ウイルス対策ソフトだけでは防げない時代が来ている
「うちはウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫」——そう考えている企業は少なくありません。しかし、サイバー攻撃の手口は年々巧妙化しており、従来型のウイルス対策ソフトだけでは防ぎきれない脅威が急増しています。本記事では、ウイルス対策ソフトとEDR(Endpoint Detection and Response)の違いを明確にし、なぜ今EDRの導入が求められているのか、その背景と選び方のポイントを解説します。
実際に、警察庁が公表した「令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、2024年のランサムウェア被害報告件数は222件に上り、高水準で推移しています。さらに注目すべきは、中小企業の被害件数が前年比37%増と急増している点です。攻撃者は大企業だけでなく、セキュリティ対策が手薄になりがちな中小企業にも標的を広げています。こうした状況で、エンドポイント(端末)を守る仕組みの見直しが急務となっています。
ウイルス対策ソフト(EPP)とは何か

まず、多くの企業が導入しているウイルス対策ソフトの仕組みを整理しましょう。ウイルス対策ソフトは、正式にはEPP(Endpoint Protection Platform)と呼ばれます。その主な役割は、マルウェア(悪意のあるソフトウェア)がパソコンやサーバーに侵入する「前」にブロックすることです。
EPPの代表的な検知手法が「パターンマッチング方式」です。これは、過去に発見されたウイルスのプログラムコードの特徴をデータベースに登録し、端末上のファイルと照合することで脅威を検出する仕組みです。既知のウイルスに対しては高い防御力を発揮し、長年にわたって企業のセキュリティを支えてきました。
しかし、この方式には決定的な弱点があります。データベースに登録されていない「未知のウイルス」は検知できないのです。近年では、1日あたり数十万から100万以上の新種マルウェアが発見されているとも言われており、すべてをデータベースに登録して対応することは事実上不可能です。また、感染するたびにプログラムコードを少しずつ変化させる「ポリモーフィックマルウェア」や、ウイルスファイルを使わずに正規のシステムツールを悪用する「ファイルレス攻撃」など、パターンマッチングでは原理的に検知できない攻撃手法も増えています。
EDR(Endpoint Detection and Response)とは何か
EDRは「Endpoint Detection and Response」の略で、直訳すると「端末での検知と対応」を意味します。ウイルス対策ソフトが「侵入を防ぐ」ことを目的とした事前対策であるのに対し、EDRは「侵入された後にいかに早く検知し、被害を最小限に食い止めるか」という事後対策に重点を置いた仕組みです。
EDRの基本的な動作は次の通りです。まず、各端末にインストールされたエージェント(監視用ソフトウェア)が、端末上のファイル操作、プロセスの起動、ネットワーク通信、レジストリの変更といった挙動をリアルタイムで記録・監視します。収集されたログデータはクラウド上の分析サーバーに集約され、AIや専門アナリストによって分析されます。正規のユーザーが行わないような不審な操作——たとえば権限の不正な昇格、他の端末への横展開、大量のファイル暗号化といった挙動——が検知された場合、管理者に即座にアラートが送られ、端末の隔離や不審なプロセスの停止といった対処が自動または手動で実行されます。
つまり、EPPが「玄関の鍵」だとすれば、EDRは「家の中に設置した監視カメラとセキュリティガード」のようなものです。鍵をすり抜けて侵入されたとしても、いち早く異常を察知し、被害が広がる前に対処できる点がEDRの最大の価値です。
攻撃手法の進化とEDR・EPPの対応範囲
ここで、攻撃手法がどのように進化し、それぞれのセキュリティ対策がどの段階で機能するのかを整理します。
サイバー攻撃の一般的な流れは、「侵入」→「潜伏・情報収集」→「横展開(他の端末への感染拡大)」→「目的の実行(データの暗号化・窃取など)」という段階を踏みます。従来のEPPが主に対応できるのは最初の「侵入」段階です。既知のマルウェアが端末に到達した時点でブロックします。しかし、未知のマルウェアやファイルレス攻撃がEPPをすり抜けると、その後の段階では検知も対応もできません。
一方、EDRは侵入後の「潜伏・情報収集」「横展開」「目的の実行」といった段階で力を発揮します。端末の挙動を常時監視しているため、攻撃者が正規のツールを悪用して社内ネットワークを探索する動きや、通常とは異なるデータの大量送信といった異常をリアルタイムで検知できます。さらに、検知後のログ分析によって、攻撃がどこから始まり、どこまで広がったのかという全体像の把握も可能です。
近年では、次世代アンチウイルス(NGAV)と呼ばれる、機械学習を活用した振る舞い検知機能を持つEPPも登場しています。NGAVは未知のマルウェアにもある程度対応できますが、あくまで「侵入を防ぐ」ことが目的であり、侵入後の対応はEDRの領域です。そのため、EPP(またはNGAV)とEDRを組み合わせた多層防御が、現在のセキュリティ対策のベストプラクティスとされています。
