【結論】DXとは、データ設計から始めることである
結論:データ活用できない企業は、DXツールを導入しても成果が出にくい。DXの本質は「データとデジタル技術を活用した変革」であり、まずデータ設計から始める必要がある。
経済産業省(デジタルガバナンス・コード等)では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
つまり、DXの前提には「データ活用」があるのです。
データはあるのに、判断に使えない企業がDXに失敗する。
本記事では、なぜデータがあっても活用できないのか(構造的要因)、データ分断がDXを阻む理由、そしてデータ設計から始めるDXの進め方を解説します。
※本記事は、Gartner、経済産業省、IPA等の公開情報をもとに、データ活用とDXの関係を解説するものです。
1. 日本企業のデータ活用の現実
1-1. 「全社で十分な成果」に到達した企業は8%
Gartnerの調査では、**「全社的に十分な成果を得ている」割合は2024年時点で約3%程度、最新調査では8%**と報告されています。
改善はあるものの、裏を返すと依然として"全社で成果"まで到達できていない企業が大半です。データを蓄積している企業は増えています。しかし、データがあることと、それを使って成果につなげることには大きなギャップがあるのです。
(出典:Gartner「日本企業のデータ活用に関する最新の調査結果を発表」2025年1月23日、2024年1月29日)
1-2. データドリブン経営が求められる背景
なぜ今、データに基づく経営判断が求められているのでしょうか。
市場の変化が激しい:過去の成功体験が通用しないケースが増えている
顧客ニーズが多様化:インターネット・SNSの普及で価値観が複雑化
意思決定のスピードが競争優位に直結:変化の兆候をいち早く捉える必要がある
従来の日本企業では、「経験(Keiken)・勘(Kan)・度胸(Dokyo)」——いわゆるKKDに頼った意思決定が主流でした。しかし、変化の激しいVUCA時代では、客観的なデータに基づいた精度の高い判断が求められます。
経験と勘だけに頼る判断は、データが整っていない環境では起きやすかった。
💡 問いかけ: 経営判断を行うとき、「データで確認しよう」と言える環境がありますか?
▶ 章末サマリー:「『全社的に十分な成果』は最新で8%(前回3%)。改善はあるが"全社で成果"に届かない企業が大半。」
Gartner調査:全社的に十分な成果=8%(前回3%)
KKD(経験・勘・度胸)からの転換が求められている
意思決定のスピードが競争優位に直結する時代
2. なぜデータがあるのに活用できないのか
2-1. データの「サイロ化」という構造問題
多くの企業でデータ活用が進まない最大の原因は、データのサイロ化です。
サイロとは、農場で穀物を保管する円筒形のタンクのこと。サイロ同士は独立しており、中身は共有されません。転じてビジネスでは、**「部門やシステムごとにデータが分断され、組織間で共有・活用できない状態」**を指します。
経済産業省の「DXレポート」でも、企業内の情報システムが事業部門ごとに独立して構築され、企業全体でのデータ共有や活用が難しくなっていることが「2025年の崖」につながる問題として指摘されています。
(出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」)
2-2. サイロ化が起きる4つの要因
なぜデータはサイロ化してしまうのでしょうか。
要因 | 内容 |
|---|---|
縦割り組織 | 部門ごとに独自のシステムを導入し、横断的なデータ連携が設計されていない |
システムの乱立 | 各部門が特定のニーズに応じたツールを導入し、データ形式がバラバラ |
属人化 | 誰がどのデータを持っているか、組織的に把握できていない |
データ設計の欠如 | 「どの判断に、どのデータが必要か」が定義されていない |
サイロ化したデータは、どれだけ蓄積しても資産にならない。
💡 問いかけ: 「このデータはどこにありますか?」と聞かれて、すぐに答えられますか?
