「人件費が高い。でも、どこを削ればいいか分からない」
物流倉庫において、人件費は運営コストの大きな割合を占めます。しかし、多くの現場では人件費の内訳が不透明なまま、漠然と「コストが高い」という認識だけが先行しているのが実情です。人件費を見える化し、コスト構造を正確に把握することで、初めて効果的な最適化が可能になります。
この記事で分かること
人件費が不透明になる3つの原因と、その解決アプローチ
稼働実績・雇用形態・工程・残業の4軸で人件費を見える化する具体的方法
見える化したデータを活用した人件費最適化の実践ポイント
結論から言えば、人件費の見える化は「稼働実績」「雇用形態」「工程」「残業」の4軸で整理することが基本です。
稼働実績の正確な記録:入退場データから実際の労働時間を把握する
雇用形態別・工程別の集計:どこに、誰に、いくらかかっているかを明確にする
残業・休日出勤の分析:割増コストの発生源を特定する
人件費が見えない3つの原因
物流現場で人件費が不透明になる原因は、主に3つあります。これらの原因を理解することが、見える化の第一歩となります。
稼働実績が正確でない
多くの倉庫では、出勤簿やタイムカードで勤怠を管理していますが、実際の作業開始・終了時刻と記録に乖離があるケースは少なくありません。例えば、始業前の準備作業や終業後の片付けが記録に反映されていない、休憩時間が実態と異なるといった問題です。こうした「見えない労働時間」が積み重なると、人件費の実態把握が困難になります。
派遣・協力会社が別管理になっている
自社社員の人件費は経理部門で把握できていても、派遣スタッフや協力会社の費用は別の勘定科目で管理されていることがあります。現場としては同じ作業をしているのに、管理上は別々になっているため、「この工程の人件費はトータルでいくらか」という問いに即答できない状態が生まれます。特に繁忙期に派遣スタッフを増員する倉庫では、この問題が顕著になります。
残業の内訳が分からない
残業代が毎月一定額発生していることは把握していても、「どの工程で」「誰が」「なぜ」残業しているのかまで分析できていないケースが多くあります。残業には通常残業、深夜残業、休日出勤といった種類があり、それぞれ割増率が異なります。内訳が分からなければ、どこを改善すれば残業代を削減できるのか、具体的な手が打てません。
人件費を見える化する4つの方法

人件費を見える化するためには、以下の4つの方法を組み合わせて実施することが効果的です。
方法①:稼働実績の正確な記録
人件費見える化の基本は、正確な稼働実績の記録から始まります。入退場データを活用して、スタッフごとの実際の労働時間を把握しましょう。ICカードやQRコードによる入退場管理を導入すれば、手書きの出勤簿よりも正確なデータを自動で収集できます。
ある物流センターでは、入退場管理システムを導入したところ、それまで把握できていなかった「サービス残業」が月間約150時間存在していたことが判明しました。この実態把握により、適切な人員配置の見直しと残業時間の適正管理が可能になり、結果として月間の残業時間を平均35時間から20時間に削減することに成功しています。
方法②:雇用形態別の集計
正社員、契約社員、派遣スタッフ、パート・アルバイトなど、雇用形態別に人件費を集計します。雇用形態によって時間単価や割増率が異なるため、この集計を行うことで「同じ作業を誰に任せるのが最適か」という判断材料が得られます。
集計の際は、単純な給与だけでなく、社会保険料の事業主負担、福利厚生費、派遣会社へのマージンなども含めた「総人件費」で比較することが重要です。時給1,200円のパートスタッフと時給換算で1,800円の正社員では、作業内容や責任範囲を考慮したうえで、どちらに任せるべきかを検討できます。
方法③:工程別の集計
入荷、検品、棚入れ、ピッキング(商品取り出し作業)、梱包、出荷といった工程別に人件費を把握します。入荷→検品→棚入れ→ピッキング→梱包→出荷という一連の流れを横串で集計することで、「どの工程にコストがかかっているか」が明確になり、改善の優先順位をつけやすくなります。
工程別集計を行う際のポイントは、スタッフが複数の工程を兼務している場合の按分方法をあらかじめ決めておくことです。作業日報と連動させて「この日の午前はピッキング、午後は梱包」といった記録が残るようにすれば、より正確な工程別人件費が把握できます。
方法④:残業・休日出勤の分析
割増料金が発生している残業・休日出勤を詳細に分析します。通常残業(25%増)、深夜残業(50%増)、休日出勤(35%増)といった種類別に集計し、どの時間帯・曜日に割増コストが集中しているかを把握しましょう。
