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NestléとPlusAIに学ぶ、AI実装の"本番化"|PoCで止まらない企業は何が違うのか― 製造・物流の現場で始まった「AI×システム刷新」の両輪戦略 ―

NestléとPlusAIに学ぶ、AI実装の"本番化"|PoCで止まらない企業は何が違うのか

2025〜2026年、グローバル企業のAI実装は「実験」から「本番」へフェーズが変わった。Nestléは世界最大級のSAP S/4HANAアップグレード(112カ国、50,000ユーザー)でAIアシスタント「Joule」を全社規模で活用可能なデジタルコアを整備。PlusAIは自動運転トラックの商用化に向け、Safety Case Readiness 90.1%を達成。両社の共通点は「AIだけでなく土台(システム基盤)を同時に整備」「測定可能なKPIで進捗を追跡」「段階的に展開」の3点。日本企業にとって、ERPリプレイスや新規システム開発はAI前提の設計に切り替える好機だ。

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はじめに:2026年、グローバル企業のAI実装は「本番」へ

「AIを導入したが、PoC(概念実証:Proof of Concept)で止まっている」 「効果は出ているが、全社展開できていない」

日本企業のDX担当者から、こうした声を頻繁に聞きます。(※自己診断で×が3つ以上なら"基盤整備から")

しかし2025年後半から2026年にかけて、グローバル企業のAI実装はフェーズが変わったと見られています。「実験」から「本番」へ

本記事では、製造業のNestléと物流業のPlusAIという2つの事例から、PoCで止まらない企業は何が違うのかを解説します。

結論を先に言えば、両社に共通するのは**「AIだけでなく、それを支えるシステム基盤を同時に刷新している」**という点です。


事例①:Nestlé|世界最大級のSAP移行とAI統合

何が起きたのか

2025年10月、Nestléは**「世界最大級(world's largest-ever)」と同社が表現するSAP S/4HANA Cloud Private Editionアップグレード**を完了しました。12

第一フェーズで、アジア・オセアニア・アフリカ地域の112カ国、50,000ユーザーを移行。残りの欧州・米州地域も2年以内に完了予定です。2

AIとの統合

このアップグレードの核心は、SAPのAIアシスタント「Joule」を全社規模で活用可能なデジタルコアの整備です。今回のアップグレードにより、Jouleの将来的な統合(future integration)が可能となります。1

またNestléは、デジタルコア整備で改善が見込まれる領域として、以下を挙げています。1

  • 受注処理・在庫管理におけるリアルタイム需給マッチング

  • 購買・調達業務のクラウド化とグローバル支出可視化

  • リアルタイムデータに基づく意思決定の高速化

NestléのCIO、Chris Wright氏は、共通のERP(統合基幹業務システム:Enterprise Resource Planning)をバックボーンとして持つことが同社の強みであると述べています。AI と自動化を大規模に活用することで、バリューチェーン全体の効率と効果を高めていく方針です。2

本番化を支える「システム基盤」

重要なのは、NestléがAIだけを導入したわけではないという点です。

同社は2000年から単一のSAP ERPテンプレートで185カ国の業務を標準化し、2022年にオンプレミスからクラウドへ移行。その上で今回のS/4HANAアップグレードを実施しています。2

つまり、20年以上かけて構築した統一データ基盤があるからこそ、AIの全社展開が可能になっているのです。

数字で見る規模感

指標

数値

移行対象国数(第一フェーズ)

112カ国

移行ユーザー数(第一フェーズ)

50,000人

ダウンタイム

20時間未満

全社展開完了予定

2年以内

このセクションのポイント: Nestléは世界最大級のSAP S/4HANAアップグレードを完了し、AIアシスタント「Joule」を全社規模で活用可能なデジタルコアを整備。20年以上かけて構築した統一データ基盤が、AIの大規模展開を可能にしている。


事例②:PlusAI|自動運転トラックの商用化ロードマップ

何が起きているのか

PlusAIは、2027年の自動運転トラック商用化に向けて、着実に進捗を示しています。3

同社のロードマップは以下の通りです。

  • 2026年:Texas Triangleで工場出荷型の自動運転トラックを初期展開

  • 2027年:商用化(driverlessの本格展開)をターゲット

2026年1月の発表によると、同社のAI自動運転システム「SuperDrive」は以下のKPI(重要業績評価指標)を達成しました。3

指標

2025年H2実績

2025年H1比

Safety Case Readiness(安全ケース準備度)

90.1%

+4.0pt

Autonomous Miles Percentage(自律走行距離率)