2-3. サイロ化がもたらす経営への影響
データのサイロ化は、以下のような経営への影響をもたらします。
意思決定の遅れ:必要なデータを集めるのに時間がかかる
判断の精度低下:部分的なデータで判断せざるを得ない
AIやBI活用の障壁:統一フォーマットでないとツールが機能しない
重複コストの発生:同じデータを複数部門で別々に管理
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2021」でも、多くの日本企業においてデータの分断・サイロ化を解決できていない状況が指摘されています。同白書では、**「情報のサイロ化を避け、プロセスとデータを一貫性ある方法でまとめる」**重要性が述べられています。
▶ 章末サマリー:「データのサイロ化は、縦割り組織・システム乱立・属人化・設計欠如から生まれる。」
サイロ化=部門ごとにデータが分断され、共有・活用できない状態
経済産業省DXレポートでも「2025年の崖」の原因として指摘
意思決定の遅れ、判断精度の低下、AI活用の障壁につながる
3. データ分断がDXを阻む理由
3-1. DXツールを入れても成果が出ない構造
DXを進めようとする企業の多くは、BIツールやMAツール、AIシステムなどを導入します。しかし、データが分断された状態でツールを入れても、期待した成果が得られないケースが少なくありません。
よくあるパターンとして、MA/BI導入後に**「データ抽出・統合の工数が想定以上で定着しない」**ケースがあります。社内に点在するデータが整理されておらず、ECサイトやリアル店舗ごとにデータをバラバラに管理していたことが発覚。データの抽出・統合に予想以上の工数がかかり、結果としてツールが活用されないまま終わる——このパターンは多くの企業で見られます。
3-2. 「データ収集」が目的化している問題
多くの企業では、「とりあえずデータを集めておこう」という発想でデータを蓄積しています。しかし、「何を判断するためにデータを使うのか」が定義されていなければ、集めたデータは活用されないまま負債化します。
富士通の解説では、「経営に必要なデータは何か」という視点で考え、取捨選択することがポイントだと指摘されています。「せっかく貯まっているから」「使いやすく整理されているから」というデータありきで活用法を模索するのではなく、意思決定から逆算したデータ設計が必要なのです。
DXの失敗は、ツール導入ではなくデータ設計の欠如から始まる。
💡 問いかけ: 経営会議で「このデータを見て判断しよう」と言える状態になっていますか?
3-3. データ設計なきDXは「砂上の楼閣」
DXの本質は「デジタル技術を使って、ビジネスを変革すること」です。しかし、その変革を支えるデータ基盤が整っていなければ、どれだけツールを導入しても成果は限定的です。
データを"集める"から"使える状態にする"へ。それがDXの第一歩。
▶ 章末サマリー:「ツール導入の前に、データ設計が必要。意思決定から逆算したデータ基盤がDXの前提。」
データが分断された状態でツールを入れても成果は出にくい
「データ収集」が目的化すると、データは負債化する
「何を判断するためにデータを使うか」から逆算する設計が必要
4. データ設計から始めるDX:4ステップ
Step 1:意思決定の棚卸し
まず、「どのような意思決定や経営判断があるのか」を整理します。
どの会議で、どのような判断が行われているか
その判断に、現在どのデータが使われているか
本来必要なデータは何か、足りないデータはあるか
重要なのは、「データありき」ではなく「判断ありき」で考えることです。
Step 2:データの所在と形式の把握
次に、社内のどこに、どのようなデータがあるかを棚卸しします。
各部門が保有しているデータの種類
データの形式(Excel、システム内DB、紙など)
データの更新頻度と鮮度
重複しているデータの有無
この段階で、サイロ化の実態が可視化されます。
Step 3:統合の優先順位を設計
すべてのデータを一度に統合することは現実的ではありません。優先順位をつけて、段階的に統合を進めます。
優先度 | 判断基準 |
|---|---|
高 | 経営判断に直結するデータ(売上、顧客、在庫など) |
中 | 部門横断で参照されるデータ(商品マスタ、取引先情報など) |
低 | 特定部門内でのみ使用されるデータ |
Step 4:スモールスタートで成功体験を積む
大規模なデータ基盤構築の前に、小さな領域で成功体験を積むことを推奨します。
例えば、「営業と製造のデータを連携し、在庫状況をリアルタイムで把握できるようにする」といった、具体的で効果が見えやすい領域から着手します。
DXとは、データ設計から始めることである。
💡 問いかけ: 「データ活用で何を実現したいか」を、経営層と現場で共有できていますか?