分析の結果、特定の曜日や時間帯に残業が集中している場合は、シフトの見直しや人員の再配置で改善できる可能性があります。例えば、毎週金曜日の出荷作業で残業が発生しているなら、金曜日の人員を増やすか、木曜日に一部作業を前倒しするといった対策が考えられます。
人件費最適化の4つのポイント

見える化によってコスト構造が把握できたら、次は最適化のステップです。以下の4つのポイントを意識して取り組みましょう。
残業の削減
計画的な人員配置により、残業を削減します。見える化したデータをもとに、「いつ、どの工程で、どれくらいの人員が必要か」を予測し、適切なシフトを組みましょう。急な残業を減らすためには、繁忙期・閑散期のパターンを分析し、事前に人員を確保しておくことが重要です。
適正人員の見直し
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過剰配置になっている工程がないか確認します。見える化したデータから、工程別の生産性(1人あたりの処理件数など)を算出し、他の工程や業界平均と比較することで、過剰配置を発見できます。ただし、品質やサービスレベルを維持できる範囲での見直しが前提となります。
派遣比率の最適化
自社社員と派遣スタッフの比率を見直します。繁忙期の変動対応には派遣スタッフが有効ですが、通年で派遣比率が高すぎると、スキルの蓄積や品質管理に課題が生じることがあります。業務の性質に応じて、コア業務は自社社員、変動対応は派遣スタッフといった役割分担を検討しましょう。
生産性向上による総労働時間の削減
作業効率を上げることで、同じアウトプットをより少ない労働時間で実現します。ロケーションの見直し、動線の最適化、マテリアルハンドリング機器の導入など、生産性向上施策を検討しましょう。生産性が10%向上すれば、理論上は労働時間を10%削減できる計算になります。
人件費見える化セルフチェックリスト
自社の人件費管理状況を確認するために、以下のチェックリストを活用してください。
全スタッフの入退場時刻を正確に記録できているか
正社員・派遣・パートなど雇用形態別の人件費を把握しているか
工程別(入荷・ピッキング・梱包など)の人件費を集計しているか
残業時間の内訳(通常・深夜・休日)を把握しているか
派遣会社からの請求内容と実際の稼働時間を照合しているか
月次で人件費の推移を確認しているか
繁忙期・閑散期の人件費変動を分析しているか
生産性(1人あたり処理件数など)を定期的に測定しているか
人件費データをもとに改善施策を立案しているか
改善施策の効果を数値で検証しているか
チェックが5個以下の場合は、人件費の見える化に課題がある可能性があります。まずは稼働実績の正確な記録から着手することをおすすめします。7個以上チェックできている方は、次のステップとして改善施策の立案・実行に進みましょう。
人件費見える化の要点まとめ
4軸で整理:稼働実績・雇用形態・工程・残業の4つの切り口でデータを集計する
正確な記録が基本:入退場管理システムで実際の労働時間を把握することが出発点
データを改善に活かす:見える化した数値をもとに、残業削減・適正配置・生産性向上を実行する
よくある質問
Q:人件費の見える化にはどれくらいの期間がかかりますか?
入退場管理システムを導入し、基本的なデータ収集体制を整えるまでに1〜2か月程度が目安です。ただし、精度の高い分析を行うためには、3〜6か月程度のデータ蓄積が必要になります。
Q:派遣スタッフの人件費も見える化できますか?
可能です。派遣スタッフも入退場管理の対象に含め、工程別の稼働時間を記録することで、自社社員と同じ基準で人件費を把握できます。派遣会社からの請求書と照合することで、より正確な管理が実現します。
Q:小規模な倉庫でも見える化は必要ですか?
規模に関わらず、人件費の見える化は有効です。むしろ小規模な倉庫ほど、一人ひとりの稼働が人件費に与える影響が大きいため、見える化による効果を実感しやすい傾向があります。
まとめ
人件費の最適化は、まず見える化から始まります。稼働実績を正確に把握し、雇用形態別・工程別・残業種類別にコストを分析することで、「どこに、いくらかかっているか」が明確になります。見える化されたデータをもとに、残業削減、適正人員の見直し、派遣比率の最適化、生産性向上といった施策を実行することで、人件費の適正化を実現できます。
まずは自社の人件費管理状況をチェックリストで確認し、できることから着手してみてください。
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