99.2%

+0.6pt

Remote Assistance-Free Trips(遠隔支援不要率)

79.0%

+2.8pt

※H2=2025年後半。H1比の増分はPlusAI発表に基づく3
※商用化目標:Safety Case Readiness 100%、Remote Assistance-Free Trips 90%以上3

OEMとの工場統合

PlusAIの特徴は、トラックメーカーとの工場レベルでの統合です。3

TRATON Group(Scania、MAN、International)、Iveco、Hyundaiといった大手OEMが、SuperDriveを工場出荷時から統合する計画を進めています。

これは単なる「後付けの自動運転キット」ではなく、製造段階からAIを組み込むアプローチです。

なお、2026年1月にはIvecoとPlusAIがスペインでの自動運転トラック試験(Level 4)を拡大することを発表しています。45 米国回廊だけでなく欧州でも検証→展開の準備が進んでいることを示唆しており、「本番化」に向けた動きと読み取れます。

本番化を支える「検証基盤」

PlusAIがPoCで止まらない理由は、検証可能なKPIフレームワークを構築している点にあります。

  • Safety Case Readiness(SCR):安全性の主張と証拠を5つの柱で構造化

  • Autonomous Miles Percentage(AMP):商用ルートでの自律走行の継続性を測定

  • Remote Assistance-Free Trips(RAFT):人間の介入なしで完了した配送の割合

このフレームワークにより、「どこまで本番に近いか」を定量的に示せるようになっています。

David Liu CEOは、安全性とシステム成熟度、そして運用効率が、工場出荷型の自動運転トラックを大規模に展開するための基本要件であると述べ、2027年の商用化に向けて一貫した測定可能な進捗を続けていることを強調しています。3

このセクションのポイント: PlusAIは2027年の商用化に向け、Safety Case Readiness 90.1%を達成。測定可能なKPIフレームワークにより「本番への距離」を定量化し、OEMとの工場レベル統合で大規模展開の基盤を構築している。


両社の共通点:「AI×システム基盤」の両輪戦略

NestléとPlusAI、業界は異なりますが、PoCで止まらない理由には明確な共通点があります。

① AIだけでなく「土台」を同時に整備している

企業

AIの取り組み

土台となるシステム基盤

Nestlé

Joule(AI Copilot)活用基盤整備

SAP S/4HANA Cloud、20年間の統一ERP

PlusAI

SuperDrive(Level 4 AV)

安全ケースフレームワーク、OEM工場統合

AIの導入だけを見ると「すごい」で終わりますが、その裏には長期的なシステム基盤の整備があります。

② 「測定可能なKPI」で進捗を可視化している

(テンプレ)業務AIで追うべきKPIの例:

  • 処理自動化率、利用者数、ダウンタイム(ERP×AI系)

  • 安全性スコア、自律稼働率、人的介入率(自動運転・ロボティクス系)

  • 差戻し率(=AI出力が人手で修正された割合)、監査NG率(セキュリティ/コンプラ/品質レビュー差戻し率)

PoCが止まる企業の多くは、「成功の定義」が曖昧です。両社は、本番化に向けた進捗を数字で追跡しています。

③ 「段階的な展開」で全社に広げている

  • Nestlé:112カ国 → 2年で全世界展開

  • PlusAI:Texas Triangle → 米国・欧州の主要回廊へ拡大

いきなり全社展開ではなく、特定地域・特定ユースケースから始めて成功を積み上げるアプローチです。

このセクションのポイント: 両社に共通するのは「土台の同時整備」「測定可能なKPI」「段階的展開」の3点。AIだけでなくシステム基盤を整え、成功の定義を明確にし、特定領域から着実に拡大している。


