この案件の見積を作って』と指示すると、AIが過去案件を参照して見積案を生成します。営業は内容確認だけで、作業時間は半分以下になります。」
スライド6:期待効果(定量)
記載内容:
- 工数削減(時間×単価)
- 売上拡大(時間増×成約率)
- リスク削減
3パターン試算(楽観/中央値/保守)で提示すると説得力が増します。
スライド7:投資総額・回収計画
記載内容:
- 初期費・運用費の3年累計
- 補助金活用後の実投資額
- 回収期間と累計効果
スライド8:実装スケジュール
記載内容:
- Phase 1(PoC)3ヶ月
- Phase 2(本開発)6ヶ月
- Phase 3(運用定着)3ヶ月
各Phaseの撤退判断基準を明記。
スライド9:リスクと対策
記載内容:
- リスク3〜5項目
- 各リスクの発生確率・影響度
- 対策と撤退基準
スライド10:体制・パートナー
記載内容:
- 社内体制(責任者、運用担当)
- 外部パートナー(実績、選定理由)
スライド11:補助金・税制
記載内容:
- 活用予定の補助金(IT導入補助金等)
- 税制優遇(IT税制等)
- 実投資額の圧縮効果
スライド12:決定事項のお願い
記載内容:
- 承認してほしい事項を箇条書き
- 次の意思決定タイミング
話し方:
「本日、Phase 1の予算500万円のご承認をお願いします。Phase 2の本格投資判断は、Phase 1終了時に改めてご相談いたします。」
想定質疑10項目と回答テンプレ
| # | 質問 | 回答骨子 |
|---|---|---|
| 1 | 楽観試算ではないか | 中央値・保守試算でも投資回収可能 |
| 2 | 失敗したらどうするか | Phase 1で撤退判断、累計損失を限定 |
| 3 | AI誤判断のリスクは | 人間レビュー必須、AIは支援ツール |
| 4 | 個人情報・機密情報は守れるか | データ取扱ガイドライン整備済 |
| 5 | 競合他社の事例は | 業界一般のAI導入率を引用 |
| 6 | 内製化はいつ可能か | 2〜3年後を目標、初期は外部依存 |
| 7 | ベンダーロックインは大丈夫か | LLM抽象化、契約に知財条項 |
| 8 | 補助金不採択時はどうするか | 自己投資でも18ヶ月で回収可能 |
| 9 | 業務担当者は使ってくれるか | 経営トップ宣言+週次レビュー |
| 10 | 3年後・5年後の発展性は | 全社展開ロードマップを別途策定 |
事前根回しの順序
| 順序 | 相手 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 1 | 直属役員 | 提案内容のフィードバック、味方化 |
| 2 | 財務担当役員 | 投資金額・補助金の事前合意 |
| 3 | 関係事業部長 | 利用想定部門の同意 |
| 4 | 経営企画部長 | 中期経営計画との整合 |
| 5 | 社長(事前ブリーフ) | 大まかな方向性の事前承認 |
| 6 | 取締役会本番 | 正式な承認プロセス |
プレゼン本番のコツ
コツ1:結論先出し
スライド1で投資額・効果・期間を明示。役員はそこで「Yes/No」の方向性を決めます。
コツ2:話さなくていいスライドは飛ばす
事前配布資料に詳細を記載し、本番では「ここは資料をご参照ください」で飛ばすスキルが必要。
コツ3:質疑は「論点を絞る」
質疑が脱線しそうなら「その点はXX部署で議論中です。次回までに整理します」で戻します。
コツ4:時間管理
15分プレゼン+10分質疑が標準。長くなると役員の集中力が切れます。
よくある質問
Q1. プレゼンは1人でやるべきですか?
主担当1名+補助1名(質疑応答用)が一般的。技術質問は補助担当が答える形が機能します。
Q2. 動画・デモを入れるべきですか?
30秒〜1分のデモ動画は効果的です。長すぎると話のリズムが壊れます。
Q3. 紙資料 vs スクリーン投影どちらが良いですか?
スクリーン投影+紙資料の併用が標準。役員は手元で見たい派が多数です。
Q4. 想定外の質問が出たらどう対応しますか?
「持ち帰り、〇月〇日までにご回答します」が標準。即興で誤答するより信頼を維持できます。
Q5. 取締役会で否決されたらどうしますか?
否決理由を整理し、改善版で再提案します。多くは「効果の根拠不足」「リスク対策不足」が理由なので、具体性を高めます。
参考資料
- 経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」
- 経済産業省「AI導入ガイドブック」(2024年4月公表)
- 独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2024」
- 中小企業庁「中小企業白書2025」