AI導入が進まない理由の多くは、AI以前にある。
「AIを導入したいが、どこから手をつければいいかわからない」「ツールを入れたが現場で使われない」──こうした声は、DX推進の現場で日常的に聞かれます。
しかし、問題の本質はAIツールの選定ではありません。McKinsey Global Survey(2025年11月公開)によると、88%の企業が「少なくとも1つの業務機能でAIを定常的に利用」と回答している一方で、約3分の2は「企業全体へのスケールに未着手」の状態です。企業全体でEBIT(営業利益)への影響を報告しているのは、わずか39%にとどまります。
※調査期間:2025年6月25日〜7月29日(McKinsey Global Survey)
【この記事のポイント】
結論: AI導入が止まる原因はツールではなく「業務構造」
根拠: 88%が定常利用でも、約3分の2は企業全体へのスケール未着手/EBIT影響は39%のみ
次の一歩: 業務可視化 → 標準化 → データ整備 → 再設計 → AI導入
本記事では、AI導入が進まない企業に共通する構造的課題と、その解決策を解説します。
1. 導入:AIを入れたいのに進まない企業の現実
「導入」はできても「定着」しない
多くの企業がAIツールの導入自体には成功しています。生成AIを使った文書作成、チャットボットによる問い合わせ対応、画像認識による検品──個別のユースケースでは成果が出ています。
しかし、そこから先が進まない。
McKinseyの調査では、AIプログラムを企業全体にスケールできているのは約3分の1にとどまります。残りの約3分の2は企業全体へのスケールに未着手で、実験やパイロットが中心の状態です。
なぜ「パイロット止まり」になるのか
パイロットプロジェクトは、多くの場合「うまくいきそうな業務」を選んで実施されます。データが整っていて、担当者が協力的で、成果が見えやすい領域です。
問題は、その成功を他の業務に横展開しようとしたときに起きます。
「あの部署はデータがない」「この業務は例外が多すぎる」「担当者が退職して誰もわからない」──横展開を阻む壁が次々と現れるのです。
これらの壁は、AIの性能や機能の問題ではありません。業務構造の問題です。
章末サマリー: AIを「導入」できても「定着」させられない企業が大半。パイロット成功後の横展開を阻むのは、AIツールではなく業務構造そのもの。
2. 業務構造がAI導入を止める理由

「ワークフロー再設計」がAI成功企業の共通点
McKinseyの同調査で注目すべきは、AI高業績企業(EBIT貢献5%以上を実現している企業、全体の約6%)の行動パターンです。
※McKinseyは「EBITへの影響が5%以上」かつ「AIから"significant value"を得ている」と回答した企業を"AI high performers"と定義し、全体の約6%としています。
彼らに共通するのは、AIを導入する前にワークフローを再設計しているという点です。
調査では「Redesigning workflows is a key success factor(ワークフロー再設計は成功の鍵)」と明記されており、高業績企業の多くがAI活用と同時に業務プロセスの変革を進めています。
つまり、AIで成果を出している企業は「今の業務にAIを載せる」のではなく、「AIが機能する業務構造に作り変えている」のです。
「今の業務にAIを載せる」アプローチの限界
多くの企業が陥る罠は、「現状の業務フローを維持したまま、部分的にAIを導入する」アプローチです。
たとえば、以下のようなケースがあります。
紙の帳票をOCRでデジタル化 → でも入力先は手入力のExcel
AIチャットボットを導入 → でも回答できない問い合わせは電話対応に戻る
需要予測AIを導入 → でも最終判断は「ベテランの勘」で上書き
部分的なAI導入は、業務全体の効率を上げません。むしろ、「AI対応の業務」と「従来型の業務」が混在することで、かえって複雑化するケースすらあります。
業務構造を変えずにAIを入れても「継ぎ接ぎ」になる
ツールを変えても、業務構造を変えなければ何も変わらない。
これはAI導入に限った話ではありません。ERPを入れても使いこなせない、SaaSを導入しても結局Excelに戻る──過去のIT投資で同じ失敗を経験した企業も多いはずです。
