【3行まとめ】
AI時代の競争優位はデータ活用基盤で決まりやすいと指摘されている(出典:Iansiti & Lakhani, Harvard Business Review, 2020年1月)
業務プロセスやデータの所在が整理されていない場合、AI導入の設計(学習データ/KPI/効果測定)が難しくなりやすい
経営層主導の業務可視化とシステム刷新が競争力維持の鍵となる(出典:経済産業省・デジタル庁・IPA「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」2025年5月)
【結論】業務の可視化がAI時代の競争基盤になる
AI時代の競争優位は「データを活用できるか」で決まりやすくなっています。しかし、業務プロセスが可視化されていない企業では、AIに学習させるデータ自体が取得できず、意思決定の自動化やスピード向上を実現しにくい傾向があります。
Harvard Business Schoolの研究者らは、AI駆動型企業がスケール・スコープ・学習において従来型企業を凌駕する構造を指摘しています(出典:Iansiti & Lakhani, Harvard Business Review, 2020年1月)。また、経済産業省は「2025年の崖」として、レガシーシステムを放置した場合に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を警告しています(出典:経済産業省「DXレポート」2018年9月)。
業務が見えないまま競争に臨むことは、地図なしで航海するようなものです。本記事では、業務可視化とシステム刷新がなぜ経営の最重要課題になるのかを解説します。
【根拠(主要出典)】
本記事の主張は、以下の一次資料・調査機関レポートに基づいている。
出典 | 主要データ | リンク |
|---|---|---|
経済産業省「DXレポート」(2018年9月) | 年間最大12兆円の経済損失リスク、既存システムの運用・保守に資金や人材が割かれている状況 | |
経済産業省「DXレポート」JUAS調査ベース | 約8割がレガシーシステム保有、約7割がDXの足かせと回答 | |
レガシーシステムモダン化委員会総括レポート(2025年5月) | 61%の企業でレガシーシステムが残存 | |
IPA「DX推進指標とそのガイダンス」 | 自社のDX成熟度を客観的に診断するための指標 | |
Harvard Business Review(2020年1月) | AI駆動型企業のスケール・スコープ・学習優位 |
1. AI時代の競争軸の変化
従来の競争軸との違い
かつての競争優位は、規模の経済や資本力、立地といった「物理的資産」が中心でした。しかしAI時代では、データとアルゴリズムを軸にした「デジタル資産」の重要性が高まっています。
HBRの論考では、AI駆動型企業は従来型企業と比較して以下の特徴を持つとされています。
【比較表:従来型企業 vs AI駆動型企業】
観点 | 従来型企業 | AI駆動型企業 |
|---|---|---|
スケーラビリティ | 人員増加に比例してコスト増 | 人員を増やさず提供範囲を拡大 |
スコープ | 業界内での競争が中心 | 業界の境界を越えて事業展開 |
学習能力 | 経験の蓄積に時間を要する | データ蓄積で精度が継続的に向上 |
競争優位の源泉 | 物理的資産・資本力 | データとアルゴリズム |
(出典:Iansiti & Lakhani, Harvard Business Review, 2020年1月を基に作成)
勝敗を分けやすいのは「データ活用基盤」
AI活用で成果に繋がりやすい条件として、「業務プロセスからリアルタイムでデータを取得できる仕組み」を持っていることが挙げられます。
逆に言えば、業務が可視化されていない場合、AI導入の設計(学習データの確保・KPI設定・効果測定)が難しくなりやすい状態にあるといえます。
【章末サマリー】 AI時代の競争軸は「物理的資産」から「データとアルゴリズム」へ移行している。データ活用基盤の有無が競争優位を左右しやすいと指摘されている(出典:HBR 2020年1月)。
2. 業務が見えない状態とは何か
「業務が見えない」の定義
「業務が見えない」とは、以下のような状態を指します。
各部門が何をしているか、経営層が把握できていない
業務プロセスが属人化し、担当者しか内容を理解していない
データが分散しており、全体像を統合的に把握する手段がない
業務の所要時間・コスト・ボトルネックが数値化されていない
なぜ業務が見えなくなるのか
経済産業省の「DXレポート」(2018年)では、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査を基に、日本企業の約8割がレガシーシステムを抱えており、そのうち約7割がDXの足かせになっていると整理されています(出典:経済産業省「DXレポート」2018年9月、JUAS調査ベース)。
レガシーシステムが残存する背景には、以下のような構造的要因があります。