▶ 章末サマリー:「意思決定の棚卸し→データ所在把握→優先順位設計→スモールスタートの4ステップ。」
「判断ありき」でデータ設計を行う
サイロ化の実態を可視化する
経営判断に直結する領域から優先的に統合
小さな成功体験を積んでから拡大
5. よくある質問(FAQ)
Q1. データ活用の成果が出るまで、どのくらいかかりますか?
A. 領域と範囲によります。スモールスタートであれば数ヶ月程度で効果を実感できるケースもあります。ただし、全社横断のデータ基盤整備は年単位で段階的に進めるのが一般的です。まずは優先度の高い領域から着手し、成功体験を積みながら拡大することを推奨します。
Q2. データ活用人材がいない場合、どうすればいいですか?
A. データ活用には「データサイエンティスト」と呼ばれる専門人材が必要ですが、社内に適役がいる企業は少ないのが現実です。まずは外部コンサルタントや支援会社のサポートを活用しながら、将来的にはデータ活用の「内製化」を目指す体制を整えていくことを推奨します。
Q3. BIツールを入れればデータ活用は進みますか?
A. BIツールはデータを可視化するための手段であり、データ活用の「ゴール」ではありません。データがサイロ化した状態でBIツールを導入しても、必要なデータを統合・可視化することが困難です。まずはデータ設計から始め、その上でツールを選定することを推奨します。
6. まとめ:データ活用は、DXの「前提条件」である
DXの本質は「データとデジタル技術を活用した変革」です。Gartner調査では、「全社的に十分な成果」に到達した割合は最新でも8%(前回3%から増加)。改善はあるものの、大半の企業はまだ届いていない状況です。
多くの企業では、データが部門ごとに分断(サイロ化)され、経営判断に使えない状態になっています。
データはあるのに、判断に使えない——この状態でDXを進めても、成果にはつながりにくい。
DXツールを導入する前に、まずデータ設計から始める必要があります。
「何を判断するためにデータを使うのか」を定義する
データの所在と形式を把握し、サイロ化の実態を可視化する
経営判断に直結する領域から優先的に統合する
スモールスタートで成功体験を積み、段階的に拡大する
全社で"十分な成果"まで到達できている企業は、最新でも8%。
だからこそ、データ設計から始めるDXには大きなチャンスがあります。
【セルフチェックリスト】データ活用の現状診断
以下の項目について、自社の状況を確認してください。
□ 経営判断に必要なデータが、すぐに取り出せない
□ 部門ごとに異なるシステムを使用しており、データ形式がバラバラ
□ 「このデータはどこにありますか?」と聞かれて、すぐに答えられない
□ 同じデータを複数の部門で別々に管理している
□ データを集めることが目的化しており、活用方法が定義されていない
□ BIツールを導入したが、ダッシュボードが更新されていない
□ データ活用の責任者や担当部門が明確でない
□ 経営会議で「データを見て判断しよう」という文化がない
□ データ活用のためのツールやシステムが乱立している
□ 「データ活用を進めたい」と言いながら、2年以上進んでいない
3つ以上該当した場合:
貴社ではデータのサイロ化が進んでいる可能性があります。
DXツールを導入する前に、まずデータ設計から見直すことを推奨します。「何を判断するためにデータを使うのか」を定義し、優先順位をつけてデータ基盤を整備することが、DX成功の前提条件です。
「何から手をつければいいか分からない」という場合は、現状整理のための相談から始めてみませんか?
参考資料
経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html経済産業省「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.htmlIPA(独立行政法人情報処理推進機構)「DX白書2021」
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2021.htmlGartner「日本企業のデータ活用に関する最新の調査結果を発表」(2025年1月23日)
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20250123-dataGartner「日本企業のデータ活用に関する最新の調査結果を発表」(2024年1月29日)
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20240129富士通「データドリブンとは?DXが導く、ニューノーマル時代におけるビジネス成功のキー」
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/retail/feature/articles/article-202201-02/
※本記事は、公開情報をもとにデータ活用とDXの関係を解説したものです。具体的な施策の適用にあたっては、自社の状況に合わせた検討を推奨します。
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