AIは「魔法の杖」ではありません。AIが機能するのは、AIに適した業務構造が整っている場合だけです。
章末サマリー: AI高業績企業はワークフロー再設計を実践。「今の業務にAIを載せる」アプローチでは、継ぎ接ぎの仕組みができるだけ。
3. 属人化・例外処理・手作業の限界

AIを阻む3つの構造的課題
AI導入を阻む業務構造の問題は、大きく3つに分類できます。
① 属人化
特定の担当者だけが知っている暗黙知、「あの人に聞かないとわからない」業務、引き継ぎ書のない手順──属人化が強い業務は、AIで自動化・標準化する難易度が高くなります。
なぜなら、AIは「ルール」や「データ」をもとに動くからです。ルールが明文化されておらず、データが担当者の頭の中にしかない状態では、AIは学習すらしにくい。
属人化した業務にAIを載せても、属人化したAIができるだけだ。
② 例外処理
「基本はこうだが、この顧客だけは特別対応」「通常はシステム処理だが、この商品だけは手作業」──例外処理が多い業務は、AIにとって最も苦手な領域です。
例外が多いということは、パターンが複雑すぎて標準化できていないということです。AIは「パターン」を見つけて処理するのが得意ですが、パターンが見えにくい業務では力を発揮しにくい。
③ 手作業・アナログプロセス
紙の伝票、FAXでの受発注、電話での在庫確認、ホワイトボードでの進捗管理──こうしたアナログプロセスが残っている限り、AIが活用できるデータは生まれません。
AIはデータを燃料として動きます。燃料がなければエンジンは動きません。
「見えない業務」がAI導入を止める
これらの問題が厄介なのは、経営層から見えにくいという点です。
現場では「なんとか回っている」ように見えても、その裏側では特定の担当者が例外対応に追われ、手作業でデータを補完し、暗黙知でカバーしている。
この「見えない業務」を可視化しないまま、AIを導入しようとしても、現場は「使えない」と判断して元のやり方に戻ってしまいます。
章末サマリー: 属人化・例外処理・手作業の3つがAI導入を阻む構造的課題。これらは経営層から見えにくく、可視化しなければ解決できない。
4. ツールでは解決できない構造的問題
AIツール選定の前にやるべきこと
「どのAIツールを入れるべきか」──この問いから始めるのは、順序が逆です。
正しい順序は以下の通りです。
業務の可視化:現状の業務フローを棚卸しし、属人化・例外・手作業を洗い出す
業務の標準化:例外を減らし、ルールを明文化する
データの整備:AIが学習・処理できる形式でデータを蓄積する仕組みを作る
システムの再設計:AIを前提とした業務フローに作り変える
AIの導入:整備された基盤の上にAIを実装する
多くの企業が1〜4をスキップして5から始めようとするため、「導入したが使えない」という結果になります。
「ツール比較」ではなく「業務診断」が必要
AIツールは日々進化しており、機能比較をしても1年後には状況が変わっています。重要なのは「どのツールが優れているか」ではなく、「自社の業務がAIを受け入れられる状態にあるか」です。
以下のチェックリストで自社の状況を確認してみてください。
チェック項目 | 現状 |
|---|---|
主要業務のフローが文書化されているか | □ |
担当者が退職しても業務が回る体制か | □ |
例外処理の発生頻度と理由を把握しているか | □ |
業務データがデジタル形式で蓄積されているか | □ |
データの入力元と出力先が一元化されているか | □ |
特に重要な項目(「業務フローの文書化」「データのデジタル蓄積」)がNoの場合は、AI導入前に業務構造の見直しを優先すると、失敗しにくくなります。
「AI導入」ではなく「業務改革」として取り組む
AI導入プロジェクトの成否は、「AI」の部分ではなく「導入」の部分で決まる。
これは、過去のIT投資の失敗から学ぶべき教訓でもあります。システムを入れれば業務が変わるわけではありません。業務を変えた上でシステムを入れなければ、投資は無駄になります。
AI導入を「ツール導入プロジェクト」ではなく「業務改革プロジェクト」として位置づけ直すことが、成功への第一歩です。
章末サマリー: AIツール選定の前に業務の可視化・標準化・データ整備が必要。「AI導入」ではなく「業務改革」として取り組むべき。
5. 結論:AI活用の前に必要なシステム設計
AI時代の「システム設計」とは