過剰なカスタマイズ:個別業務に合わせた改修を繰り返した結果、システム全体が複雑化
ドキュメント不足:仕様書が更新されておらず、現行システムの動作を把握できない
人材の属人化:開発当時の技術者が退職し、ブラックボックス化が進行
2025年5月に公表されたレガシーシステムモダン化委員会の総括レポートでは、いまだ61%の企業でレガシーシステムが残存していることが明らかにされています(出典:経済産業省・デジタル庁・IPA「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」2025年5月)。
【章末サマリー】 「業務が見えない」とは、プロセスの属人化・データ分散・数値化不足の状態。約8割の企業がレガシーシステムを抱え(出典:経済産業省「DXレポート」2018年9月、JUAS調査ベース)、61%で残存が続いている(出典:レガシーシステムモダン化委員会総括レポート 2025年5月)。
3. データが取れないシステムの問題
システム分断がもたらす経営リスク
業務システムが分断されていると、以下のような問題が発生しやすくなります。
意思決定の遅延:データ集計に一定の時間を要し、タイムリーな判断が困難になる場合がある
二重入力・転記ミス:システム間連携がなく、人手でのデータ移行が発生
全体最適の困難:部門ごとの最適化が優先され、全社視点での改善が進まない
IT予算の「守り」偏重
経済産業省の「DXレポート」では、既存システムの運用・保守に多くの資金や人材が割かれ、新技術への投資余力が限られやすい状況が指摘されています(出典:経済産業省「DXレポート」2018年9月)。
この状態では、AIやクラウドといった新技術への投資余力が限られ、競合との差が広がりやすい構造になります。
【章末サマリー】 システム分断は意思決定の遅延や二重入力を招く。既存システムの運用・保守に資金や人材が割かれ、攻めの投資余力が限られている(出典:経済産業省「DXレポート」2018年9月)。
4. 可視化できない会社の限界
AI導入が進まない根本原因
「AIを導入したい」という経営層の意向があっても、業務が可視化されていなければ以下の壁にぶつかりやすくなります。
学習データがない:業務プロセスが記録されておらず、AIに学習させる材料がない
KPIが不明確:何を改善すべきか、基準となる指標が定義されていない
効果測定ができない:導入前後の比較ができず、投資対効果を説明できない
競争力低下のシナリオ
業務可視化とシステム刷新が進まない場合、以下のようなシナリオが想定されます。
レガシーシステムの保守コストが増大し、攻めの投資ができない
AI活用で先行する競合に市場シェアを奪われる
IT人材の確保が困難になり、現行システムの維持すら危うくなる
経済産業省は、こうした課題が放置された場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると試算しています(出典:経済産業省「DXレポート」2018年9月)。
【章末サマリー】 業務が可視化されていないと、学習データ不足・KPI不明確・効果測定困難という壁にぶつかる。放置すれば年間最大12兆円の経済損失リスクがある。
5. 結論:業務可視化とシステム刷新が経営課題になる理由
可視化は「目的」ではなく「手段」
業務可視化やシステム刷新は、それ自体が目的ではありません。あくまで「データを活用して競争力を高める」ための手段です。
レガシーシステムモダン化委員会の総括レポートでも、「経営層の意識変革とITガバナンスの強化」「情報システム部門の自律性」「事業部門との連携」がレガシーシステム脱却に有効であることが示されています(出典:経済産業省・デジタル庁・IPA「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」2025年5月)。
優先すべきアクション
業務可視化とシステム刷新を進めるにあたり、以下の順序で取り組むことが有効とされています。
現状把握:DX推進指標などを活用し、自社のIT資産とプロセスを棚卸し
課題の特定:ボトルネックとなっている業務・システムを明確化
ロードマップ策定:短期・中期・長期の刷新計画を経営層主導で策定
段階的な刷新:リスクを分散しながら、優先度の高い領域から着手
効果検証と改善:KPIを設定し、継続的にPDCAを回す
業務可視化の成果物例
業務可視化を進める際、以下のような成果物を作成することで、関係者間の認識を揃えやすくなります。
As-Is業務フロー:現状の業務プロセスを図示し、ボトルネックや重複を特定
データ辞書:各システムで扱うデータ項目の定義・形式・更新頻度を整理
KPIツリー:業務目標と測定指標の関係を階層的に可視化
【章末サマリー】 業務可視化は「データ活用で競争力を高める」ための手段。経営層主導で現状把握→課題特定→ロードマップ策定→段階的刷新→効果検証の順に進めることが有効。成果物例としてAs-Is業務フロー、データ辞書、KPIツリーがある。
FAQ
Q1. 業務可視化は何から始めればよいですか?