日本企業が直面する「壁」

では、日本企業がこの両輪戦略を実行しようとしたとき、何が障壁になるのでしょうか。

壁①:AIとシステム基盤が「別プロジェクト」になっている

多くの企業では、AI導入とシステム刷新が別々のプロジェクトとして進んでいます。

  • AI導入 → DX推進部門

  • システム刷新 → IT部門

この分断が、「AIを入れたが繋がらない」問題を生んでいます。

壁②:ERPや基幹システムが「レガシー」のまま

Nestléは2000年からSAPを統一運用し、2022年にクラウド移行、2025年にS/4HANAアップグレードと、20年以上かけて基盤を整備しています。

日本企業の多くは、ERP導入は済んでいてもクラウド移行やモダナイズが遅れている状況です。AIの全社展開には、この土台の整備が不可欠です。

壁③:「成功の定義」が曖昧なままPoCを始める

PlusAIのように**「何を測定するか」を先に決めてからPoC**を始める企業は少数派です。

「AIの効果を検証する」という曖昧な目標では、PoCは成功しても本番には進めません。

壁④:新規開発・リプレイスの機会を逃している

レガシーシステムのリプレイスや新規システム開発は、AIを前提とした設計に切り替える絶好のタイミングです。

しかし、「まずは現行踏襲で」という発想で、この機会を逃している企業が多いのが現実です。

このセクションのポイント: 日本企業の壁は「AI・システム刷新の分断」「レガシー基盤」「曖昧な成功定義」「機会損失」の4点。これらを認識し、計画的に対処することが本番化への第一歩となる。


「AIを前提としたシステム設計」のポイント

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NestléとPlusAIの事例から、日本企業が今から意識すべきポイントを整理します。

① API前提のアーキテクチャ

AIがデータを取得・活用するには、API(Application Programming Interface:アプリケーション連携の仕組み)でデータを出せる状態が前提です。

新規開発やリプレイスのタイミングで、以下を意識してください。

  • 主要データ(在庫、価格、顧客情報など)のAPI公開

  • リアルタイム性の定義(更新頻度、許容遅延)

  • 認証・認可の設計

よくある失敗パターン: APIはあるが「業務語彙」がバラバラ → マスタ統一から着手する

② 統一されたデータ基盤

Nestléが20年かけて構築した「単一ERPテンプレート」は極端な例ですが、データの一元管理は必須です。

  • 商品マスタの統一

  • 顧客データの統合

  • 部門・システム間のデータ整合性

よくある失敗パターン: KPIが「費用対効果」だけ → 品質・リスク・運用KPIも併設する

③ 測定可能なKPIの設計

PoCを本番に進めるには、「成功の定義(KPI)」を先に決める必要があります。

  • 処理時間の短縮率

  • 自動化率

  • エラー率の低減

  • コスト削減額

  • 差戻し率(=AI出力が人手で修正された割合)

よくある失敗パターン: PoCは動いたが運用が死ぬ → 監視・例外処理・責任分界点を先に決める

④ 段階的な展開計画

いきなり全社展開ではなく、特定部門・特定業務から始めるアプローチが現実的です。

フェーズ

期間

内容

棚卸し

0〜4週

現状のシステム・データ・業務の可視化

設計

4〜8週

AI前提のアーキテクチャ設計、KPI定義

PoC

8〜16週

1ユースケースで検証、KPI測定

本番化

16週〜

成功したユースケースを段階的に展開

このセクションのポイント: AI前提のシステム設計には「API化」「データ統一」「KPI設計」「段階展開」の4要素が必要。新規開発・リプレイス時にこれらを組み込むことで、将来のAI活用基盤を構築できる。


【実務テンプレート】PoC→本番化チェックリスト(10項目)

PoCを本番に進めるために、以下の10項目を事前に確認してください。

#

チェック項目

確認ポイント

レビュー担当例

1

データ基盤

AIが必要とするデータがAPI経由で取得可能か

情シス

2

マスタ統一

商品・顧客・取引先のマスタが統一されているか

情シス・業務

3

権限設計

AI処理に必要な権限が明確に定義されているか

情シス・法務

4

KPI定義

成功の定義(処理時間、自動化率等)が数値化されているか

業務・経営

5

例外処理

AIが処理できないケースのフォールバック設計があるか

業務・情シス

6

運用監視

AI処理の稼働状況・エラー率を監視する仕組みがあるか

情シス

7

責任分界

AI判断と人間判断の境界が明確か

業務・法務

8

現場導線

現場担当者がAI結果を業務に組み込めるフローがあるか

業務

9

教育計画

現場向けのトレーニング・マニュアルが準備されているか

業務・人事

10

ガバナンス

AI利用に関するルール・承認プロセスが整備されているか

法務・監査

簡易判定:

  • ×が3つ以上 → AI導入より先に「基盤整備フェーズ」から始めることを推奨

  • △が4つ以上 → PoC開始前に要補強(並行で整備しながら進める)