AI活用を前提としたシステム設計には、従来とは異なる視点が必要です。
従来のシステム設計:
現状の業務フローをシステム化する
帳票や画面を電子化する
既存の業務ルールをそのままシステムに落とし込む
AI時代のシステム設計:
AIが処理しやすい業務フローに再設計する
データが自動的に蓄積される仕組みを作る
例外処理を減らし、標準化を進める
人間とAIの役割分担を明確にする
この違いを理解せずにシステムを構築すると、「AIを入れる余地がないシステム」ができあがります。
「AI Ready」な組織になるために
McKinseyの調査が示すように、AI高業績企業は単にツールを導入しているのではなく、組織とワークフローそのものを変革しています。
AI活用で成果を出すために最も重要なのは、最新のAIツールや高度なデータサイエンティストよりも先に、AIが機能する業務構造を設計し、それを支えるシステムを構築することです。
次のステップ
AI導入が進まないと感じているなら、まず以下の問いを自社に投げかけてみてください。
業務の可視化はできているか? 現状の業務フローを図にできますか?
属人化を排除できているか? 特定の人がいないと回らない業務はありませんか?
データは蓄積されているか? AIが学習できる形式でデータが残っていますか?
これらの問いに明確に答えられない場合、AI導入の前に「業務・システムの再設計」が必要です。
AIを導入する前に、AIが機能する土台を作る。
それが、AI導入を「パイロット止まり」にしないための最も確実な進め方です。
業務構造の可視化・システム再設計のご相談
初回相談で作成する成果物(例)
成果物 | 内容 |
|---|---|
業務構造診断シート | 属人化・例外処理・手作業の棚卸し結果 |
例外処理台帳+判断ルール | 誰が・何を根拠に・どう判断しているかの可視化 |
AI Ready 90日計画 | 標準化→データ整備→最小PoC→横展開の実行順序 |
「AIツール選定」ではなく「業務・システム再設計」として、貴社の状況に合わせた具体的なロードマップをご提案します。
所要時間: 60分(オンライン可)
あると早い資料: 業務フロー図、帳票サンプル、利用中ツール一覧(なくてもOK)
お気軽にご相談ください。
FAQ
Q1. AI導入に適した業務の見分け方は?
A. データが構造化されていて、ルールが明確で、例外が少ない業務が適しています。逆に、暗黙知に依存していたり、ケースバイケースの判断が多い業務は、先に標準化が必要です。まずは「データがある業務」から始めることをお勧めします。
Q2. 中小企業でもAI活用は可能ですか?
A. 可能ですが、優先すべきは「AIツールの導入」ではなく「業務のデジタル化と標準化」です。基盤ができていれば、SaaS型のAIサービスを低コストで活用できます。基盤がないままAIを入れても、投資対効果は出ません。
Q3. 業務の可視化はどこから始めるべき?
A. まずは「最も時間がかかっている業務」「属人化している業務」「クレームが多い業務」から着手してください。これらは改善インパクトが大きく、可視化の効果が実感しやすい領域です。
Q4. AIと既存システムの連携は難しい?
A. 既存システムがAPIを持っていれば連携は可能です。問題は、既存システム内のデータが「AIが使える形式」になっているかどうかです。多くの場合、データのクレンジングや形式変換が必要になります。
Q5. AI導入の予算感を教えてください
A. AIツール自体のコストよりも、「業務可視化」「データ整備」「システム改修」のコストのほうが大きくなるケースが多いです。まずは現状診断を行い、どこにどれだけの投資が必要かを明確にすることをお勧めします。
参考資料
McKinsey & Company「The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation」(2025年11月5日)
https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai
※本記事は、AI導入・DX支援の実務経験に基づき、業務構造改革の重要性を解説したものです。具体的な施策は自社の状況に合わせた検討を推奨します。
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