まずは経済産業省・IPAが提供する「DX推進指標」を活用し、自社の現状を客観的に診断することが推奨されています(出典:IPA「DX推進指標とそのガイダンス」https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/ug65p90000001j8i-att/dx-suishin-guidance.pdf )。IT資産の棚卸しと業務フローの整理を並行して進めると、課題が明確になりやすい傾向があります。
Q2. レガシーシステムの刷新にはどのくらいの期間がかかりますか?
企業規模やシステムの複雑さ、刷新範囲によって大きく異なります。基幹システムの全面刷新では数年単位を要する場合もあれば、段階的なアプローチで短期間に成果を出すケースもあります。自社の状況に応じたロードマップ策定が重要です。
Q3. 業務可視化とAI導入はどちらを先に進めるべきですか?
業務可視化を先に進めることが推奨されます。AIに学習させるデータがなければ、導入しても効果を発揮しにくい構造になります。可視化によって「どこにAIを適用すれば効果が出るか」が明確になります。
Q4. 中小企業でも業務可視化は必要ですか?
企業規模にかかわらず、業務可視化の重要性は変わりません。むしろ中小企業では属人化が進みやすく、担当者の退職がリスクになりやすい傾向があります。
Q5. システム刷新の予算を確保するにはどうすればよいですか?
経営層への説明では「現状維持のコスト」と「機会損失」を数値化することが有効です。レガシーシステムの保守コストや、競合との差が広がった場合の売上影響を試算すると、投資判断がしやすくなります。
チェックリスト:業務可視化・システム刷新の準備度
以下の項目で自社の状況を確認してください。
主要業務のプロセスがフロー図やドキュメントとして整理されている
各システムのデータが連携され、全社で一元的に参照できる
IT予算のうち「攻めの投資」に充てられる割合を把握している
レガシーシステムの保守・運用コストを可視化している
経営層がIT資産の現状と課題を理解している
DX推進指標などで自社の成熟度を定期的に診断している
システム刷新のロードマップが策定されている
業務部門とIT部門が連携してDXを推進する体制がある
AI活用の候補領域と必要なデータが特定されている
システム刷新後のKPIと効果測定の方法が定義されている
まとめ
AI時代の競争において、「業務が見えない」ことは致命的なハンデになりやすい状況です。業務プロセスを可視化し、データ活用基盤を整えることが、AI導入の前提条件となります。
システム刷新は手段であり、目的は「データを活用して競争力を高める」ことです。経営層がこの認識を持ち、トップダウンで推進することが成功の鍵になります。
出典一覧
経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
経済産業省・デジタル庁・IPA「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月) https://www.ipa.go.jp/disc/committee/begoj90000002xuk-att/legacy-system-modernization-committee-20250528-report-presentation.pdf
IPA「DX推進指標とそのガイダンス」 https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/ug65p90000001j8i-att/dx-suishin-guidance.pdf
Iansiti, M. & Lakhani, K. R. "Competing in the Age of AI" Harvard Business Review(2020年1月) https://hbr.org/2020/01/competing-in-the-age-of-ai
「自社のシステムがどの程度レガシー化しているかわからない」 「業務可視化を進めたいが、どこから手をつけるべきか判断できない」
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