なぜ今、中小企業にもEDRが必要なのか
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「EDRは大企業向けのもの」と思われがちですが、実態はむしろ逆です。経済産業省がIPAを通じて実施した中小企業向けの実態調査では、約7割の中小企業で組織的なセキュリティ体制が整備されていないことが明らかになっています。攻撃者はまさにそうした対策の薄い企業を狙い撃ちにしています。
EDRが中小企業にも必要とされる背景には、大きく3つの変化があります。
1つ目は、攻撃の民主化です。RaaS(Ransomware as a Service)と呼ばれる、ランサムウェアをクラウドサービスのように販売するビジネスモデルが広がったことで、高度な技術を持たない攻撃者でも簡単にランサムウェア攻撃を仕掛けられるようになりました。警察庁もこの攻撃者の裾野の広がりが中小企業への被害増加の一因と指摘しています。
2つ目は、テレワークやクラウド利用の拡大です。従業員の端末が社内外に分散し、従来のように社内ネットワークの境界だけを守る「境界型防御」では対応しきれなくなりました。社外で業務を行う端末一台一台を守るエンドポイントセキュリティの重要性が飛躍的に高まっています。
3つ目は、サプライチェーンリスクです。中小企業がサイバー攻撃を受けた結果、取引先の大企業の業務が停止するケースが実際に発生しています。経済産業省の調査では、サイバー攻撃の被害に遭った中小企業のうち約7割で取引先にも影響が及んでいることが分かっています。セキュリティ対策は自社を守るだけでなく、取引先の信頼を維持するためにも不可欠です。
EDR導入で押さえるべき選定ポイント
EDRの必要性は理解しても、「何を基準に選べばいいのか」は悩むところです。自社に合ったEDRを選ぶために、以下の4つのポイントを押さえておきましょう。
まず確認すべきは、EPPとの統合性です。EDRは単体で導入するよりも、EPP(ウイルス対策機能)と一体化した製品を選ぶことで、事前防御と事後対応をシームレスに連携できます。管理画面が統一されることで、運用の手間も軽減されます。
次に重要なのが、運用体制の確認です。EDRはアラートの分析や対処に専門知識が求められます。社内にセキュリティ専門人材がいない場合は、MDR(Managed Detection and Response)と呼ばれる運用代行サービスが付いた製品を検討しましょう。24時間365日の監視をセキュリティの専門家に委託することで、人材不足の課題を解消できます。
3つ目は、検知精度と誤検知のバランスです。検知の感度が高すぎると大量の誤検知アラートが発生し、対応に追われて業務に支障をきたすことがあります。導入前にトライアル期間を設け、自社の環境での検知精度を確認することをお勧めします。
最後に、将来的な拡張性です。EDRの上位概念として、端末だけでなくネットワーク、クラウド、メールまで監視範囲を広げるXDR(Extended Detection and Response)があります。将来のセキュリティ強化を見据えて、XDRへの拡張に対応できる製品を選んでおくと、追加投資を最小限に抑えられます。
自社のセキュリティ対策を見直すために今すぐできること

EDRの導入を検討するにあたり、まずは以下のアクションから始めてみてください。
第一に、現在のセキュリティ対策の棚卸しです。自社で利用しているウイルス対策ソフトのバージョン、更新状況、対応している検知方式(パターンマッチングのみか、振る舞い検知にも対応しているか)を確認しましょう。
第二に、エンドポイントの把握です。社内のパソコン、スマートフォン、サーバーなど、ネットワークに接続されている端末をすべてリストアップし、管理状況を確認します。テレワーク用の端末や、私用端末の業務利用(BYOD)がある場合は、特に注意が必要です。
第三に、インシデント発生時の対応フローの確認です。万が一サイバー攻撃を受けた場合、誰が何をするのかが明確になっていますか。復旧に1,000万円以上の費用がかかるケースも増えている中、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)の策定も視野に入れるべきです。
第四に、セキュリティ専門家への相談です。自社だけで最適な対策を判断するのは難しいものです。現状のリスク評価からEDR選定、導入後の運用まで、一貫してサポートしてくれるパートナーの存在が心強い味方になります。
まとめ
ウイルス対策ソフト(EPP)は既知の脅威を侵入前にブロックする「事前防御」、EDRは侵入後の不審な挙動を検知し迅速に対応する「事後対策」であり、両者は補完関係にあります。サイバー攻撃の巧妙化、テレワークの普及、サプライチェーンリスクの高まりを踏まえると、EPPだけに頼るセキュリティは過去のものとなりつつあります。特に中小企業では、被害件数の急増や復旧コストの高額化という現実を直視し、EDRを含む多層防御の検討を早急に進めることが重要です。
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