次の一手: ×の項目から順に、API→マスタ→権限→監視の順で潰していくのが効率的です。

このチェックリストをPoC開始前に確認することで、本番化への移行がスムーズになります。社内稟議の際にも活用ください。


GXO株式会社が提供できる価値

私たちGXO株式会社は、AI導入とシステム開発を「両輪」で支援しています。

よくあるご相談

  • 「AIを入れたいが、既存システムが対応できない」

  • 「ERPのリプレイス時期だが、AI活用も視野に入れたい」

  • 「PoCは成功したが、本番展開の設計ができていない」

  • 「新規システム開発で、将来のAI活用を見据えた設計にしたい」

私たちの強み

  • 要件定義〜運用保守までワンストップで対応

  • CRM・会計・予約・広告APIなど外部連携をご支援してきた領域

  • 「AIを前提としたシステム設計」のアーキテクチャ設計

  • PoC設計から本番展開まで一貫した支援

ご支援の例: ERP/会計/予約/広告データをAPI連携し、運用監視まで含めて段階展開(製造業・物流業でのご支援領域)

「AI×システム刷新」を両輪で進める

NestléやPlusAIのような大企業と同じことはできなくても、**「AIを前提としたシステム設計」**は今から始められます。

私たちは、海外の先進事例を踏まえつつ、日本企業の規模・業務フローに合った形に落とし込む支援を行っています。

このセクションのポイント: GXOはAI導入とシステム開発の両輪支援が強み。要件定義から運用保守まで一貫対応し、海外先進事例を日本企業の現場に適用するノウハウを持つ。


まとめ

2025年後半から2026年にかけて、グローバル企業のAI実装は**「実験」から「本番」へ**フェーズが変わったと見られています。

NestléとPlusAIの事例から学べることは、以下の3点です。

  1. AIだけでなく「土台」を同時に整備する:AI導入とシステム基盤の刷新は両輪

  2. 測定可能なKPIで進捗を追跡する:「成功の定義」を先に決める

  3. 段階的に展開する:特定ユースケースから始めて成功を積み上げる

日本企業にとって、ERPリプレイスや新規システム開発のタイミングは、AIを前提とした設計に切り替える絶好の機会です。

「PoCで止まらない企業」になるために、今から準備を始めましょう。

最短の次アクション: まずチェックリスト10項目を4部門(情シス・業務・法務・監査)で30分レビューし、不足を棚卸しすることから始められます。


無料相談のご案内

対象: PoC後の"本番設計(データ/API/KPI/運用)"で詰まっている企業様

「AI導入とシステム刷新、どちらから手をつけるべきか」 「既存システムをリプレイスする際、AI活用を見据えた設計にしたい」 「PoCを本番に進めるためのKPI設計を相談したい」

30分で整理する壁打ちから対応しています。

チェックリスト30分レビュー → 不足棚卸し → 優先順位メモ作成 ここまでのご支援も可能です。

持ち物(ざっくりでOK):

  • 現行システム図

  • PoC結果(KPI/課題)

ご相談後、「AI×システム刷新」の優先順位を整理した簡易メモをお渡しします。お気軽にご相談ください。


FAQ

Q1. NestléのようなSAP統合は中堅企業でも可能ですか?

Nestléの規模(185カ国展開)は極端な例ですが、考え方は中堅企業にも適用可能です。重要なのは「AIを入れる前にデータ基盤を整える」という順序です。既存のERPやクラウドサービスを活かしながら、段階的にデータ統合とAPI化を進めるアプローチが現実的です。

Q2. PlusAIのKPIフレームワークは他業界でも使えますか?

「Safety Case Readiness」のような構造化された検証フレームワークの考え方は、物流以外にも応用できます。製造業の品質管理、金融のリスク管理など、「何を測定するか」を先に定義し、段階的に成熟度を高めるアプローチは業界を問わず有効です。

Q3. AI導入とシステム刷新、どちらを先にやるべきですか?

理想は両方を同時に計画することです。ただし現実的には、システム刷新(ERPリプレイス、新規開発など)のタイミングで「AI活用を前提とした設計」を組み込むのが効率的です。既存システムが古い場合、AIだけ入れても「繋がらない」問題が発生するためです。

Q4. PoCを本番に進めるコツは何ですか?

「成功の定義(KPI)」を先に決めることです。PlusAIのように「何%達成したら商用化」という明確な基準があれば、PoCの結果を本番化の判断に直結させられます。「AIの効果を検証する」という曖昧な目標では、PoCは成功しても本番には進めません。

Q5. チェックリスト10項目は、PoC開始前に誰がレビューすべきですか?

情シス・業務・法務・監査の4部門で分担してレビューすることを推奨します。データ基盤・権限設計は情シス、KPI定義・現場導線は業務部門、責任分界・ガバナンスは法務・監査が担当すると、抜け漏れなく確認できます。社内稟議の際にもこのチェックリストを添付することで、承認プロセスがスムーズになります。


脚注


参考資料

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